イオンエネルギーとは
イオンエネルギーとは、プラズマの中で作られたイオンが、ウェーハ手前の電位の落差で加速されて持つ運動エネルギーです。 落差の大きさを電圧で表し、エネルギーの単位にはエレクトロンボルト(eV)を使います。上げれば速さと垂直性が増し、下げればマスクと下地を守れる、一本のつまみです。どこまで上げてよいかは、下地の膜がどれだけ残っているかと、密度と別々に動かせる装置かどうかで変わります。
イオンエネルギーの数字は、シースにかかる電位の落差で決まる
Section titled “イオンエネルギーの数字は、シースにかかる電位の落差で決まる”プラズマは、真空容器の壁や電極やウェーハに触れたところで、必ず薄い層を作ります。プラズマが固体へ接した面にはシース(sheath)という空間電荷層ができます1。動きの速い軽い電子が先に固体へ届くため、その表面の電位はプラズマ側より低くなります。この電位差がイオンを加速し、電子は速度を落とすか跳ね返されます。シースの厚さはデバイ長の数倍程度です。
プラズマ本体は電位Vsで電気的に中性を保ち、本体と基板の電位差はシースへまとめてかかります。イオンはその落差を落ちる形で加速されてウェーハへ着きます。1Vで加速された1価のイオンや電子のエネルギーを1eV(エレクトロンボルト)と表し、1eVは温度に換算して約1万度に相当します。何ボルトの落差を用意したかが、そのままイオン1個のエネルギーの数字になります。
高周波の装置では、セルフバイアスが落差を深くする
Section titled “高周波の装置では、セルフバイアスが落差を深くする”高周波でプラズマを作る装置では、落差の一部を電源の側が作ります。電子の平均速度は約10の6乗m/s、イオンの平均速度は約10の4乗m/sで、電子の運ぶ電流のほうがはるかに大きくなります。ブロッキングコンデンサでフローティングにした基板の表面には負の電荷がたまり、電子側とイオン側の電流がつり合う電位で落ち着きます。
このとき基板の電位に残る負の直流ぶんをセルフバイアスVdcと呼び、プラズマ電位Vsを足した(Vs+Vdc)がイオンシースへかかって、その電圧で加速されたイオンが基板を叩きます1。基板側へ入れる高周波の電圧を上げると、この落差が深くなります。RF電源・整合器は、この電圧を送り届ける役目を担います。オプトランも、イオンがその場の自己バイアスなどの電場で加速され、被エッチング材料に衝突して物理的に削る2と説明しています。
届くイオンのエネルギーと入射角には分布があり、その幅はバイアスのかけ方で変わります。UCLAの研究グループは、プラズマのアフターグローの間にウェーハへバイアスをかけた実験で、ウェーハ近傍のイオンエネルギーがバイアス電圧の近くに狭く分布し、入射角も最も小さくなった3と報告しています。いつバイアスをかけるかで、エネルギーのそろい方まで変わります。
加工に使う幅は数eVから数百eVで、装置の形式が制御のしかたを決める
Section titled “加工に使う幅は数eVから数百eVで、装置の形式が制御のしかたを決める”反応性スパッタエッチングは、反応性ガスを満たしたグロー放電の中に試料を置き、活性化原子つまりラジカルとの化学反応と、数eVから数百eVという高速イオンのスパッタリング反応4の両方で加工する方法です。この方法はRIE、すなわちリアクティブイオンエッチング法とも呼ばれ、半導体素子のサブミクロンのパターンを高い異方性で加工できるとされています。
オプトランはエッチング源をプラズマエッチング(PEモード)、容量性プラズマRIE、誘導性プラズマRIE、マイクロ波プラズマ、イオンビームエッチングに区分し、基板へ飛来するイオンエネルギーをそれぞれ低い、中間、高い、中間、高いとしています2。同じ表では、ICP-RIEのプラズマ密度は1E+12 cm-3程度、圧力範囲は100から1 mTorrです。
イオンビームエッチングは、イオン源から引き出して加速したイオンビームがスパッタリング反応を起こし、試料を加工する技術で5、二つの数字を別々の電源が担います。オプトランは、イオン密度をイオン源のプラズマソースで、イオンエネルギーをグリッドへ与えるDC加速電圧つまり負のバイアス電圧で制御するので、二つを各々独立に制御できるとしています2。同社は、RIE装置より1桁低い0.1Torr程度の圧力で行うためイオンの平均自由行程が長く、衝突で失うエネルギーも小さいとし、1kVを超える高加速電圧で10から30 nm/min程度のエッチングレートが得られるとしています。圧力が低いほど、イオンは途中の衝突で失う分が少ないまま、落差で得たエネルギーを持ってウェーハへ届きます。
上げた分だけ、選択比と下地の健全さを支払う
Section titled “上げた分だけ、選択比と下地の健全さを支払う”イオンエネルギーを上げると、縦方向の削りが強まり、速度も上がります。同時に、マスクも同じイオンに叩かれるため、マスクが残る度合いである選択比が落ち、下地へ入り込む深さも増します。オプトランも、エッチング速度は反応性ガスの種類、基板へのイオン衝撃の強さ、処理圧力、プラズマ密度で変わり、速度が速くなるとエッチング形状や選択比も変化するので、全てのファクターを総合的に見て処理条件を最適化するとしています2。
産業技術総合研究所は2024年8月28日に、四フッ化炭素(CF4)プラズマでシリコン酸化膜を加工した実験で、CF3+イオンの酸化膜への侵入長を数ナノメートル程度、CF3活性種を数原子層程度とし、残った膜が数ナノメートル程度まで薄くなるとイオンがシリコン表面近傍へ届いてダメージを作る6と発表しました。イオンと活性種は、ウエハへの入射エネルギーが違うので侵入長に差が出ます。
産総研は、太陽電池の研究で広く使う擬定常状態光伝導度測定法でシリコンのキャリア寿命を測り、ダメージを定量しました。残膜が厚い場合は300℃の熱処理でダメージがほぼ完全に修復された一方、400℃まで上げるとキャリア寿命が逆に短くなり、残膜が薄い場合は400℃まで上げてもダメージが残りました。産総研は、修復には最適な熱処理温度があり、シリコン上の膜がおおむね10 nm以下になる場面ではイオンや活性種に由来する不純物を低くすることが重要だとし、今後の課題として、プラズマ加工で使うイオンエネルギーを下げる技術を挙げています。ゲート酸化膜や薄い下地の手前ほど、支払える額は小さくなります。
密度と別々に動かせるかどうかが、装置選びの争点
Section titled “密度と別々に動かせるかどうかが、装置選びの争点”平行平板の一つの電源でプラズマを作る形式では、投入電力を上げるとプラズマ密度もイオンエネルギーも一緒に上がり、削る速度を上げようとすると下地のダメージも同じつまみで増します。ICPのようにプラズマを作る電源と基板側の電源を別に持つ形式では、密度を高く保ったままイオンエネルギーを低く抑える条件が取れます。オプトランも、ICPを主流とする理由として、低い圧力で高密度なプラズマを作れる点とエッチング形状の制御のしやすさを挙げています。
電子へエネルギーを与えて回る半径を広げる段を励起、電子が原子から離脱する段を電離7と呼び、飛び出した電子を自由電子、あとに残った粒子をイオンと呼びます。イオンという粒子が生まれるところまではプラズマの仕事で、そこから何ボルトで加速するかは装置と電源の仕事です。化学で削るラジカルと物理で叩くイオンの配分を表す目盛りが、イオンエネルギーです。削る側の全体像はドライエッチングにあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”イオンエネルギーとは何ですか?
プラズマの中で作られたイオンが、ウェーハ手前の電位の落差で加速されて持つ運動エネルギーです。プラズマが固体に接すると表面にシースと呼ばれる空間電荷層ができ、そこにかかる電圧でイオンが加速されます。
eVとはどんな単位ですか?
1Vの電位差で加速された電荷1個ぶんのエネルギーです。1Vで加速された1価のイオンや電子のエネルギーを1eV(エレクトロンボルト)と表し、1eVは温度に換算して約1万度に相当します。何ボルトの落差を用意したかが、そのままイオン1個のエネルギーの数字になります。
どのくらいの大きさですか?
アルバックテクノは、加工に働くイオンを数eVから数百eVの高速イオンとしています。オプトランは、基板へ飛来するイオンエネルギーを、プラズマエッチング(PEモード)で低い、容量性プラズマRIEで中間、誘導性プラズマRIEとイオンビームエッチングで高いとしています。
現場では何を動かすと上下しますか?
基板側へ入れる高周波の電圧です。基板の表面にたまる負の直流ぶんをセルフバイアスVdcと呼び、プラズマ電位Vsを足した(Vs+Vdc)がイオンシースへかかります。圧力も関係し、オプトランはイオンビームエッチングについて、RIE装置より1桁低い0.1Torr程度の圧力で行うためイオンの平均自由行程が長く、衝突で失うエネルギーも小さいとしています。
セルフバイアスとは何ですか?
高周波電極の側にたまる負の直流電圧です。電子の平均速度は約10の6乗m/s、イオンは約10の4乗m/sで、電子の運ぶ電流のほうがはるかに大きいため、基板表面に負の電荷がたまり、電子側とイオン側の電流がつり合う電位で落ち着きます。この負の直流ぶんが、イオンを加速する落差の一部になります。
高くすると何を受け取り、何を手放しますか?
縦方向の削りと速度を受け取り、選択比と下地の健全さを手放します。産業技術総合研究所は2024年8月28日に、CF4プラズマでシリコン酸化膜を加工した実験でCF3+イオンの酸化膜への侵入長を数ナノメートル程度とし、残った膜がそこまで薄くなるとイオンがシリコン表面近傍へ届いてダメージを作ると発表しました。
プラズマ密度とは別の数字ですか?
別の数字です。平行平板の一つの電源で作る形式では、投入電力を上げると密度もイオンエネルギーも一緒に上がります。ICPのように電源を分けた形式では密度を高く保ったままイオンエネルギーを低く抑えられ、オプトランも、イオンビームエッチングではイオン密度をプラズマソースで、イオンエネルギーをグリッドのDC加速電圧で各々独立に制御するとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ラジカルとは── 化学で削る中性の側、イオンエネルギーは物理で叩く側の強さ
- ICP(誘導結合プラズマ)とは── イオンエネルギーとプラズマ密度を別々に動かす方式
- 選択比(エッチング)とは── イオンエネルギーを上げたときに真っ先に下がる指標
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- 1シンクロン:4. プラズマshincron.co.jp ab
- 2オプトラン:ドライエッチングoptorun.co.jp abcd
- 3UCLA プラズマ物理研究グループ:Ion motion above a biased wafer in a plasma etching reactor 論文plasma.physics.ucla.edu ↩
- 4アルバックテクノ:真空技術辞典 反応性スパッタエッチング(reactive sputter etching)ulvac-techno.co.jp ↩
- 5アルバックテクノ:真空技術辞典 イオンビームエッチング(ion beam etching)ulvac-techno.co.jp ↩
- 6産業技術総合研究所:半導体の微細加工ダメージを診るaist.go.jp ↩
- 7サムコ:プラズマとはsamco.co.jp ↩