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熱バジェット(熱予算)とは

熱バジェットとは、ウェーハがそれまでに受けた熱の総量を指す考え方です。 温度と時間の組み合わせで影響し、工程順を通して累積します。予算と呼ばれるのは、使える総量に上限があるからです。注入したドーパントがどれだけ拡散するかは、その後のサーマルバジェットで決まり、拡散を抑えるにはサーマルバジェットを少なくする必要があります1。工程順が進むほど後の工程に許される熱は減り、削った分の代償は汚染、膜質、生産性へ回ります。

先に作った構造ほど、後の熱で寸法が動く

Section titled “先に作った構造ほど、後の熱で寸法が動く”

半導体の製造は、下の層から順に構造を作り込んでいきます。ある構造を作ったあとで大きな熱を与えると、その構造の中の原子が動き、寸法が設計値からずれます。上限を超えたときに検出されるのも、この寸法のずれです。ドーパントが広がって接合が深くなり、金属とシリコンの反応が進みすぎ、膜の応力が変わります。

工程順に減る残り
素子形成注入・活性化配線形成配線後の成膜熱酸化・拡散炉RTP・レーザ金属の温度が天井PECVDなど低温残っている熱バジェットそれまでに使った分
熱バジェットは工程順に使われ、後の段ほど残りが細ります。前半では高温の炉が使えますが、配線を作り込んだあとは金属が動く温度が天井になり、配線後の成膜では低温の手段しか選べません。

前半の素子形成では熱酸化や拡散の高温炉が使えます。活性化ではRTPやレーザアニールで短時間の高温を与えます。配線を作り込んだあとは、金属が動く温度に上限が生まれ、配線後の成膜ではPECVDのような低温の手段だけが残ります。工程順を設計するときに熱バジェットを先に配分しておかないと、後半の工程が使える手段を失います。

温度と時間は、拡散長√(Dt)の中で交換できる

Section titled “温度と時間は、拡散長√(Dt)の中で交換できる”

ウェハプロセスの熱処理工程の総和は、活性化アニール、酸化、CVDなど熱が加わる工程の処理温度と処理時間で決まります1。影響の大きさは温度と時間の両方で決まり、高温を短く与えるか低温を長く与えるかで、同じ影響が出る場合があります。そのため管理は、温度の上限と保持時間の両方を条件に含めます。

同じ拡散長になる温度と時間
低温・長時間高温・短時間同じ拡散長 Lより長い拡散長長い短い時間温度 →
温度を上げるとDが大きくなるので、同じ拡散長Lには短い時間で届きます。低温・長時間と高温・短時間が同じ曲線に乗り、曲線をまたいで上へ行くほど熱バジェットを多く使います。

積み上がり方は、拡散長として書けます。拡散係数DDは温度の関数で、拡散する粒子と物質によって決まり、拡散長LLはDt\sqrt{Dt}で表されます2。ttは熱処理の時間です。温度を上げるとDDが大きくなり、時間を伸ばすとttが増えるため、同じ拡散長へ2通りの経路で届きます。これが「温度と時間の積」と呼ばれる中身です。高温でも処理時間が短いとサーマルバジェットは小さく、比較的低温でも処理時間が長いと大きくなるので1、温度と時間のトータルで考える必要があります。

濃度には天井があり、拡散には近道がある

Section titled “濃度には天井があり、拡散には近道がある”

固溶度は物質中に許容される不純物濃度で、温度によって決まります3。固溶度を超えて導入された原子は格子間へ析出します。活性化率はこの天井で止まるため、温度を上げ続けた分は拡散の側だけへ回ります。

拡散は、見積もりより速く進むことがあります。酸化やシリサイド化によって格子間シリコン原子が過剰に供給されると、ドーパントが過剰シリコンとペアを組んで通常より速く拡散します4。イオン注入では、格子間シリコンからなる{311}欠陥との相互作用による異常拡散を過渡増速拡散(TED)と呼びます。温度と時間だけで組んだバジェットの見積もりは、外部からの格子間原子の供給で崩れます。酸化やサリサイドの直後の工程では特に注意します。

世代が進むたびに、接合深さとともに上限が下がる

Section titled “世代が進むたびに、接合深さとともに上限が下がる”

IBMのR. Denardは1974年に、スケーリング係数をkkとし、ゲート長やゲート酸化膜厚といった物理パラメータを1/k1/kにすると速度が1/k1/kになり、消費電力が1/k1/kの2乗になるというMOSFETの微細化ルールを提唱しました5。イオン注入に関連する項目では、接合深さXjX_\mathrm{j}が1/k1/k、基板不純物濃度がkk倍になります。

接合を詰めると同じ拡散が重くなる
今の世代次の世代(k=2)XjXj/kLL表面表面注入した層後の熱で広がる分基板
接合深さがXjからXj/kへ縮んでも、同じ熱が生む拡散長Lは変わりません。そのため次の世代では、同じ熱処理がXjに対して大きな比率を占めます。

接合深さを1/k1/kへ詰める要求が、そのまま熱バジェットの上限を下げます。同じ熱処理が生む拡散長は世代で変わらないので、微細化が進むほど同じ量の拡散が相対的に大きな誤差になり、以前は許された熱処理が使えなくなります。k=2k=2に当てはめると、同じ拡散長がXjX_\mathrm{j}に対して占める比率は2倍になります。浅い接合を作るには、イオン注入エネルギーの低加速化に加えて、注入後の熱処理による拡散を抑える必要があります6。接合深さを小さくすると抵抗が上昇する副作用があるため、チャネル端のみに形成するエクステンション構造が用いられます。

上限は材料の側からも来ます。配線を作り込んだあとは金属が動く温度が天井になり、低誘電率膜(Low-k)の熱による劣化と、エレクトロマイグレーションを招く微細構造の変化が加わります。工程順の後ろへ行くほど、温度の天井は材料側から決まります。

節約は、温度を下げるか時間を削るかの2通り

Section titled “節約は、温度を下げるか時間を削るかの2通り”

配線工程のあとの成膜では、低温で成膜できる方式を選びます。PECVD(プラズマ支援CVD)は、低い基板温度で多様な膜種を成膜できる確立した手法です7。

活性化のように高温が要る工程では、時間で節約します。赤外線ランプアニール装置は枚葉式の加熱装置で、数十秒で1,000℃という急速加熱ができ8、業界ではこれをRTPと呼びます。RTPの利点は、厚さ10nm以下の超薄型シリコン酸化膜を作れる点にあります。フラッシュランプアニール装置は、カメラのフラッシュと同じ原理の光源で100万分の数十秒で瞬間的にウェーハを高温へ上げるため、数nmレベルの薄膜を形成できます。一瞬の光で処理するのでウェーハの表面部分だけを加熱でき、加熱後に常温へ戻すのも速くなります。分から秒、秒からミリ秒へ時間の桁を下げるほど、同じ最高温度でも累積量は小さくなります(RTA(急速熱処理)、レーザアニール)。

装置側でも温度域を分けて持ちます。KOKUSAI ELECTRICは低温と高温の両方のアニール技術に対応した装置を提供しています9。同社は、低温環境での膜質改善への需要が拡大しているとし、枚葉トリートメント装置MARORAが独自のMMT方式で約1eVの低電子温度のプラズマを効率良く作り、従来モデルの最大2倍の生産性を実現するとしています。東京エレクトロンは、TELINDYシリーズ10のTELINDY PLUS IRadがプラズマ源を搭載して熱ALDの限界を超えた低温化を提供し、極低温ALD-SiNと極低温ALD-SiO₂に対応するとしています。高温側の端では、ジェイテクトサーモシステムのSiC向けの活性化アニール装置11が常用温度1900℃、ゲート絶縁膜形成用の酸窒化装置が常用温度1400℃です。

熱を削った代償は、汚染・膜質・生産性へ回る

Section titled “熱を削った代償は、汚染・膜質・生産性へ回る”

1つ目は金属汚染です。基板内へ入った重金属は、ゲート酸化膜に取り込まれて信頼性を劣化させたり、結晶欠陥を作って接合のリーク電流を増やしたりします。これを捕まえる技術がゲッタリングです12。デバイスを作る段階の熱処理温度が下がって金属の拡散長が短くなると、ゲッタリング効果が弱まります。日新イオン機器は、この課題に対応するため、デバイスを作る領域の近くにゲッタリング領域を設ける近接ゲッタリングが注目されているとしています。熱を削ると、汚染を裏面や基板内部の捕獲点へ運ぶ働きも同時に弱まります。

2つ目は膜質です。低温で積んだ膜は不純物と欠陥を抱えたままになるため、MARORAのようなトリートメントによる膜質改善の工程が後ろに増えます。バジェットを削った先で、工程数と装置台数が増える構図です。

3つ目は面内の再現性と生産性です。時間を削るほど昇降温のレートが上がり、面内の温度差が電気特性のばらつきとして出ます。表面だけを加熱するミリ秒級の手段は枚葉のため、TELINDY PLUSの125枚仕様のような、まとめて流す拡散炉の枚数を手放します。温度を下げればゲッタリングと膜質で払い、時間を削れば面内差と枚数で払います。どの打ち手を選ぶかは、残りのバジェットと歩留まりへの影響の大きさの比較になります。

熱バジェットとは何ですか?

ウェーハがそれまでに受けた熱の総量を指す考え方で、活性化アニール、酸化、CVDなど熱が加わる工程の温度と時間で決まります。高温を短く与えるか低温を長く与えるかで同じ影響が出る場合があり、工程順を通して累積します。

なぜ予算と呼ぶのですか?

使える総量に上限があるためです。ある構造を作り込んだあとで大きな熱を与えるとその構造が動いて壊れるので、工程順が進むほど後の工程に許される熱は減り、使った分だけ選択肢が減ります。

熱バジェットを超えると何が起きますか?

作り込んだ寸法が動きます。ドーパントが広がって接合が深くなり、金属とシリコンの反応が進みすぎ、膜の応力が変わり、いずれも設計値からのずれとして検出されます。

微細化で厳しくなるのはなぜですか?

許される寸法のずれが小さくなるためです。接合の深さや配線の幅が小さくなるほど、同じ量の拡散が相対的に大きな誤差になり、同じ熱処理でも世代が進むと許されなくなります。

どうやって節約しますか?

温度を下げるか、時間を短くします。配線工程のあとの成膜では低い基板温度で多様な膜を成膜できるPECVDのような低温方式を選び、活性化にはRTPやレーザアニールで短時間の高温を使います。

装置側の対応は何ですか?

低温と高温を分けて持つことです。KOKUSAI ELECTRICは、低温と高温の両方のアニール技術に対応した装置を提供しており、工程順に応じて温度域を選べる構成が要ります。

温度と時間はどう積み上がるのですか?

拡散長で積み上がります。拡散係数Dは温度の関数で、拡散長Lは√(Dt)で表され、tは熱処理の時間です。高温でも時間が短ければサーマルバジェットは小さく、比較的低温でも時間が長ければ大きくなるため、温度と時間のトータルで考える必要があります。

熱を入れすぎると濃度はどうなりますか?

入る量に天井があります。固溶度は物質中に許容される不純物濃度で温度によって決まり、固溶度を超えて導入された原子は格子間へ析出します。活性化率はこの天井で止まるため、温度を上げ続けても電気的に働く濃度は天井のままです。

予想より拡散が速い場合がありますか?

あります。酸化やシリサイド化で格子間シリコン原子が過剰に供給されると、ドーパントが過剰シリコンとペアを組んで通常より速く拡散します。イオン注入では、格子間シリコンからなる{311}欠陥との相互作用でドーパントが異常拡散する現象を過渡増速拡散(TED)と呼びます。

世代が進むと数字はどう変わりますか?

IBMのR. Denardが1974年に提唱したMOSFETの微細化ルールでは、スケーリング係数をkとし、ゲート長やゲート酸化膜厚を1/kにすると速度が1/kになり、消費電力が1/kの2乗になります。イオン注入に関連する項目では接合深さXjが1/k、基板不純物濃度がk倍になり、接合を1/kへ詰める要求がそのまま熱バジェットの上限を下げます。

低温化の代償は何ですか?

金属汚染を捕まえる働きが弱まります。デバイスを作る段階の熱処理温度が下がって金属の拡散長が短くなるとゲッタリング効果が弱まり、対応としてデバイスを作る領域の近くにゲッタリング領域を設ける近接ゲッタリングが注目されています。

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    KOKUSAI ELECTRIC:製品kokusai-electric.com ↩
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