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膜応力の由来|熱膨張差・膜の育ち方・成膜後の変化

膜応力とは、基板に貼り付いた膜の中に残る面積あたりの力を指す。その由来は、突き詰めると一つだ。膜が「本来なりたい大きさ」と、基板に貼り付いて「とらされている大きさ」がずれている。ずれの生まれ方には4つの系統がある。成膜中の膜の育ち方、成膜後に冷やすときの熱膨張の差、成膜後に膜の中身が変わること、そして結晶の格子の間隔の違いだ。

符号の見分け方は単純だ。膜が縮みたくなる出来事が起きれば、基板に止められて**引張応力(+)**が残る。膜に原子が詰め込まれたり、膜が膨らみたくなったりする出来事が起きれば、**圧縮応力(−)**が残る。そのため、膜応力の符号を見れば、膜に何が起きたかを逆にたどれる。応力・ヤング率・単位の基本は膜応力とヤング率の基礎に、圧縮応力が細線を曲げる例はウィグリングの座屈モデルにまとめた。

成膜中冷やすとき膜の中身の変化島がつながる+引張粒界に原子が入る−圧縮粒子が詰め込む−圧縮膜が大きく縮む+引張基板が大きく縮む−圧縮水素が抜けて縮む+引張酸化で膨らむ−圧縮プラズマに当たる−圧縮(TiNの例)
橙は膜が縮みたくなる出来事(引張)、青は詰め込まれる・膨らみたくなる出来事(圧縮)。最終的な応力はこれらの合計になる。

成膜中:膜の育ち方で、引張にも圧縮にもなる

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成膜中に生まれる応力を、成長応力(内部応力)と呼ぶ。熱膨張とは関係なく、膜が積み上がる途中で生まれる。主な機構は3つある。

島がつながると引張になる。 金属の膜の多くは、最初に小さな島として基板に付き、島が大きくなって互いに触れる。触れた島どうしは、側面のすき間をファスナーのように閉じてつながる。表面を減らしたほうがエネルギーが下がるからだ。閉じる分だけ島は互いに引き寄せられるが、底は基板に止められているので、膜は引き伸ばされた状態で固まる。NixとClemensは1999年に、この結晶粒の合体で大きな引張応力が生まれることを1、表面と粒界のエネルギーと弾性率から見積もった。

粒界に原子が入り込むと圧縮になる。 膜がつながった後も成膜を続けると、原子の動きやすい金属膜などでは応力が圧縮側へ動く。Chasonらは2002年に、飛んできた原子が表面の化学ポテンシャルを上げ、その差に押されて原子が結晶粒の境目(粒界)へ流れ込み、圧縮応力を作る2というモデルを示した。すでに詰まった場所へ原子を押し込むので、膜は本来より詰まった状態になる。このモデルは、成膜を止めると応力が緩む現象や、成膜速度で応力が変わることも説明した。そのため、同じ材料でも成膜速度を変えれば、圧縮の大きさを動かせる。

高エネルギーの粒子が詰め込むと圧縮になる。 スパッタでは、ターゲットからはね返ったガス原子や、勢いのある膜の原子が表面を叩く。叩かれた原子は、本来は入らない隙間へ押し込まれる。これを原子ピーニング(ピーニングは「叩いて締める」の意味)と呼び、Davisは1993年にイオンの衝突で圧縮応力ができる簡単なモデル3を示した。そのため、スパッタではガス圧や電力、基板バイアスで粒子の勢いを変えると、圧縮応力の大きさが変わる。

島がつながる+引張粒界に原子が入る−圧縮粒子が叩いて詰め込む−圧縮すき間を閉じて引き合う境目に入って押し広げる隙間へ押し込まれる
引き寄せ合うと引張、詰め込まれると圧縮。どれが勝つかは、膜に当たる粒子の量とエネルギーで決まる。

どの機構が勝つかは、成膜条件で決まる。スパッタ膜をまとめたWindischmannのレビューは4、すき間の多い膜では引張、緻密な膜では原子ピーニングによる圧縮になり、決め手は膜に当たる粒子の量とエネルギーだとする。Thorntonは1974年に、厚いスパッタ膜でAr圧と基板温度を変えると組織が3つのゾーンに沿って変わり、低圧では密な繊維状の粒になる5ことを示した。

実測でもこの通りになる。大阪産業技術研究所のTa膜では、成膜時の圧力を上げると応力が−1,200MPaから+1,000MPaへ、スパッタ電力を上げると+150MPaから−180MPaへ6変わった。このテクニカルシートは、雰囲気中のArなどとの衝突がスパッタ粒子のエネルギーを大きく増減させ、エネルギーの高い粒子による膜の緻密化が強い圧縮応力の原因だとしている。圧力が低く電力が高いほど、粒子は勢いを保って膜を叩き、圧縮側へ寄る。

冷やすとき:膜と基板の熱膨張の差

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成膜温度から室温へ冷やすと、膜と基板はそれぞれ自分の熱膨張係数に従って縮もうとする。基板のほうがずっと厚いので、膜は基板の縮み方に合わせさせられる。このずれが熱応力で、大きさは膜の2軸弾性率×熱膨張係数の差×温度差7で見積もれる。

符号は、どちらが大きく縮むかで決まる。膜のほうが熱膨張係数が大きければ、冷やしたとき膜は基板より大きく縮みたがるので、引張が残る。シリコン上の銅膜がこの例で、温めると逆に膜のほうが大きく伸びたがり、圧縮側へ動く。

ただし膜は、いつまでも弾性的に応力をため込むわけではない。酸化したシリコン基板上の銅膜を室温から500℃まで加熱して測った1995年の研究では8、純銅の応力は約200℃から温度に比例しなくなった。1回目の加熱を終えたMg入り(2〜3 at%)の銅は約400℃まで比例を保ち、Mgで膜の強度が上がったと報告されている。比例から外れるのは、膜が弾性の範囲を超えて変形し始めたことを示す。熱応力は、膜が変形せずに耐えられる範囲までしか積み上がらない。

成膜中・成膜後:膜の中身が変わると応力も変わる

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成膜が終わった後でも、膜の組成や構造が変われば、本来なりたい大きさが変わり、応力も動く。

水素が抜けると縮んで引張になる。 プラズマCVD(PECVD)の窒化シリコン膜は、原料ガス由来の水素を多く含む。2025年の研究では、紫外線を当てるとN–HとSi–Hの結合が切れて水素が抜け、Si–N–Siの架橋が増えて、引張応力が最適な照射時間で約1,570MPaに安定した9。紫外線の電力を上げすぎると、逆に応力は下がった。引張の窒化シリコン膜は、トランジスタのチャネルを引っ張る応力ライナーに使われる。

膨らむと圧縮になる。 シリコンを酸化して作る熱酸化膜は、シリコンより体積が大きい。EerNisseは1979年に、湿式酸化で成長中の熱酸化膜が、950℃以下では約7×10⁹dyn/cm²(約0.7GPa)の圧縮応力を持ち、975℃と1000℃では応力なしで育つ10ことを測った。酸化膜が粘り気のある液体のように流れ始める温度(粘性流動点)が950〜975℃の間にあり、高温では膨らんだ分が流れて逃げると解釈されている。PECVDの窒化シリコンでも、高周波の電力を上げると窒素の結合が増え、膜が膨らんで圧縮応力が増える11。この圧縮が元の引張を打ち消し、13.56MHzで電力を最大600Wまで上げた条件では、残留応力が0〜20MPaまで下がった。

プラズマに当たると圧縮側へ動く。 配線工程のTiNマスクは、エッチングのプラズマに当たるとすべての膜で圧縮側へ応力が動いた12。成膜時に+0.1GPaだった膜でも、プラズマ後はウィグリングを起こすほど圧縮側へ寄った。成膜後の工程も、膜の応力を書き換える。

格子のずれ:結晶の間隔を合わせさせられる

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基板の結晶の並びをそのまま引き継いで育つエピタキシャル膜では、膜の原子の間隔が基板に合わせさせられる。膜の本来の格子間隔が基板より大きければ押し縮められて圧縮、小さければ引き伸ばされて引張になる。この格子不整合による応力も、膜の弾性定数と格子のずれの大きさ7で決まる。ずれが大きく膜が厚くなると、膜は転位(原子の並びが1列ずれた線状の欠陥)を入れて応力を逃がす。シリコンを伸ばしてトランジスタを速くする歪みシリコンは、この応力を積極的に使う技術だ。

由来が分かれば、応力を動かすつまみも分かる

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由来起きる時点符号動かすつまみ例
島の合体成膜初期+引張結晶粒の大きさ島状に育つ多結晶膜
粒界への原子の流入成膜中−圧縮成膜速度多結晶金属膜
原子ピーニング成膜中−圧縮ガス圧、電力スパッタTa
熱膨張差冷却・加熱どちらも成膜温度、材料の組合せシリコン上の銅
水素の放出成膜後+引張紫外線の照射時間と電力PECVD窒化シリコン
プラズマ曝露成膜後−圧縮プラズマ条件、マスク表面TiNマスク
酸化・膨張成膜中−圧縮温度(粘性流動)熱酸化膜
格子不整合エピ成長どちらも組成、膜厚歪みシリコン

プロセス担当が膜応力を合わせ込むときは、まずこの表のどのつまみが効いているかを見分けることになる。同じ「−500MPa」でも、粒子のエネルギーが原因ならガス圧と電力、熱膨張差が原因なら成膜温度を動かす必要がある。応力を測る方法とウェハの反りの関係は膜応力とヤング率の基礎と用語集の膜応力、ハードマスクで応力が問題になる例はTiNマスクのウィグリングとWdCで扱っている。

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