リモート界面層スカベンジングとは
リモート界面層スカベンジングとは、high-k膜の下にできるSiO2界面層の酸素を、高k膜から離して金属電極の中に入れた元素に奪わせ、界面層を薄くする技術です。 界面層が薄くなるぶん、ゲートスタック全体の容量換算膜厚(EOT)が下がります。ただし界面層は削るほど信頼性と移動度の余裕も減り、IBMのAndoによる総説は、0.1nm削るごとにBTI寿命が50〜100分の1になると見積もっています。この方法の価値は、界面層を消し切ることではなく、狙った厚さで止められることにあります。
EOTは界面層と高k膜の和で、高k膜を薄くする余地は小さい
Section titled “EOTは界面層と高k膜の和で、高k膜を薄くする余地は小さい”high-k膜と金属ゲートのスタックは、SiO2系の界面層、高k膜、金属ゲート電極の順に重なり、2つのキャパシタを直列に並べた回路とみなせます。Andoの総説(Materials, 2012年)は1、全体のEOTを界面層の寄与と高k膜の寄与の和で表しています。
同じ総説によると、厚いHfO2はゲートファースト、ゲートラストのどちらの工程でも移動度と電荷トラップを大きく悪化させるため、第1世代のHKMGデバイスはすでに可能な限り薄い高k膜を使っています。残る手段は、HfO2より誘電率の高い材料を入れる、界面層の誘電率を上げる、界面層の物理膜厚を減らす、の3つです。
Maらの論文は2、高k膜の成膜中やその後の高温アニール中に薄いSiO2的な界面層が成長し、高k膜を使う利点を小さくすると述べています。熱を短くして成長を抑える方向もあり、ミリ秒アニールは界面層の成長を抑え、等価酸化膜厚を薄く保ちます。スカベンジングは逆に、できた界面層を後から削る方法です。
Si + MxOy → M + SiO2 のΔGが正の元素なら、界面層の酸素を奪える
Section titled “Si + MxOy → M + SiO2 のΔGが正の元素なら、界面層の酸素を奪える”元素の選び方には熱力学の指針があります。Andoの総説は、Si + (2/y)MxOy → (2x/y)M + SiO2 の反応の1000Kでのギブズ自由エネルギー変化を使います。この値が正の元素Mをゲートスタックに入れると、SiO2を保つより金属酸化物MxOyを作るほうがエネルギー的に得になり、これが界面層を減らす駆動力になります。界面層の分解は、SiO2が分解してSi原子がチャネルに再び取り込まれる形で進むと報告されています。
同じ総説によると、初期のメタルゲート開発で調べられたWやTaNはこの値が負で、高温の活性化アニールで界面層がかえって成長しました。TiNはわずかに正で、ポリSiと比べて少しだけEOTが下がります。この中立に近い性質が、TiNが業界で標準の電極材料として広く受け入れられた主な理由である可能性を、総説は挙げています。
IBMの特許US7989902B23も同じ基準を示し、候補としてAl、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Dy、Lu、Er、Pr、Ceを挙げています。さらに、スカベンジング元素の酸化物が、上下に接する金属層の酸化物より作られやすいことも条件にしています。実施例では、2層のTiNのあいだにAlの層を挟む構成を示しています。
元素を高k膜から離すと、移動度とリークの余分な劣化を避けられる
Section titled “元素を高k膜から離すと、移動度とリークの余分な劣化を避けられる”Andoの総説は、スカベンジング元素の位置で手法を2つに分けています。直接スカベンジングは元素を高k膜の中に取り込み、リモートスカベンジングは元素を高k膜から隔てた位置にドープします。初期の研究は、金属を高k膜に直接かぶせる方法や、化学量論からずれたHfO2を成膜する方法で、直接スカベンジングに当たります。
直接スカベンジングは弱い駆動力でも反応が進み、Tiのような比較的弱い元素でもEOTを大きく下げられます。その代わり、スカベンジング金属の仕事関数の低さや固定電荷・界面ダイポールによって実効仕事関数が変わり、移動度の劣化とリーク電流の増加も大きくなります。
リモートスカベンジングでは、熱的に安定なTiN電極の中で、高k膜とTiNの界面から一定の距離をとった位置に元素をドープします。総説によると、元素が電極の中にとどまったまま界面層が減るので、移動度とリーク電流の変化は界面層が薄くなる分の本来の変化にとどまり、実効仕事関数も保たれます。IBM Researchも、リモート方式は従来の界面層の薄膜化の方法と比べてキャリア移動度とゲートリーク電流で有利で、余分な電荷や界面の劣化を持ち込まずにEOTを下げられるとしています4。
別の方法として、約2nmの薄いTiN電極に、雰囲気からの酸化を防ぐSiキャップをその場で重ねる手法もあります。Maらは、HfO2の上にTiのスカベンジング層とTiNのバリア層を重ね、600℃のRTAで界面層が効果的に取り除かれ、HfO2中のTiはごくわずかであることを、高分解能の電子顕微鏡とX線光電子分光で示しています。
反応は400〜600℃で進み、Laキャップの拡散はそれより高い温度を要る
Section titled “反応は400〜600℃で進み、Laキャップの拡散はそれより高い温度を要る”Andoの総説が示すデータでは、ドープしたTiN電極を成膜した後の最高温度を400℃から1000℃まで振り1、EOTの低下が400〜600℃で起きることを示しました。EOTの低下の大半は600℃までに済み、1000℃まで上げても変化はわずかでした1。この温度域は、HfO2中の酸素空孔が動けるようになる温度と重なります。反応の駆動力が十分に大きい元素を使う場合に限り、400〜600℃が反応のしきい温度になりうると総説は述べています。駆動力が小さいTiNでは、酸素を奪う反応そのものが律速になり、1000℃以上の熱処理が必要です1。反応が遠く離れた位置で進む理由について、総説はHfO2中の酸素空孔が界面層からTiN電極への酸素輸送を仲介する1と推測しています。
しきい値の調整に使うダイポール層は、別の温度で動きます。総説によると、La・AlのキャップがHfO2を通り抜けてSiO2界面層に届くには少なくとも800℃が要り1、届いた後は300℃程度の熱でダイポールが活性化します1。総説は、キャップによるフラットバンド電圧の調整とリモートスカベンジングによるEOTの低下が両立し、それぞれ独立に制御できるとしています1。
EOTは0.42nmまで下がり、SiGeチャネルでも0.5nmを切った
Section titled “EOTは0.42nmまで下がり、SiGeチャネルでも0.5nmを切った”Andoの総説の比較表では、ドープしたTiN電極で、1000℃の工程後にHfO2単独でEOT 0.54nm、Laキャップと組み合わせると0.42nmです。600℃までの工程では0.49nmが報告されています。IBM Researchは、この0.42nmをHfO2系のMOSFETで記録的なEOT5と位置づけています。総説はまとめとして、リモートスカベンジングはEOTを0.5nm未満まで下げられるとしています。
チャネル材料を変えても使えます。IBM ResearchのFrankらの論文は6、ひずみSiGeチャネルのゲートファーストpFETで、金属をドープしたTiNゲートによるリモートスカベンジングを使い、反転膜厚0.86nm(EOT 0.45〜0.5nm相当)に到達しました。
界面層を0.1nm削るごとに、BTI寿命は50〜100分の1になる
Section titled “界面層を0.1nm削るごとに、BTI寿命は50〜100分の1になる”EOTを下げた代償は信頼性に出ます。Andoの総説が引用する寿命の見積もりは、界面層の厚さを変えたSiO2/HfO2スタックをゲートファーストとゲートラストの両方で作った試料にもとづき、BTI寿命は界面層を0.1nm削るごとに50〜100分の1になると見積もっています。TDDB寿命も大きく下がります。寿命の傾向が工程によらず似ていることから、総説はこれがSiO2/HfO2の積層そのものの性質から来ると見ています。
移動度も界面層の厚さに強く依存します。総説によると、リモートスカベンジングの実験データは、界面層の厚さと、遠隔フォノン散乱・遠隔クーロン散乱で決まる移動度のあいだに一直線のトレードオフを描きます。IBM Researchは、La入りのhigh-kで見られる移動度の低下はLaダイポールではなく界面層を薄くしたこと自体によるもので、Alダイポールは移動度をさらに下げる5と報告しています。FrankらのSiGe pFETでも、界面層を薄くするとしきい値電圧が上がり、正孔移動度が下がり、NBTIが界面層の厚さに対して指数関数的に依存することが示されました。
総説は結論で、界面層をゼロまで削ると実効仕事関数の制御を失い、信頼性にも大きな不利が出るとしています。界面層を完全に削り切ると、La・Alキャップによる実効仕事関数の制御も効かなくなります1。スカベンジング元素の量やTiNの厚さで最終的な界面層の厚さを調整できる点が、この方法の利点です。総説は、0.5nm未満の極薄領域で界面層の厚さを精密に制御することが、性能と信頼性を両立させる鍵だと結論づけています。積層全体の構成はゲートスタックにまとめています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”リモート界面層スカベンジングとは何ですか?
high-k膜とSiのあいだにできるSiO2界面層の酸素を、高k膜から離して金属電極の中に入れたスカベンジング元素に奪わせ、界面層を薄くして容量換算膜厚(EOT)を下げる技術です。
なぜ界面層を薄くする必要があるのですか?
ゲートスタックのEOTは界面層と高k膜の寄与の和です。HfO2を厚くすると移動度や電荷トラップが悪化するため、第1世代のHKMGで高k膜はすでに最も薄い厚さになっており、界面層を薄くすることがEOTを下げる手段の1つになります。
どんな元素を使いますか?
Si + MxOy → M + SiO2 の反応の1000Kでのギブズ自由エネルギー変化が正になる元素Mを選びます。IBMの特許はAl、Ti、Hf、Laなどを挙げ、TiN層のあいだにAlを挟む構成を実施例に挙げています。
直接スカベンジングとの違いは何ですか?
直接スカベンジングは元素を高k膜の中に入れるので、仕事関数の変化や移動度の劣化、リーク電流の増加が起きます。リモートスカベンジングは元素を高k膜から離して電極の中にとどめたまま、界面層を薄くします。
どこまでEOTが下がりましたか?
IBMはドープしたTiN電極とLaキャップを組み合わせてEOT 0.42nmを報告しています。SiGeチャネルのpFETでも、反転膜厚0.86nm(EOT 0.45〜0.5nm)に達しました。
弱点は何ですか?
信頼性と移動度です。Andoの総説は、界面層を0.1nm削るごとにBTI寿命が50〜100分の1になると見積もり、TDDB寿命も大きく下がるとしています。SiGe pFETの研究では、しきい値電圧の上昇と正孔移動度の低下も報告されています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 界面層とは── スカベンジングで薄くする対象の層
- ダイポール層とは── 界面層と高k膜のあいだでしきい値電圧を調整する層
- 容量換算膜厚(EOT)とは── 薄層化の成果を表す指標
- high-k膜とは── 界面層の上に重ねる高誘電率膜
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- 3米国特許 US7989902B2「Scavenging metal stack for a high-k gate dielectric」(IBM)patents.google.com ↩
- 4IBM Research:Hf系high-kゲート絶縁膜で5Å未満のEOTを狙った研究と移動度への影響research.ibm.com ↩
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