コンテンツにスキップ

SiCイオン注入は500℃程度の加熱が主流|高濃度Al注入では必須、日新イオン機器

SiCパワー半導体のイオン注入では、ウェーハを500℃程度に加熱して注入することが多い。SiCでは注入で生じた欠陥が後の高温アニールでも戻りにくく、抵抗が上がるからだ。日新イオン機器は、特に高濃度のAl注入では高温注入が必須1と説明する。Siの高温注入は低ドーズの一部に使う程度だが、SiCでは注入時のウェーハ温度が装置を選ぶ条件になる。SiC向けに加熱したウェーハへ注入する装置を製品化している企業には、日新イオン機器、Applied Materials、アルバックがある。

Siとの違いはそれだけではない。SiCではドーパントがほとんど拡散しないので、注入した形がそのまま最終の分布になる。活性化には1500℃を超える熱処理が要り、表面を炭素の膜で守る。500℃に耐えるレジストがないので、マスクにはSiO2などの硬い膜を使う。つまり、Siのレシピとシート抵抗の換算は、SiCへそのまま移せない。

SiCではドーパントがほとんど拡散しないので、分布は注入で作る

Section titled “SiCではドーパントがほとんど拡散しないので、分布は注入で作る”

SiCは、Siに比べて破壊電界強度が10倍、熱伝導率が3倍、飽和ドリフト速度が3倍あり、日新イオン機器によれば高耐圧、低オン抵抗、高速動作に向く2。n型にはN(窒素)かP(リン)、p型にはB(ホウ素)かAl(アルミニウム)を入れる。

違いの出発点は拡散の遅さだ。Roccaforteらのレビュー(2021年)によれば、SiC中のドーパントの拡散係数は1800℃でも10⁻¹⁷〜10⁻¹⁵ cm²/sで3、1000℃のSiの10⁻¹⁴〜10⁻¹³ cm²/sより桁で小さい。拡散がほぼ起きないので、選んだ場所だけをドープする方法はイオン注入になる。

熱で分布を整えられないので、深さ方向の形はエネルギーを変えた多段注入で作る。同じレビューは、室温で50〜720 keVの複数のエネルギーとドーズ量を組み合わせ、厚さ400 nm、濃度2×10¹⁸ cm⁻³の箱型の分布を作った例を挙げる。NISTの研究も4、6H-SiCへAl、B、Gaを50 keV〜4 MeVの単一エネルギーと多段エネルギーで注入し、SIMSで深さ分布を比べている。

深さ分布の作り方、注入時のウェーハ温度、マスク、活性化アニールの4項目で、SiとSiCの条件を左右に並べた図。SiCは多段注入、500℃程度の加熱注入、SiO2などの硬いマスク、1500℃を超えるアニールと炭素の保護膜。
SiCでは、分布の作り方、注入時の温度、マスク、活性化の4つの条件がSiと違う。

高ドーズでは室温で打った損傷が戻りにくいので、ウェーハを500℃程度に加熱することが多い

Section titled “高ドーズでは室温で打った損傷が戻りにくいので、ウェーハを500℃程度に加熱することが多い”

室温での注入は欠陥を高い密度で残し、ドーズ量が多いと結晶がアモルファスになる。Roccaforteらは、300〜500℃での高温注入を3、衝突でできた欠陥を注入中に消すための方法と説明する。同じレビューが挙げる比較では、注入量が1×10¹⁵ cm⁻²より少ないと室温注入と高温注入で活性化に大きな差はなく、それより多い高ドーズで高温注入が電気特性を大きく改善した。

日新イオン機器の用語辞典も、加熱には2つの効果があると書く。基板を加熱すると1、欠陥の発生が抑えられ、できた欠陥も自己アニールで消える。さらに、アモルファスになるドーズ量の境目が上がる。Siでも高温注入は使うが、1×10¹³ cm⁻²程度の低ドーズで200〜300℃が多い。SiCでは500℃程度に加熱して注入することが多く、高濃度のAl注入では必須とされる。

温度を上げると、マスクが変わる。500℃に耐えるレジストがないので、SiCではSiO2などの硬いマスクを使う。SiO2のマスクは成膜とエッチングで作るので、高温注入は注入の前後の工程も変える。成膜とエッチングの全体像は酸化・成膜とエッチングにある。

活性化には1500℃を超える熱処理が要り、表面を炭素の膜で守る

Section titled “活性化には1500℃を超える熱処理が要り、表面を炭素の膜で守る”

注入した原子を電気的に働かせるには、Siよりずっと高い温度の熱処理が要る。Roccaforteらによれば、SiCの注入後のアニールは通常1500℃を超える3。この温度では表面からSiが抜け、原子の段差が束になる(ステップバンチング)。これを防ぐため、標準的なフォトレジストを約800℃で焼いて炭素の膜(Cキャップ)を作り、表面を覆ってからアニールする。

活性化の割合は、ドーズ量で大きく変わる。同じレビューによれば、N、P、Alを室温で合計1×10¹⁴ cm⁻²注入した試料では、1650℃のアニールでほぼ完全に活性化した。一方、4H-SiCへAlを30〜200 keVで約1×10²⁰ cm⁻³まで入れた高ドーズの試料では、働いているAlの割合は1675℃で39%、1775℃で48%、1875℃で56%だった。高ドーズのPを入れた4H-SiCでは、Hall測定とSIMSの比から8割を超える活性化が見積もられている。Siのアニールが熱の上限の中で活性化と拡散の釣り合いを取るのに対し、SiCでは拡散がほぼ起きないかわりに、高ドーズのAlでは1800℃を超えても活性化が6割に届かない例がある。

SiC向けの高温注入機は、日新イオン機器、Applied Materials、アルバックなどが製品化している

Section titled “SiC向けの高温注入機は、日新イオン機器、Applied Materials、アルバックなどが製品化している”

SiC向けの高温注入は、装置の仕様として売られている。各社の製品説明から、例として3社の製品を並べる。

企業製品製品説明にある条件
日新イオン機器IMPHEAT-II室温〜500℃、大電流のAl⁺ビーム、4/6/8インチ
Applied MaterialsVIISta 900 3D150 mm・200 mmのSiCウェーハを静電チャックで加熱、最大60°の斜め注入
アルバックIH-860DSICSiC向けの量産用高温注入機

日新イオン機器のIMPHEAT-IIは5、室温から500℃までを受け持ち、SiCパワー半導体向けのAl注入ができる。同社は、高温でのスループットを業界最高とし、生産性に寄与する大電流のAl⁺ビームを特長に挙げる。

Applied MaterialsはVIISta 900 3D6に150 mmと200 mmのSiCウェーハ向けの構成を用意し、加熱注入をその中核の技術とする。同社は、SiCは結晶が密で硬く注入後にドーパントを拡散させにくいため、基板を加熱して拡散と活性化を最適化すると説明する。基板は独自の静電チャックで保持し、温度の均一性を上げ、ウェーハの反りを抑える。最大60°の斜め注入は、次世代のトレンチ構造向けだ。

アルバックは、パワー半導体向けの製品群にSiC向けの量産用高温注入機IH-860DSIC7を載せている。同社のSi向け中電流機SOPHIは、パワー半導体とIGBTで市場首位のシェアを持つ8と同社は説明する。

パワー半導体向けの注入機では、Axcelisも製品群Purion Power Seriesを持つ。2025年度の年次報告書によれば、Purion XEとEXEはパワー半導体のAl注入向けの高エネルギー機で、150 mmのSiCウェーハを扱える9。同じ報告書で、SiとSiCを合わせたパワー半導体分野全体は、2025年のシステム出荷額の55%を占めた。大電流機Purion H200 SiCは、2023年7月にWolfspeedへ評価機として出荷された10。Axcelisは同じ報告書で、競合にApplied Materials、住友重機械イオンテクノロジー、日新イオン機器、台湾のAdvanced Ion Beam Technologyなどを挙げる。

SiCでは、注入時のウェーハ温度も注入条件の一つになる

Section titled “SiCでは、注入時のウェーハ温度も注入条件の一つになる”

Siの注入では、イオン種、エネルギー、ドーズ量、角度の4つが主な設定になる。SiCではこれに、注入時のウェーハ温度が加わる。日新イオン機器によれば、加熱は欠陥の発生とアモルファス化の境目を変え、Roccaforteらの比較では、高ドーズで高温注入が電気特性を大きく改善した。そのうえ、活性化の割合はドーズ量とアニール温度で6割未満からほぼ完全まで変わる。こうした関係から、本ページの読みでは、SiCのシート抵抗はSiの換算では読めない。

Siでシート抵抗のずれをSIMSと比べて読む整理は、イオン注入の解説にまとめた。デバイス側の条件はロームの第5世代SiC MOSFET、パワー半導体の市場はパワー半導体の解説にある。

10件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10