膜応力とヤング率の基礎単位と符号、ウェハの反りまで
膜応力とは、基板に貼り付いた薄い膜の中に残っている、面積あたりの力を指す。膜は本来なりたい大きさと違う大きさで基板に固定されているので、伸びたがったり縮みたがったりする力がたまる。単位は圧力と同じパスカル(Pa)で、半導体の膜ではMPa(メガパスカル)やGPa(ギガパスカル)で書く。1GPaは、1mm²の面に約100kgの重さがかかるほどの強さだ。
ヤング率は、材料の伸びにくさを表す数で、同じだけ伸ばすのに必要な応力を指す。単位は応力と同じPaになる。伸びの割合(ひずみ)に単位がないからだ。応力とヤング率は同じPaで書くが、意味の違いは大きい。そのため、同じGPaの数字でも、応力かヤング率かで意味が変わる。ウィグリングの座屈モデルに出てくる式は、この膜応力と、壁・マスクのヤング率と形で、線が波打つかどうかを決めている。本稿はその前提になる量と単位を、順に整理する。
応力・ひずみ・ヤング率は、力と伸びとその比
Section titled “応力・ひずみ・ヤング率は、力と伸びとその比”棒を両端から引っ張る場面で考えると分かりやすい。
- 応力は、引っ張る力を断面積で割った量だ。同じ力でも、細い棒ほど応力は大きい。単位は力(ニュートン、N)÷面積(m²)で、これを1Pa(パスカル)と呼ぶ。
- ひずみは、伸びた長さを元の長さで割った量だ。なので単位はなく、%で書くことが多い。
- ヤング率は、応力をひずみで割った量だ。ひずみに単位がないので、単位は応力と同じPaになる。グラフで見ると、応力とひずみの直線の傾きにあたる。
| 量 | 意味 | 単位 | 半導体の例 |
|---|---|---|---|
| 応力 | 面積あたりの力 | Pa=N/m²(MPa、GPa) | TiN膜で−3.6〜+0.2GPa1 |
| ひずみ | なし(%) | 応力の大きさ2GPaのTiNで約0.45% | |
| ヤング率 | Pa(GPa) | TiN約445GPa、WdC最大125GPa、多孔質low-k 2GPa未満 |
単位の大きさは次のとおりだ。1MPaは100万Paで、1mm²あたり1Nの力にあたる。1GPaは1000MPaで、1mm²あたり1000N、重さにすると約102kgだ。古い論文では、dyn/cm²(ダイン毎平方センチメートル)という単位も使われる。1dyn/cm²は0.1Paなので、1GPaは10¹⁰dyn/cm²になる。
例に挙げた数値の出典は、TiNがスパッタ膜で報告された最大値の約445GPa2、WdCがW添加炭素膜の最大値125GPa3、多孔質low-kがウィグリングを調べたCEA-Letiの研究の条件だ4。基板のシリコンのようにヤング率が向きで変わる材料もあり、シリコンでは結晶方向によって最大45%違う5。
応力・ヤング率・硬さは、同じGPaでも別の量
Section titled “応力・ヤング率・硬さは、同じGPaでも別の量”膜の論文には、GPaで書かれた数字が3種類出てくる。どれも「」の形をしているので単位は同じだが、表しているものは違う。
| 量 | 何を表すか | どう測るか |
|---|---|---|
| 応力 | 膜の中に今たまっている力(符号つき) | ウェハの反りから逆算する |
| ヤング率 | 伸び縮みさせたときの戻ろうとする強さ | 応力とひずみの傾き、押し込み試験の除荷の傾き |
| 硬さ | 押されたときのへこみにくさ |
硬さは、ダイヤモンドの針を膜に押し込む試験(ナノインデンテーション)で測る。針を押す最大の力を、そのとき針が膜に接している面積(真上から見た面積)で割った値で、単位はやはりPaになる。同じ試験で、針を抜くときの戻り方(除荷の傾き)から、ヤング率に近い換算弾性率も求められる。この方法はOliverとPharrが1992年にまとめたもので6、膜の評価で広く使われている。
同じ膜でも3つは別々の値になる。WdC膜の論文では3、W添加で硬さが3.2GPaから10.5GPaへ上がり、ヤング率は最大125GPaに達した。どちらも膜の「かたさ」に関係するが、硬さは傷つきにくさ、ヤング率はたわみにくさを表す。応力はそのどちらとも別で、膜が基板にどれだけ押されたり引っ張られたりしているかを表す。ウィグリングに直接効くのは応力とヤング率だ。硬さはエッチング耐性と関係することもあるが、耐性そのものは選択比を測って決める。押し込み試験の手順は用語集のナノインデンテーションにまとめてある。
膜応力は、基板に止められた伸び縮み
Section titled “膜応力は、基板に止められた伸び縮み”膜応力が生まれる理由は一つだ。膜が「本来なりたい大きさ」と、基板に貼り付いて「実際にとらされている大きさ」がずれている。
膜が本来より押し縮められていれば、膜は伸びたがる。これが圧縮応力で、符号は負(−)で書く。膜が本来より引き伸ばされていれば、膜は縮みたがる。これが引張応力で、符号は正(+)だ。
名前は「膜が置かれた状態」を表し、「膜がしたいこと」はその逆になる。ばねで考えると分かりやすい。押し縮めたばね(圧縮)は外へ伸びようとし、引き伸ばしたばね(引張)は内へ縮もうとする。圧縮応力の膜が伸びようとし、引張応力の膜が縮もうとするのは、このためだ。大阪産業技術研究所のテクニカルシートも7、圧縮を−、引張を+で表している。
膜は縦横どちらの方向にも同じように基板に止められているので、応力は面内の2方向にかかる。このため膜の計算では、ヤング率の代わりにという「2軸弾性率」8を使うことが多い。はポアソン比で、1方向に引っ張ったときに横がどれだけ縮むかを表す、単位のない数だ。
応力の出どころは、温度差と膜の育ち方
Section titled “応力の出どころは、温度差と膜の育ち方”膜応力は大きく2つに分けられる。機構ごとの詳しい説明は膜応力の由来にまとめた。
熱応力は、膜と基板の熱膨張の違いから生まれる。高温で膜を付けて室温に冷やすと、膜と基板はそれぞれ違う割合で縮もうとする。基板のほうが厚いので、膜は基板の縮み方に合わせさせられる。その差が応力として残り、大きさは8で見積もれる。熱膨張係数の単位は1/K(温度1度あたりの伸びの割合)なので、温度差(K)を掛けると単位のないひずみになり、2軸弾性率を掛けるとPaになる。
内部応力(成長応力)は、膜の育ち方から生まれる。スパッタ膜の研究をまとめたWindischmannのレビューによると9、エネルギーの高い粒子が当たって原子が詰め込まれる緻密な膜では圧縮応力になる。これを原子ピーニングと呼ぶ。逆に、すき間の多い膜では、結晶粒どうしが引き寄せ合って引張応力になる。どちらになるかは、膜に当たる粒子の量とエネルギーで決まる。
同じ材料でも、成膜条件で符号ごと入れ替わる。大阪産業技術研究所のTa膜の測定では、成膜時の圧力を上げると応力が−1,200MPaから+1,000MPaへ、スパッタ電力を上げると+150MPaから−180MPaへ7変わった。圧力が低く電力が高いほど、粒子がエネルギーを保って膜に当たり、圧縮側へ寄る。ウィグリングの記事にある、TiNがプラズマに当たって圧縮側へ動く現象や、W・B・C系の膜を低周波電力で調整する方法も、この「当たる粒子のエネルギーで応力が変わる」性質の上にある。
膜応力は、ウェハの反りから測る
Section titled “膜応力は、ウェハの反りから測る”膜の応力は、膜だけを取り出して測ることができない。そこで、膜が基板を曲げる量から逆算する。
成膜の前後でウェハの曲がり具合(曲率半径)を測り、その差から応力を求める。使うのはStoney(1909年)の式10に基板の2軸弾性率の補正を加えた形で、という形をしている。曲率は膜側がへこむ向きを正とする。圧縮応力の膜は膜側が出っ張るので括弧内が負になり、応力も負で出る。成膜前のウェハにも固有の反りがあるので、前後の両方を測るのが前提になる7。
数字を入れると感覚がつかめる。厚さ775µmの300mmシリコンウェハに、100nmの膜を1GPaの応力で付けたとする。(100)面のシリコンの2軸弾性率を、弾性定数から計算した約180GPaと置くと(この面では面内の向きによらず同じ値になる)、曲率半径は約180mになり、ウェハの中心と端の高さの差は約60µmになる。膜の厚さはウェハの7,750分の1しかないが、それでも髪の毛ほどの反りが出る。
式の形から、基板が厚いほど反りは小さく、膜が厚く応力が大きいほど反りは大きくなる。反りは露光の焦点合わせや、ウェハの搬送・貼り合わせにも響く。膜応力の測り方の詳細と装置は、用語集の膜応力と反りにまとめてある。
ウィグリングの式も、単位で読むと意味が分かる
Section titled “ウィグリングの式も、単位で読むと意味が分かる”ウィグリングの座屈モデルで使った限界応力の式は、だった。単位で確かめると、式の両辺がPaでそろっていることが分かる。そのため、数値を入れる前に単位の整合を確かめれば、式の書き間違いに気づける。
- (壁のヤング率)と(マスクのヤング率)はどちらもPaなので、掛けるとPa²になる。
- は長さの4乗(m⁴)なので、Pa²÷m⁴の平方根はPa÷m²になる。
- 最後に線幅の2乗(m²)を掛けると、単位はPaに戻る。
つまり、この式は「壁とマスクのヤング率(Pa)」を「形(長さの比)」で割り引いて、マスクが耐えられる応力(Pa)を出している。比べる相手は、膜が実際に持っている圧縮応力の大きさ(Pa)だ。膜応力をGPaで、ヤング率をGPaで、形をnmでそろえれば、同じ単位どうしで大小を比べられる。
プロセス担当がハードマスクを評価するときに見る数字は、この3つの量に整理できる。膜応力(どれだけ伸び縮みしたがるか)、ヤング率(どれだけ曲がりにくいか)、形(線幅・高さ・厚さ)だ。TiNとWdCの比べ方はTiNマスクのウィグリングとWdC、成膜方法は成膜で扱っている。
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- 2Bentham:TiN膜の構造と機械特性(2023年)doi.org ↩
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- 8Harvard MRSEC:Vlassak「Thin Film Mechanics」講義資料(2004年)mrsec.harvard.edu ab
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