SiCのゲート酸化膜信頼性とは
SiCのゲート酸化膜信頼性とは、SiC MOSFETのゲート絶縁膜が、使用条件の電界と温度で何年持つかという問題です。 素子の耐圧より、この寿命が先に上限を作ります。SiCもSiと同じSiO2をゲート絶縁膜に使いますが、酸化膜との障壁が低く、界面に炭素由来の欠陥が残り、薄いドリフト層のぶん酸化膜へ高い電界がかかります。設計で決めるのは、酸化膜に許す電界の上限です。
SiCと絶縁膜の障壁はSiより低く、トンネル電流が膜を傷める
Section titled “SiCと絶縁膜の障壁はSiより低く、トンネル電流が膜を傷める”ゲート酸化膜が劣化する筋道は、障壁と電界で決まります。米国立標準技術研究所(NIST)は、金属やSiCと絶縁膜のバンドオフセットで主に決まる障壁の高さと、絶縁膜の中の電界によって、絶縁膜へトンネル電流が流れ、膜が劣化するとしています1。そのうえで、SiCとほとんどの絶縁膜のバンドオフセットはSiとの場合より小さいため、SiC系のデバイスはSi MOSより信頼性が低くなると予想されるとしています1。同じSiO2を使っても、下地がSiCに変わるだけで膜の寿命の前提が変わります。
炭素を含む下地では、界面の欠陥がチャネル抵抗を上げ、リークの足場になる
Section titled “炭素を含む下地では、界面の欠陥がチャネル抵抗を上げ、リークの足場になる”SiC MOSFETでは、ゲート酸化膜の界面制御が多くの研究開発機関の課題です2。Siを酸化した後に残るのはSiO2とSiですが、SiCは炭素を含むため、酸化の後も炭素に由来する欠陥が界面に残ります。サンケン電気は、原材料のカーボンに起因する不純物準位と固定電荷が界面に生じ、チャネル移動を妨げてチャネル抵抗を上げるとしています。同社は、ゲート酸化膜アニール(Post Oxidation Annealing)の条件を最適化してチャネル抵抗を下げることを目指しています。
界面準位の害は抵抗だけではありません。NISTは、SiCと酸化膜の界面準位をトンネルの足場と結び付け、ゲートのリーク電流を増やしトンネルの障壁に影響するとした研究がある1と紹介しています。欠陥を介して電子が膜へ抜けるトラップ支援トンネルの考え方です。
破壊電界が高いぶん、ドリフト層が薄くなり酸化膜の電界も上がる
Section titled “破壊電界が高いぶん、ドリフト層が薄くなり酸化膜の電界も上がる”4H-SiCの絶縁破壊電界はSiの約10倍で、同じ耐圧ならドリフト層の膜厚を約10分の1、不純物濃度を約100倍にします3。住友電気工業の設計例では、SiCの絶縁破壊電界を2.5 MV/cmとおくと、ガードリングを省いた構造では最外周部の最大電界強度が3.5 MV/cmに達します。ガードリングを設ければ内部の電界強度は最大でも2.0 MV/cmに下がり、1,200 Vの耐圧を保ちます。同社の高耐圧SiC MOSFETの試作は、耐圧3,590 V、特性オン抵抗14.2 mΩ·cm²です。素子側の電界が高いぶん、酸化膜へかかる電界も高くなります。
TZDBで破壊電界を、TDDBで寿命を測る
Section titled “TZDBで破壊電界を、TDDBで寿命を測る”ゲート酸化膜の寿命試験には、瞬時絶縁破壊(Time Zero Dielectric Breakdown: TZDB)と経時絶縁破壊(Time Dependent Dielectric Breakdown: TDDB)があります。TZDBはゲート酸化膜にかける電圧を段階的に高めて絶縁破壊が起きる電圧を測り、TDDBは一定の電圧をかけて故障率を測ります2。サンケン電気はGen.2トレンチ型のTZDBの結果から、酸化膜厚と破壊電圧をもとに最大電界強度Emax = 10 MV/cmと算出しました。
175 ℃で10年持たせる条件は、酸化膜電界7.9 MV/cm以下
Section titled “175 ℃で10年持たせる条件は、酸化膜電界7.9 MV/cm以下”サンケン電気は、Gen.1プレーナ型のTDDBの結果から、7.9 MV/cm以下の電界強度なら175 ℃環境下で10年保証できると見積もっています2。使用時の酸化膜電界を7.9 MV/cmより低く保つことが設計の条件になり、ゲート電圧の上限はここから逆算されます。
長期実働の信頼性試験として、同社はゲートバイアステストを実施中です。Gen.2トレンチ型の負バイアステストでは、1000時間の監視でしきい値電圧とオン抵抗の変動率が小さく収まりました。
許す電界の上限で、オン抵抗と寿命を交換する
Section titled “許す電界の上限で、オン抵抗と寿命を交換する”NISTは、ゲート酸化膜に許す最大電界に応じて、オン抵抗とSiC MOSの信頼性の間にトレードオフがあるとしています1。酸化膜を厚くすれば電界が下がり、寿命が延びます。そのかわりゲート容量が下がってチャネルの制御が弱まり、しきい値電圧が上がります。ゲート電圧を高くすればオン抵抗は下がるものの、酸化膜の電界が上がって寿命を削ります。トレンチ構造で面積効率を上げれば底へ電界が集まり、Deep P領域やラウンディングという工程が加わります。オン抵抗の値は、酸化膜に許した電界の上限と切り離せません。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SiC のゲート酸化膜信頼性とは何ですか?
SiC MOSFETのゲート絶縁膜が、使用条件の電界と温度で何年持つかという問題です。素子の耐圧より、この寿命が先に上限を作ります。
なぜ SiC で問われるのですか?
下地が炭素を含むことと、ドリフト層が薄いぶん酸化膜へ高い電界がかかることが重なるからです。NISTは、SiCと絶縁膜の間のバンドオフセットがSiより小さいため、Si MOSより信頼性が低くなると予想されるとしています。
界面には何が起きますか?
カーボンに起因する不純物準位と固定電荷が生じ、チャネル移動を妨げてチャネル抵抗を上げます。界面準位がトンネルの足場になり、ゲートのリーク電流を増やすという報告もあります。
TZDB と TDDB の違いは何ですか?
TZDBは電圧を段階的に高めて絶縁破壊の電圧を測る試験、TDDBは一定の電圧をかけ続けて故障率を測る試験です。
破壊電界はどのくらいですか?
サンケン電気はGen.2トレンチ型のTZDBの結果から、最大電界強度Emax = 10 MV/cmと算出しました。
寿命はどのくらいと見積もられていますか?
サンケン電気は、Gen.1プレーナ型のTDDBの結果から、7.9 MV/cm以下なら175 ℃環境下で10年保証できると見積もっています。
長期の試験もありますか?
ゲートバイアステストを実施中です。Gen.2トレンチ型の負バイアステストでは、1000時間でしきい値電圧とオン抵抗の変動率が小さく収まりました。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- SiC MOSFETとは── この問題を抱える素子
- ゲート酸化膜とは── 寿命が問われる膜
- 電圧加速とは── 寿命を短時間で測る考え方
- トレンチゲートとは── 底へ電界が集まる構造
3件を表示
- 1
- 2サンケン電気:技報 Vol.50 SiC-MOSFETの開発semicon.sanken-ele.co.jp abc
- 3住友電気工業:SEIテクニカルレビュー 第183号 高耐圧SiC MOSFETsei.co.jp ↩