膜応力とは
膜応力とは、基板の上に成膜した膜の面内に残っている応力で、成膜の前後で基板の曲率半径がどれだけ動いたかから求める量です。 応力は圧縮応力と引張応力に分類されます1。
膜構造に起因する内部応力は成膜条件で決まり、熱応力は基板と膜の熱膨張係数の差と温度差で決まります。この2つを1つの数値にまとめてしまうと、条件を振ったときの応答が追えなくなります。
内部応力はレシピで、熱応力は材料と熱履歴で決まる
Section titled “内部応力はレシピで、熱応力は材料と熱履歴で決まる”スパッタや真空蒸着で作った薄膜には、膜の構造による内部応力と、基板との熱膨張係数の違いによる熱応力がたまっています。内部応力は、成膜条件で符号まで変わります。熱応力は材料の組み合わせと熱履歴で決まるので、レシピで変えられるのは温度と昇降温の速さに限られます。
応力は膜を浮かせ、割り、剥がす
Section titled “応力は膜を浮かせ、割り、剥がす”現場で問題になるのは、応力そのものより応力が壊すものです。過剰な応力は薄膜本来の機能を下げる原因になり、半導体デバイスでは膜の内部応力がトランジスタの動作に悪影響を与え、製品の信号の伝わり方や耐久性が損なわれることがあります。応力がある値を超えると、膜が浮き、割れ、最後には剥がれるので1、製品の信頼性が大きく下がります。
膜1枚では問題がなくても、積層で問題になる場合もあります。BPSG膜の上にプラズマ窒化シリコン膜を直接載せると窒化膜にクラックが入る2ことが従来から知られ、対策として両者の界面に緩衝膜を挟む方法が知られています。この層構造に熱が加わると全体が引張応力の側へ歪みます。元の温度まで冷ますと、降温時にプラズマ窒化シリコン膜には引張応力、BPSG膜には圧縮応力が生じ、BPSG膜の中に大きな応力差ができます。この熱履歴による応力は、緩衝膜で増幅される傾向があります。応力の符号は熱履歴の途中で入れ替わります。
曲率半径の差から求めるので、反射する膜が要る
Section titled “曲率半径の差から求めるので、反射する膜が要る”測定装置は、基板の表面で反射したレーザー光から曲率半径を計算し、成膜前と成膜後の曲率半径の差から膜応力を求めます3。東朋テクノロジーのFLX2320Sは基板サイズ3〜8インチ、FLX3300Tは6〜12インチに対応し、どちらも応力範囲1〜4,000MPa、測定再現性±1.3MPaです。1回の測定は30秒程度です。
レーザー光の反射から基板の反りを測る仕組みのため、膜の表面は散乱と吸収が小さく、反射率が一定している1ことが要ります。光学干渉で反射率と測定精度が落ちるのを抑えるため、670nmと780nmの二波長のレーザー光源を持たせ、屈折率の異なる薄膜や基板へ幅広く対応させています。大阪産業技術研究所が保有する機種はFLX-2320-Rで、常温測定のみの仕様です。
温度を振れば、熱応力と内部応力を分けられる
Section titled “温度を振れば、熱応力と内部応力を分けられる”東朋テクノロジーの標準機は、ステージヒーターで最高500℃まで昇温できます。昇温レート、到達温度、測定間隔をレシピで設定して連続測定を行い、降温側も続けて測ることで、ヒステリシスの有無まで解析できるとしています。液体窒素を使う低温測定のオプションでは、マイナス65℃までの応力変化を測れるとしています。
日産アーク4が自社開発した手法では、試料に平行なレーザー光を当て、入射光と反射光の間隔のずれから曲率を計算します。100℃/minの高速で連続的なその場測定、室温〜1,000℃の温度範囲、ArやN2などの雰囲気での測定、XY方向の内部応力の同時測定ができます。
Si基板上のCu膜を室温から450℃まで上げて徐冷すると、常温で約250MPaの引張の内部応力が残り、180℃あたりから内部応力で塑性変形が始まりました。塑性変形が始まる温度は、その後の熱履歴で応力が元に戻らなくなる境目です。昇温時の50〜150℃の内部応力と温度の傾きから求めたCu薄膜の平均線膨張係数は1.5×10⁻⁵K⁻¹で、Cuバルク材の1.6×10⁻⁵K⁻¹とほぼ一致しています。
圧力を上げると引張へ、電力を上げると圧縮へ動く
Section titled “圧力を上げると引張へ、電力を上げると圧縮へ動く”大阪産業技術研究所は、自所のマグネトロンスパッタ装置で、シリコン基板(4インチ)上に300nmのTa薄膜を直流マグネトロンスパッタで作りました。結晶化で応力が変わるのを避けるため基板は加熱せず、成膜時の圧力を0.1、0.5、1.0Pa、スパッタ電力をDC200、250、300Wの3水準ずつ変えています。圧力を上げるほど応力は−1,200MPaの圧縮側から+1,000MPaの引張側へ1変わり、スパッタ電力を上げるほど逆に+150MPaの引張側から−180MPaの圧縮側へ変わりました。
同研究所は、スパッタ粒子の運動エネルギーが上がって膜が緻密になることが、強い圧縮応力の原因だと考えています。成膜時の真空度が大きく影響することから、雰囲気中のArや残留ガス分子との衝突でスパッタ粒子のエネルギーが大きく変わることが、膜応力を左右する主な要因だとしています。圧力は、粒子のイオンエネルギーを通して応力の符号まで変えます。スパッタリングやPVDで応力が成膜条件に強く依存するのは、このためです。
応力ゼロの条件と、最も緻密な条件は一致しない
Section titled “応力ゼロの条件と、最も緻密な条件は一致しない”トレードオフは膜の緻密さです。この仕組みでは、応力の絶対値を小さくするために圧力を上げる操作は、粒子の運動エネルギーを下げて緻密化を弱める操作でもあります。大阪産業技術研究所は、応力の絶対値が小さく、基板の変形や膜の剥がれの危険が小さい薄膜を作る条件として、この例では成膜時の真空度0.5Paとスパッタ電力250Wを定量的に決められるとしています。応力がゼロになる条件と、最も緻密になる条件は一致しません。
応力を意図的に残せば、移動度を上げられる
Section titled “応力を意図的に残せば、移動度を上げられる”膜応力は消す対象であるだけでなく、入力として使う道もあります。部分歪を用いた歪Si MOSFETでは、キャップ層にSiNを使い、nMOSのみに引っ張り歪を導入して移動度の向上を図る技術が提案されています5。このキャップ層の応力制御をどう行うかが大きな課題で、新たなソースガスやプロセスが要るとされています。応力ライナーがこの系列です。
SEAJの資料は、STIの埋め込み酸化膜でも、埋め込み性能と並んで応力の制御がプロセス上の大きな課題になり、応力起因の結晶欠陥への配慮が従来以上に必要になるとしています。開口コーナー部やボトムコーナー部へ応力緩和のためのラウンドを形成する酸化技術も、関連技術に挙げています。
膜応力は、反りやウェハ平坦度として面の形に出るだけでなく、下の結晶へも入っていきます。プロセス担当としては、自分のレシピが応力の絶対値と成膜レートのどちらを優先しているか、その優先がどの測定値で裏づけられているかを一覧にします。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”膜応力とは何ですか?
基板の上に成膜した膜の面内に残っている応力です。スパッタや真空蒸着で作った薄膜には、膜の構造から生まれる内部応力と、基板との熱膨張係数の違いから生まれる熱応力とがたまっていて、どちらも圧縮側と引張側に分けられます。
圧縮応力と引張応力はどの符号で表しますか?
圧縮側を負、引張側を正で表します。Ta薄膜の測定結果なら、圧縮応力が−1,200MPa、引張応力が+1,000MPaです。
膜応力はどうやって測りますか?
成膜の前後で基板の曲率半径を測り、その差からStoneyの式で求めます。式の変数は基板の弾性率、基板と薄膜の厚み、基板のポアソン比、製膜前と製膜後の曲率半径です。成膜前の基板はどれも固有の反りを持つので、曲率半径を先に測っておくことが前提です。
熱応力と内部応力はどう分けますか?
温度を振りながら測ります。Si基板上のCu膜を室温から450℃まで上げて徐冷すると、常温側では引張の内部応力が約250MPa残り、180℃あたりから内部応力で塑性変形へ入りました。
成膜時の圧力とスパッタ電力では、応力はどちら向きに動きますか?
逆向きです。Ta薄膜では、成膜時の圧力を上げるほど応力が−1,200MPaの圧縮側から+1,000MPaの引張側へ、スパッタ電力を上げるほど+150MPaの引張側から−180MPaの圧縮側へ変わりました。
応力が大きいと何が起きますか?
応力がある値を超えると膜が浮き、割れ、やがて剥がれるので、製品の信頼性が大きく下がります。積層でも問題になり、BPSG膜の上にプラズマ窒化シリコン膜を直接載せると窒化膜にクラックが入ることが、従来から知られています。
膜応力をわざと残すこともありますか?
あります。キャップ層にSiNを使い、nMOSだけに引っ張り歪を入れて移動度を上げる技術が提案されており、このキャップ層の応力制御が大きな課題とされています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”5件を表示
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- 2富士通:特開2005-5725 半導体装置の製造方法patents.google.com ↩
- 3東朋テクノロジー:薄膜応力測定装置 FLXtoho-tec.co.jp ↩
- 4日産アーク:平行レーザー群を用いた薄膜の内部応力測定法nissan-arc.co.jp ↩
- 5日本半導体製造装置協会(SEAJ)技術部会:ウェーハプロセス(2012年度版)seaj.or.jp ↩