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インナースペーサとは

インナースペーサとは、ナノシートGAAで犠牲層のSiGeを横方向に数nm後退させ、そのくぼみに詰めた誘電体で、ゲートとソース・ドレインを内側から隔てる膜です。

ナノシートの側面には通常のサイドウォールスペーサが届かないため、シートのあいだでゲートとソース・ドレインが近づき、容量が増えます。一方で、くぼみを深くしすぎると抵抗が上がるので、深さを数nmの範囲で制御しなければなりません。

1枚の膜が、容量を下げる役とエッチストッパーの役を兼ねる

Section titled “1枚の膜が、容量を下げる役とエッチストッパーの役を兼ねる”

GAAのナノシートは、SiとSiGeを交互に積んだ膜から作ります。最後にSiGeだけを抜いてSiを浮かせ、その周囲をゲートで囲みます。SiGeが抜けた跡の隙間にはゲート金属が入るので、そのままではゲートがソース・ドレインのエピ層と直に向かい合います。

産総研の公開資料は、インナースペーサを作る理由を2つ1挙げています。1つはゲートとソース・ドレインの間の寄生容量の低減です。もう1つは、チャネルリリース時のSiGeエッチで、PMOSのソース・ドレインのSiGeを守るエッチストッパーとしての役です。

imecは、この工程をFinFETと異なる4つの主要工程の1つに数え、ゲートをソース・ドレインから隔てて容量を下げる追加の誘電体だとしたうえで、ナノシートのプロセスフローの中で最も複雑なプロセスモジュールにあたり2、高いエッチ選択比と精密な横方向エッチの制御を要するとしています。選択比は、狙う材料と下地材料のエッチ速度の比です。

横へ後退させて埋め、削り戻す4段階で作る

Section titled “横へ後退させて埋め、削り戻す4段階で作る”
くぼみを作って埋める4段階
積層の断面が露出SiGeだけ横に下げる深さは5nm未満誘電体を全面に付ける削ってくぼみに残すSi ナノシートSiGe 犠牲層インナースペーサナノシート工程で最も複雑なモジュール高い選択比と横方向エッチの精密な制御1枚で2つの役ゲートとソース・ドレインの容量を下げるチャネルリリースのエッチから守る
SiGeだけを横に後退させてくぼみを作り、誘電体を全面に付けてから全面を削り、くぼみの中だけに膜を残します。この膜が、容量を下げる役と、後工程のエッチングからソース・ドレインを守る役を兼ねます。

まずソース・ドレイン領域のフィンをエッチバックし、Si/SiGe積層の切り口を露出させます。次にゲート側壁の下で、積層の横方向にくぼみを作ります1。ここではSiGeだけが横へ後退します。続いてインナースペーサ膜を全面に堆積し、最後に全面をエッチバックして、くぼみの中だけに膜を残します。

サイドウォールスペーサと同じで、削り残しを寸法として使う考え方です。異なるのは、削る方向が横向きで、膜が残る場所が積層の内側だという点です。

深さの許容範囲は5nm未満で、浅ければ容量、深ければ抵抗が増える

Section titled “深さの許容範囲は5nm未満で、浅ければ容量、深ければ抵抗が増える”
くぼみの深さと代償
試作条件:200mm、室温のリモートプラズマ寄生容量が増えるAC特性が落ちる目標範囲エクステンション抵抗が上がる短チャネル特性も悪化小さい5nm 未満大きい深さくぼみエッチの結果層間の深さばらつき 5 ± 0.3 nm形状0.84(1が矩形)/Si損失 片側0.44 nmNF3流量を上げるとSiGe対Siの選択比は上がるSiGe対SiNの選択比は下がる
くぼみが浅いと容量が残り、深いと抵抗が上がります。許容される深さは5nm未満と狭く、エッチングのガス流量と電力で合わせ込みます。

復旦大学マイクロエレクトロニクス学院のグループが2024年に公開した論文は3、インナースペーサの深さと形状がデバイス性能を左右する2つの基準だとしたうえで、深さが小さいとゲートとソース・ドレインの間の寄生容量が高くなってAC特性を落とし、大きいとエクステンション抵抗が高くなって短チャネル特性も悪化するとしています。同論文は、最適な深さは一般に5nm未満と考えられているため、インナースペーサ用のエッチングでは選択比よりもエッチレートの制御が重要になるとしています。チャネルリリースは逆で、SiGeを完全に除去するために高い選択比が必要です。同じSiGeを削る工程でも、求められる性質が反対になります。

熱、プラズマ、ウェットはどれも問題を抱え、リモートプラズマの化学エッチが残る

Section titled “熱、プラズマ、ウェットはどれも問題を抱え、リモートプラズマの化学エッチが残る”

SiGeをSiに対して選択的に削る方法のうち、ガス状HClによる熱ドライエッチは600〜760℃が必要で、余分なサーマルバジェットがかかります。RIEから発展したプラズマドライエッチは、Siナノシートの表面にプラズマダメージを与え、電気特性を大きく劣化させます。チャージングダメージと同じ系統の問題です。ウェットエッチは、毛細管力でナノシートが倒れるおそれがあり、SiGeのエッチ前面が三日月形になるため、くぼみのエッチングでは物理的な分離が不十分になります。

残るのが、リモートプラズマ源を使う純粋な化学エッチングです。中性の活性種だけで削るので等方性があり、横方向のくぼみを作れます。ただし、CF4系の報告は最良でも選択比60程度で、上から下へ削れ方が偏るため、この論文はインナースペーサ用には採用していません。

酸化とエッチを交互に繰り返し、4つの条件で合わせ込む

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この論文が提案するのは、リモートO2/Arプラズマによる酸化ステップと、リモートNF3/Arプラズマによるエッチステップを交互に繰り返すサイクリック方式です。200mmチャンバ、室温という条件で、熱バジェットの追加を避けています。酸化ステップを挟むと、Si・SiN・SiGeの表面に酸化層が育って後続のエッチが抑えられるため、直接エッチに比べてレートは下がり、選択比は上がります。ALEやALDと同じ、表面を作り替えてから削る組み立て方です。

調整したのは、NF3流量、Ar流量、チャンバー圧力、RPS電力の4つです。NF3流量を上げると、SiGeのエッチレートとSiGe対Siの選択比は上がり、SiGe対SiNの選択比は下がります。インナースペーサの膜はSiN系なので、この逆向きの変化をレシピ選びで考慮する必要があります。同グループの試作では、次の値が出ています。

  • くぼみのエッチに使ったレシピ1(NF3/Ar = 10/800 sccm、RPS 2000W)は、1サイクルあたり0.98nmのSiGeエッチレートを示しました。
  • そのレシピで、層間のくぼみ深さのばらつきは5±0.3nmに収まり、SiGeのエッチ前面はほぼ矩形(形状指標0.84)、Siの損失は片側0.44nmでした。
  • チャネルリリースに使ったレシピ4(NF3/Ar = 30/300 sccm、RPS 2300W)は、幅30nmから80nmまでの複数幅のナノシートを、Siの損失を抑えてリリースしています。
  • パターン付きウェーハでは選択比が下がりました。レシピ2の5サイクルでSi損失0.47nm・選択比29.5、レシピ4の2サイクルでSi損失0.52nm・選択比41.5で、いずれもブランケットウェーハでの値を大きく下回りました。
  • 膜の全面エッチバックにはNF3/O2/Arを使います。O2/NF3比を上げるとSiN対Siの選択比は急に上がり、1.0まで来ると頭打ちになって、SiN表面のラフネスが急に増えます。最適はO2/NF3 = 0.5で、選択比5.4、ラフネス0.19nmでした。

ブランケットとパターン付きで選択比が2倍近く開く点は、レシピを実デバイスへ移すときにそのまま響きます。断面はTEMで測ることになります。

プラズマを使わないガスケミカルエッチ装置と、300mmの共用ライン

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東京エレクトロンは、Certasシリーズ4を洗浄液を用いずに削るハイスループット型のガスケミカルエッチング装置とし、プラズマを使わずに削る点、各種酸化膜エッチでのユニークな選択比、ハイアスペクトな3次元構造の選択エッチング、高精細なリセスへの対応を特長に挙げています。リセスは、目標の層だけを一定量だけ後退させる工程です。

産総研は2025年11月、GAA構造トランジスタの試作に必要な要素プロセスを300mmの共用パイロットラインで確立した5と発表しました。同リリースは、Si/SiGeのエッチについて、フィンへ垂直に加工する工程では深さ方向の異方性が、積層フィンからSiGe層を除去する工程では側壁方向からのエッチを可能とする等方性とSiGeのみを削る材料選択性が求められるとしています。ALDについては、1nm以下の膜厚制御性と、ナノシート間の隙間や側壁にも均一に成膜が届く点を挙げています。産総研は、GAAが2nm世代より最先端集積回路へ本格導入されるとしています。

ストッパーとして働かなければ、エッチがソース・ドレインまで届く

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ストッパーとして働かなければ、チャネルリリースのSiGeエッチングがPMOSのソース・ドレインのエピまで届きます。imecは、チャネルリリースではナノシート同士がくっつくスティクションの制御も必要だとしています。フォークシートでは、このインナースペーサ工程が変更点の1つになります。

隙間そのものの寸法も響きます。imecは、上下のナノシートの間隔を13nmから7nmへ縮めるとAC性能が10%改善したという2018年の報告を挙げ、そこを詰めるための金属の選び方を課題としています。インナースペーサは、この狭い隙間の端に、5nm未満の精度で詰め物をする工程です。

容量と保護を得るかわりに、5nm未満の合わせ込みを背負う

Section titled “容量と保護を得るかわりに、5nm未満の合わせ込みを背負う”

インナースペーサは容量を下げ、チャネルリリース時にソース・ドレインを守る代わりに、工程を複雑にします。深さは5nm未満の狭い範囲に収める必要があり、ブランケットとパターン付きで2倍近く違う選択比を実デバイスで合わせ込む手間もかかります。ゲートピッチを詰めるほど、この許容範囲は狭くなります。

インナースペーサとは何ですか?

ナノシートGAAで、犠牲層のSiGeを横方向へ数nm後退させて作ったくぼみに詰める誘電体です。ゲートとソース・ドレインを内側から隔てます。

何のために入れるのですか?

産総研の公開資料は2つ挙げています。1つはゲートとソース・ドレインの間の寄生容量の低減です。もう1つは、チャネルリリースでSiGeをエッチする際に、PMOSのソース・ドレインのSiGeを守るエッチストッパーとしての役です。

FinFETにも入りますか?

ナノシート特有の工程です。imecは、ナノシート構造がFinFETと異なる4つの主要工程の1つとしてインナースペーサを挙げ、ナノシートのプロセスフローの中で最も複雑なプロセスモジュールだとしています。

どうやって作るのですか?

4手です。ソース・ドレイン領域のフィンをエッチバックし、ゲート側壁の下でSiGeだけを横方向へ後退させてくぼみを作り、インナースペーサ膜を全面に堆積し、全面をエッチバックしてくぼみの中だけに膜を残します。

深さはどのくらいですか?

復旦大学のグループが2024年に公開した論文は、最適な深さは一般に5nm未満と考えられているとしています。試作では、層ごとのくぼみ深さのばらつきが5±0.3nmに収まりました。

深さが小さいときと大きいときで、何が起きますか?

浅いとゲートとソース・ドレインのあいだの寄生容量が大きくなってAC特性が落ち、深いとエクステンション抵抗が高くなって短チャネル特性も悪くなります。

ウェットエッチでも作れますか?

ウェットエッチでは、毛細管力でナノシートが倒れるおそれがあり、SiGeのエッチ前面が三日月形になるため、物理的な分離が不十分になります。

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