コンテンツにスキップ

パワー半導体の世界シェアは日本4社を足しても16%|首位Infineonは1社で24%

パワー半導体とは、電気の電圧や電流の形を変え、流れを高速で入れたり切ったりする半導体だ。EVのモーター、太陽光発電、データセンターの電源など、電気を使う機器に広く入っている。この市場の首位はドイツのInfineonで、2025年の世界シェアは24.4%ある1。三菱電機、富士電機、ローム、東芝の日本4社を足しても15.8%で、Infineon1社を下回る。

日本勢が強いのは、シリコン(Si)を使うIGBTモジュールだ。一方、伸びが速い炭化ケイ素(SiC)の素子では欧米勢が上位を占め、2030年までに日本企業がSiCの上位3社へ入る可能性は低いとSemiMapは見る。2026年3月に始まったローム・東芝・三菱電機の統合協議で得られるのは、順位よりも、大口径の工場を3社の製品で埋められることだ。

パワー半導体は、電気を変換するスイッチである

Section titled “パワー半導体は、電気を変換するスイッチである”

EVは電池の直流を交流に変えてモーターを回し、充電器はコンセントの交流を直流に変えて電池へ送る。こうした変換回路の中で、パワー半導体は電流を高速で入れたり切ったりする。速いGaNの電源では、1秒に100万回近く2に達する。切り替えの速さと、そのときに熱として失う電力の少なさが、素子を比べる物差しになる。

素子の種類は主に3つある。パワーMOSFETは速く切り替えられ、電源回路で多く使われる。IGBTは高い電圧と大きな電流を扱え、モーター駆動や鉄道で使われる。ダイオードは電流を一方向にだけ流す。EVや鉄道では、これらのチップを放熱板や配線と一体にしたパワーモジュールとして組み込む。

次世代パワー半導体のSiCとGaNは、電圧と周波数で使い分ける

Section titled “次世代パワー半導体のSiCとGaNは、電圧と周波数で使い分ける”

素子の材料は長くSiだけだったが、いまは炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)が加わった。どちらもSiより切り替えの損失が小さく、速く切り替えられるので、次世代パワー半導体と呼ばれる。

3つの材料は、受け持つ電圧と周波数の範囲が異なる。STMicroelectronicsの製品区分では、SiC MOSFETは650〜2,200 V、IGBTは300〜1,700 V3を受け持つ。InfineonのGaNトランジスタは60〜700 Vで2、400〜500 kHzを超える高い周波数ではGaNが最も有利だと同社のアプリケーションノートは書く。Infineonの選定ガイドによれば、太陽光・蓄電用のインバーターは50 kHz未満で動き、従来はSi IGBTで作られ、SiCにすると効率が大きく上がる4。

縦軸を電圧、横軸をスイッチング周波数にとった図。Si IGBTは300〜1,700 Vで50 kHz未満、SiC MOSFETは650〜2,200 VでSi IGBTの右上、GaNは60〜700 Vで400〜500 kHzより高い周波数に位置する。用途はSi IGBTが鉄道・風力・モーター駆動、SiCがEV・急速充電・太陽光、GaNが充電器とサーバー電源。
SiCはSi IGBTより高い電圧と周波数へ、GaNはさらに高い周波数へ広がり、低い周波数で大電力を変換する用途にはSi IGBTが残る。

Infineon自身も、多くの用途でSiが選ばれ続ける5と見ている。2030年に向けてSiCへ移るのはEV、急速充電、太陽光、蓄電で、GaNへ移るのは車載充電器、充電器、5G基地局、サーバー電源だ。鉄道、風力、モーター駆動、家電はSiに残る。EVのモーターを回すインバーターでも、SiC MOSFETの比率が上がるとInfineonは見込む5。

パワー半導体の世界シェアは、Infineonが1社で日本4社の合計を上回る

Section titled “パワー半導体の世界シェアは、Infineonが1社で日本4社の合計を上回る”

2025年のメーカー別シェアは、ロームが統合協議の発表資料に載せたOmdiaのデータ1で次のとおりだ。この集計のパワー半導体は、パワートランジスタ(IGBTとMOSFETを含む)、整流・パワーダイオード、サイリスタを合わせたものである。

企業本社2025年シェア
Infineonドイツ24.4%
onsemi米国7.9%
STMicroelectronicsスイス5.4%
三菱電機日本5.0%
Silan(杭州士蘭微電子)中国4.9%
富士電機日本4.5%
BYD中国3.7%
ローム日本3.2%
東芝日本3.1%
Nexperiaオランダ2.9%
Vishay米国2.8%

市場の大きさは、Infineonが投資家資料に載せたOmdiaの別の集計で分かる。パワーディスクリートとモジュールの世界市場は2024年に328億ドルで、Infineonのシェアは17.4%だった5。この集計でもInfineonは2位onsemiの2倍を超える。

2025年のパワー半導体世界シェアの横棒グラフ。Infineon 24.4%、onsemi 7.9%、STMicroelectronics 5.4%、三菱電機 5.0%、Silan 4.9%、富士電機 4.5%、BYD 3.7%、ローム 3.2%、東芝 3.1%。日本4社を積み上げた棒は15.8%で、Infineonの24.4%を下回る。
日本4社のシェアを積み上げても15.8%で、首位Infineonの24.4%を下回る。

日本は上位11社に4社を入れており、社数では最も多い。ただ、どの社も5%以下で、規模では首位に大きく離される。2位のonsemiでさえInfineonの3分の1以下だ。Infineonは、Si、SiC、GaNの3材料すべてで自社の量産工場5を持つ。上位11社には中国のSilanとBYDも入った。

SiCパワー半導体のメーカーは、欧米勢が上位を占める

Section titled “SiCパワー半導体のメーカーは、欧米勢が上位を占める”

SiC素子の市場は、パワー半導体全体より速く伸びる。三菱電機がIR資料に載せたOmdiaの予測では、2023年から2028年の年平均成長率は、パワー半導体全体が14%、SiCが30%だ6。このため、日本勢の将来のシェアは、全体の順位よりもSiCでの位置で決まる。

TrendForceによれば、2023年のSiCパワー素子の売上は上位5社が91.9%を占め、首位はSTMicroelectronicsの32.6%だった7。2位以下はonsemi、Infineon、Wolfspeed、ローム8の順で、日本企業はロームだけだ。STは車載SiC MOSFETの主要な供給元で7、onsemiはSiC基板の半分以上を自社で作る。

SiCへ大きく投資した会社ほど、傷も深い。TrendForceが2024年にSiC材料の最大手7と呼んだWolfspeedは、2025年9月に米連邦破産法第11章の手続きを終え、負債を約70%減らした9。ロームは2026年3月期に、BEV市場の成長見通しが従来の想定を下回ったとして、SiC事業の固定資産を中心に1,936億円の減損損失を計上し、1,584億円の最終赤字となった10。三菱電機は2025年5月、パワーデバイスの設備投資を抑えて一部を2031年度以降へ延ばした6。

GaNパワー半導体は、まだ充電器中心の小さな市場である

Section titled “GaNパワー半導体は、まだ充電器中心の小さな市場である”

GaNパワー素子の市場は2023年に約2.7億ドルだった11。TrendForceはこれが2030年に約44億ドルへ伸び、充電器などの民生品以外の比率が23%から48%に上がると予測する。伸びる先は自動車、データセンター、モーター駆動だ。

GaNの素子はGaN HEMTと呼ぶ構造で作る。600〜650 V級では、シリコン基板の上にGaNの層を成長させた素子2が主流だ。InfineonやTexas Instrumentsが資源を振り向けたことで、市場の立ち上がりが速まるとTrendForceは予測する。

日本のパワー半導体メーカーは、IGBTモジュールで強く、統合で規模を取りに行く

Section titled “日本のパワー半導体メーカーは、IGBTモジュールで強く、統合で規模を取りに行く”

日本勢の強みは、SiのIGBTを組み込んだモジュールにある。三菱電機はOmdiaの集計でパワーモジュール市場の世界2位(2024年)で6、VSC型の直流送電(HVDC)向けパワーモジュールでは、同社の調べで2023年度の世界首位だ。富士電機は自社資料でIGBTモジュールの世界シェア3位とし12、IGBTとダイオードを1チップにまとめたRC-IGBTは国内外の電動車メーカーに採用実績がある。一方で富士電機の車載モジュールの売上に占めるSiCの比率は、2025年度の計画でも11%だ。

政府は、各社が別々に進めてきた投資を補助金でまとめる方向へ動いてきた。2023年12月、経済産業省はロームと東芝の共同計画を認定した。事業総額3,883億円に最大1,294億円を助成し、ロームがSiC、東芝がSiのパワー半導体に投資を集める13。富士電機もデンソーと共同で申請したSiCの供給確保計画12で認定を受けた。

2026年3月27日には、ローム、東芝、三菱電機が半導体事業の統合に向けた協議を始める基本合意14を結んだ。ロームの資料では、3社のパワー半導体を合わせたシェアは11.3%で世界2位になる1。三菱電機の漆間啓社長は4月28日、3社のパワー半導体事業を切り出して合弁会社を作りたい15と述べた。同じ日に、デンソーはロームへの買収提案を取り下げた16。

2030年に向けて、日本勢はSiのモジュールで勝ち、SiC素子の量では負ける

Section titled “2030年に向けて、日本勢はSiのモジュールで勝ち、SiC素子の量では負ける”

Infineonは、世界の自動車生産に占める電動車(xEV)の比率が2025年の約25%から2030年に約45%へ上がる5と見込む。BEV1台が使う半導体は約1,400ドルで、エンジン車の約750ドルの2倍近い。EVが増えるほどパワー半導体の需要は伸び、その中でSiCの比率が上がる。

この流れの中で、日本勢の勝ち負けは領域ごとに異なる。Si IGBTのモジュールでは、三菱電機がパワーモジュール世界2位、VSC型HVDC向けで首位にあり、富士電機のRC-IGBTも電動車に採用されている。Infineon自身が鉄道、風力、モーター駆動などSiの残る用途を多く挙げており、日本勢はこの領域で稼ぎ続ける。一方、2023年のSiC素子の売上では、ST、onsemi、Infineonが上位3社で、日本で唯一上位5社に入るロームは2026年3月期の減損で投資余力を削った。SemiMapは、この差が2030年までに縮む材料は乏しく、SiC素子の上位3社に日本企業が入る可能性は低いと判断する。

3社統合が実現しても、シェアの合計は11.3%で、Infineonの半分以下にとどまる。それでも、三菱電機は熊本泗水で8インチのSiCとSi 12インチへの大口径化6を進めている。SemiMapは、統合の価値はシェアの順位より、こうした大口径の工場を3社の製品で使えることにあると考える。次の判断材料は、3社が最終契約を結ぶ時期と、三菱電機の熊本泗水工場6とロームの宮崎工場でSiCの生産ラインがどこまで埋まるかだ。パワー半導体の業界で働く人や投資する人は、この2点で日本勢の位置づけを見直すとよい。

16件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  11. 11
  12. 12
  13. 13
  14. 14
  15. 15
  16. 16