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ダイヤモンド半導体の最初の市場は原発と通信|EV用でSiCと競うのは2030年代

ダイヤモンド半導体とは、人工的に合成した単結晶ダイヤモンドで作るトランジスタやダイオード、放射線検出器を指す。高い電圧に耐える力と熱を逃がす力が、シリコン(Si)やSiC、GaNを大きく上回る。それでも最初に製品になる用途は、電気自動車(EV)のパワー半導体ではない。2028年度に本格稼働する大熊ダイヤモンドデバイスの福島工場1が作る原発廃炉向けの検出器と、衛星や携帯基地局向けの高周波素子が先に市場へ出る。

EVでSiCと競うのは、早くても2030年代になる。いちばん大きな差はウェーハの大きさにある。SiCはWolfspeedが2022年に直径200 mmの量産工場を開いた2。一方、単結晶ダイヤモンドのウェーハは、2026年6月の時点で直径2インチ(50.8 mm)が量産準備の最終段階にある3。面積はSiCの約15分の1しかない。ダイヤモンドMOSFETを開発するPower Diamond Systemsも、実用化の目標を2030年代に置く4。

ダイヤモンド半導体は、耐圧と放熱でSiCとGaNを上回る

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バンドギャップが広い材料ほど、壊れずに耐えられる電界が強くなる。薄い層で高い電圧を支えられるので5、同じ耐圧なら電気抵抗を下げられる。ダイヤモンドのバンドギャップは5.6 eVで6、SiCの3.26 eV、GaNの3.39 eVより広い。壊れずに耐えられる電界の強さ(絶縁破壊電界)は10 MV/cmで、SiCの約3倍だ。

Si、SiC、GaN、酸化ガリウム、ダイヤモンドの物性を3つの横棒グラフで比べた図。バンドギャップはダイヤモンドが5.6 eVで最も広く、絶縁破壊電界は10 MV/cmで最も高く、熱伝導率は2,000 W/m·KでSiCの4倍、Siの約15倍。
ダイヤモンドはどの物性で他の材料を上回るか。耐圧の上限を左右するバンドギャップと絶縁破壊電界で最上位にあり、熱伝導率ではSiCの4倍に達する。

差が最も大きいのは熱伝導率だ。ダイヤモンドは2,000 W/m·Kで、SiCの500 W/m·Kの4倍、GaNの130 W/m·Kの約15倍になる。次世代パワー半導体のもう一つの候補である酸化ガリウムは、バンドギャップ4.8〜4.9 eVと耐圧ではダイヤモンドに近いが、熱伝導率は20 W/m·Kにとどまる。素子の発熱を逃がせることが、ダイヤモンドをほかの次世代半導体から分ける。

もう一つの特徴は、正孔(p型)で動くトランジスタの道があることだ。SiCやGaNでは、電子で動くnチャネル型と同等のpチャネル型トランジスタを作るのが極めて難しかった7。Power Diamond Systemsは2023年12月、pチャネル型のダイヤモンドMOSFETとnチャネル型のSiC MOSFETまたはGaN HEMTを組み合わせたインバーターを100 kHzで動かした。ダイヤモンドは、SiCを置き換える前に、SiCやGaNの相方として電源回路に入る道もある。

人工ダイヤモンドのウェーハは2インチが量産の入口で、SiCの200 mmとは面積で15倍の差

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半導体に使うのは人工ダイヤモンドで、メタンなどのガスから化学気相成長(CVD)で単結晶を積み上げる。Element Sixは、直径150 mmまでの多結晶ダイヤモンドを成長させるCVD設備を自社が最初に作ったとし、2000年代に単結晶品を製品化した8。Orbrayはサファイア基板の上に単結晶ダイヤモンドを成長させる方法で、直径55 mmまでの成長を示した。両社は2024年6月に提携した。

同じ縮尺の円でウェーハの直径を比べた図。SiCは200 mmで2022年に量産工場、酸化ガリウムは150 mmで2026年に試料出荷、ダイヤモンドは76.2 mmの結晶が2026年、50.8 mmのウェーハが量産準備、25.4 mmのウェーハが2025年に販売。
ダイヤモンドのウェーハはどれだけ小さいか。量産に最も近い2インチ品でも直径はSiCの約4分の1で、面積は約15分の1になる。

いま買えるダイヤモンドウェーハは小さい。イーディーピーは2025年2月に30 mm角の単結晶を製品化し、同年4月に1インチウェーハの販売を始めた9。OrbrayとElement Sixは2026年6月、直径3インチの結晶の生産技術を確立し、4インチ結晶の開発に着手した3と発表した。2インチウェーハは、Element Sixの米オレゴン州グレシャム工場で量産準備の最終段階にある。Orbrayによれば、4インチになれば既存の半導体製造ラインで扱える。

ほかの材料はすでに先を行く。SiCウェーハは200 mmの量産工場が2022年に動き、酸化ガリウムではノベルクリスタルテクノロジーが2026年3月に直径150 mmの基板の試料出荷を始めた10。直径200 mmのウェーハの面積は、2インチの約15倍、1インチの約62倍になる。ウェーハの面積にこれだけ差があると、物性で勝っても、EV用の価格競争ではSiCが有利なまま残る。

米Diamond Foundryは2023年10月、直径100 mm、110カラットの単結晶ダイヤモンドウェーハ11を発表した。同社は、高い熱伝導と絶縁性を持つ半導体基板として売り込み、AIチップの冷却を用途の筆頭に掲げる。大口径のダイヤモンドは、素子より先に、チップの熱を逃がす基板として使われ始める公算が大きい。

素子はアンペア級まで動いたが、まだ試作の段階にある

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ダイヤモンドのトランジスタは、2025年からアンペア級の電流で動き始めた。産総研は本田技術研究所との共同研究で、ハーフインチの単結晶基板に作った314個のp型MOSFETを並列につなぎ、電流2.5 Aで立ち下がり19ナノ秒、立ち上がり32ナノ秒のスイッチング12を2025年3月に示した。ダイヤモンドでアンペア級の高速スイッチングを示したのは、これが初めてだ。

Power Diamond Systemsは2026年3月、耐圧550 V、ドレイン電流0.8 AのMOSFETで200 V・1 Aのスイッチング13を実現した。同じ月には、ダイヤモンドMOSFETで降圧DC-DCコンバーターを連続して動かした14。小さな素子を数百個並べた産総研の試作に対し、こちらは素子1個で回路を動かしている。

それでも、EVの駆動に使うパワー半導体と比べると、規模はまだ小さい。ダイヤモンドの試作品は数百ボルト・アンペア級で、産総研の試作に使った基板はハーフインチだ。SiC MOSFETの量産品と同じ土俵に立つには、素子の大電流化とウェーハの大口径化が両方とも要る。

ダイヤモンド半導体のメーカー・企業は、日本の新興企業と素材会社が中心

Section titled “ダイヤモンド半導体のメーカー・企業は、日本の新興企業と素材会社が中心”

ダイヤモンド半導体の会社は、素子を作る新興企業と、ウェーハを作る素材会社に分かれる。素子側は大学や産総研の研究から生まれた日本の新興企業が多い。

会社・機関国作るもの規模・最近の動き
大熊ダイヤモンドデバイス15日本放射線検出器、素子、アンプ福島工場が2026年5月竣工、2028年度に本格稼働
ダイヤモンドセミコンダクター16(佐賀大学発)日本高周波デバイス2026年1月からサンプルの製造・販売
Power Diamond Systems4(早稲田大学発)日本p型ダイヤモンドMOSFET2026年3月に550 V・0.8 Aの素子
産総研・本田技術研究所17日本車載パワー素子の研究2026年2月に連携研究室を設置
イーディーピー9日本単結晶ダイヤモンド基板2025年4月に1インチウェーハを販売
Orbray・Element Six3日本・英国単結晶ダイヤモンドウェーハ2026年6月に3インチ結晶の生産技術
Diamond Foundry11米国単結晶ダイヤモンド基板2023年10月に100 mmウェーハ
旭ダイヤモンド工業18日本ウェーハ加工用のダイヤモンド工具SiC・GaNウェーハの研削ホイール

「旭ダイヤモンド工業 半導体」で調べる人も多いが、同社が作るのは半導体の素子ではなく、半導体のウェーハを削る道具だ。代表例は、SiCやGaNのウェーハを研削するダイヤモンドホイール「M-cloud」だ。ダイヤモンドを工具として使う会社で、ダイヤモンド半導体の素子とは別の事業になる。

素子側の研究は佐賀大学の嘉数研究室、早稲田大学、産総研が支える。大熊ダイヤモンドデバイスは産総研や北海道大学とダイヤモンド半導体社会実装推進コンソーシアム1を作った。

最初の製品は、原発と宇宙と通信のように放射線や高周波への強さが値段になる場所に出る

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最初の市場は、性能に高い値段がつき、数量が少ない場所だ。大熊ダイヤモンドデバイスは、廃炉作業員の安全管理や原子炉内の燃料デブリの情報を得るためのダイヤモンド検出器15から作り、宇宙、安全保障、次世代通信向けの素子とアンプへ広げる。福島工場の生産能力は年間数十万個1を見込み、従業員は2028年度に40人の計画だ。量産工場といっても、数量は小さく始まる。

通信では、佐賀大学発のダイヤモンドセミコンダクターが2026年1月からサンプルの製造・販売を始めた。ゲート電極を157 nmまで細くし、120 GHzまでの増幅16を確かめた。狙うのは、衛星の送信機や携帯基地局で今も真空管が使われている領域だ。佐賀大学は以前から、高出力と高周波を両立する領域をダイヤモンドで半導体に置き換えられる19と示してきた。

この順番は、ダイヤモンドの弱みと合っている。検出器や高周波素子は数量が少なく、真空管やほかの材料では届かない性能そのものが採用の理由になる。小さなウェーハしかない今の段階で売れるのは、こうした用途だというのがSemiMapの見立てだ。

EVのパワー半導体でSiCと競うのは2030年代で、合図は4インチウェーハ

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EV向けで、ダイヤモンドがSiCの市場を削り始めるのは2030年代になる。Power Diamond Systemsは2026年以降、EVや基地局の企業と組み、2030年代の実用化を目指すとしている4。ホンダの研究子会社は2026年2月に産総研内へ連携研究室を設け、3月にはイーディーピーとウェーハの大口径化と高品質化の共同研究で基本合意した9。自動車会社が、素子だけでなく基板の段階から関わり始めている。

この見立ては、次の3つで確かめられる。1つ目は、OrbrayとElement Sixの2インチウェーハが製品として出るか。2つ目は、4インチのウェーハが既存の量産ラインに流れるか。3つ目は、大熊ダイヤモンドデバイスの福島工場が2028年度に予定どおり本格稼働するかだ。Power Diamond Systemsがpチャネル型のダイヤモンドとnチャネル型のSiCやGaNを組み合わせた回路を開発していることから、EVで使われる最初の形はSiCの全面的な置き換えより、SiCと組む形になるとSemiMapは見る。

仕事として関わるなら、大熊ダイヤモンドデバイスはダイヤモンド半導体の研究員の求人を出している。SiCやGaNを含む各社の事業は半導体企業データベースで比べられる。

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