WdC成膜装置の供給元候補Applied・Lam・韓国TES
WdC(タングステンドープドカーボン)とは、非晶質の炭素膜にWを混ぜたハードマスクを指す。その成膜装置について、W系炭素マスクの成膜特許と炭素マスクの量産装置を両方持つのは、Applied MaterialsとLam Researchだ。どちらも2014〜2015年から成膜特許を出し、炭素ハードマスク用のPECVD装置を先端のメモリやロジックの工場へ納めてきた。韓国のTESは、SamsungとSK hynixを主要顧客とする炭素マスク装置メーカーで、W系の炭素膜も2016年に出願している。
WdCは、炭素ハードマスクと同じPECVDの処理室で、W原料を足して作る。そのため、供給元は顧客の工場に既に入っている炭素マスク装置のメーカーになりやすい、というのが本稿の見立てだ。WdCがなぜ必要かはTiNとの比較、どの工程から使われ始めたかは歴史とインテグレーションにまとめた。
WdCは炭素マスク装置にW原料を足して作る
Section titled “WdCは炭素マスク装置にW原料を足して作る”炭素ハードマスクは、深い穴や細い溝を削る間だけ残す犠牲膜だ。メタンやプロピレンなどの炭化水素ガスをプラズマで分解し、PECVDで非晶質の炭素膜を積む。WdCは、この原料にWF₆などのW原料を加え、炭素の中にWを取り込ませた膜である。
3社の特許を並べると、足す原料と工夫が違う。
W原料の主流はWF₆だ。安いガスで量産に向くが、フッ素が下地との界面に残ると膜がはがれる。Appliedは2016年優先日の特許で1、この問題をホウ素の下地層とWの初期層で解いた。同じ特許は、WF₆を使った膜の表面粗さが15 at%のWで0.65nmと、W(CO)₆を使った場合の1.4nmの半分以下になったと書く。TESは逆に、W・C・Nを1分子に含む有機原料だけで膜を作る方法2を選び、フッ素そのものを持ち込まない。
Appliedは特許が最も早く、炭素マスク装置の基盤も最も広い
Section titled “Appliedは特許が最も早く、炭素マスク装置の基盤も最も広い”Appliedの出願は2014年に始まる。優先日2014年7月の金属ドープドカーボン膜の特許は3、Wを入れた炭素膜でエッチング選択比が40〜80%上がり、その分だけマスクを薄くできると書く。使える処理室の例として、自社のProducerとCentura系を挙げている。
その後もW系の改良が続く。2016年にWF₆の密着問題を解き、2017年にはW・B・Cの3元系マスク4で結晶粒と粗さを抑えた。この3元系では、低周波の電力でアルゴンイオンを当て、膜の応力を−0.1〜+1GPaの範囲で調整できるとしている。2021年優先日の特許では5、3D NANDのメモリホール加工向けに、RuやOsを中心とする金属ドープドカーボン膜まで広げた。
装置の基盤も厚い。Appliedは炭素ハードマスク装置Producer Precision APFが、先端のDRAM・NAND・ロジックのほぼすべての工場で稼働している6と説明する。APFは炭素だけの膜だが、W添加はこの処理室の延長で載せられる、と本稿は見る。顧客から見れば、評価済みの装置に原料とレシピを足す形で試せる。
Lamは成膜から除去まで一社で持つ
Section titled “Lamは成膜から除去まで一社で持つ”Lamの成膜特許は2015年2月出願で7、WF₆とメタンをプラズマで反応させ、基板台に2つの周波数の高周波をかけて金属炭化物を含む炭素膜を作る。2017年には酸化膜・窒化膜との界面を作る特許8を出し、用途にDRAM、縦型NAND、配線工程を挙げた。
Lamの強みは、成膜したWdCを消す技術まで自社で出していることだ。WdCは酸素プラズマだけでは削れない。炭素は酸素でCOやCO₂になって抜けるが、Wは塩素と結び付けないと気体にならないからだ。Lamの除去特許の実験では9、塩素を混ぜない条件の除去速度は0nm/minだった。別の実験では、200〜400℃で塩素を混ぜた酸素プラズマが、Wを33%と63%含む膜をどちらも毎分約95nmで除去した。特許は、下地の酸化膜に対して1000:1近い選択比が得られるとしている。
湿式の除去も持つ。Lam Research AGの薬液特許は10、31%の過酸化水素を70℃で使い、W 50 at%のWdCを毎分75〜133Åで溶かした。腐食防止剤を加えると、銅の溶け方は毎分0.3〜0.6Å、コバルトは0Åまで下がった。銅やコバルトの配線が露出した状態でもWdCだけを消せるので、配線工程での使用を想定した処方だと読める。
製品はVECTORの炭素ハードマスク機VECTOR AHMだ11。この系譜は買収したNovellusから続く。2008年3月の発表によると12、2007年6月に投入したAHMは、その時点で複数の大手メモリ工場の量産に使われていた。
TESは韓国メモリ向けの炭素マスク装置から追う
Section titled “TESは韓国メモリ向けの炭素マスク装置から追う”TESは2002年設立の韓国の装置メーカーで、主力は炭素ハードマスク(ACL)用のPECVD装置だ。2024年12月の会社説明資料は13、ACLの用途を穴加工の保護膜、対象をNAND・DRAM・ロジックとする。メモリ事業の主要顧客にはSamsung電子とSK hynix、競合にはApplied、Lam、TELを挙げる。
W系の膜にも手を付けている。2016年優先日の出願は2、従来の炭素マスクの対酸化膜選択比が3〜4:1にとどまる点を課題にし、W炭窒化膜で10:1以上を狙った。結晶粒を3nm以下に抑えて除去しやすくし、膜の粗さは成膜温度300℃・W 27%の条件で1.05nmだった。ただし、この米国出願は権利化されずに終わっている。
供給元の候補はAppliedとLam、TESは別の膜種で続く
Section titled “供給元の候補はAppliedとLam、TESは別の膜種で続く”| Applied Materials | Lam Research | TES | |
|---|---|---|---|
| W系炭素マスクの最初の出願 | 2014年7月 | 2015年2月 | 2016年5月 |
| 除去への備え | 除去しやすいW・B・C膜の設計 | 塩素と酸素の乾式、過酸化水素の湿式 | 除去しやすい微細粒の膜設計 |
| 炭素マスクの量産装置 | Producer APF | VECTOR AHM | ACL PECVD |
| 主な顧客基盤 | 先端DRAM・NAND・ロジックのほぼ全工場 | 2008年時点で複数の大手メモリが量産使用 | メモリ事業でSamsung電子、SK hynix |
WdCは処理室も成膜方式も炭素マスクと共通で、違うのは原料と下地処理だ。そのため、工場は既存の炭素マスク装置の延長でWdCを評価しやすい、と本稿は見る。この前提では、Appliedは導入基盤の広さが、Lamは成膜から除去までを自社の特許で示せることが強みになる。TESは韓国メモリの既存ラインに入っている点が強みだが、W系膜の米国出願は権利化されておらず、2社と並ぶには新しい膜の開発が要る。
装置メーカーの評価担当や顧客のプロセス担当にとって、成膜は既存装置の延長で済む。装置選びで次に効くのは除去工程だ。WdCは塩素を足さないと除去できないので、成膜装置と同じくらい、除去用のエッチング装置と薬液が採用を左右する。除去条件の数値はTiNマスクのウィグリングとWdCにまとめた。
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- 1Applied Materials:WF₆によるW含有ハードマスク特許(2016年優先日)patents.google.com ↩
- 2TES:W炭窒化膜の成膜出願(2016年優先日)patents.google.com ab
- 3Applied Materials:金属ドープドカーボン膜の成膜特許(2014年優先日)patents.google.com ↩
- 4Applied Materials:W・B・Cハードマスク特許(2017年優先日)patents.google.com ↩
- 5Applied Materials:金属ドープドカーボンハードマスク特許(2021年優先日)patents.google.com ↩
- 6Applied Materials:Producer Precision APFappliedmaterials.com ↩
- 7Lam Research:金属ドープドカーボンハードマスクの成膜特許(2015年出願)patents.google.com ↩
- 8Lam Research:金属ドープドカーボンマスクの界面特許(2017年出願)patents.google.com ↩
- 9Lam Research:金属ドープドカーボンマスクの除去特許(2017年優先日)patents.google.com ↩
- 10Lam Research:WdCの湿式除去薬液特許(2018年優先日)patents.google.com ↩
- 11Lam Research:VECTOR製品群lamresearch.com ↩
- 12Novellus:VECTOR Express出荷とAHM量産(2008年3月)newsroom.lamresearch.com ↩
- 13TES:会社説明資料(2024年12月)file.alphasquare.co.kr ↩