LNA(低雑音増幅器)とは
LNA(低雑音増幅器)とは、受信機の最前段で、弱い受信信号へ自前の雑音をできるだけ足さずに利得を与える高周波増幅器です。 Low Noise Amplifierの略で、日本語では低雑音増幅器と呼びます。初段の利得が十分に大きければ、受信機全体の雑音指数はLNAの雑音指数でほぼ決まります。
ただし三次相互変調ひずみは後段の回路が支配するので、利得は高ければよいわけではありません。強い電波のもとでは、受信フロントエンドの利得をあえて下げます。
最初に信号へ触れる能動素子がLNAで、全体の雑音指数を決める
Section titled “最初に信号へ触れる能動素子がLNAで、全体の雑音指数を決める”モバイル通信用受信機の基本構成では1、高周波の帯域通過フィルタ(BPF)で帯域外の干渉妨害波を抑えたあと、低雑音増幅器(LNA)で受信信号を増幅し、受信ミクサで中間周波数(IF)へ変換します。アンテナから数えて、能動素子として最初に信号へ触れるのがLNAです。
最前段に置く理由は、多段の増幅器を並べたときの雑音の足し算にあります。N段回路の総合雑音指数の式では、初段回路の利得が十分に大きい場合、後段回路の雑音性能にかかわらず全体の雑音指数が初段回路の雑音指数と等しくなります2。そのため初段回路にはある程度高い利得が必要で、LNAには雑音指数の良さと合わせて十分な利得の高さも要ります。
受信機全体の雑音指数には、送受共用器の損失とLNAの雑音指数および利得が支配的です。基地局などの通信設備では、サービスエリアを広げる目的で、超伝導フィルタや冷却LNAを組み合わせた超低雑音の受信機を使う場合があります。
雑音は前段が支配し、ひずみは後段が支配する
Section titled “雑音は前段が支配し、ひずみは後段が支配する”三次相互変調ひずみのインターセプト点IIP3を縦続の式で見ると、受信回路全体のIIP3には後段の回路の三次ひずみ特性が支配的です。受信フロントエンドでは受信ミクサが最後段に立つため、そのミクサの三次相互変調ひずみが受信機全体のIP3を左右します。
同じ1本の信号経路の中で、雑音指数は前へ、三次相互変調ひずみは後ろへ、支配する側が逆を向いています。LNAの利得を上げれば、雑音の面では初段の性能で全体が決まる一方、後段の回路へ届く信号は大きくなります。そこで高レベルの希望波が入力したときには、受信フロントエンドを低利得とするようAGC(自動利得制御)を動作させ、感度の劣化を回避します。
雑音指数の下限は、トランジスタの材料と寸法で決まる
Section titled “雑音指数の下限は、トランジスタの材料と寸法で決まる”LNAの能動素子には、GaAs-HEMT(PHEMT)、InP-HEMT、mHEMT、GaAs-HBT、InP-HBT、Si-Bipolar、SiGe-HBT、CMOSが使われます。FET系のデバイスはマイクロ波帯の雑音性能に優れるのが一般的とされ、衛星放送の受信器にはPHEMTが最もよく使われます。バイポーラ系には、入力インピーダンスが低く、整合回路を組みやすいという利点があります。
基本的にはゲートフィンガ長が短いほど雑音指数が改善されますが、寄生容量が増えることによる利得の低下なども勘案して、寸法は総合的に決まります。ゲートフィンガ長は、化合物半導体トランジスタで概ね10〜40 μm、CMOSトランジスタで概ね0.5〜4 μmです。
60 GHz帯の試作例では、材料の違いがそのまま数字に出ます。InP-HEMTプロセスで作った低雑音増幅器MMICは、チップサイズ2.5 mm×1.15 mm、各段のゲートフィンガ長40 μm、総ゲート幅80 μmで、60 GHzにおいて雑音指数2.0 dB、利得22.1 dBを得ています。90 nm CMOSプロセスで作ったものは、チップサイズ1.3 mm×0.7 mm、ゲートフィンガ長1 μm、総ゲート幅40 μmで、63 GHzにおいて雑音指数5.7 dB、利得13 dB、消費電力27 mWを得ています。
InP-HEMTおよびmHEMTを使った低雑音増幅器は、固体素子を使った集積回路として最も雑音性能に優れるとされ、利得が高いために350 GHz程度までの動作が報告されています。GaAs-HEMT(pHEMT)は、およそ100 GHzまでの周波数帯で広範に使われます。
安価なCMOSのRFICでも、LNAは例外として残った
Section titled “安価なCMOSのRFICでも、LNAは例外として残った”雑音特性やひずみ特性への要求が比較的ゆるい無線LANでは、LNAとHPA(高出力増幅器)を除いて、5 GHz帯までは安価なCMOSプロセスで作ったRFICが使われるようになっています3。雑音指数を背負う増幅器と、大きな電力を担う増幅器の2つが、その例外にあたります。
三菱電機が0.35 μm SiGe BiCMOSプロセスで試作した5.8 GHz帯のETC車載器用RFICは、受信部の雑音指数11.2 dB、入力換算した1 dB利得圧縮電力−33.1 dBmでした。同じプロセスのDSRC車載器用RFICは、受信時の雑音指数6.2 dB、入力換算した1 dB利得圧縮電力−34.5 dBmです。雑音指数と利得圧縮の値が対で並ぶところに、前段の雑音と後段のひずみを同じ表で比べる設計の姿が出ています。
基板の中のノイズも、LNAを通じて受信感度を下げる
Section titled “基板の中のノイズも、LNAを通じて受信感度を下げる”スマートフォン内では、Wi-Fiモジュールから電源ラインへ漏れたノイズが各RF回路へ流れ込み、受信用のLNAのSN比を悪化させ、最終的に受信感度が劣化します4。村田製作所は、Stick PCをテレビへ挿してHDMI通信を行ったときのWi-Fi受信感度(36ch)を、HDMI信号なしで−74 dBm、HDMI信号ありで−70.4 dBmと測り、3.6 dB悪化したとしています。LNAの雑音指数を下げる作業と、基板の上でノイズの伝わる道を断つ作業は、受信感度という同じ1つの数字へ向かいます。
村田製作所は、高周波モジュールを、無線機器のアナログ高周波回路を各種キーデバイスごと小型のパッケージへ集積した電子部品ユニットとしています5。その中身は、表面波フィルタのような受動デバイスに加え、送信側の高出力増幅器(PA)、受信側の増幅器(LNA)、アンテナを切り替えるスイッチという半導体デバイスです。スマートフォンの中でLNAは、単体の部品というより、この集積されたモジュールの一部として載っています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”LNAとは何ですか?
受信機の最前段で、弱い受信信号へ自前の雑音をできるだけ足さずに利得を与える高周波増幅器です。Low Noise Amplifierの略で、日本語では低雑音増幅器と呼びます。
なぜアンテナのすぐ後ろにあるのですか?
多段の増幅器を並べたときの全体の雑音指数が、初段の性能でほぼ決まるためです。初段回路の利得が十分に大きい場合、後段回路の雑音性能にかかわらず全体の雑音指数は初段回路の雑音指数と等しくなります。
雑音指数が良ければ、利得は低くてもよいのですか?
初段回路にはある程度高い利得が必要で、LNAには雑音指数の良さと十分な利得の高さの両方が求められます。利得が低いと、後段の雑音がそのまま全体へ足し込まれます。
では利得は高いほどよいのですか?
ひずみの側では逆向きになります。受信回路全体のIIP3には後段の回路の三次ひずみ特性が支配的で、高レベルの希望波が入力したときには受信フロントエンドを低利得とするようAGCを動作させ、感度劣化を回避します。
どんなトランジスタで作りますか?
GaAs-HEMT(PHEMT)、InP-HEMT、mHEMT、GaAs-HBT、InP-HBT、Si-Bipolar、SiGe-HBT、CMOSが使われます。FET系のデバイスはマイクロ波帯の雑音性能に優れるのが一般的とされ、衛星放送の受信器にはPHEMTが最もよく使われます。
CMOSでLNAを作れますか?
作れます。90 nm CMOSプロセスで作った60 GHz帯の低雑音増幅器MMICは、63 GHzで雑音指数5.7 dB、利得13 dB、消費電力27 mWを得ています。CMOSの雑音指数は化合物半導体に劣りますが、微細化の進展に従った性能向上が期待されています。
基板の中のノイズもLNAに関係しますか?
関係します。Wi-Fiモジュールから電源ラインへ漏れたノイズが各RF回路へ流れ込むと、受信用のLNAのSN比が悪化し、最終的に受信感度が劣化します。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”5件を表示
- 1電子情報通信学会:知識の森 4群1編11章 受信機(伊東健治、2009年1月受領)ieice-hbkb.org ↩
- 2電子情報通信学会:知識の森 10群7編3章 MMIC要素回路技術(丸橋建一、2009年8月受領、2013年公開)ieice-hbkb.org ↩
- 3三菱電機:技報 Si高周波集積回路技術(2010年11月)giho.mitsubishielectric.co.jp ↩
- 4村田製作所:5GHz帯のノイズ問題とノイズ対策article.murata.com ↩
- 5村田製作所:企業情報 高周波・通信corporate.murata.com ↩