装置のセンサ値から、そのウェーハに欠陥があるかを当てる。当たったとして、検査をどれだけ減らせるのか。
ここには閉じた式があります。式を書くと、検査量を握っているのが誤警報の項だと出ます。
検査する割合は
不良ウェーハの割合を 、予測器が不良を当てる割合(再現率)を 、良品を誤って不良と呼ぶ割合(誤警報率)を とします。
予測器が不良と呼んだものだけを検査するなら、検査する割合は
第 1 項は当たり、第 2 項は空振りです。、 で数を入れます。
| 誤警報率 | 検査割合 | 全数からの削減 | ||
|---|---|---|---|---|
| 0.50 | 0.048 | 0.475 | 0.523 | 47.8% |
| 0.27 | 0.048 | 0.257 | 0.304 | 69.6% |
| 0.10 | 0.048 | 0.095 | 0.143 | 85.8% |
| 0.05 | 0.048 | 0.048 | 0.095 | 90.5% |
| 0.01 | 0.048 | 0.010 | 0.057 | 94.3% |
のとき、第 2 項は第 1 項の 5.4 倍です。
つまり検査の量を決めているのは、空振りのほうです。再現率を 0.95 から 1.00 へ上げても、 は 0.304 から 0.306 へ動くだけ。いっぽう を 0.27 から 0.10 へ下げると、0.304 が 0.143 になる。
不良率が高い工程では、この比が動きます。
| 不良率 | 第 2 項 / 第 1 項 | ||
|---|---|---|---|
| 0.02 | 0.019 | 0.265 | 13.9 |
| 0.05 | 0.048 | 0.257 | 5.4 |
| 0.10 | 0.095 | 0.243 | 2.6 |
| 0.20 | 0.190 | 0.216 | 1.1 |
不良率が低い工程ほど、誤警報の支配が強くなります。成熟した工程ほど、この式の第 2 項へ投資が向かう。
実運用の側でも、この方向の設計が出ています。2024 年の解釈可能な仮想計測系の研究1は、予測の知識不確かさを取り出し、その不確かさを指針にして実測の枚数を減らす抜き取り戦略を提案しています。SHAP で各特徴量の寄与を示し、その根拠の信頼度を複数の基底モデル間での SHAP 値の分散で定量化する、という構成です。
「どれを測るか」の判断を、予測値より予測の不確かさで行う。予測が自信を持っている枚数を飛ばし、迷っている枚数を測る。
見逃し率 は、誤警報から独立
もう 1 つの量を出します。検査を飛ばした不良ウェーハの割合は
右辺の変数は と の 2 つだけです。誤警報をいくら減らしても、見逃しは変わらない。
で数を入れます。
| 再現率 | 見逃し率 |
|---|---|
| 0.44 | 2.80% |
| 0.90 | 0.50% |
| 0.95 | 0.25% |
| 0.99 | 0.05% |
2 つの軸が割れています。
| 動かす量 | 動く先 |
|---|---|
| 再現率 | 見逃し率(品質の側) |
| 誤警報率 | 検査量(費用の側) |
だから「精度が上がった」という 1 つの言葉が指す先は、2 通りあります。2 つを別の欄で持ちます。
片方を上げると他方が下がる関係は、しきい値を動かしたときだけ成り立ちます。モデルそのものを良くすれば、2 つは同時に動きます。2017 年の深層学習にもとづく仮想計測と歩留まり予測2は、インラインのセンサ信号から教師あり自己符号化器で特徴量を抽出し、その特徴量の上に仮想計測と歩留まり予測のモデルを作る構成で、一般的な手法を上回ったと報告しています。特徴量の表現を替える改善は、曲線そのものを動かします。
適合率は、不良率が下がると崩れる
3 つ目の量は、警報を受け取る側の体感です。
警報のうち本物である割合(適合率)は
、 で数を入れます。
| 不良率 | 適合率 |
|---|---|
| 0.20 | 46.8% |
| 0.10 | 28.1% |
| 0.05 | 15.6% |
| 0.02 | 6.7% |
| 0.01 | 3.4% |
不良率 1% では、警報の 97% が空振りです。同じモデル・同じ誤警報率のまま、工程が成熟するほど警報が信用されなくなる。
適合率を 50% 以上にする条件を逆に解きます。
| 不良率 | 要る |
|---|---|
| 0.20 | 0.238 |
| 0.10 | 0.106 |
| 0.05 | 0.050 |
| 0.01 | 0.0096 |
不良率 1% で警報の半分を本物にするには、誤警報率を 1% 未満にする必要があります。 からの距離は 28 倍。
2017 年の重要インフラ監視における不均衡データの分類3が追っているのが、まさにこの構造です。正例が全体の 1% を切る問題で全体の正答率が測っているのは、負例の当たり具合までです。
PLS を使う理由は、標本数と変数の数の比
ここから予測器の側です。
装置の故障検知データは、数百のセンサを数十枚のウェーハについて持っている形になります。変数の数が標本数を上回る。
当てはめが頑健になる比を当てると、標本 枚で安定に扱える実効次元は 。
| ウェーハ枚数 | 扱える実効次元 |
|---|---|
| 18 | 1.3 |
| 50 | 3.6 |
| 100 | 7.2 |
| 500 | 36 |
18 枚で扱える実効次元は 1 つ分です。センサを 2 本そのまま入れた回帰は、この時点で上限を超えている。
部分最小二乗回帰が使われる理由が、ここにあります。数百のセンサを、少数の潜在成分へ射影する。各成分は全センサの重み付き和なので、次元は 1 や 2 のまま、情報は全センサから取れる。
非線形性を含めた拡張も複数あります。2024 年の次元削減型非線形部分最小二乗法4は、カーネル主成分分析で元の変数空間の非線形性を取り込んだうえで次元を下げ、雑音と未知の外乱も同時に抑える構成です。2021 年の改良型動的最適化カーネル部分最小二乗法5は、非線形プロセスの故障検知へ同じ方向を当てています。
潜在成分の数が、上の表の にあたります。成分を増やすほど当てはまりは良くなりますが、 を超えた時点で外挿の誤差が支配します。
品質に無関係な成分を落とすと、別の検出率が落ちる
潜在成分をどう分けるかで、 と の両方が動きます。
2021 年の相互情報量と部分最小二乗法による品質関連・非関連の故障検知6が、この構造を明示しています。
標準の部分最小二乗法は、変数を主成分部と残差部へ分けます。ところが主成分部には品質と無関係な成分がまだ多く残っており、残したままだと多くの誤警報を招く。
ここまでは を下げる話です。同じ研究が、その代償も書いています。
それらの成分が製品品質へ及ぼす影響はゼロでも、工程の安全性と他の故障に関する情報には大きく関わる。取り除いて捨てると、品質に無関係な故障の検出率が下がる。
| 操作 | 動く量 |
|---|---|
| 品質に無関係な成分を落とす | 誤警報率 が下がる |
| 同じ操作 | 品質非関連の故障の再現率 が下がる |
1 つの操作が、2 つの帳簿へ逆向きに計上されます。
同じ研究の対処は、捨てるより分けることです。相互情報量で変数を選択部と残差部へ分け、特異値分解で選択部を品質関連・品質非関連へさらに分ける。残差部には主成分分析を当てて得点行列を取り、品質非関連の部分と組み合わせる。情報の損失をゼロにしたまま、監視統計量を目的別に作るという立て方です。
「誤警報を減らす」という要求を受けたとき、何の検出率を差し出すのかを先に書き出します。
独立な 2 つ目の検出器が、誤警報を掛け算で下げる
を下げる別の道があります。2 つ目の検出器を足して、両方が鳴ったときだけ警報にする。
2 つの検出器が、同じクラスの中で条件付き独立なら
、、 で数を入れます。
| 構成 | 検査割合 | 見逃し率 | 適合率 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 単独 | 0.270 | 0.950 | 0.304 | 0.25% | 15.6% |
| 両方が鳴ったとき | 0.073 | 0.903 | 0.114 | 0.49% | 39.4% |
| どちらかが鳴ったとき | 0.467 | 0.998 | 0.494 | 0.01% | 10.1% |
両方が鳴ったときだけ警報にすると、検査量が 30% から 11% へ、適合率が 16% から 39% へ動きます。代償は見逃しが 0.25% から 0.49% へ倍増すること。
どちらかが鳴ったときにすると、逆向きに動きます。見逃しは 0.01% まで落ち、検査量は 49% へ戻る。
プラズマエッチング向け仮想計測の総説7は、2012 年から 2025 年の 105 件の研究を 2 段の枠組みでまとめ、この分野の主要な課題は予測精度に加えて、簡潔で頑健で物理的に意味のある表現をどう構成するかにあると結論しています。
物理的に意味のある表現であることが、2 つ目の検出器との独立性を保つ条件にもなっています。
現場で動く判断
- 検査割合は です。不良率 5%・再現率 95%・誤警報 27% で第 2 項が第 1 項の 5.4 倍。検査を減らす提案は、 の側から書きます。
- 見逃し率 の変数は と の 2 つだけです。軸が割れているので、再現率と誤警報率を別の欄で持ちます。
- 不良率が低いほど、誤警報の支配が強くなります。 で第 2 項は第 1 項の 13.9 倍。成熟した工程ほど、 への投資が乗ります。
- 適合率は不良率とともに崩れます。 で 3.4%。警報の半分を本物にするには 、つまり 1% 未満が要ります。
- 測る枚数は、予測値より予測の不確かさで選びます。知識不確かさを指針にした抜き取り1があります。自信のある枚数を飛ばし、迷っている枚数を測ります。
- 潜在成分の数を で抑えます。18 枚なら 1.3。部分最小二乗法が使われるのは、全センサの情報を少数の成分へ集める形だからです。
- 誤警報を減らす操作は、別の検出率を差し出します。品質に無関係な成分を落とすと、品質非関連の故障の検出率が下がる6。捨てる前に、目的別の統計量へ分けます。
- 2 つ目の検出器は、別の情報源から作ります。独立なら が掛け算で下がり、完全相関なら利得はゼロ。物理や規則にもとづく検知とデータ駆動の予測を組み合わせるのは、この独立性を買うためです。
- AND と OR は、動かす軸が逆です。AND は検査量と適合率、OR は見逃し率。どちらを取るかは、上の 2 軸のどちらが逼迫しているかで決まります。