ランダムテレグラフノイズ(RTN)とは
ランダムテレグラフノイズ(RTN)とは、ゲート絶縁膜中でキャリアの捕獲と放出が繰り返され、チャネル伝導度が不連続に変化する現象です。 電流は2つの値の間を不規則に行き来し、その段差は電荷1個の出入りそのものです。段差の大きさは素子の面積に反比例するので、微細化するほど抑えにくくなり、振幅を下げる最も直接的な方法は微細化の目的と相反します。
電荷1個の段差は、素子の面積に反比例する
Section titled “電荷1個の段差は、素子の面積に反比例する”MOSFETでは、ゲート絶縁膜中のトラップがキャリアを捕まえるたびにチャネルの伝導度が下がり、放出すると戻ります。トラップそのものは酸化膜トラップです。キャリア1個の出入りに伴うしきい値電圧の変動幅は、およそ電気素量を、ゲート絶縁膜容量Coxとゲート長L、チャネル幅Wの積で割った値になり、デバイスが小さくなるほど目立ちます1。この式に当てはめると、面積が4分の1になれば、段差は4倍になります。
微細なMOSFETでは、デバイス1つ当たりの酸化膜捕獲電荷の数が減るため、RTN特有の離散的な振幅の波形が直接観測できます1。そのためディジタル回路で低周波ノイズの影響を議論するときは、RTN振幅の統計分布で評価することが多くなっています。しきい値電圧が時間とともに2値を行き来すると、しきい値電圧を1つの数字として持てなくなり、ばらつきが素子間だけでなく同じ素子の時間方向にも出ます。
時定数がクロック周期より長く、ノイズと経時劣化の境目が曖昧になる
Section titled “時定数がクロック周期より長く、ノイズと経時劣化の境目が曖昧になる”大部分のRTNの時定数はマイクロ秒以上で、ディジタル回路のクロック周期であるナノ秒と比べて遅い値です。そのため、同一のデバイスの特性がスイッチング動作ごとに別の値として測られることになります。
RTNの時定数は数時間以上に及ぶことがあり、そのような緩慢な変動はむしろ静特性の経時変化と呼ぶほうが相応しいとされます。ノイズと経時劣化の切れ目は、ここで曖昧になります。近年注目されている説では、BTIの微視的機構がRTNと同じ機構で説明されており、物理モデルの観点からもノイズと経時劣化は密接に関係しています。
遅さは、回路の中での効き方にも出ます。RTNによる総電荷量の変動幅はクロック周期に比例し、熱ノイズやショットノイズによる変動幅はクロック周期の平方根に比例します。
フラッシュメモリとSRAMでは、素子1個の特性がビットの値を決める
Section titled “フラッシュメモリとSRAMでは、素子1個の特性がビットの値を決める”RTNはまずフラッシュメモリの信頼性の課題になり、その後SRAMのノイズマージンを減らす要因として注目されるようになりました。どちらも、素子1個の特性でビットの値が決まる回路です。
SRAMのビットセルは、向かい合ったインバータの釣り合いで値を保ちます。片側のしきい値電圧がマイクロ秒単位で変動すれば、その分だけ釣り合いの余裕が減ります。マルチゲート構造は2、チャネルの不純物に由来するばらつきを減らします。一方、ゲート絶縁膜中のトラップに由来するRTNは、この構造の変更だけでは減りません。
1/fノイズは、多くのRTNの重ね合わせ
Section titled “1/fノイズは、多くのRTNの重ね合わせ”MOSFETで観測される1/fノイズはチャネル抵抗の時間変化に起因し、多くのRTN成分の重ね合わせとみなされています1。個々のRTNのパワースペクトル密度はローレンツ型で、平均持続時間で形が決まります。
1/fノイズは低周波数領域で強度が大きいので、低周波ノイズとも呼ばれます。一方、熱ノイズとショットノイズは広い周波数領域で一様なパワースペクトル密度を示し、白色ノイズと呼ばれます。両者が等しくなる周波数がコーナー周波数で、微細MOSFETではMHzからGHzの領域にあります。
コーナー周波数が低いデバイスほど低雑音とされます。ノイズの設計では、この周波数が回路の動作帯域に対してどこにあるかをまず確認します。
振幅を抑える最も直接的な方法は、微細化と相反する
Section titled “振幅を抑える最も直接的な方法は、微細化と相反する”RTNを抑えると、フラッシュのデータ保持とSRAMのノイズマージンに余裕ができます。段差は面積に反比例するので、振幅を抑える最も直接的な方法は素子を大きくすることですが、これは微細化の目的と相反します。設計では、面積とマージンの配分を回路ごとに決めます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”RTNとは何ですか?
MOSFETにおけるRTNは、ゲート絶縁膜中でキャリアの捕獲と放出が繰り返されることで、チャネル伝導度が不連続に変化する現象です。微細なMOSFETでは素子1つあたりの捕獲電荷の数が減るため、離散的な振幅の波形が直接観測できます。
どのくらいの大きさになりますか?
キャリア1個の出入りに伴うしきい値電圧の変動幅は、およそ電気素量を、ゲート絶縁膜容量Coxとゲート長L、チャネル幅Wの積で割った値です。デバイスが小さくなるほど目立ち、ディジタル回路ではRTN振幅の統計分布で評価することが多くなっています。
時定数はどのくらいですか?
大部分のRTNの時定数はマイクロ秒以上で、ディジタル回路のクロック周期であるナノ秒と比べて遅い値です。数時間以上に及ぶこともあり、同一のデバイスの特性が、スイッチング動作ごとに別の値として測られることになります。
どこで問題になりましたか?
RTNはまずフラッシュメモリの信頼性の課題になり、その後SRAMのノイズマージンを減らす要因として注目されるようになりました。
1/fノイズとの関係は何ですか?
MOSFETで観測される1/fノイズはチャネル抵抗の時間変化に起因し、多くのRTN成分の重ね合わせとみなされています。
BTIとは別物ですか?
近年注目されている説では、バイアス温度不安定性の微視的機構がRTNと同じ機構で説明されており、物理モデルの観点からもノイズと経時劣化は密接に関係しています。
コーナー周波数とは何ですか?
1/fノイズと白色ノイズのパワースペクトル密度が等しくなる周波数です。微細MOSFETのコーナー周波数はMHzからGHzの領域にあります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ノイズとは── 周波数領域で見た雑音の全体
- BTI(バイアス温度不安定性)とは── 同じ機構に帰着するとされる経時劣化
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- 1電子情報通信学会:知識ベース S2群1編3章「微細デバイスの諸問題」(執筆者:渡邉孝信)ieice-hbkb.org abc
- 2電子情報通信学会:知識ベース S2群1編4章「微細化限界を打破する新デバイス」(執筆者:鈴木英一ほか)ieice-hbkb.org ↩