コンテンツにスキップ

イオン注入は4つの設定で深さ分布を制御|Rsはキャリア、SIMSは原子の数を測る

イオン注入とは、ドーパントの元素をイオンにして加速し、ウェーハの表面から狙った深さへ打ち込む工程だ。日新イオン機器によれば、イオンはエネルギーに応じた深さに入り1、B、P、As、In、Sbなどを決まった深さへ適切な量だけ入れることで、デバイス特性を再現よく制御できる。注入の結果を決める主な設定は、イオン種、エネルギー、ドーズ量、角度の4つだ。

注入装置のQCには、シート抵抗(Rs)が広く使われる。日新イオン機器は、Rsが注入層の濃度と深さに依存するため、注入装置のQCに広く使われる2と書く。ただしRsが表すのは、注入した原子の総数ではなく、働くキャリアの数と動きやすさだ。原子の数はSIMSで数え、同社は拡がり抵抗法のキャリア濃度とSIMSの分布を合わせると活性化率が求まる3と説明する。つまり、ロットのRsがずれたとき、SIMSと比べれば、原子の数が動いたのか、働く割合が動いたのかを分けて読める。

深さ分布は、イオン種・エネルギー・ドーズ量・角度の4つで決まる

Section titled “深さ分布は、イオン種・エネルギー・ドーズ量・角度の4つで決まる”

4つの設定は、それぞれ別の量を決める。ビームエネルギー4は注入する深さに応じて決める基本の条件で、イオンが止まるまでの軌跡を注入方向に投影した長さを投影飛程5と呼ぶ。ドーズ量6は単位面積あたりに入れるイオンの個数だ。角度は、ウェーハ面の法線とビームが交わるティルト角と7、ノッチを基準にウェーハを回したツイスト角8で表す。

設定・状態主な物理量・現象結果に一緒に効く条件
イオン種・価数阻止能、散乱、m/q供給原料、選んだ質量、エネルギーの表記
エネルギー投影飛程、飛程のばらつき、表面近くの割合スクリーン酸化膜、マスクの膜構成、基板組成
ドーズ量面積あたりのイオン数、損傷の蓄積ビーム電流、走査、ドーズレート、ウェーハ温度
チルト角・ツイスト角チャネリング、マスク端への入射結晶方位、ノッチ、装置座標、パターンの向き

イオン種は価数と組で効く。日新イオン機器によれば、加速電圧A kVで1価イオンはA keV、2価イオンは2A keVになる9。Applied Materialsの中電流装置VIISta 900XPが10、1価で300 keV、2価で600 keVの運転を掲げるのはこのためだ。装置の系列はエネルギー帯で分かれる。日新イオン機器11は最大750 keVと960 keVの中電流機を、住友重機械イオンテクノロジー12は8.0 MeVまでの高エネルギー機と0.2〜630 keVを1台で受け持つ機種を並べる。

角度が効くのは、単結晶の中に原子の間隔が広く見える方向があるからだ。この方向に入ったイオンは原子とほとんど衝突せずに深くまで進む。これがチャネリングで13、浅い接合ではチルト角とツイスト角をチャネル方位から外して注入する。チャネリングが起こる臨界角は、エネルギーが高いほど、原子番号が小さいほど小さい。Applied Materialsの用語集は14、抑える手段にウェーハのチルトか回転、スクリーン酸化膜、プリアモルファス化を挙げる。

4つの設定から深さ分布を計算する出発点がSRIMで15、イオン、ターゲット、エネルギーから阻止能と飛程を返す。結晶方位、パターン、表面の膜、既存の欠陥は計算に入りにくく、実測とはその分だけずれる。スクリーン酸化膜の厚さは計算の入力に当たるので、酸化・成膜の実行値が分布に効く。

ウェーハに入る原子の数は、原料からドーズ計測までの経路で決まる

Section titled “ウェーハに入る原子の数は、原料からドーズ計測までの経路で決まる”

容器から取り出した分子や固体原料はイオン源で解離・電離し、質量分析で選別され、加速されてウェーハに届く。

段階主な条件次の段へ渡るもの
材料の受け入れ・供給化学組成、濃度、容器・原料のロット、装着時刻イオン源へ入る原料
イオンの生成・選別イオン源の条件、選ばれたm/q、価数選別後のビーム
注入エネルギー、ドーズ量、チルト角・ツイスト角、走査、ウェーハ温度元素の深さ分布、面内分布、損傷
アニール時間と温度の履歴、雰囲気、工程順活性化、欠陥回復、拡散・偏析後の状態
計測試料の状態、測定法、座標、校正、解析条件SIMS・SRP・C–V・Rs・デバイスマップ
図1注入装置のどこで何が決まるか
供給化学種 BF3など イオン源 注入イオン m/qで成分を選ぶ 深さ分布 質量分析 加速 走査 ウェーハ エネルギー ドーズ量 チルト角 質量分析を経ない プラズマドーピング 供給ガスの組成が 到達成分へ直結
ビームライン注入では質量分析が注入イオンを選び、プラズマドーピングでは供給ガスの組成がそのままウェーハに届く。ウェーハに入る原子の数は、この経路で決まる。

最初の区間は原料だ。Air Liquideは16、ホウ素、ヒ素、リンを制御した濃度で入れる工程をドーピングとし、イオン注入用に同位体を濃縮した三フッ化ホウ素やゲルマニウムを挙げる。山中(Yamanaka Advanced Materials)は17、ガス原料に11B濃縮三フッ化ホウ素と四フッ化ゲルマニウム、固体原料に赤リン、ヒ素、三酸化アンチモンなどを並べる。純度は品目ごとに規格があり、SEMI C3.2718は三フッ化ホウ素を99.0%品位、SEMI C3.219はアルシンを99.94%品位、SEMI C3.620はホスフィンを99.98%品位として定める。Entegrisは21、ドーパント材料を大気圧未満で貯蔵・供給するSDS系列を出している。

次の区間は、イオンの生成と選別だ。イオン源で作ったビームには、分子の断片、同位体、価数の違う成分が混ざる。分析マグネットはm/qに応じて軌道を曲げ、狙った成分だけをアパーチャに通す。

3つ目の区間がドーズの計測だ。装置はビーム電流をファラデーカップ22で測って積算する。ファラデーカップは二次電子などビーム以外の荷電粒子の出入りを抑えるよう設計され、走査したビームの電流分布や形の測定にも使われる。

注入機が複数あると、号機の間にも差が出る。日新イオン機器によれば、量産工場では複数の注入機で同じ特性を得るため、ドーズ係数を変えて合わせ込む23。指標はサーマルウェーブ、Rs、デバイス特性で、機種が違うとビーム径、ビーム密度、走査方式が違うため、イオン種やエネルギー帯ごとに係数を変えることもある。面内のばらつきは注入均一性として24、Rsやダメージの測定で評価される。

ビームラインを通らない経路もある。Applied MaterialsのVIISta PLADは25、高ドーズのドーピング、材料改質、側壁へのドーピングをプラズマで行う。プラズマドーピングにはm/qで選別する段がないので、供給ガスの組成がそのままウェーハに届く成分になる。

Rsは働くキャリアの数と動きやすさで決まり、SIMSは原子の数を数える

Section titled “Rsは働くキャリアの数と動きやすさで決まり、SIMSは原子の数を数える”

シート抵抗は、薄い層の抵抗率を厚さで割った値で、抵抗率はキャリア濃度と移動度で決まる。注入した原子がキャリアを出すには、結晶の格子位置に入る必要がある。日新イオン機器の説明では、注入したイオンが衝突した原子は格子位置からはじき出されて格子間原子になり、格子には空孔が残る。活性化アニールは26、注入原子を格子位置に入れると同時に格子間原子と空孔を回復させる熱処理だ。温度が高いほど活性化率は上がるが、ドーパントは深さ方向へ拡散もする。

このため、SIMSの積分ドーズ量とRsが同じ向きに動くのは、活性化の割合と損傷の回復がロット間でそろっている場合に限られる。NISTの研究は27、再成長したSi層の飛程末端に残る{311}欠陥が解ける時間帯にホウ素が過渡増速拡散(TED)を起こし、両者が強く相関すると報告した。日新イオン機器も、過剰な格子間Siでできた{311}欠陥との相互作用でドーパントが異常拡散する28と書く。同じ原子数を入れたロットでも、欠陥の状態と熱履歴で活性化と再分布の結果は変わる。

図2深さ分布と各測定の対応
濃度 深さ 表面 元素の濃度 キャリア濃度 SIMS 削りながら元素別の濃度を読む SRP 斜め研磨面の拡がり抵抗から読む C–V 空乏層の容量変化から推定する Rs 層全体を1つの値で読む
SIMSは原子の数を、SRPとC–Vはキャリアの分布を深さごとに読み、Rsは層全体を1つの値にまとめる。
測定主に読める量試料・解析の条件単独では決めにくい量
SIMS元素別の濃度、分布の形、積分ドーズ量スパッタによる破壊、マトリックス効果、深さ・感度の校正電気的活性化率、キャリア移動度
SRP拡がり抵抗・抵抗率から導く深さ方向の情報斜め研磨、プローブの接触、校正、移動度モデル元素別の濃度、活性化率の直接値
C–V空乏層の応答から推定するキャリア分布構造、面積、バイアス、周波数、リーク電流、モデル局所的な元素分布、深いテールの一意な形
Rs層全体のシート抵抗と面内の差プローブ配置、膜・基板の構成、形状深さごとの濃度と活性化の分離

SIMSとRsの動き方を組み合わせると、ずれの区間の候補が絞れる

Section titled “SIMSとRsの動き方を組み合わせると、ずれの区間の候補が絞れる”

ここまでの関係から、本ページではRsのずれを、SIMSとの組み合わせで次のように整理する。活性化と損傷の回復がロット間でそろっていることを前提にした整理だ。

SIMSとRsの動き読み取れること候補になる区間
積分ドーズ量とRsが同じ向きに動く入った原子の数が変わった原料の供給、イオンの生成と選別、ドーズ計測、ビームの均一性、号機間の合わせ込み
SIMSは安定、Rsだけ動く原子の数は同じで、働く割合か移動度が変わったアニールの熱履歴、残った欠陥、TED、注入の順序
ピークはそろい、深いテールだけ伸びる一部のイオンが深くまで進んだチャネリング、ティルト角・ツイスト角、スクリーン酸化膜、エネルギーコンタミネーション

2行目の区間では、熱の入れ方が効く。熱の上限の決め方はアニール・サーマルバジェットに、加熱時間が秒からナノ秒まで縮んだ理由は先端ロジックのアニールにある。

3行目のテールは、角度の差で変わる。Siへの低エネルギー注入を測った1985年の研究は29、角度条件でSIMSの深さ分布が変わることを示した。P注入の研究は30、チルト角とドーズ量で空孔関連欠陥の深さ分布が変わると報告している。設定と違うエネルギーのイオンが混ざるエネルギーコンタミネーションも31、分布の形を変える。ビームライン中の残留ガスとの衝突で中性化や価数の変化が起こり、狙いと違うエネルギーで届く現象だ。

SIMSもRsも、校正と測り方で値が変わる

Section titled “SIMSもRsも、校正と測り方で値が変わる”

SIMSの値は校正に依存する。CAMECAによれば32、深い注入では数µmまでの分布を数分で取れ、Si中のB、P、Asでppbレンジの検出下限に届く。浅い注入では一次イオンの衝突エネルギーを500 eVまで下げて深さ分解能を確保する。深さ軸は、深さ50 nm未満のSiについてISO 2381233がデルタ層の標準試料を使う校正を定める。濃度軸は感度係数に依存し、NIST34はB、As、Pの注入量を面密度(atoms/cm²)で認証した標準物質を用意している。

Rsの測り方にも、適用を確かめた範囲がある。直列四探針の試験方法SEMI MF374は35、厚さ0.2 µm以上の層で適用できることが知られ、シート抵抗10〜5,000 Ωを測る。面内の均一性はSEMI MF1529が36、外周から探針間隔の3倍までを除いた領域で評価する。それより浅い層の測り方と、拡がり抵抗の規格の現状は浅い注入層のシート抵抗と規格で扱う。

マップどうしを比べるには、座標の対応が要る。SEMI E14237は基板マップの表現を、SEMI E9038は装置内の基板の追跡を定める。測定の走査軌跡は検査・計測装置ごとに違い、モニターウェーハと製品ウェーハでは基板と履歴が違う。

SiCでは、Siの関係がそのまま当てはまらない

Section titled “SiCでは、Siの関係がそのまま当てはまらない”

日新イオン機器によれば、SiC中のドーパントは拡散が極めて小さく39、熱拡散で分布を作れないので、エネルギーを変えた多段注入で分布を作る。注入で生じた欠陥は高温アニールでも戻りにくく、SiCでは基板を500℃程度に加熱して注入することが多い40。この2点から、Si向けのレシピとRsの読み方は、SiCには当てはまらない。SiC向けの高温注入と装置はSiCの高温イオン注入で扱う。NISTの研究は41、6H-SiCへAl、B、Gaを50 keV〜4 MeVで注入し、保護膜を付けてアニールした深さ分布を比べている。

41件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  11. 11
  12. 12
  13. 13
  14. 14
  15. 15
  16. 16
  17. 17
  18. 18
  19. 19
  20. 20
  21. 21
  22. 22
  23. 23
  24. 24
  25. 25
  26. 26
  27. 27
  28. 28
  29. 29
  30. 30
  31. 31
  32. 32
  33. 33
  34. 34
  35. 35
  36. 36
  37. 37
  38. 38
  39. 39
  40. 40
  41. 41