SiC MOSFETの約30%減は高温時のオン抵抗ROHM発表、接合温度175°Cで比較
ROHMが2026年4月に発表した第5世代SiC MOSFETの「オン抵抗約30%減」は、同じ耐圧・同じチップサイズの第4世代と、接合温度Tj=175°Cで比べた値だ1。チップを大きくせずに、熱い状態での抵抗を下げたことを示す。損失の見積もりでは、この30%は高温時の導通損失に掛かる比率になる。
室温の値で見積もると、高温の損失との差は大きい。第4世代の750V品SCT4013DLLのオン抵抗は、25°Cで13.0 mΩ、150°Cで22.2 mΩだ2。1200V品のSCT4036KRでは、36 mΩが150°Cで72 mΩ3と2倍になる。
約30%は、チップを大きくせずに高温のオン抵抗を下げた値
Section titled “約30%は、チップを大きくせずに高温のオン抵抗を下げた値”SiC MOSFETは、炭化ケイ素で作る電力用のスイッチだ。オンのときにドレインとソースの間に残る抵抗をオン抵抗(RDS(on))と呼び、電流が流れている間の損失はこの抵抗で決まる。Tjは、チップ内部の発熱する部分の温度を指す(ジャンクション温度)。
ROHMは2026年4月21日、第5世代について、構造の改善と製造工程の最適化で、Tj=175°Cのオン抵抗を第4世代より約30%下げた1と発表した。比較の条件は、同じ耐圧と同じチップサイズだ。用途には、xEVのトラクションインバータ、車載充電器(OBC)、DC-DCコンバータ、AIサーバーやデータセンターの電源などを挙げている。
チップを大きくすれば、オン抵抗は下げやすい。ただし、ROHMの製品ページ4が書くとおり、容量とゲート電荷はチップが小さいほど減る。チップを大きくすると、オン抵抗と引き換えに容量とゲート電荷が増え、価格とパッケージも変わる。ROHMの比較はチップサイズをそろえているので、30%はこの引き換えをせずに得た差になる。
第4世代のときは、ROHMが第3世代と比べて単位面積あたりのオン抵抗を約40%、スイッチング損失を約50%下げたと5、2つの数値を示していた。
ROHM第4世代の3品番では、150°Cのオン抵抗が室温の1.7〜2倍になる
Section titled “ROHM第4世代の3品番では、150°Cのオン抵抗が室温の1.7〜2倍になる”導通損失は、電流の2乗にオン抵抗を掛けた値だ。オン抵抗が温度で増えれば、同じ電流でも損失は同じ比率で増える。
第4世代のデータシートに載る25°Cと150°Cの標準値を並べると、温度による増え方は耐圧で違う。750V品のSCT4013DLLは13.0 mΩから22.2 mΩ、同じ750V品のSCT4026DRは26 mΩから44 mΩで6、どちらも約1.7倍になる。1200V品のSCT4036KRは36 mΩから72 mΩで、2倍だ。ROHMの第4世代のアプリケーションノートは7、この差を、1200V品はドリフト層が厚く、温度で増える抵抗の割合が大きいためと説明している。
この3品番の値は、温度でオン抵抗が増える傾向の例だ。SCT4013DLLにデータシートの測定条件と同じ58 Aを流したとして筆者が計算すると、導通損失は25°Cの値で約44 W、150°Cの値で約75 Wになる。室温の値で冷却を設計すると、150°Cでの損失を4割ほど少なく見込む。第5世代の約30%はこれとは別の温度、Tj=175°Cでのオン抵抗の比で、同じ電流なら175°Cでの導通損失が約30%減る。
第4世代ではスイッチング損失が温度でほぼ変わらず、30%は導通損失の側に効くと見込める
Section titled “第4世代ではスイッチング損失が温度でほぼ変わらず、30%は導通損失の側に効くと見込める”電源やインバータの損失は、導通損失とスイッチング損失の合計だ。ROHMのアプリケーションノートによれば、第4世代のSCT4036KRのスイッチング損失は、寄生容量が温度でほとんど変わらないため、温度に対してほぼ平らだ。これは第4世代での測定で、第5世代でも同じなら、175°Cでのオン抵抗の改善は導通損失の側に効くと見込める。
合計損失がどれだけ減るかは、回路で導通損失とスイッチング損失のどちらが大きいかで変わる。ROHMは2025年10月の白書で、33 kWの三相LLC変換器を周囲温度100°Cで計算し、第5世代で合計損失が約33%減るという試算8を示した。白書はゲートの負電圧を-5 Vまで使えるようにしてターンオフを速めたことも並べて書いており、33%にはその効果も含まれると筆者は読む。電源ラックとITラックでの素子の配置は、ROHM第5世代SiCをAIサーバー電源のどこに置くかで扱う。
xEVのインバータでは、高温の導通損失が小型化と出力を左右する
Section titled “xEVのインバータでは、高温の導通損失が小型化と出力を左右する”トラクションインバータは、バッテリーの直流を三相交流に変えて走行用モーターを回す回路だ。ROHMは、第5世代がトラクションインバータのような高温用途で、ユニットの小型化と出力の向上に役立つとしている1。高温で導通損失が減れば発熱が減り、冷却板やヒートシンク、パッケージに求める放熱の量も下がる。
ディスクリートとモジュールのサンプルは、2026年7月に始める計画だった
Section titled “ディスクリートとモジュールのサンプルは、2026年7月に始める計画だった”ROHMは、第5世代のベアチップ事業の支援を2025年に始め、2026年3月に開発を終えた1。4月の発表では、ディスクリートとモジュールのサンプル提供を2026年7月に始める計画だった。ベアチップはパッケージに入れる前のチップ、ディスクリートはチップを1個ずつパッケージに収めた部品、モジュールは複数のチップを1つのケースにまとめた部品だ。ROHMは2026年5月の決算説明で、8インチの第5世代の量産出荷が始まったと報告している。
30%の条件と、損失の見積もりに使う値
Section titled “30%の条件と、損失の見積もりに使う値”| 項目 | ROHMの資料が示す値 | 値の意味 |
|---|---|---|
| 第5世代のオン抵抗 | Tj=175°Cで第4世代より約30%低い(同じ耐圧・同じチップサイズ) | 高温時の導通損失の比率 |
| 第4世代のオン抵抗の温度変化 | 3品番の150°Cの値が25°Cの約1.7倍(750V品)〜2倍(1200V品) | 温度で増える傾向の例 |
| 第4世代のスイッチング損失 | SCT4036KRで温度に対してほぼ一定 | 第4世代での測定 |
| 第5世代の合計損失 | 33 kWの三相LLC、周囲温度100°Cの試算で約33%減 | 1つの回路条件でのROHMの試算 |
AIサーバー電源では、800V DC化でGaNを使う構成も出ており、ローム自身もSiCとGaNの両方を800V DC向けに提案している8。
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- 2ROHM:SCT4013DLLのデータシート(2025年8月)fscdn.rohm.com ↩
- 3ROHM:SCT4036KRのデータシートfscdn.rohm.com ↩
- 4ROHM:SiC MOSFETの製品ページrohm.com ↩
- 5ROHM:第4世代SiC MOSFETの応用上の利点(2022年2月)fscdn.rohm.com ↩
- 6ROHM:SCT4026DRのデータシートfscdn.rohm.com ↩
- 7ROHM:第4世代SiC MOSFETの特性と回路設計上の注意(2022年11月)fscdn.rohm.com ↩
- 8ROHM:AIサーバー向け800V DC構成の白書、第5世代の損失試算(2025年10月)fscdn.rohm.com ab