ノイズとは
ノイズとは、本来の信号に重なってしまう、余計な変動です。 外から来る雑音は遠ざけたり囲ったりすれば振れ幅が縮みますが、素子の中から湧く雑音には温度と電流で決まる下限が残ります。
先が読めないことが、雑音の特徴になる
Section titled “先が読めないことが、雑音の特徴になる”雑音と呼ばれる波形をオシロスコープで観測すると、規則性が見当たらず、映っている部分から他の部分を推し量ることが難しく1、この推し量れなさが雑音を特徴づけます。裏を返せば、きれいに繰り返す妨害は、ノイズというより別の信号として扱えます。
雑音は発生源でも分けられ、機器の内部から発生する雑音を内部雑音、機器の外部から到来する雑音を外部雑音と呼びます。外から来るものには、遠ざける・囲う・濾すという手立てが届きます。内から出るものは、その手立ての先でも同じ幅で残り続けます。
外から来るノイズは、部品より置き方で決まる
Section titled “外から来るノイズは、部品より置き方で決まる”ルネサス エレクトロニクスは、電気ノイズの主な種類2を電源系と信号系に分けています。電源系の同時スイッチングノイズは、デバイスの中で膨大な数のトランジスタが切り替わるとき、そのタイミングが偶然そろうと電源とグラウンドの電位が大きく動き、誤動作の可能性を高めます。信号系のクロストークノイズは平行して走る信号線どうしが影響し合う現象で、線が近いほど、平行している距離が長いほど大きくなります。ほかに反射ノイズ、減衰、ジッタがあり、減衰は信号の周波数が高いほど影響が大きく、1GHzを超える帯域では大きな問題になります。
並べてみると、どれも置き方と引き回しで決まっています。スイッチングノイズは急な電流の入り切りが生む高周波のリンギングで3、配線には一般に1mmあたり1nHほどのインダクタンスがあります。ロームの計算例では、周波数100MHz・ノイズ電流1マイクロアンペアという同じ条件で、面積20平方センチメートルのループを回る場合(ディファレンシャルモード)は1m地点の電界強度が0.26マイクロボルト毎メートル、20cmのケーブルを流れる場合(コモンモード)は25.1マイクロボルト毎メートルになります。この一例では、同じ電流でもコモンモードの放射が約100倍大きくなります。
対策の原則も、そのモードの違いに沿って二通りになります。ディファレンシャルモードにはループ面積を減らすこと、たとえばケーブルを撚り線にすること、コモンモードにはケーブルを極力短くすることです。クロストークについては、配線が直交すると浮遊容量や相互インダクタンスがかなり小さくなります。配線をできるだけ短くすることが、ノイズ低減に大きく寄与します。
スナバも立ち上がりの鈍化も、損失か速さを払う
Section titled “スナバも立ち上がりの鈍化も、損失か速さを払う”リンギングを吸収する手立てがスナバ回路で、スイッチングノードとグラウンドの間に抵抗とコンデンサを足し、高周波のエネルギーを抵抗で消費させます。その追加によって損失が生じ、スナバ抵抗10オーム、スナバコンデンサ1000pF、入力電圧12V、発振周波数1MHzという条件での計算例では、抵抗が受け持つ損失が0.144Wになり、定格0.25W以上の抵抗が必要になります。
ノイズは熱に変わり、抵抗がそれを受け止めます。ハイサイドのMOSFETの立ち上がりを抵抗で緩やかにする手立てもあります。波形を鈍らせて放射を抑える以上、切り替えの速さのほうは差し出すことになります。
中から湧くノイズには、温度と電流が定める下限がある
Section titled “中から湧くノイズには、温度と電流が定める下限がある”熱雑音は抵抗体から発生する雑音で、絶対零度まで冷やしてはじめて排除できます1。温度Tの抵抗体が生む1Hz当たりの電力密度はkT〔W/Hz〕で与えられ、常温ではマイナス174dBm/Hzになります。極端に雑音を嫌う宇宙通信では、増幅器を液体窒素などで冷やして熱雑音を下げる例があります。熱雑音を増幅しても、熱雑音どうしを足し引きしても、得られるのは熱雑音で、動くのは電力密度やスペクトルにとどまります。後段でどう手を入れても、種類としては残るという意味です。
この下限は式で書けます。熱ノイズは熱平衡状態のキャリアのブラウン運動から生じ、電流ノイズのパワースペクトル密度は4kT/Rで表されます4。kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Rは抵抗です。ショットノイズは定常電流が流れる非熱平衡の状態で生じ、電流を担うキャリアが粒であることに由来し、パワースペクトル密度は2qIで表されます。qは電気素量、Iは電流です。温度・抵抗・電流という、回路の仕様そのものが下限を決めています。
周波数で見ると内訳が変わります。1/fノイズはフリッカーノイズとも呼ばれ、名のとおり周波数にほぼ反比例するパワースペクトル密度を持ち、低い周波数で大きいため低周波ノイズとも呼ばれます。熱ノイズとショットノイズは、上限周波数(kT/h、およそ6THz)より下の広い範囲で一様なパワースペクトル密度を示し、白色ノイズとも呼ばれます。二つが等しくなる周波数がコーナー周波数で、この周波数が低いデバイスほど静かなデバイスといえます。微細MOSFETのコーナー周波数は、MHzからGHzの領域にあります。
微細化すると、RTNはかえって目立つ
Section titled “微細化すると、RTNはかえって目立つ”ランダムテレグラフノイズ(RTN)は、現在大きな問題になっているノイズです。ゲート絶縁膜の中でキャリアの捕獲と放出が繰り返され、チャネルの伝わりやすさが飛び飛びに動きます。キャリア1個の出入りに伴うしきい値電圧の変動幅は、ゲート絶縁膜容量をおおよその分母とする形で与えられ、デバイスの寸法が小さくなるほど顕在化します4。分母が小さくなるので、同じ1個の電荷でもしきい値電圧の振れ幅が大きくなるという理屈です。
微細化が進むほど不利になるノイズがある、という点がここの要です。RTNはまずフラッシュメモリの信頼性の問題になり、その後SRAMのノイズマージンを減らす要因として注目されるようになりました。RTNの時定数は大部分がマイクロ秒以上で、デジタル回路のクロック周期であるナノ秒程度と比べて遅いため、同じデバイスの特性がスイッチングのたびに別の値として観測されます。デジタル回路の当面の主要なノイズはRTNで、熱ノイズ・ショットノイズがRTNを上回るクロスオーバ周波数は、ナノワイヤ型デバイスの場合で数10GHzから100GHz程度と見積もられています。
同じ値で留まる雑音は、引き算で消せる
Section titled “同じ値で留まる雑音は、引き算で消せる”内部雑音の一部は、引き算で取り除けます。固体撮像デバイスでは、電荷を検出する部分をリセットするとき、リセットの経路に熱雑音(kTC雑音)が生じ、リセット完了後もその値が保たれ、次のリセットまで同じレベルで居座ります5。基準の側と信号の側が同じ熱雑音を含むため、両方を測って差をとれば雑音成分が打ち消せます。これが相関二重サンプリング(CDS)と呼ばれる手順で、ソースフォロア回路が生む低周波の1/f雑音も実質的に取り除けます。
この引き算が使えるのは、雑音がしばらく同じ値で留まり、その間に2回測れるときだけです。外から来るノイズは置き方で減らし、中から湧くノイズは温度と電流が下限を決め、留まっている分だけは引き算で消せます。この三段が、ノイズと付き合うときの全体像になります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ノイズとは何ですか?
本来の信号に重なってしまう、余計な変動です。理想的な電気信号に重なる余計な変動を指します。
ノイズと信号は、どうやって見分けるのですか?
先が読めるかどうかで見分けます。雑音の波形をオシロスコープで観測すると規則性が見当たらず、映っている部分から他の部分を推し量ることが難しく、この点が雑音を特徴づけます。
内部雑音と外部雑音では、対策がどう変わりますか?
届く手立てが変わります。機器の内部から発生する雑音が内部雑音、外部から到来する雑音が外部雑音です。外部雑音は距離や遮蔽やフィルタで振れ幅が縮み、内部雑音は素子そのものが源のため、同じ手立ての先でも下限の幅がそのまま残ります。
熱雑音には、なぜ下限が残るのですか?
温度そのものが源だからです。熱雑音は抵抗体から発生する雑音で、絶対零度まで冷やしてはじめて排除できます。増幅しても足し引きしても得られるのは熱雑音で、動くのは電力密度やスペクトルにとどまります。
ノイズ対策に、代償はありますか?
あります。リンギングを吸収するスナバ回路は、追加によって損失が生じます。ロームの計算例では、抵抗が受け持つ損失が0.144Wになり、定格0.25W以上の抵抗が必要になります。
微細化すると、ノイズは減りますか?
増える種類があります。ランダムテレグラフノイズ(RTN)は、キャリア1個の出入りに伴うしきい値電圧の変動幅がゲート絶縁膜容量に反比例するため、デバイスの寸法が小さくなるほど顕在化します。
ジッタとノイズは、別のものですか?
ジッタは電気ノイズの主な種類の一つで、繰り返される信号のタイミングに揺らぎが生じる現象です。時間軸方向のタイミング変動とも定義されます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ジッタとは── ノイズのうち、時間軸のずれだけを取り出した用語です
- ダイナミックレンジとは── ノイズの下限が、信号として使える範囲の下側の端を決めます
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- 1電子情報通信学会:知識の森 12群6編6章 通信測定ieice-hbkb.org ab
- 2ルネサス エレクトロニクス:電気ノイズの主な種類renesas.com ↩
- 3ローム:TechWeb スイッチングノイズとは?スイッチング電源で発生するノイズと対策techweb.rohm.co.jp ↩
- 4電子情報通信学会:知識の森 S2群1編3章 微細デバイスの諸問題(2015年受領)ieice-hbkb.org ab
- 5電子情報通信学会:知識の森 8群4編1章・2章 固体撮像デバイスieice-hbkb.org ↩