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マイクロ波アニールとは

マイクロ波アニールとは、マイクロ波を半導体に吸収させて加熱し、イオン注入で非晶質になった層の再結晶化とドーパントの活性化を低い温度で進める熱処理です。 研究では500〜550℃未満で加熱しており、従来の熱処理で同じ結果を得るのに要る温度よりずっと低い温度で、活性化の進んだ接合ができると報告されています。TSMCの特許によると、非晶質化注入でできた多数の欠陥はマイクロ波の吸収を増やし、欠陥の少ないエピタキシャル接合ではマイクロ波での活性化が難しくなることがあります。そのため非晶質化注入と組み合わせて使います。

その一方で、陽明交通大学などのグループは、活性化の反応速度と機構の詳細は未解明としています。固定周波数のマイクロ波では、チャンバー内の定在波がウェーハに温度ムラを生み、長く当てすぎると不活性化の兆候も出ます。

双極子が電界に合わせて向きを変え、吸収した分だけ発熱する

Section titled “双極子が電界に合わせて向きを変え、吸収した分だけ発熱する”

マイクロ波は波長1m〜1mm、周波数0.3〜300GHzの電磁波です。TSMCの特許US9064797B2によると1、誘電体などにマイクロ波を当てると、材料の中の双極子が電界の変化に合わせて向きを変え、その結果マイクロ波を吸収して熱が生じます。

吸収のしやすさは損失正接(tanδ)で表します。同特許では、損失正接が小さい材料はマイクロ波をほぼそのまま透過させ、10を超えるような極めて大きい材料はほとんどを反射し、0.01〜10程度の中間の材料が吸収するとしています。

損失正接と吸収
透過吸収して発熱反射0.0110損失正接 tanδ(対数)
TSMCの特許では、損失正接が小さい材料はマイクロ波をほぼ透過させ、10を超える材料はほとんどを反射し、0.01〜10程度の材料が吸収するとしています。

コーネル大学の研究は2、従来の熱処理と比べてマイクロ波アニールは格子をあまり温めずにドーパントと直接相互作用でき、ドーパントの分布の広がりと、不安定なドーパントと欠陥のクラスタの形成を防げるとしています。

非晶質化した層ほど吸収し、再成長と活性化が進む

Section titled “非晶質化した層ほど吸収し、再成長と活性化が進む”

同じ特許によると、マイクロ波の吸収が小さい構造もあります。たとえばエピタキシャル成長でつくった接合は欠陥が少なく、マイクロ波と相互作用する双極子が不足しがちで、マイクロ波での活性化が難しくなることがあります。そこで非晶質化注入(PAI)1を行うと、PAIでできた多数の欠陥によってマイクロ波の吸収が増え、ドーパントに関係する双極子も増えます。その状態でマイクロ波を当てると、層は固相エピタキシャル再成長を起こし、ドーパントが活性化します。特許に例として書かれた条件は、周波数がおよそ2〜10GHz、予備加熱の温度が300〜600℃、照射時間がおよそ40〜600秒です。マイクロ波を吸収する材料を半導体から一定の距離に置き、両方にマイクロ波を当てる構成も示されています。

非晶質化しなかった場合の結果も報告されています。Alfordらの2009年の論文では、ラザフォード後方散乱でマイクロ波加熱がボロンやヒ素の注入でできた損傷を減らすことを示し3、ヒ素を注入したSiはマイクロ波処理の後に結晶性をほぼすべて取り戻しました。その再結晶化の機構は固相エピタキシャル再成長でした。一方、ボロンを注入したSiは格子を非晶質化するほどの損傷にならず、損傷の再結晶化は起きたものの、ボロンの活性化は低いままでした。活性化の時間はシート抵抗で、活性化の程度はホール測定で調べています。

加熱は500〜550℃未満で、RTAの950℃超、ミリ秒アニールの1050℃超より低い

Section titled “加熱は500〜550℃未満で、RTAの950℃超、ミリ秒アニールの1050℃超より低い”

TSMCの特許は、ドーパント活性化の従来技術として、RTAは通常950℃より高い温度で、ミリ秒アニール(MSA)は1050℃より高い温度で行うとし、こうした高温は最近の一部の半導体デバイスには不向きな場合があるとしています。比較対象にはレーザアニールやスパイクアニールも挙がっています。

これに対して、陽明交通大学などのグループは2014年のレビュー論文で、As・P・BF2を注入したSi基板を550℃未満でマイクロ波アニールし、浅く高活性な接合をつくる能力をRTAと比べました4。この論文は、マイクロ波アニールでのドーパント活性化では基板温度が重要な要因になると指摘しています。TSMCの特許もマイクロ波を、高温を使わずにドーパントを活性化する手段になり得るとしており、熱処理全体のサーマルバジェットを抑える選択肢として研究されています。

活性化に使う温度
RTA950℃超ミリ秒アニール1050℃超マイクロ波 Si(As・P)500℃未満マイクロ波 Si(BF2も)550℃未満マイクロ波 Ge 2段階425℃→375℃約700℃ P-空孔クラスタが動く温度
マイクロ波アニールの加熱はSiで500〜550℃未満、Geで425℃と375℃の2段階で、RTAの950℃超やミリ秒アニールの1050℃超より低く、リンと空孔のクラスタの一部が動き出す700℃前後よりも下です。

低い温度にとどめる理由の1つが、ドーパントと欠陥のクラスタです。コーネル大学の研究によると、リンを固溶度より高くドープしたエピタキシャルSiでは、リンの多くが空孔に補償され、そのリンと空孔のクラスタの一部は700℃前後で動き出してドーピング効率をさらに下げます。同研究の試作装置は、クラスタの双極子モーメントとの相互作用で準安定なリンと空孔のクラスタを選んで活性化し、格子の温度は700℃より上に上げないとしています。

再成長は最初の50秒ほとんど進まず、600秒では不活性化の兆候が出る

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同じ陽明交通大学のグループの2011年の論文では、20keVのAsと15keVのPを1〜5×10¹⁵/cm²注入したSiを、500℃未満でマイクロ波アニールしました5。二次イオン質量分析、拡がり抵抗、四探針によるシート抵抗、断面TEMで、注入でできた非晶質層の再成長を追っています。

非晶質層の再成長
残っている非晶質層の厚さアニール時間50秒界面がほとんど動かない急速に再成長600秒不活性化の兆候
As・P注入Siの非晶質層は、最初の50秒未満はほとんど再成長せず、その後に急速に再成長しました。600秒のアニールでは不活性化の兆候が出ています。

非晶質層の再成長の速さは、時間とともに大きく変わりました。最初の50秒未満は非晶質と結晶の界面がほとんど動かず、それより長くなると急速に再成長しました。シート抵抗は再成長の完了後も下がり続けましたが、600秒のアニールではドーパントの不活性化を示す兆候も見られました。

固定周波数では定在波の腹と節が温度ムラになる

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マイクロ波アニールに特有の課題が、温度の均一性です。同グループの2012年の論文は、固定周波数のマイクロ波加熱では、チャンバー内に定在波ができ、ウェーハの面内に腹と節が生じて温度のばらつきが出るとしています6。この論文では、Siまたは石英のサセプタウェーハの材料・枚数・間隔を系統的に変え、ドーパント活性化とシート抵抗の均一性への効果を調べました。

サセプタを使わない方向の提案もあります。コーネル大学の研究は、試料と誘電特性を合わせた導波路で装置を組み、3次元の電磁界の有限要素シミュレーションで最適化した試作装置が、サセプタなしで均一に直接アニールできるとしています。

GeではPの活性濃度1.025×10²⁰/cm³まで届いた

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マイクロ波アニールはGeにも試されています。国立成功大学のグループは229th ECS Meeting(2016年)で、高温でイオン注入したGeに2段階のマイクロ波アニールを行った結果7を報告しました。1段目は1200W・425℃で固相エピタキシャル再成長を起こしてマイクロ波の吸収を高め、2段目は900W・375℃と低い出力で活性化させました。その結果、シート抵抗は最も低くて78Ω/□、Pの活性濃度は最大1.025×10²⁰/cm³で、Pの固溶限2×10²⁰/cm³に近い値です。1段目で層を再成長させて吸収を上げる手順は、吸収が効き目を決めるというこの方式の性格をそのまま使っています。

同じ2014年のレビュー論文は、低出力と高出力を組み合わせた2段階のマイクロ波アニールで、シート抵抗の低い極薄NiGe膜をつくった結果も紹介しています。

マイクロ波アニールとは何ですか?

マイクロ波(周波数0.3〜300GHzの電磁波)を半導体に当て、材料に吸収させて加熱する熱処理です。イオン注入後の再結晶化とドーパントの活性化に使います。

なぜマイクロ波で温まるのですか?

TSMCの特許によると、材料の中の双極子がマイクロ波の電界の変化に合わせて向きを変え、その結果マイクロ波を吸収して熱が生じます。吸収の大きさは損失正接(tanδ)で表し、0.01〜10程度の中間の値をもつ材料が吸収します。

何℃くらいで加熱しますか?

陽明交通大学などの研究では、As・Pを注入したSiを500℃未満で、As・P・BF2を注入したSiを550℃未満でマイクロ波アニールしています。TSMCの特許は、RTAは通常950℃より高く、ミリ秒アニールは1050℃より高い温度で行うとしています。

非晶質化注入(PAI)はなぜ組み合わせるのですか?

TSMCの特許によると、PAIでできた多数の欠陥によって半導体のマイクロ波吸収が増え、ドーパントに関係する双極子も増えるためです。Alfordらの2009年の論文でも、非晶質化しなかったボロン注入のSiは、損傷が再結晶化しても活性化が低いままでした。

課題は何ですか?

固定周波数のマイクロ波では、チャンバー内に定在波ができて腹と節が生じ、ウェーハ上に温度のばらつきが出ます。研究ではSiや石英のサセプタウェーハでこれを抑える方法が調べられており、600秒まで当て続けると不活性化の兆候も報告されています。

Ge(ゲルマニウム)にも使えますか?

報告例があります。国立成功大学のグループは、高温注入したGeに2段階のマイクロ波アニール(425℃と375℃)を行い、Pの活性濃度1.025×10²⁰/cm³、シート抵抗78Ω/□を得たと報告しています。

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