バンドギャップとは
バンドギャップとは、価電子帯の上端と伝導帯の下端のエネルギー差です。 電気を通すには電子がこの差を飛び越える必要があるので、その大きさが材料の耐圧と高温動作、吸収する光の波長に関わります。半導体はおよそ0.7〜6eVのバンドギャップを持つ材料です1。この1つの数字は材料名だけでは決まらず、同じSiCでも結晶の積み方で1eV近く動き、結晶の中の欠陥の所でも変わります。
電子の居場所は帯の中だけで、隙間は一気に飛び越える
Section titled “電子の居場所は帯の中だけで、隙間は一気に飛び越える”材料の中の電子が取りうるエネルギーは帯のようにまとまり、帯と帯の間には電子にとって禁じられた範囲があります。原子に束縛された状態の帯が価電子帯、材料の中を自由に動ける状態の帯が伝導帯です。電気を通すには電子が価電子帯から伝導帯へ移る必要があり、中間の値は禁じられているので、電子は隙間を一気に飛び越えます。飛び越えるのに要るエネルギーが、そのままバンドギャップの大きさです。
隙間が狭ければ常温でも一部の電子が上がり、広ければ上がりにくくなります。バンドギャップが0.05 eVしかない材料では、熱エネルギーで伝導帯へ上がった電子による雑音が多くなります2。
広いほど高い電圧と温度に耐え、動かす条件は厳しくなる
Section titled “広いほど高い電圧と温度に耐え、動かす条件は厳しくなる”バンドギャップが広い材料では、電子を伝導帯へ上げるのに大きなエネルギーが要ります。電子が上がりにくいので、強い電界をかけても電子がなだれのように増えにくく、温度が上がっても意図しない導通が起きにくくなります。これが高耐圧と高温動作の土台です。SiCは、絶縁破壊の電界強度がSiの10倍、バンドギャップが3倍広い材料です1。
その代わり、動作させるための条件も厳しくなり、材料そのものの加工も難しくなります。広さの代価は素子の特性にも出ます。ロームは、SiC MOSFETのボディダイオードのしきい値電圧が3V程度と高く、順方向電圧降下が比較的大きい理由を、SiCのバンドギャップがSiの3倍大きいことに置いています3。パワー半導体では広さが直接の利点になり、一般的な論理回路ではシリコン程度の幅が使いやすくなります。材料の選択は、どの性質を買いたいかで決まります。
原子の間隔が詰まった材料ほど、バンドギャップは広い
Section titled “原子の間隔が詰まった材料ほど、バンドギャップは広い”半導体のバンドギャップエネルギーは、一般に構成原子間の結合距離(原子半径)が小さいほど大きくなる傾向があります4。シリコンは1.1eV、炭素の結晶であるダイヤモンドは5.5eVで、SiCはその中間です。窒化ガリウム(GaN)の原子間距離は0.192nm、SiCは0.189nmと近く、バンドギャップエネルギーもGaNが3.4eV、4H型SiCが3.26eVと近い値になります。
ワイドバンドギャップ半導体は格子定数が小さく原子間の結合力が大きくなり5、これにより絶縁破壊強度や熱伝導度などが高くなります。バンドギャップは、その材料の原子の詰まり方を映した数字でもあります。
バンドギャップエネルギーが大きいことは、価電子帯から伝導帯への電子励起で電子-正孔対を作るのに要るエネルギーが大きいこと、言い換えれば絶縁破壊を生じる電界が大きいこと4の表れです。物性定数で比べると、バンドギャップはSi 1.12eV、4H-SiC 3.26eV、GaN 3.39eV、ダイヤモンド 5.47eVです。絶縁破壊電界強度EcはSi 3.0×10⁵ V/cm、4H-SiC 2.8×10⁶ V/cmです。2つを割ると、4H-SiCはSiに対してバンドギャップが約2.9倍、絶縁破壊電界強度が約9.3倍で、SiCについて言われる「3倍」「10倍」と同じ桁になります。
同じSiCでも、ポリタイプで1eV近く開く
Section titled “同じSiCでも、ポリタイプで1eV近く開く”SiCは、Si原子とC原子の組を最も密に積み重ねた結晶です。この積み重ね方(積層順)が異なる安定な結晶が多数あり、ポリタイプと呼びます4。代表的なものは3C型・4H型・6H型で、数字が積層の周期、Cが立方晶(Cubic)、Hが六方晶(Hexagonal)を表します。SiCは間接遷移型のエネルギー帯構造を持ち、ポリタイプごとにバンドギャップエネルギーが違います。
バンドギャップエネルギーは2H型3.33eV、3C型2.39eV、4H型3.26eV、6H型3.02eV、15R型2.99eVで、同じ「SiC」という3文字の中に1eV近い開きがあります。SiCのバンドギャップとして広く書かれる3.26eVは、4H型の値で、Siの約3倍にあたります。値そのものにも幅があり、3C型は三菱電機の表で2.39eV、東芝デバイス&ストレージの表で2.23eVです。材料名だけで数値を引くとこの差を踏むので、ポリタイプと出典をそろえて引くのが安全です。
電力変換用のパワーデバイスに使われるのは、通常この4H型です。三菱電機はその理由に、絶縁破壊電界強度が大きいことと、電気特性の異方性(方向によって性質が異なること)が小さいことを挙げています。市販のパワーデバイス用SiC基板はほとんどがn型の4H型で、デバイスは4°オフの(0001)面に作製されます。
バンドギャップの大きさが、光を吸収する境目の波長になる
Section titled “バンドギャップの大きさが、光を吸収する境目の波長になる”バンドギャップはeV(電子ボルト)というエネルギーの単位で書かれ、同じ量を光の波長へ換算した数字が光センサのカタログに載っています。Siフォトダイオードに光が照射され、その光エネルギーがバンドギャップエネルギーより大きいと、価電子帯の電子は伝導帯へ励起され、もとの価電子帯に正孔を残します6。光を電気に変える動作そのものが、バンドギャップを越える電子の行き来です。
その境目にあたるカットオフ波長(λc)は λc(nm)= 1240 ÷ Eg(eV)で、Eg はバンドギャップエネルギーです。Siの常温でのバンドギャップエネルギーは1.12eVなので、カットオフ波長は1100nmになります。Siフォトダイオードの感度が1100nm付近までなのは、1.12eVという値を波長の言葉に書き直した結果です。
短波長側の限界は、別の理由で決まります。短波長側のカットオフ波長は一般のSiフォトダイオードで320nm、紫外域用のSiフォトダイオード(S1226/S1336シリーズなど)で190nmで、Siフォトダイオード固有の物性と受光窓の波長透過率が決めます。長波長側の限界がバンドギャップの姿であるのに対し、短波長側の限界は受光窓と表面の作りが作ります。光検出器では、狭すぎるバンドギャップは熱による雑音の電子を増やすので、最適なバンドギャップは信号の電子と雑音の電子の釣り合いで決まる2とされています。
逆向きの変換も同じ数字に従います。化合物半導体の発光ダイオードが出す光は、その材料のバンドギャップで決まります7。LEDと違い、通常のSiダイオードが光らないのは、再結合のエネルギーが熱になるからです。
可視光のエネルギーは1.7eV〜3.3eVで、純度の高い4H型SiCの結晶は可視光に対し透明です4。一方、デバイスの作製に用いるSiC基板は高濃度のn型で、伝導帯にキャリアの電子が多く存在し、これらがバンド構造による特定のエネルギーの可視光を吸収するので、黄〜緑の色を示します。SiCウェーハの色は、バンドギャップとキャリアの量が肉眼に届いた姿です。
積層欠陥の所だけバンドギャップが狭まり、オン抵抗を押し上げる
Section titled “積層欠陥の所だけバンドギャップが狭まり、オン抵抗を押し上げる”バンドギャップは材料ごとの値でありながら、結晶の内部では場所によって差が生じます。SiC結晶の内部には、局所的にSi-C層の積層順に誤りが生じた結晶欠陥(積層欠陥)が存在することがあります4。積層順が異なれば伝導帯と価電子帯のエネルギーレベルも異なるので、4H型SiCの中に部分的に他の積層順が入り込むと、その領域は周囲よりもエネルギーギャップが小さくなり、井戸型ポテンシャル(周囲より低い、キャリアがはまり込むくぼみ)を作ります。
ここにバイポーラ電流(電子と正孔の両方が運ぶ電流)が流れると、キャリアである電子と正孔が捕獲され、SiCデバイスの電気伝導にオン抵抗の増加などの影響を与えます。デバイスの作製ではこれへの配慮が必要で、三菱電機は各種テストや独自のデバイス構造の設計などで対策しています。材料の選定でバンドギャップの値が決まり、結晶の作り込みでその値の一様さが決まります。積層順のわずかな乱れが、オン抵抗という測れる量に返ってきます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 材料の工程ページ── 工程分類と、この工程の公開求人
- 結晶成長の工程ページ── SiC基板を作る側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
- SiC MOSFETの約30%減は高温時のオン抵抗|ROHM発表、接合温度175°Cで比較── 広いバンドギャップを高温で使う製品の例
- ダイヤモンド半導体の最初の市場は原発と通信|EV用でSiCと競うのは2030年代── 5.47eVのダイヤモンドの使いどころ
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”バンドギャップとは何ですか?
価電子帯の上端と伝導帯の下端のエネルギー差です。電子がこの差を飛び越えて伝導帯へ上がると、材料は電気を通します。
価電子帯と伝導帯とは何ですか?
電子が取りうるエネルギーの帯です。価電子帯は原子に束縛された状態、伝導帯は材料の中を自由に動ける状態にあたり、電気を通すには電子が価電子帯から伝導帯へ上がる必要があります。
なぜ「隙間」なのですか?
その範囲のエネルギーが電子にとって禁じられているからです。電子は隙間を一気に飛び越えるしかなく、飛び越えるのに要るエネルギーがバンドギャップの大きさになります。
半導体のバンドギャップはどのくらいですか?
およそ0.7〜6eVです。Siは1.12eV、4H型SiCは3.26eV、GaNは3.39eV、ダイヤモンドは5.47eVです。
広いと何が変わりますか?
高い電圧と高い温度に耐えやすくなります。SiCは絶縁破壊の電界強度がSiの10倍、バンドギャップが3倍広い材料です。
広ければ広いほど良いのですか?
用途によります。広いほど電子を伝導帯へ上げるのに大きなエネルギーが要るので、動作させる条件も厳しくなります。ロームは、SiC MOSFETのボディダイオードの順方向電圧降下が比較的大きい理由を、SiCのバンドギャップがSiの3倍大きいことに置いています。パワー半導体では広さが利点になり、一般的な論理回路ではシリコン程度の幅が使いやすくなります。
SiCのバンドギャップは3.26eVで合っていますか?
4H型についてはその値です。ポリタイプごとに2H型3.33eV、3C型2.39eV、4H型3.26eV、6H型3.02eV、15R型2.99eVと異なり、電力変換用のパワーデバイスには通常4H型を使うので、3.26eVが代表値として広く書かれます。
バンドギャップの大きさは何で決まりますか?
一般に構成原子間の結合距離(原子半径)が小さいほど大きくなる傾向があります。ワイドバンドギャップ半導体は格子定数が小さく、原子間の結合力が大きい材料です。
バンドギャップを光の波長に直すといくつになりますか?
カットオフ波長λc(nm)= 1240 ÷ Eg(eV)で換算します。Siの常温でのバンドギャップエネルギー1.12eVはカットオフ波長1100nmにあたり、Siフォトダイオードの感度が1100nm付近までなのはこの関係によります。
SiCウェーハに色があるのはなぜですか?
純度の高い4H型SiCの結晶は可視光(1.7eV〜3.3eV)に対し透明ですが、デバイスの作製に用いる高濃度n型のSiC基板は伝導帯に電子が多く、これらがバンド構造による特定のエネルギーの可視光を吸収して黄〜緑の色を示します。
積層欠陥はバンドギャップに何をしますか?
4H型SiCの中に部分的に他の積層順が入り込むと、その領域は周囲よりもエネルギーギャップが小さくなり、井戸型ポテンシャルを作ります。ここにバイポーラ電流が流れるとキャリアである電子と正孔が捕獲され、オン抵抗の増加などの影響が出ます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 半導体とは── バンドギャップで3つに分類される
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- 2コーネル大学:ChemE 2200 講義資料 Q11duncan.cbe.cornell.edu ab
- 3ローム:SiC パワーデバイス・モジュール アプリケーションノートrohm.com ↩
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- 5東芝デバイス&ストレージ:FAQ「ワイドバンドギャップ半導体とは」toshiba.semicon-storage.com ↩
- 6浜松ホトニクス:技術資料「Siフォトダイオード」hamamatsu.com ↩
- 7東芝デバイス&ストレージ:ディスクリート半導体の基礎 第5章toshiba-semicon-storage.com ↩