TiNマスクのウィグリングとWdC代償は除去工程の作り直し
WdC(タングステンドープドカーボン)とは、非晶質の炭素膜にW(タングステン)を混ぜたハードマスクを指す。これがTiNの代わりに検討されるのは、膜応力のせいだ。28nmピッチ級の配線では、TiNマスクの圧縮応力が柔らかい絶縁膜の細線を横へ波打たせる。TiNの応力は成膜条件で引張側まで下げられる。ところが、エッチングでプラズマに当たると圧縮応力が増える。WdCはTiNとは別系統の炭素膜で、押し込み硬さを上げながら成膜時の応力を引張側まで調整できる。応力・ヤング率・硬さはどれもGPaで書くが別の量で、違いは膜応力とヤング率の基礎にまとめた。
代償は除去だ。炭素は酸素プラズマで消えるが、Wは塩素かフッ素と反応させないと気体にならない。WdCを選ぶ価値は、この除去工程を作り直してでも配線のウィグリングと短絡を消したい世代で生まれる。誰が成膜装置を供給するかと使われ始めた経緯は別記事にまとめた。
ウィグリングは、硬いマスクの圧縮応力が柔らかい絶縁膜を曲げて起きる
Section titled “ウィグリングは、硬いマスクの圧縮応力が柔らかい絶縁膜を曲げて起きる”配線工程では、銅を埋める溝を低誘電率膜(low-k)に掘る。最先端のlow-kは誘電率を下げるために微細な空孔を含む多孔質のSiOCHで、機械的に柔らかい。この上に硬いTiNをマスクとして載せ、溝の形を写す。
溝を掘ると、溝と溝の間に細い絶縁膜の壁が残る。上に載ったTiNが圧縮応力(符号はマイナス)を持つと、マスクは伸びたがるが、壁に貼り付いているのでまっすぐのままでは伸びられない。根元の動かない壁の上端が左右にくねり、線が波打つ。CEA-Letiの研究は、このウィグリングを硬いマスクの圧縮応力が柔らかい多孔質膜を変形させて緩和する現象1と説明し、TiNの応力と厚さ、線の幅と高さ、膜のヤング率(伸び縮みのしにくさ)が効くことを有限要素計算で示した。ウィグリングの力学モデルと研究の数値はウィグリングの座屈モデルにまとめた。
間隔が縮んだ所では、埋めた銅どうしが近づいて絶縁不良や短絡を起こす。IBM ResearchもSPCC 2026の講演で、TiNの高い圧縮応力がウィグリングを招き、配線の短絡につながることを2、WdCを導入する理由に挙げている。
TiNの応力は、成膜で下げてもエッチングで戻る
Section titled “TiNの応力は、成膜で下げてもエッチングで戻る”それならTiNの応力を下げればよい、と考えるのが自然だ。実際、TiNは成膜方法で応力が大きく変わる。28nmピッチの多孔質SiOCHを加工した2023年の評価では3、PEALDで作ったTiNの応力が−3.6GPa(圧縮)から+0.2GPa(引張)まで振れた。スパッタで作ったTiNは+0.1GPaだった。
ところが、マスクがエッチングのプラズマに当たると話が変わる。同じ評価では、プラズマに当てなければ低応力のTiNでウィグリングを防げた。しかし通常の配線工程のようにプラズマに当てると、すべてのTiNで応力がマイナス側(圧縮側)へ動き、成膜時に+0.1GPa(わずかに引張)だったスパッタTiNでもウィグリングした。増え方は成膜直後の応力と相関しなかった。2025年の続報も4、成膜時に低応力や引張だったTiNが、プラズマによる圧縮応力の増加でウィグリングし始めることを確かめている。
つまり、TiNでウィグリングを防ぐには成膜条件だけでは足りない。問題はエッチング中にプラズマで増える圧縮応力で、その増え方は成膜直後の応力から予測できない。TiNの成膜条件をいくら詰めても逃げ切れないことが、マスクの材料そのものを替える動機になる。
WdCは炭素とWCの複合膜で、硬さと応力を別々に動かせる
Section titled “WdCは炭素とWCの複合膜で、硬さと応力を別々に動かせる”WdCは、非晶質の炭素の中にWを取り込んだ膜だ。PECVDで炭化水素ガスにWF₆を足して成膜する。プロピレンとWF₆を使った2025年の研究では5、WF₆の流量でWを最大40 at%まで入れ、炭素の中に3〜4nmの炭化タングステン(WC)微結晶が生じた。密度は1.36g/cm³から8.24g/cm³へ、押し込み硬さ(膜に針を押し込んだときのへこみにくさ)は3.2GPaから10.5GPaへ上がり、フルオロカーボンプラズマでのエッチング速度は無添加の炭素膜より55%遅くなった。
応力は成膜中のイオン照射で動かせる。Applied MaterialsのW・B・C系マスクの特許は6、350kHzの低周波電力でアルゴンイオンを当て、膜全体の応力を−0.1GPaから+1GPaの範囲で調整できるとする。TiNの評価では、成膜条件で−3.6GPaから+0.2GPaまで動いた。どちらもプラズマに当てる前の値だ。
本稿の見立てでは、WdCがウィグリングを抑えられる理由は2つある。1つは、成膜時の応力をゼロや引張側に置ければ、引き伸ばされた状態の膜は縮もうとするので線をまっすぐ引っ張り、押す力が生まれないことだ。もう1つは選択比が高くマスクを薄くでき、押す力が厚さに比例して減ることだ。逆に、WdCはTiNよりやわらかいので、圧縮応力が残ると不利になる。プラズマで増える圧縮分を、引張側の出発点で打ち消せるかが採用の分かれ目になる。IBMはWdCを配線工程へ組み込み、パターン付きウェハの電気特性まで評価を進めている。
WdCのW量を増やすほど、膜の表面は粗くなる。Appliedの特許は、粗さと大きな結晶粒が加工後の線幅のばらつきを悪化させると課題に挙げる。AppliedはWF₆を使い、下地にホウ素層を敷く方法で7、表面粗さをW 15 at%で0.65nm、30 at%で0.97nmに抑えた。W原料にW(CO)₆を使うと、それぞれ1.4nmと2.7nmだった。
弱点は除去で、酸素だけでは消えない
Section titled “弱点は除去で、酸素だけでは消えない”炭素だけのマスクは、酸素プラズマで燃やせばCOやCO₂になって消える。WdCではWが酸化物として残る。Wを気体にするには、塩素と結び付けて塩化物や酸塩化物(WOCl₄など)にする必要がある。
Lam Researchの除去特許は8、ウェハを200〜400℃に加熱し、酸素に塩素を10〜40%混ぜたプラズマで約1µmのWdCをきれいに除去した。塩素を入れない条件では除去速度は0nm/minで、塩素を入れると圧力やウェハの位置によって毎分70nmから140nm超まで上がった。Wを33%と63%含む膜は、どちらも毎分約95nmで除去できた。特許は、下地の酸化膜に対して1000:1近い選択比が得られるとしている。
配線工程では、除去の時に銅やコバルトの配線が露出していることがある。湿式なら、Lamのグループ会社の薬液特許9が具体的な処方を示す。31%の過酸化水素を70℃で使うと、W 50 at%のWdCは毎分45Å溶けた。ここに腐食防止剤を加えると、WdCは毎分75〜133Å溶けたまま、銅は毎分0.3〜0.6Å、コバルトは0Åまで抑えられた。
ウェハの端も手当てが要る。成膜したWdCはウェハ外周の斜めに削られた縁(ベベル)へ回り込み、残ると後工程の装置で放電や金属汚染を起こす。IBMは、端部のプラズマ除去では選択比が足りずシリコン基板まで削り、ウェハが割れやすくなると指摘した。そこで湿式のベベル処理を2種類の薬液で比べ2、WdCを完全に除去し、パターン付きウェハの電気特性をプラズマ処理と同等に保った。
開口、つまりWdCそのものに形を写す工程にも別の条件が要る。NAURAの2024年の研究では10、酸素系プラズマに足す反応ガスとして、NF₃のほうが塩素より速くWdCを削った。上に載せる酸化膜マスクとの選択比(2つの膜が削れる速さの比)は、パルス化した高周波、BCl₃の添加、ウェハを載せる台の低温化で上がった。W炭化物(WC)マスクでは、プラズマを作るコイルの電気的な条件を変え、塩素・酸素プラズマで毎分881Åまでエッチング速度を上げた報告もある11。
WdCを選ぶのは、除去を作り直してでもウィグリングを消したい時
Section titled “WdCを選ぶのは、除去を作り直してでもウィグリングを消したい時”TiNでウィグリングが出ていないピッチなら、置き換える理由は薄い。TiNは配線工程の金属マスクとして使われてきた材料で、工程を変えずに済む。WdCが効くのは、ピッチが詰まり、プラズマで増える圧縮応力だけで壁が倒れ始める世代だ。その時、開口・除去・端部処理の3工程を同時に作り直す覚悟が要る。プロセス担当が置き換えを評価する時に比べる軸は、プラズマに当てた後の膜応力、除去後の銅・コバルトの損傷、ウェハ端の残渣の3つだ。
装置の側から見ると、成膜はAppliedとLamの炭素マスク装置の延長で作れる。一方で除去は塩素を使う高温プラズマか専用の薬液で、成膜より新しく作る部分が多い。供給元の比較はWdC成膜装置の供給元、配線とメモリでの使い分けはWdCの歴史とインテグレーションにまとめた。選択比の基本はエッチングで扱っている。
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- 6Applied Materials:W・B・Cハードマスク特許(2017年優先日)patents.google.com ↩
- 7Applied Materials:WF₆によるW含有ハードマスク特許(2016年優先日)patents.google.com ↩
- 8Lam Research:金属ドープドカーボンマスクの除去特許(2017年優先日)patents.google.com ↩
- 9Lam Research:WdCの湿式除去薬液特許(2018年優先日)patents.google.com ↩
- 10IEEE:NAURAのWdC開口エッチング研究(2024年)doi.org ↩
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