コンテンツにスキップ

キャリア移動度とは

キャリア移動度とは、電界をかけたときに電子や正孔がどれだけ速く走るかを表す比例係数です。 同じ電界でも移動度が高いほどキャリアは速く走り、同じ電圧でより多くのドレイン電流が流れます。寸法を詰めるほど電流が増えるという関係を支えてきたのが、この量です。

ところが短チャネル効果を抑えるためにチャネルの不純物濃度を上げると、移動度は落ちます。チャネルの不純物は、短チャネル効果を抑える役と、走るキャリアを散乱させる役を兼ねているからです。移動度を取り返す手には、走る層を不純物イオンから離す方法と、ひずみでバンドの形を変える方法があります。

移動度は、キャリアが何にどれだけぶつかるかで決まる

Section titled “移動度は、キャリアが何にどれだけぶつかるかで決まる”
チャネルの中の散乱
ゲート絶縁膜キャリア不純物イオン格子振動界面の凹凸走る向き
キャリアは不純物イオンの近く、熱で振動する格子原子、絶縁膜との界面の凹凸で向きを変えられます。ぶつかる回数が増えるほど、同じ電界で走れる速さは落ちます。

キャリアは電界に押されて走る途中で、不純物イオンのつくる電位、格子の熱振動、ゲート絶縁膜との界面の凹凸に進行方向を散らされます。キャリアの移動度は、材料の中を進む間に受ける衝突の回数に反比例します1。

どの散乱が効くかは不純物の量で変わります。不純物が少ない半導体では、移動度はドープ濃度にあまり左右されず、主にフォノン散乱で決まります。ドープ濃度を上げると電子の平均自由行程が短くなり、移動度は下がります。フォノンの密度は温度とともに増えるので、温度を上げると移動度は落ちます。縦電界を上げるほど、界面の凹凸による表面ラフネス散乱が増えます。

基板濃度を上げて短チャネル効果を抑える手は、イオン化不純物散乱を増やし、チャネルの高不純物濃度化でキャリアの移動度が劣化します2。この手の代償は3つあり、しきい値電圧が全チャネル長で上がること、しきい値のばらつきが大きくなること、そして移動度の劣化です。

移動度は、抵抗率とホール測定を組み合わせて測る

Section titled “移動度は、抵抗率とホール測定を組み合わせて測る”

NISTは、移動度とシートキャリア密度の両方を決めるには、抵抗率の測定とホール測定の組み合わせが必要としています3。半導体のシート抵抗はvan der Pauw法で求めるのが便利で、伝導層の厚さddが分かっていれば、抵抗率はρ=Rs×d\rho=R_\mathrm{s}\times d、体積あたりの密度はn=ns÷dn=n_\mathrm{s}\div dで出せます。ホール測定では、移動度はキャリア濃度と一緒に決まります。

走る層を不純物イオンから離せば、散乱は小さく抑えられる

Section titled “走る層を不純物イオンから離せば、散乱は小さく抑えられる”
変調ドープの断面
AlGaAs ドープありイオン化ドナー二次元電子ガスGaAs ドープなし
ドナーはAlGaAs側に置き、電子はドープしていないGaAs側の界面近くを走らせます。走る電子とイオン化したドナーが離れているので、非常に高い移動度が得られます。

シリコンのMOSFETでは、チャネルの表面に代えて、表面から少し離れた領域の濃度を高くする方法があります。この不純物プロファイルをレトログレードプロファイルと呼びます。表面の濃度を低く保てるのでしきい値電圧が上がりすぎず、空乏層の伸びは高濃度領域で行き止まりになります。

キャリアが走るのは表面の反転層なので、そこの濃度が低ければイオン化不純物散乱は小さいまま収まります。空乏層を受け持つ層を深いところに別に用意し、走る層と深さ方向で分ける設計です。完全空乏型SOIやFinFETがチャネルドーピングを省ける構造なのは、この分離を極端まで進めた形にあたります。

化合物半導体では、同じ発想を材料の境目で実現しています。1978年、ベル研究所の3人の研究者が、それぞれ独立に、変調ドープしたAlGaAs/GaAsヘテロ接合で高い移動度を示しました1。移動度の高い電子はドープしていないGaAsの中に、イオン化したドナーから離れて局在するので、この二次元電子ガスでは非常に高い移動度が得られます。

ひずみはバンドの縮退を解き、キャリアを軽いバンドへ移す

Section titled “ひずみはバンドの縮退を解き、キャリアを軽いバンドへ移す”
22nm PMOSでのSiGeソース・ドレインの効果
飽和駆動電流(μA/μm)オフ電流(nA/μm)488639性能30%改善0.831.32シリコンSiGe S/DシリコンSiGe S/D
SiGeソース・ドレインで駆動電流は488から639μA/μmへ上がりましたが、オフ電流も0.83から1.32nA/μmへ上がりました。電流を稼いだ同じ操作で、オフのときに漏れる電流も増えています。

散乱を減らすかわりに、バンドの形そのものを変える手もあります。Si上のSi1-xGexのような間接遷移型では、[001]方向のひずみによってxy面にあるXバンドとz方向にあるXバンドがエネルギー的に分離します4。静水圧応力成分は価電子帯を動かし、せん断応力成分は結晶の対称性を下げてΓ点の価電子帯の縮退を解きます。縮退が解ければキャリアは軽いバンドへ集まり、同じ電界でより速く走ります。

ソース・ドレインのSiGeは新しい手ではありません。Intelは2003年、90 nmノードで既にソース・ドレインへSiGe合金を使っていました5。掘り下げたソース・ドレインを選択エピタキシャル成長で埋め、チャネルに一軸のひずみを作ります。課題は、SiGe膜のひずみが成長条件のばらつきに左右されることです。

中国科学院微電子研究所のグループが2017年に公開した22nm PMOSでは、SiGeのソース・ドレインを入れた素子の飽和駆動電流が488から639μA/μmへ上がり、従来のシリコン素子より30%性能が改善しました。同じ素子でオフ電流は0.83から1.32nA/μmへ上がっています。ひずみシリコンが寸法を触らずに電流を稼げるのは、この経路です。

圧縮は正孔を、引張は電子を速くするので、pFETとnFETで力の向きが逆になる

Section titled “圧縮は正孔を、引張は電子を速くするので、pFETとnFETで力の向きが逆になる”

同じウェーハの上で、pFETには両隣に埋めたSiGeで内向きの力を、nFETには被せた応力膜で外向きの力を作り込みます。力の出どころは、ソース・ドレインへ埋めるSiGe、ゲート上へ被せるストレスライナー、高応力膜を被せて熱処理する応力記憶技術です。どの方法でも、効果はチャネルの格子がどれだけ伸縮したかという1つの量へ集約されます。

移動度で稼ぐ電流は、短チャネル効果の余裕かオフ電流と引き換えになる

Section titled “移動度で稼ぐ電流は、短チャネル効果の余裕かオフ電流と引き換えになる”

キャリア移動度を上げて得られるのは、寸法を詰めずに済む駆動電流です。差し出すのは、濃度を下げれば短チャネル効果の余裕、ひずみで稼げば同じ向きに上がるオフ電流と、pFETとnFETで逆向きの応力を作り込む工程数です。プロセス担当は、散乱を減らす手とバンドを動かす手のどちらで稼ぐかを、世代ごとに選定します。

キャリア移動度とは何ですか?

電界をかけたときにキャリアがどれだけ速く走るかを表す比例係数です。同じ電界でも移動度が高いほど速く走り、同じ電圧でより多くの電流が流れます。

何にぶつかると落ちますか?

代表的なのは3つです。不純物イオンとのイオン化不純物散乱、格子振動との格子散乱、そしてゲート絶縁膜との界面の凹凸による表面ラフネス散乱で、移動度はぶつかる回数に反比例します。

チャネル濃度を上げるとどうなりますか?

落ちます。チャネルの高不純物濃度化は、イオン化不純物散乱を増やして移動度を劣化させます。短チャネル効果を抑える操作が、そのまま移動度を削ります。

ひずみで上げられるのはなぜですか?

バンドの縮退が解けるからです。Si上のSi1-xGexのような間接遷移型では、[001]方向のひずみによってxy面にあるXバンドとz方向にあるXバンドがエネルギー的に分離します。

どのくらい効果がありますか?

中国科学院微電子研究所のグループが2017年に公開した22nm PMOSでは、SiGeソース・ドレインを入れた素子の飽和駆動電流が488から639μA/μmへ上がり、従来のシリコン素子より30%性能が改善しました。同時にオフ電流も0.83から1.32nA/μmへ上がっています。

電子と正孔で違いますか?

違います。押し縮める圧縮ひずみは正孔を、引き伸ばす引張ひずみは電子を流れやすくします。同じウェーハ上でpFETとnFETに逆向きの応力を作り込むのは、このためです。

温度を上げるとどうなりますか?

格子振動が激しくなるため、格子散乱が増えて移動度は落ちます。一方、イオン化不純物散乱は温度が上がるほど弱まる向きに働きます。

5件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5