ノッチングとは
ノッチングとは、エッチングが下地の絶縁膜へ届いた後に、溝や柱の足元だけが横へ削れて食い込む形状異常です。 量は深さよりも、下地に届いてからの時間で変わります。下地に届く時刻は面内でずれ、早く届いた場所ほど長く帯電にさらされるので、深い溝ほど抑えるのが難しくなります。抑える手段は、抜け残りや選択比、側壁の粗さとの引き換えになります。
下地が絶縁膜になると、溝底の正電荷が抜けずにイオンを曲げる
Section titled “下地が絶縁膜になると、溝底の正電荷が抜けずにイオンを曲げる”同じレシピで同じ溝を掘っていても、下地がシリコンや金属のうちは側壁がまっすぐに保たれます。下地の酸化膜が露出したところから、足元が横に削れ始めます。境目で変わったのは、溝底に入った正電荷の逃げ場です。
電子シェーディング効果は、イオンが試料に垂直に入射するのに対して電子はランダムな方向から入射するため、レジストパターンに遮られる狭いスペースの底部で入射電子量が減る現象です1。その結果、レジスト側壁は負に、高アスペクト比パターンの底部は正に帯電します。シースで加速されたイオンは垂直に入り、電子はあらゆる向きから入るので、開口が狭くなるほど底に届く電子だけが減ります。
底にたまった正電荷は、下地が導体ならそのまま下へ抜けますが、絶縁膜が露出すると抜け道がなくなります。裏面から掘ってエッチストップ層に届いたところでエッチングを終える場合には、シリコンとエッチストップ層の界面でノッチが出ます2。SEAJのロードマップは、原因をゲートエッチングやメタルエッチングの電子シェーディング効果と同じ現象と考えています。高密度プラズマの電子は電子温度が高いため底部に入りにくく、底部のエッチストップ層に正イオンが多く存在し、そこにたまった正電荷がパターン底部でイオンを曲げてノッチを作ります。
California Institute of Technologyのグループは、高密度プラズマでのパターン依存帯電をモンテカルロ法で計算し、絶縁物の表面が保てる最大の電界をパラメータにしました。しきい電界が0.5 MV/cm、つまり50 V/µmと低くても大きなノッチングが起きる3という結果で、良い絶縁物の表面なら妥当な値だとしています。同グループは、この結果がパターン依存帯電をノッチングの主因とする見方を支えるとしています。
同じ帯電が、形ではノッチ、電気ではゲート絶縁膜の破壊になる
Section titled “同じ帯電が、形ではノッチ、電気ではゲート絶縁膜の破壊になる”チャージダメージは、ゲート酸化膜を破壊するか信頼性を下げる電気的な損傷で4、プラズマの不均一や電子シェーディング効果によって起きます。電子シェーディングダメージも、荷電粒子の蓄積によってゲート絶縁膜が静電破壊を起こすこと1を指します。同じ帯電が、形状ではノッチ、電気的には絶縁膜の破壊として現れます。
形の崩れは、そのまま寸法に移ります。特定の膜厚のゲートでは、側壁の角度が89度になると物理的なゲート長が7パーセント増えます4。1度の傾きが寸法の数パーセントに化けるので、足元が数ナノメートル横へ食われた分は、そのまま素子ごとのばらつきへ移ります。
量は下地に届いてからの時間で決まり、深掘りで最初に問題になる
Section titled “量は下地に届いてからの時間で決まり、深掘りで最初に問題になる”条件は2つ重なったときにそろいます。1つは開口が狭いこと、もう1つは下地が絶縁膜であることです。電子シェーディング効果が狭いスペースパターンの現象であることが前者に、ノッチがエッチストップ層の界面で出ることが後者に対応します。
そのためノッチングは、アスペクト比の高い深掘りで最初に問題になります。住友精密工業は、SOIウエハの加工では酸化膜界面のノッチが課題になるとしています。シリコン貫通ビアのエッチングの対象は、ビア径1〜100マイクロメートル、深さ10〜100マイクロメートル以上、アスペクト比は高い場合で10以上で2、高いエッチング速度と高い選択性と異方性が求められます。深く掘るほど下地に届くまでの時間の面内ばらつきが広がるので、面内のどこかで膜が残る抜け残りをなくすためにオーバーエッチを長くとる必要があり、帯電の時間も延びます。いちばん遅い場所が下地に届く時刻を100%とすると、30%のオーバーエッチでは130%まで掘り続けることになり、早く届いた場所ほど露出した酸化膜が長く帯電にさらされます。
追う量は、テーパ角とアンダーカット量
Section titled “追う量は、テーパ角とアンダーカット量”住友精密工業は、幅3マイクロメートル・深さ100マイクロメートルの条件で30パーセントのオーバーエッチを加えても、酸化膜界面のサイドエッチングを生じずにシリコンを深掘りできるとしています5。抜け残りをなくすためのオーバーエッチを3割加えても、足元の形が保たれるということです。幅は電子の届きにくさ、深さは面内ばらつきの幅、オーバーエッチ量は帯電の持続時間に対応し、3つともこの現象に関係します。同社はパラメータランピング技術によって、幅5マイクロメートル・深さ200マイクロメートル、アスペクト比40の加工でも、角度のずれや蛇行を抑えた深掘りができるとしています。
シリコン貫通ビアエッチング装置の要求性能は、レジストに対する選択比100以上、テーパ角制御90度プラスマイナス1度、アンダーカットの最小化です2。開発レベルのエッチング速度は30から50マイクロメートル毎分です。テーパ角もアンダーカット量も、断面観察で取る量です。住友精密工業は、200ミリメートルウェーハのエッジ3ミリメートルまで傾き0.1度以下を安定に再現すること、深さ40マイクロメートルで側壁粗さ16ナノメートルを維持することも示しています。
抑える手段は、オーバーエッチ量、バイアスの波形、電子温度
Section titled “抑える手段は、オーバーエッチ量、バイアスの波形、電子温度”1つ目はオーバーエッチ量です。短くすれば帯電の時間が縮みますが、面内の遅い場所で抜け残りが出ます。深掘りでは下地に届く時刻が場所ごとにずれるので、均一性の要求と両立しにくくなります。
2つ目は基板バイアスの与え方です。SEAJのロードマップは、エッチングレシピの最適化がキーで、パルス印加など基板バイアスの印加方法を工夫して対策されているとしています2。パルスプラズマ法は、高周波電源を数十ミリ秒でオンオフしてプラズマを作ることで平均の電子温度を下げる方法で6、ガス解離の制御と、帯電によるデバイスへのダメージの低減が検討されてきました。連続でかけるのをやめると、休止の間に電子温度が下がって電荷が緩和します。その代わり、バイアス電力の大きさだけでなく波形もレシピの変数になります。
3つ目は電子温度とプラズマ密度、つまりプラズマ源の選び方です。ゲートエッチングでは、低電子温度で中密度のプラズマが、電子シェーディング効果によるチャージングダメージを抑え、疎密の形状差やデュアルゲートのPチャネルとNチャネルの形状差も小さくできると期待されています。ゲート絶縁膜にhigh-k膜が入ると物理膜厚がSiON系より厚くなるので、チャージングダメージが再び顕著になる可能性があり、ダメージに敏感なジャストエッチング直前からオーバーエッチングにかけて、さらに低電子温度で中〜低密度のプラズマに向かうと予想されています。副作用は制御範囲です。低中密度プラズマで継続的に必要な改良点として、エッチングに必要なイオンエネルギーの制御範囲を広く保つことが挙げられています。
表面の側から電荷を逃がす考え方もあります。Caltechのグループは、絶縁物表面で電荷が散逸すると局所の帯電電位が下がり、溝底でイオンの軌道が曲がるのを防げるとしています3。同グループは、溝幅が狭くなればこの問題は消えるという見通しも示しています。
Bosch法を使うDRIEでは、別の課題も重なります。SF₆によるエッチングは等方性なので、スキャロップと呼ばれる段差が側壁に沿ってできることが課題で2、対策としてイオン量を制御できる機能の追加や、Bosch法に代わる低温プロセスが試みられています。ノッチを抑える操作は、選択比や側壁の粗さとのトレードオフになります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ノッチングとは何ですか?
エッチングが下地の絶縁膜に届いた後に、溝や柱の足元だけが横に削れて食い込む形状異常です。裏面からのエッチングがエッチストップ層に達する場合に、シリコンとエッチストップ層の界面でノッチが出ます。
なぜ下地に届いた瞬間から出るのですか?
溝底に入った正電荷の逃げ場がなくなるためです。高密度プラズマの電子は電子温度が高いため底部に入りにくく、底部のエッチストップ層に正イオンが多く存在し、その正電荷がパターン底部でイオンを曲げてノッチを作ります。
電子シェーディング効果とは何ですか?
イオンが試料に垂直に入射するのに対して電子はランダムな方向から入射するため、レジストパターンに遮られる狭いスペースの底部で入射電子量が減る現象です。その結果、レジスト側壁は負に、高アスペクト比パターンの底部は正に帯電します。
形が少し崩れるだけで、何が困るのですか?
ゲート加工で側壁の角度が89度になると、物理的なゲート長が7パーセント増えます。1度の傾きが寸法の数パーセントになるので、足元が横に削れた分はそのまま電気特性のばらつきになります。
ノッチングとチャージダメージは同じものですか?
原因は同じで、現れ方が違います。チャージダメージはゲート酸化膜を破壊するか信頼性を下げる電気的な損傷で、プラズマの不均一や電子シェーディング効果で起きます。ノッチングは、同じ帯電が形状に現れた結果です。
何を調整すると変わりますか?
対策として、エッチングレシピの最適化と、パルス印加など基板バイアスの印加方法の工夫があります。ゲートエッチングでは、低電子温度で中密度のプラズマが、電子シェーディング効果によるチャージングダメージを抑えるとされています。
どこまで抑えられていますか?
住友精密工業は、幅3マイクロメートル・深さ100マイクロメートルの条件で30パーセントのオーバーエッチを加えても、酸化膜界面のサイドエッチングを生じずにシリコンを深掘りできるとしています。SOIウエハの加工で課題になる、酸化膜界面のノッチを減らした結果です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ボーイングとは── 中腹が横へ広がる形状異常。位置はアスペクト比で決まる
- シースとは── イオンの向きを垂直にそろえる層。局所の帯電がこれを崩す
- バイアス電力とは── 大きさだけでなく波形で帯電の緩和が変わる
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- 1SEAJ:半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)seaj.or.jp ab
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- 3California Institute of Technology:高密度プラズマ中のパターン依存帯電とノッチングのモンテカルロ解析(論文記録)authors.library.caltech.edu ab
- 4電子情報通信学会:知識ベース 10群2編3章 半導体プロセス技術ieice-hbkb.org ab
- 5住友精密工業:MEMS∞ Si深掘り加工技術spp.co.jp ↩
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