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イオン注入とは

イオン注入とは、ドーパントとなる元素をイオン化し、電界で加速してウェーハへ打ち込む工程です。 加速電圧で入る深さが、流した電流と時間で打ち込む個数が決まるので、濃度と深さを独立した数値として設定できます。ただし狙いどおりの分布は、打ち込むだけでは得られません。結晶の並びに沿ったイオンは想定より深く入り、注入した原子は熱処理を通すまで電気的に働かず、その熱処理でまた拡散します。組み立てる対象は注入装置1台ではなく、注入、アニール、測定の一組です。

深さは加速エネルギーで、濃度はドーズ量で決まる

Section titled “深さは加速エネルギーで、濃度はドーズ量で決まる”

トランジスタは、特定の場所へ不純物(ドーパント)を入れ、電子が多い領域と正孔が多い領域を作り分けることで働きます。イオン注入は、このシリコンの電気的な性質を場所ごとに作り分ける工程です。装置の中では、イオン源で元素を電離し、質量分析で狙う種だけを選び、加速してウェーハへ打ち込みます。

ドーズ1はウェーハに注入される単位面積あたりのイオンの個数で、濃度を決めます。実際に注入されたイオンの総個数は、ドーズ量×ウェーハ面積です。加速エネルギーは基板へ入る深さを決め、この2つの組み合わせで狙う濃度分布を作ります。運転でよく用いられる単位は2、ドーズ量が ions/cm2 または atoms/cm2、注入エネルギーが eV / keV / MeV、ビーム電流が μA / mA、スループットが wph(Wafers per hour)です。装置の区分けに出てくる300kVや1E14 ions/cm2も、この単位系で引かれた境目です。

イオンは電子、次に原子とぶつかって止まり、投影飛程を中心に山形に分布する

Section titled “イオンは電子、次に原子とぶつかって止まり、投影飛程を中心に山形に分布する”

加速されたイオンは、シリコンの中の電子や原子とぶつかってエネルギーを失い、やがて静止します。このエネルギー損失量が阻止能で3、原子との衝突による損失を核阻止能、電子との衝突による損失を電子阻止能と呼びます。入った直後はエネルギーが高いため電子との衝突が支配的で、エネルギーが下がると原子との衝突が支配的になり、そこで静止します。

イオンが止まるまで
イオンウェーハ表面電子と衝突原子と衝突全飛程R静止濃度深さ投影飛程Rp
入ったイオンは、はじめ電子との衝突で、止まる手前では原子との衝突でエネルギーを失います。止まる深さはイオンごとに違い、その集まりが投影飛程Rpを中心とした山形の濃度分布になります。

イオンが止まるまでに描いた軌跡の長さが全飛程Rで4、これを注入方向へ投影した長さが投影飛程Rp(Projected Range)です。1個ずつのイオンは別々の位置で止まるので、濃度は投影飛程を中心とした山形の分布になります。

阻止能の中身は、加速エネルギーとイオンの質量で入れ替わります。核阻止能はあるエネルギーで最大値を取り、それより高いエネルギーでは減少します。イオンの質量が大きいほど、高いエネルギー域まで核阻止能が大きいままです。電子阻止能は、低エネルギー域ではイオンの速度、つまりエネルギーの1/2乗に比例して大きくなります。同じ加速電圧でも、ボロンのような軽い元素は深く、ヒ素のような重い元素は表面近くで止まるのはこのためです。

結晶の通り道に沿ったイオンは深く入りすぎるので、傾けるか結晶を崩す

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シリコンウェーハは原子が規則正しく並んだ単結晶で、結晶軸や結晶面に沿った方向には原子間隔の広い通り道(チャネル)があります。その方向へ入ったイオンの大部分は、原子と衝突せずに電子との小角散乱を繰り返し、結晶の内部まで侵入します5。これがチャネリングで、起こる臨界角はイオンのエネルギーが高いほど、また原子番号が小さいほど小さくなります。深い位置まで届く性質を活かして、チャネリングを積極的に使う場合もあります。

チャネリングと2つの対策
結晶軸に沿って入射ティルト角をつけるプリアモルファス化表面狙いの深さチャネルを抜けるティルト角アモルファス層
結晶軸に沿って入ったイオンはチャネルを抜け、狙いより深く届きます。ウェーハを傾けて方位をずらすか、先に表層をアモルファスにしておくと、分布が深い側へ尾を引くのを避けられます。

対策のひとつは、ウェーハを傾けて打つことです。ウェーハ中心に立てた法線とイオンビームが交差する角度がティルト角6(チルト角)、オリエンテーションフラット(オリフラ)かノッチを基準にウェーハを回転させた角度がツイスト角です7。表面に近い接合を作るときは、この2つをチャネルの方位からずらして注入します。入射角のばらつきはイオン入射角分布で測ります。

もうひとつは、ドーパントを打つ前に結晶をアモルファス(非晶質)にしておくプリアモルファス化です8。表面に近い接合で、チャネリングによって分布が深い側へテールを引くのを避けます。質量数が大きい元素ほど少ない注入量でアモルファス化でき、電気特性に影響しないので、シリコンデバイスではSiやGeのイオンを使います。

装置は、加速エネルギーとドーズ量の帯で3種類に分かれる

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AxcelisはPurionのイオン注入プラットフォームを9、高電流、中電流、中エネルギー、高エネルギーの4区分で展開しています。表面に近い領域へ濃く打つには大きな電流が、深い領域へ届かせるには高いエネルギーが要るので、1台で全域を担うより領域ごとに装置を分けるほうが効率が上がります。メーカーにはAxcelisのほか、Applied Materialsや日新イオン機器があります。4区分は製品ラインの呼び分けで、装置の性格は次の3つに分かれます。

中電流イオン注入装置は10、主に300kV加速以下のエネルギーで、1E14 ions/cm2(1平方センチメートルあたり10の14乗個)以下の中・低ドーズ量を注入します。枚葉式のエンドステーションと回転注入機構を持ち、高精度かつ広範囲の注入角度(チルト角度、オリフラ角度)で打てるので、立体構造の注入分布制御に向きます。

大電流イオン注入装置は11、主に高ドーズの注入に使います。最大エネルギーは100keV程度に抑えたものが多く、高精度注入への要求で、かつてのバッチ方式から枚葉式へ移っています。高エネルギーイオン注入装置12は300kVを超えるエネルギーのイオンを注入する装置で、静電加速と高周波加速(RF加速)の方式があり、デバイス構造上の深い位置への注入に使います。

同じ区分の装置でも、ビームの作り方で面内のそろい方が変わります。入射角が面内でばらつくと、打ち込まれる深さと分布が場所ごとにずれるためです。日新イオン機器はEXCEEDシリーズを平行ビーム方式とし、ビーム平行度を±0.5度以内に制御でき、注入前に均一性を検証でき、エネルギー汚染を完全に排除できるとしています13。300mmウェーハ用のFOUPロードポートも備えます。

ウェーハ温度も条件のひとつです。同社のIMPHEAT-IIはウェーハ温度が最大500℃で、アルミニウムイオンを注入できるパワーデバイス用途向けの装置です。SiCのように常温注入では結晶の損傷が回復しにくい材料では、加熱しながら打ち込みます。

1枚のウェーハに、深さもドーズ量も違う注入が何度も入る

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ウェル注入は14、CMOSトランジスタの土台になる比較的深い不純物層を作る注入で、NMOSはpウェル、PMOSはnウェルの中に作ります。かつては低エネルギー注入と高温長時間の熱処理でドーパントを深くまで拡散させていましたが、高エネルギー注入機の登場で多段注入によるウェル形成が主流になりました。従来法とは逆に深さ方向へ濃度が濃くなるため、レトログレードウェルと呼ばれます。

エクステンション注入は15、ソース・ドレインに隣接してゲート端(チャネル端)に作る、ソース・ドレインと同じ導電型の不純物層です。拡散の抑制に加えて表面に近い注入層が要るため、NMOSにアンチモン(Sb)、PMOSにインジウム(In)を使うこともあります。

ハロー/ポケット注入は16、エクステンションを取り囲むように、チャネルと同じ導電型で濃度の高い領域を作る注入です。チャネル両端の不純物濃度が高くなるので、短チャネル領域でしきい値電圧(Vth)が上がる逆短チャネル効果が起き、微細なトランジスタでも所望のVthを保てます。ゲート電極を作った後の斜めイオン注入で、セルフアラインで形成します。

装置の受け持ち範囲
100 keV300 kV1E14ドーズ量(ions/cm2)加速エネルギー大電流エクステンション注入中電流ハロー注入高エネルギーウェル注入
中電流装置は主に300kV以下かつ1E14 ions/cm2以下、大電流装置は主に高ドーズで最大エネルギー100keV程度のものが多く、高エネルギー装置は300kV超を受け持ち、ハロー、エクステンション、ウェルの各注入がそれぞれに当てはまります。

工程の要求である深さ、ドーズ量、角度を3分類に重ねると、深いウェルは高エネルギー装置、表面に近く高ドーズのエクステンションは大電流装置、角度を振るハローは回転注入機構を備えた中電流装置という対応になります。

注入後のアニールは、活性化と拡散の取引になる

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イオンが止まるとき、衝突された原子は格子位置を離れて格子間原子となり、格子には空孔が生じます。注入した原子をドナーやアクセプタとして働かせるには格子位置へ入れる必要があり、それと同時に格子間原子と空孔を回復させる熱処理が活性化アニールです17。高濃度で注入して注入領域がアモルファス化した場合は、アモルファスと単結晶の界面から固相成長させて結晶化し、同時にドーパントを格子位置へ入れます。

温度が高いほど、ドーパントが活性化する割合(活性化率、activation rate)は高くなります。その一方で、ドーパントは深さ方向へ拡散します。先端デバイスでは拡散の抑制と活性化を両立させるために、高温でミリ秒程度の短時間の熱処理を使います。時間側の条件は、ミリ秒アニールと熱予算にかかわります。

注入の後は、拡散のふるまいも変わります。酸化やシリサイド化で過剰な格子間シリコン原子が供給されると、ドーパントは過剰シリコンとペアを組んで通常より速く拡散します。これが増速拡散です18。イオン注入では、過剰な格子間シリコンからなる311欠陥との相互作用でドーパントが異常拡散し、これを過渡増速拡散(TED:Transient Enhanced Diffusion)と呼びます。表面に近い接合を作る工程では、この広がりも見込んで条件を組みます。

打ち込んだ量は、抵抗、ダメージ、深さ分布の3系統で測る

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打ち込まれたイオンはウェーハの内部にあるので、量を直接数えるかわりに、電気特性や光学特性へ置き換えて測ります。日新イオン機器のイオン注入サービスも、注入に加えてアニール、シート抵抗測定、ドーズモニタ、パーティクル検査まで含めた評価を提供するとしています13。

シート抵抗は19、イオン注入で作った拡散層のような薄い層の電気抵抗をΩ/sq(オーム・パー・スクエア)で表したものです。値が注入層の濃度と深さに依存するため、イオン注入装置のQC法として広く使われます。測定には四探針法が一般的で、直線状に並べた4本の針のうち外側2本へ電流を流し、内側2本の電圧差から抵抗を求めます。

サーマルウェーブは20、基板へレーザー光を照射し、別の波長のレーザー光で反射率を測って、その変化量をサーマルウェーブ値とする手法です。結晶欠陥と反射率、注入量とダメージのそれぞれに強い相関があることが根拠です。注入後のアニールを省けるぶん、シート抵抗測定より簡略にQC管理を回せますが、注入量が多くなると値が飽和するため、比較的低い注入量の領域で使います。

SIMS21(二次イオン質量分析法)は、酸素やセシウムのイオンをプローブとして試料へ入射させ、スパッタされた原子を質量分析して定量します。試料は深さ方向にスパッタされるので、その深さから深さ方向の情報が得られます。濃度分布が既知の標準試料を使えば正確に定量でき、注入の分布とその後のアニールによる拡散の状態を調べる用途で広く使われます。

シート抵抗やダメージ測定で測ったウェーハ面内のイオン分布のそろい方がウェーハ内注入均一性(ウェーハ面内均一性)、同じ条件で流した複数のウェーハ間の平均値のそろい方がウェーハ間注入均一性で、両者をあわせて注入均一性22と呼びます。

条件がずれると、帯電、エネルギー汚染、金属汚染、個数の揺らぎが出る

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チャージアップは23、注入中のウェーハがイオンや電子による電荷、二次電子の放出で帯電する現象です。素子が破壊されたり、放電でレジストが微小な爆発を起こしたりします。対策にはエレクトロンフラッドガンやプラズマフラッドガンを使います。

エネルギーコンタミネーションは24、設定した注入エネルギー以外のイオンが注入されてデバイス特性に影響する現象です。加速・減速の前にビームライン中の残留ガスとイオンが衝突し、荷電交換で中性になって電界から力を受けずに進む場合、価数が増減する場合、分子イオンが解離する場合に起きます。対策には、加速・減速の後にエネルギー分析を行う方法があります。EXCEEDシリーズが排除できるとするエネルギー汚染は、この現象です。

メタルコンタミは25、工程の途中でウェーハ中へ紛れ込む金属汚染です。入り込んだ金属はゲート絶縁膜の信頼性を劣化させ、結晶欠陥の発生を誘起してキャリアの生成再結合中心となり、接合リーク電流を増やします。イオン注入での経路は、質量分析器やエネルギーフィルターで注入イオンと同一の軌道を通る成分、ビームラインからのスパッタ成分、イオン源からの拡散成分です。分析には全反射蛍光X線分析(TXRF)やICP質量分析法(ICP-MS)を使い、1E8/cm2程度までの微量金属を測れます。

不純物揺らぎは26、微細化でチャネル中のドーパント数が数個レベルになり、統計的なばらつきに基づく離散分布となって、しきい値電圧(Vth)のばらつきを引き起こす現象です。薄膜SOIやフィン構造のように不純物の導入を省いたIntrinsicチャネル構造にすれば回避できます。

どの不具合も、装置側のQC測定(シート抵抗、サーマルウェーブ、注入均一性)と、デバイス側の電気特性の両方で確かめます。

この用語に対応する装置と製造メーカー

Section titled “この用語に対応する装置と製造メーカー”

装置カタログDBから、この用語に一致する製品familyを持つメーカー 3社/5family を引いています。 各行は各社の公式製品ページを出典とします。 DBからの生成日: 2026-08-22

出典は各社の公式製品ページです。 装置カタログDB では、同じ製品familyを工程・メーカー横断で検索できます。

イオン注入とは何ですか?

ドーパントとなる元素をイオン化し、電界で加速してウェーハへ打ち込む工程です。打ち込む個数(ドーズ量)と加速エネルギーを選び、不純物の濃度と深さを別々に設定します。

ドーズ量とエネルギーは何を決めますか?

ドーズ量は単位面積あたりに打ち込むイオンの個数で、濃度を決めます。加速エネルギーは基板へ入る深さを決め、濃度は投影飛程Rpを中心とした山形に分布します。

イオン注入装置はどう分類しますか?

電流とエネルギーで分けます。Axcelisは製品を高電流(High Current)、中電流(Mid Current)、中エネルギー(Medium Energy)、高エネルギー(High Energy)に分けており、浅く濃く打つ用途と深く打つ用途で装置が変わります。

ビームの平行度はなぜ要るのですか?

面内で入射角がばらつくと、打ち込まれる深さと分布が場所ごとにずれるためです。日新イオン機器はEXCEEDシリーズを平行ビーム方式とし、ビーム平行度を±0.5度以内に制御できるとしています。

高温でイオン注入することはありますか?

あります。日新イオン機器のIMPHEAT-IIはウェーハ温度が最大500℃で、アルミニウムイオンを注入できるパワーデバイス用途向けの装置です。SiCのように常温注入では損傷が回復しにくい材料で使われます。

イオン注入装置のメーカーはどこですか?

Axcelis、Applied Materials、日新イオン機器などです。当サイトの装置カタログDBで、イオン注入に一致する製品familyを持つメーカーを公式製品ページ単位で引けます。

イオンはどうやって止まるのですか?

ターゲット中の電子や原子と衝突してエネルギーを失い、停止します。入った直後は電子との衝突(電子阻止能)が支配的で、エネルギーが下がると原子との衝突(核阻止能)が支配的になって静止します。

チャネリングとは何ですか?

結晶軸や結晶面に沿った原子間隔の広い通り道へ入ったイオンの大部分が、原子と衝突せず電子との小角散乱を繰り返して結晶の内部まで侵入する現象です。想定より深くまで届くので、表面に近い接合ではウェーハを傾けるかプリアモルファス化で避けます。

ティルト角とツイスト角は何が違いますか?

ティルト角はウェーハ中心の法線とイオンビームが交差する角度、ツイスト角はオリエンテーションフラットかノッチを基準にウェーハを回転させた角度です。表面に近い接合では、この2つをチャネルの方位からずらして注入します。

ドーズ量の単位は何ですか?

ions/cm2 または atoms/cm2 です。注入エネルギーは eV / keV / MeV、ビーム電流は μA / mA、スループットは wph(Wafers per hour)で表します。

注入した後に熱処理が要るのはなぜですか?

注入した原子をドナーやアクセプタとして働かせるには、格子位置へ入れる必要があるためです。温度が高いほど活性化率は上がりますがドーパントが深さ方向へ拡散するので、先端デバイスでは高温でミリ秒程度の短時間の熱処理を使います。

打ち込んだ量はどう測りますか?

四探針法で測るシート抵抗(Ω/sq)が広くQC法として使われます。サーマルウェーブはアニールを省けるぶん簡略ですが、注入量が多いと値が飽和するので比較的低い注入量で使い、深さ方向の分布そのものはSIMS(二次イオン質量分析法)で測ります。

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