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シースとは

シースとは、プラズマと固体が接するところにできる、電子が減ってイオンが余る薄い層です。 プラズマとウェーハの間の電位の落差はほとんどこの層に集まり、通り抜けるイオンはウェーハへ垂直に加速されます。ドライエッチングで穴や溝がまっすぐ掘れるのはこのためです。加速を強めるほど速く深く掘れますが、そのぶん下地に欠陥が残ります。

速い電子が先に壁へ入り、壁の電位は負になって止まる

Section titled “速い電子が先に壁へ入り、壁の電位は負になって止まる”

プラズマは正負の電荷が自由に動く電気導体とみなせるので、内部の電場が0になり、プラズマ全体が決まった電位(プラズマ電位)を持ちます1。そこへ電位の異なる壁を接触させると、壁の近くで電子とイオンの密度が食い違い、正味の空間電荷が残る領域が生じます。この領域がシースです。実用の上で影響するのは、電子が欠乏してイオンが過剰になるイオンシースです。

電子が減る理由は速さの差です。プラズマの電子温度はイオン温度より高く、軽くて速い電子によって固体表面の電位がプラズマに対して負になります2。壁に当たった電子とイオンは、第一近似では再結合してプラズマから失われます。負の電荷が壁へ正味で流れ込むかぎり電位の障壁は高くなり続け、電子の流れがイオンの流れと等しくなったところで定常に落ち着きます3。こうしてできた電位がイオンを加速し、電子を減速または反射するため、空間電荷の層はイオンの過剰なイオンシースになります。この層に立つのは、負電荷の電流密度と正イオンの電流密度が釣り合う電界です。

坂にたとえると、高速で流入する電子には上り坂、ゆっくり運動するイオンには下り坂となる直流電界4が固体の表面へ自然に発生します。定常のシースでは、壁の電位はシースの縁に対して、電子温度に比例する分だけ負になります3。壁の電位は、Ar⁺で電子温度の5.2倍、Cl⁺で5.1倍にあたります。イオンはシースの縁に着いた時点で、すでにかなりの速さで壁へ向かって動いています。

シースの断面と電位
プラズマシース電子が減りイオンが余るウェーハ垂直に加速押し戻されるイオン電子プラズマ電位ウェーハの電位電位(右ほど高い)
プラズマの中では電位が一定で、落差はシースの中だけに集まります。その落差がイオンを垂直に加速し、電子を押し戻します。

電位の落差がシースに集まるから、イオンは垂直に当たる

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電位の変化はほとんどシースの中に限られます5。プラズマ本体では反応種があらゆる向きへ動きますが、シースを通ったイオンは電界に沿って基板へ垂直に加速され、被加工材料の表面へ衝突して表層を加熱します。このイオンの垂直性とエネルギーを制御すると、パターンマスクどおりに垂直へ加工する異方性加工が実現します。エネルギーに応じて変わる加工速度の材料間の差を使えば、選択比も制御できます。

ドライエッチング装置の働きは4つです。1つ目はプラズマを発生させて活性種やイオンを作ること、2つ目はシースを制御してイオンを加速し、基板の表面へエネルギーを与えること、3つ目はFやBrなどの適切な活性種を材料と反応させて生成物を排気すること、4つ目は異方性と高い選択比の加工を実現することです。プラズマドライエッチングは、基板にイオンを衝突させてプラズマに含まれる物質との化学反応を促進させる、化学的物理的なエッチング技術です6。イオンを当てる働きを担うのがシースで、2つ目が崩れると削れ方は横へも回ります。RIEで問われるアスペクト比も、この層の出来ばえに左右されます。

厚さはデバイ長の数倍で、0.1mmの桁になる

Section titled “厚さはデバイ長の数倍で、0.1mmの桁になる”

シースの幅がデバイ長の数個分になるのは、プラズマが電荷の中性から大きく外れてよい長さの尺度がデバイ長だからです5。イオンシースの厚さはデバイ長の数倍程度で、Ar⁺ではデバイ長の3.5倍です2。電子温度が高いほど、また電子密度が低いほど厚くなります。

デバイ長は、電子温度1eV、電子密度1×10¹⁶/m³のとき7.4×10⁻⁵mです1。この値にAr⁺の3.5倍を当てはめると、シースの厚さは約2.6×10⁻⁴mで、桁としては0.1mmのあたりです。ウェーハの上のパターンは数nmから数十nmなので、両者の値から計算すると、イオンはパターンの寸法より4桁ほど長い距離を加速されてから飛び込んできます。

シース電圧は、バイアスと圧力と電極の面積比で動く

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基板がブロッキングコンデンサによってフローティングの状態にあると、電子電流とイオン電流が等しくなる電位で平衡し、基板の電位に負の直流成分が生じます2。これがセルフバイアスです。プラズマの電位とセルフバイアスの和がシースへ掛かり、基板はこの電圧で加速されたイオンの衝撃を受けます。

圧力もシース電圧を左右します。高周波電力が一定のとき、圧力の低下とともに電子温度が上がって密度が減るため、シースの厚さが増えて容量が減り、シース電圧は圧力の減少とともに単調に増大します。これがエッチングの異方性とレートに密接に関係します。圧力を1つ動かすと、密度も電子温度もシース電圧もいっしょに動きます。

電極の面積比も効きます。両方の電極を流れるイオン電流密度が等しく、シース中の衝突を無視できる場合、2つの電極に掛かる電圧の比は面積比の4乗になります。小さい電極である基板側に大きい電圧が掛かり、そのぶん基板がイオンの衝撃を受けます。この関係に当てはめると、基板側の面積が対向電極の半分なら、基板側のシース電圧は2の4乗で16倍です。

電極の面積比とシース電圧
対向電極(面積2)基板側の電極(面積1)プラズマシースシース116対向基板側シース電圧の比
シース中の衝突を無視できる場合、電圧の比は面積比の4乗なので、基板側の面積が半分なら、基板側のシース電圧は16倍になります。小さい電極ほど強いイオンの衝撃を受けます。

2周波方式は、プラズマを作る電源とシースを動かす電源を分ける

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圧力を動かすと密度とシース電圧がいっしょに動くので、つまみを独立させる工夫が2周波方式です。プラズマ生成用の高周波電源(通常13.56MHz)とは別に、基板へバイアス専用の高周波電源(10MHz以下)を持たせてイオンシースを制御する方式が実用化されています。アルバックは、2枚の電極基板それぞれに異なる高周波電源を備えたDual frequency CCPを、採用する放電方式の1つにしています7。装置はRF電源・整合器を2系統持ち、片方でプラズマを、もう片方でシースを担当させる形になります。

量産の装置で見えるのは、発光とVppくらい

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プラズマに挿す電極は、1920年代に開発したアーヴィング・ラングミュアにちなんでラングミュアプローブと呼ばれ、バイアスを掛けると周りのシースを通して電流を引き込みます5。印加する電圧とプローブを流れる電流の関係を調べると、電子密度・電子温度・プラズマ電位が得られます1。絶縁体の壁をプラズマに接触させたときの表面電位は浮遊電位と呼ばれ、そこでは壁へ流れ込む正味の電流が0になります。シースを見積もる材料は、この3つの量です。

量産の装置では、そこへ手が届く場面が限られます。2016年時点で、こうした計測技術のほとんどは、不純物の混入やプラズマの変動、異常放電といった安定性の課題やコストのために、量産設備での採用がごく一部にとどまっていました4。実際に得られるのは、加工の終点検出に使う発光分光分析と、電源からの高周波信号のピーク値であるVppなど、限られた情報です。現場でシースを推し量る代理の指標がVppになるのは、この事情によります。

イオンのエネルギーを上げるほど、下地に欠陥が残る

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イオンを強く加速すれば、速く深く掘れます。差し出すものは下地です。Si電極の加工でイオンのエネルギーが300eVだとすると、HBr/O₂プラズマ中で生成されたHイオンの侵入深さは10nm程度と計算されます4。下地のゲート絶縁膜が1.4nmの場合、この侵入深さは膜厚よりずっと深い値です。選択比が100以上得られて一見良好に加工できていても、イオン侵入が原因の欠陥は基板の中に残ります。

イオンの侵入と、その後のSiリセス
ゲート絶縁膜SiHイオン 300eV欠陥約10nm1.4nm洗浄のあとゲート電極Siリセス
300eVのHイオンは10nm程度まで入り、1.4nmのゲート絶縁膜を越えて下のSiに欠陥を残します。傷んだSiは洗浄で削れ、Siリセスになります。

残った傷は、後の工程で形になって出てきます。ダメージを受けたゲート酸化膜の直下のSiは容易に酸化するため、加工後の後処理洗浄で削れ、Siリセスと呼ばれる形状異常が発生します。イオンがゲート酸化膜を通り抜ける手前で止まる値までイオンのエネルギーを下げると、下地のSiに発生するダメージが抑えられたという実験例もあります。こうしたプラズマ誘起ダメージは形だけでなく電気特性にも出て、Sandia国立研究所のShulらがGaNのダイオードを削った実験では、逆方向のリーク電流がイオンのエネルギーやチャンバーの圧力と強く関係しました。

シースとは何ですか?

プラズマと固体が接するところにできる、電子が減ってイオンが余る薄い層です。プラズマと壁の間の電位の落差はほとんどこの層に集まり、通り抜けるイオンを壁へ向けて加速します。

シースはなぜできるのですか?

電子とイオンの速さの差が原因です。軽くて速い電子が先に壁へ流れ込んで壁の電位を負にし、電子の流れとイオンの流れが等しくなる電位で落ち着きます。その電位がイオンを加速し、電子を減速または反射します。

シースは何の役に立ちますか?

イオンに垂直な向きとエネルギーを与えます。この垂直性とエネルギーを制御することで、パターンマスクどおりに垂直へ加工する異方性加工が実現します。

シースの厚さはどのくらいですか?

イオンシースの厚さはデバイ長の数倍程度で、Ar⁺ではデバイ長の3.5倍です。電子温度1eV・電子密度1×10¹⁶/m³のときデバイ長は7.4×10⁻⁵mなので、シースは0.1mmの桁になります。

シースの厚さは何で増えますか?

電子温度が高いほど、また電子密度が低いほど厚くなります。高周波電力が一定なら、圧力の低下とともに電子温度が上がって密度が減るため、シースが厚くなり、シース電圧は単調に増大します。

2周波方式とは何ですか?

プラズマを作る電源とイオンを加速する電源を分ける方式です。プラズマ生成用の高周波電源(通常13.56MHz)とは別に、基板へバイアス専用の高周波電源(10MHz以下)を持たせてイオンシースを制御します。アルバックは、2枚の電極それぞれに異なる高周波電源を備えたDual frequency CCPを、採用する放電方式の1つにしています。

イオンのエネルギーを上げると何を差し出しますか?

下地へのダメージです。300eVのHイオンの侵入深さは10nm程度と計算され、下地のゲート絶縁膜が1.4nmなら膜厚よりずっと深くなります。選択比が100以上得られていても、イオン侵入が原因の欠陥は基板の中に残ります。

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