選択比(エッチング)とは
選択比とは、削りたい層のエッチレートを、残したい層のエッチレートで割った比です。 値が大きいほど、狙った層だけを削って他を残せます。マスクに対する比はマスクがどれだけの厚みを要るかを、下地に対する比はどれだけ長く削り続けてよいかを決め、どちらも加工が深くなるほど高い値が要ります。公開値は0.83から500まで開くので、数字は膜の組み合わせ、装置、加工深さと組にして初めて意味を持ちます。
エッチングは削り切っても止まらないので、2つの比で守る
Section titled “エッチングは削り切っても止まらないので、2つの比で守る”選択比が要る理由は、エッチングが時間とともに進み続けることにあります。プラズマや薬液は、当たった材料を片端から削ります。狙った層を削り切ったあとも条件が続けば、その下の層を削り始め、マスクとして載せたレジストも削られます。
測るべき比は主に2つで、マスク(レジストやハードマスク)に対する比と、削り止めたい下地の層に対する比です。前者はマスクが最後まで持ちこたえるかを決め、後者は掘りすぎを止められるかを決めます。膜厚には面内でばらつきがあるため、最も厚い場所まで削り切るには平均より長く削る必要があり、この余裕分をオーバーエッチと呼びます。下地に対する選択比が高いほど、オーバーエッチを長く取っても下地の減りは許容の範囲に収まります。
「選択比」は割り算の結果である数値を指し、「選択性」は削り分けの性質そのものを指します。日本語の資料では、両者が近い場面で使われます。Oxford Instruments Plasma TechnologyがICP-RIEの利点の一つに挙げる「マスク材料や基板材料の選択性が高い」は1、性質の話です。
ウェットは薬液で、ドライはガスとイオンエネルギーで比を作る
Section titled “ウェットは薬液で、ドライはガスとイオンエネルギーで比を作る”ウェットエッチングは、薬液の選び方で材料ごとの溶けやすさの差を大きく取れるため、選択比を高くしやすい方式です。ドライエッチングはイオン衝撃が物理的に働くぶん材料差が付きにくく、ガス種と条件で選択比を作り込みます。
RIEで働く削れ方は、「化学エッチング-等方的で高速」「イオン誘起エッチング-異方的で中速」「物理エッチング-異方的で低速」の3つ2に分かれます。ガス種・圧力・電力を替えると、この3つのうちどれが強く働くかが移り、選択比の値も動きます。
プラズマ源の方式も選択比を左右します。Oxford Instruments Plasma Technologyは、ICP-RIEの設計目標に高いエッチレート、高い選択比、低ダメージを挙げ、RF発生器とICP発生器を分けることでイオンエネルギーとイオン密度を別々に制御できるとしています3。同社は基板側のDCバイアスを独立に制御してイオンエネルギーを決め、低いイオンエネルギーで選択比と損傷を制御するとしています。イオンエネルギーを低く保ったままプラズマ密度を上げられるため、物理的な削りを抑えつつ化学的な選択性を活かせます。
ALEはこの考え方をさらに進め、イオンのエネルギーを、改質層を取り除くには十分で下地を取り除くには不十分な範囲に保ちます。下地に対する選択性を、条件そのものが担保します。
公開値は0.83から500まで、およそ600倍開く
Section titled “公開値は0.83から500まで、およそ600倍開く”サムコは、自社装置での加工例ごとに4、装置名と加工条件を添えた実測値を公開しています。同じ「選択比」という語でも、材料の組み合わせによって値は0.83から500まで、およそ600倍の開きがあります。
- SiO2 / レジスト=0.83は、RIE装置によるSiO2のトレンチ加工5の例です。装置はRIE-10NR、SiO2のエッチングレートは18 nm/min、加工深さ540 nm、面内均一性±1%(edge 15 mm、ø6インチウエハ)です。サムコは、レジストとの選択比は0.8〜1.0で、レジスト側壁角度を維持したままトレンチを加工し、マイクロトレンチの発生は抑制しているとしています。
- SiC / SiO2=5以上は、SiCのトレンチエッチング6の例です。装置はRIE-800iPとRIE-800iPC、レートは450 nm/min以上、深さ2 μm、ø6インチ面内均一性±3%以下です。SiC MOSFETのトレンチゲート加工向けで、側面が平滑でサブトレンチレスのラウンド形状です。
- シリコン / レジスト=500以上は、高速シリコンディープエッチング装置 RIE-800iPB7の値です。サムコは「レジストとシリコンの選択比 1:500 以上でのエッチングが可能」とし、エッチレートを45 μm/min以上としています。Boschプロセス専用の装置です。
必要な選択比は、深さと許せる減り量の割り算で決まる
Section titled “必要な選択比は、深さと許せる減り量の割り算で決まる”必要な選択比は、掘りたい深さと、マスクや下地に許せる減り量の割り算で決まります。マスク側は「掘る深さ ÷ 選択比」がマスクの必要な厚みです。
SiO2 / レジスト=0.83の例に当てはめて計算すると、SiO2が18 nm/minで540 nm進むのに30分かかり、その間にレジストは約21.7 nm/minで約650 nm削れます。深さ540 nmの加工なら、レジストを1 μm前後載せておけば足ります。サムコはこの例で、時間管理により下地のSiをほとんど削らずにSiO2をエッチングできるとしています5。
同じ0.83のまま深さ27.3 μmを掘ると、レジストは33 μm要ります。サムコのSiO2の高速加工8の例は、幅50 μm・深さ27.3 μm・エッチング速度1 μm/min(装置RIE-800iP)で、マスクにCrを使っています。深く掘る加工で金属やSiO2のハードマスクを使うのは、レジストの厚みで賄える範囲をこの割り算が超えるためです。
下地側は向きが逆になります。膜厚のばらつきを吸収するオーバーエッチの時間だけ、下地も削れます。必要な選択比は「オーバーエッチで進む分の厚み ÷ 許せる下地の減り」です。500 nmの膜を30%のオーバーエッチで削るなら、追加で進む分は150 nm相当です。下地の減りを10 nmまでに抑えたいなら、必要な選択比は15以上になります。
この2つの割り算は、加工が深くなるほど厳しくなります。深さが10倍になれば、マスク側も下地側も10倍の比を要求します。高い選択比を求める場面が深掘りやトレンチ加工に集中するのは、この比例のためです。
公開値は、分子の向きと測った場所で読み方が変わる
Section titled “公開値は、分子の向きと測った場所で読み方が変わる”公開されている選択比には、装置名・膜の組み合わせ・レート・加工深さ・面内均一性の測定範囲が併記されます。RIE-800iPBの「1:500」はレジスト1に対してシリコンが500という意味で、シリコンが500倍速く削れます。同じ内容を「500:1」や「500」と書く資料もあります。
選択比のもとになるエッチレートは、膜を一様に付けたウエハで測るのが基本です。細く深い穴の底ではガスとイオンの入り方が異なるため、平らな膜での値と差が出ます。公開データが加工深さまで併記するのはこのためです。RIE-10NRの例が面内均一性±1%に添えた「edge 15 mm、ø6インチウエハ」は、ウエハの外周15 mmを除いた範囲での値を示します。外周をどこまで含めるかで、同じ加工でも数字は動きます。
比が小さいと、マスクは削り切られ、下地は薄い所から抜ける
Section titled “比が小さいと、マスクは削り切られ、下地は薄い所から抜ける”マスクに対する比が小さいとき、マスクは加工の途中で削り切られます。角から先に丸まるため、開口が広がってパターンの寸法が太ります。深く掘る加工ほど早く症状が出ます。マスクを厚くすれば時間は稼げますが、厚いマスクは細いパターンを保ちにくくなるため、比のほうを上げる手が要ります。
下地に対する比が小さいとき、膜厚の薄い場所から先に削り切り、下の層まで進みます。面内均一性±1%や±3%という数字は、ウエハのどこが先に抜けるかの幅にあたります。膜が薄い側に合わせて時間を短くすれば、厚い側に削り残しが出ます。両方を満たす時間の幅がオーバーエッチの余裕で、その幅を広げるのが下地に対する選択比です。
公開データが選択比と並べて記すマイクロトレンチの抑制やサブトレンチレスのラウンド形状は、溝の底や側面の形の崩れで、イオンの入り方に由来する別の症状です。選択比とは別枠で管理する項目にあたります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- エッチング(全体)の工程ページ── 工程分類と、この工程の公開求人
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”選択比とは何ですか?
削りたい層のエッチレートを、残したい層のエッチレートで割った比です。値が大きいほど狙った層だけを削って他を残せ、エッチングの条件設計ではエッチレートと並ぶ中心的な指標になります。
何に対する選択比を測りますか?
マスクとして使うレジストやハードマスクに対する比と、削り止めたい下地の層に対する比の2つです。前者はマスクが最後まで持ちこたえるかを、後者は掘りすぎを止められるかを決めます。
選択比が低いとどうなりますか?
マスクが先に削れてパターン幅が崩れるか、下地まで掘り進んで下の層を傷めます。膜厚のばらつきを見込んで長めに削るオーバーエッチの余裕も取れなくなります。
ドライとウェットで選択比はどう違いますか?
ウェットエッチングは薬液の選び方で材料ごとの溶けやすさの差を大きく取れるため、選択比を高くしやすい方式です。ドライエッチングはイオン衝撃が物理的に働くぶん材料差が付きにくく、ガス種と条件で選択比を作り込みます。
高い選択比はどう作りますか?
プラズマの密度とイオンのエネルギーを分けて制御する方式が使われます。Oxford Instruments Plasma Technologyは、ICP-RIEの設計目標に高いエッチレート、高い選択比、低ダメージを挙げ、基板側のDCバイアスを独立に制御してイオンエネルギーを低く保つことで選択比と損傷を制御するとしています。
ALEは選択比とどう関係しますか?
ALEは表面を改質する段と改質層だけを取り除く段に分け、それぞれを自己停止させます。イオンのエネルギーを、改質層を取り除くには十分で下地を取り除くには不十分な範囲に保つため、下地に対する選択性を条件そのものが担保します。
選択比の値はどのくらいですか?
材料の組み合わせと装置・条件で3桁の開きがあります。サムコのプロセスデータでは、SiO2とレジストの比が0.83(RIE-10NR、深さ540 nm)、SiCとSiO2の比が5以上(RIE-800iP、深さ2 μm)、レジストとシリコンの比が1:500以上(RIE-800iPB、Boschプロセス)です。
選択比が1を下回る条件もありますか?
あります。サムコのSiO2トレンチ加工ではSiO2とレジストの選択比が0.83で、レジストのほうが速く削れますが、深さが540 nmと浅いのでレジストの厚みで間に合います。深く掘る加工では、金属やSiO2のハードマスクへ替えて比を稼ぎます。
必要な選択比はどう見積もりますか?
掘る深さと、マスクや下地に許せる減り量の割り算です。マスク側は「掘る深さ ÷ 選択比」がマスクの必要な厚み、下地側は「オーバーエッチで進む分の厚み ÷ 許せる下地の減り」が必要な選択比で、どちらも加工が深いほど要求が厳しくなります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 主要メーカーのエッチング装置分類── メーカー別の装置分類
- エッチング工程── 工程としてのエッチングの全体像
9件を表示
- 1Oxford Instruments Plasma Technology:プラズマエッチングplasma.oxinst.jp ↩
- 2Oxford Instruments Plasma Technology:リアクティブイオンエッチング (RIE)plasma.oxinst.jp ↩
- 3Oxford Instruments Plasma Technology:ICP RIEplasma.oxinst.com ↩
- 4サムコ:プロセスデータsamco.co.jp ↩
- 5サムコ:RIE装置によるSiO2のトレンチ加工samco.co.jp ab
- 6サムコ:SiCのトレンチエッチングsamco.co.jp ↩
- 7サムコ:高速シリコンディープエッチング装置 RIE-800iPBsamco.co.jp ↩
- 8サムコ:SiO2の高速加工samco.co.jp ↩
- 9東京エレクトロン:用語集 Etchingtel.com