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GaN(窒化ガリウム)とは

GaN(窒化ガリウム)とは、ガリウムと窒素からなる化合物半導体です。 1990年代に青色LEDとして使われ始め、バンドギャップが広く強い電界に耐えられるため、今はパワー半導体の材料になっています。速く切り替えられる代わりに熱を逃がしにくく、電流の通り道が最初からあるので「常にON」が出発点です。シリコン基板の上に作れることが、製造コストを左右します。

臨界電界がシリコンの一桁上なので、薄い層で高い電圧を支えられる

Section titled “臨界電界がシリコンの一桁上なので、薄い層で高い電圧を支えられる”

電力用の素子に求められるのは、まず高い電圧に耐えることで、耐えられて初めて回路に組み込めます。耐えられる電圧は、材料が壊れずに支えられる電界の強さで決まります。

材料バンドギャップ臨界電界電子移動度熱伝導率
GaN3.4 eV3.5 MV/cm2,000 cm²/Vs1.3 W/cmK
SiC3.3 eV2.2 MV/cm950 cm²/Vs3.7 W/cmK
Si1.12 eV0.23 MV/cm1,400 cm²/Vs1.5 W/cmK

臨界電界はGaNとSiCがシリコンの一桁上にあります1。表の値でGaNの3.5をSiの0.23で割ると、約15倍です。同じ電圧を支えるのに要る厚みが薄くて済み、厚みが薄ければそこを通る電流の抵抗も小さくなります。耐圧と低損失を同時に取れることが、ワイドバンドギャップ材料が選ばれる理由です。

電子の速さはGaN、熱を逃がす力はSiCが勝つ

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3材料の物性の位置
024024臨界電界(MV/cm)熱伝導率(W/cmK)円の面積=電子移動度Si1,400 cm²/VsSiC950 cm²/VsGaN2,000 cm²/Vs
GaNは臨界電界と電子移動度で3材料の先頭に立ちますが、熱伝導率はSiCの3分の1ほどで、シリコンよりも下にあります。

電子移動度はGaNが2,000、SiCが950 cm²/Vsで、倍以上の開きがあります。電子が速く動けるほど、素子は高い周波数で切り替えられます。

熱伝導率ではSiCが3.7、GaNが1.3 W/cmKで、GaNの1.3はシリコンの1.5よりも低い値です。速く切り替えればスイッチング損失は減りますが、残った損失の熱は逃げにくいままです。GaNの設計が放熱の設計と一体になるのは、この物性から来ています。

2次元電子ガスが最初からあるので、素子の出発点は「常にON」

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GaNのパワー素子は、シリコンのMOSFETとは電流の作り方が違います。GaN HEMTでは、GaNとAlGaNの界面で自発分極とピエゾ分極が合わさって2次元電子ガス(2DEG)ができ、抵抗の低い電流の通り道になります2。異なる2つの結晶の境目に、電子が薄いシートのように集まる層です。市販のGaNパワートランジスタはほぼすべて横型のAlGaN/GaN HEMTで、2DEGは外部バイアスなしに自然形成されます2。

何もしなければ電流が流れる素子は、電源を入れた瞬間に電流が流れてしまうので電源回路では困ります。そこで手当てをして、電圧を加えたときだけONになるノーマリーオフの状態を作ります。その方法には、単一ダイのエンハンスメントモードと、2ダイ構成のデプレッションモードという2つの選択肢があります1。

シリコンの上に作れるが、約17%の格子のずれを厚い遷移層で受け止める

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GaN-on-Siの断面
エピ層5〜7 µm薄いAlGaN層2DEG(通り道)GaN層グレーデッド層シード層格子不整合 約17%シリコン基板
GaNはシード層とグレーデッド層を介してシリコン基板に載ります。Infineonは、約17%の格子不整合のもとで反りや割れを防ぐ遷移層を育てると、エピ層は合計5〜7 µmになるとしています。

材料の性能と同じくらい製造コストを左右するのが、どこで作れるかです。GaNのエピ層はシード層とGaN・AlGaNのグレーデッド層を介してシリコン基板の上に形成され、その上の薄いAlGaN層が2DEGを作ります1。基板がシリコンであれば既存のシリコン向け設備を使える範囲が広がり、ウェーハの口径もシリコンで確立された大きさを使えます。専用の工場をゼロから建てる必要があるかどうかは、価格に直結します。

代わりに払うのがエピタキシャル層の難しさです。Infineonは、シリコンとGaNの間に約17%の格子不整合と約56%の熱膨張係数の不整合があるとしています3。冷却中にウェーハが反りや割れを起こさないよう、段階的なAlGaN層やAlN/GaN超格子といった厚く複雑な遷移層を育てる必要があり、エピ層の合計は5〜7 µmに達するとしています。SiC基板の上なら格子不整合は約3%で、熱膨張係数もGaNに近いとしています。

高速スイッチングを強みに、600V以下の電源で採用が始まった

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広いバンドギャップ、高い臨界電界、2DEGの組み合わせによって、寄生成分が小さくスイッチング時の損失が少ない高速の素子が作れると2、imecはしています。Texas Instrumentsは、ドライバを内蔵したGaN素子で最大150 V/nsのスルーレートが出せ、500 kHzを超える周波数で動かして磁性部品を最大60%小さくできるとしています4。同社の48Vから12Vへ降圧する2 kWのバスコンバータの参照設計は、48V入力でピーク効率98%超、全負荷効率97.5%としています。

産総研は、GaNの主戦場が600V以下であるとしており5、スマートフォン用の小型ACアダプタなど、600 V以下で高速スイッチングが求められる用途で採用が始まっている5と書いています。imecは、量産の突破口を2023年ごろに市場へ出たGaNの急速充電器としています。より高い電圧の領域では、耐圧と放熱の両方を持つSiCが向きます。

用途は電力変換だけではありません。Infineonは、RF向けのGaN-on-Siが無線信号を扱う高周波の線形増幅器として働くのに対し、電力変換向けのCoolGaNは高速にON・OFFを切り替えるスイッチとして働く点を両者の違いとしています。imecは、研究開発の中心を横型HEMT、双方向スイッチ、縦型GaN FETの3種類としています。

ボディダイオードがなく、わずかなノイズで壊れることが弱点

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降伏のしかた
GaN HEMT単体GaNドレインソースノイズ逃げ場なし降伏で即破壊ハイブリッド型GaNSiCダイオード非破壊の降伏約1.2 kV耐圧SiC側をわずかに低く設計
ボディダイオードを持たないGaN HEMTはノイズの逃げ場がなく、降伏すると通常そのまま壊れます。産総研のハイブリッド型では、耐圧をわずかに低くしたSiCダイオードで約1.2 kVの非破壊の降伏が起きます。

産総研は、GaN高電子移動度トランジスタがボディダイオードを欠いた構造であるため、回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収力が小さい5ことを課題としています。ノイズの逃げ場がなく、わずかなノイズで素子が壊れ、降伏すると通常は即座に破壊されるとしています5。シリコンのMOSFETが構造上ついでに持っていた逃げ道が、GaNには最初から欠けています。

産総研はこの対策として、SiCダイオードを組み合わせたハイブリッド型トランジスタを作りました。SiC側の耐圧をGaNよりわずかに低く設計したことで、SiCダイオードで非破壊のアバランシェ降伏が得られ、降伏電圧は1.2 kV程度だったとしています。構造が変われば、これまで無償で付いてきたものが消えます。新しい材料を入れる判断には、この点検が欠かせません。

GaNとは何ですか?

ガリウムと窒素からなる化合物半導体です。1990年代に青色LEDとして使われ始め、バンドギャップが広く強い電界に耐えられるため、今はパワー半導体の材料にもなっています。

シリコンと何が異なるのですか?

バンドギャップがGaN 3.4 eVに対しSi 1.12 eV、臨界電界がGaN 3.5 MV/cmに対しSi 0.23 MV/cmです。同じ厚みでも、GaNのほうがはるかに高い電圧に耐えられます。

SiCとどちらが優れているのですか?

得意が違います。電子移動度はGaN 2,000に対しSiC 950 cm2/Vsで、GaNのほうが電子が速く動きます。熱伝導率はGaN 1.3に対しSiC 3.7 W/cmKで、熱を逃がす力はSiCが大きく上回ります。

熱に弱いのですか?

熱の逃がしやすさでは不利です。GaNの熱伝導率1.3 W/cmKは、シリコンの1.5 W/cmKよりも低い値です。速く動かせることと、熱を逃がしやすいことは別の性質です。

どうやって電流を流すのですか?

2次元電子ガス(2DEG)を使います。GaNとAlGaNの界面で自発分極とピエゾ分極が合わさって2DEGができ、抵抗の低い電流の通り道になります。外から電圧をかけなくてもできるため、素子の出発点は常にONです。

シリコンの工場で作れるのですか?

作れる構成があります。GaNのエピ層はシード層とGaN・AlGaNのグレーデッド層を介してシリコン基板の上に作られ、既存の設備を使える範囲が広がります。Infineonは、シリコンとの間に約17%の格子不整合と約56%の熱膨張係数の不整合があり、反りや割れを防ぐ遷移層を育てるとエピ層の合計は5〜7 µmになるとしています。

弱点はありますか?

産総研は、GaN高電子移動度トランジスタがボディダイオードを欠いた構造であるため、回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収力が小さいことを課題としています。ノイズの逃げ場がなく、わずかなノイズで素子が壊れるとしています。

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