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ブラックの式とは

ブラックの式とは、エレクトロマイグレーションによる平均故障時間を表す式です。 MTTF=A×J−n×exp⁡(EakT)\mathrm{MTTF}=A\times J^{-n}\times\exp\left(\frac{E_\mathrm{a}}{kT}\right) と書きます。指数 nn が 2 なので、配線を細くして電流密度が3倍になると、寿命は9分の1まで縮みます。この強い依存性が配線設計を難しくし、温度の項がそこへ重なります。

アルミ配線の断線から、電子が原子を押す半経験式が生まれた

Section titled “アルミ配線の断線から、電子が原子を押す半経験式が生まれた”

1966年、Motorola、IBM、Texas Instruments、Fairchildが、集積回路のアルミ配線に出る「cracked stripe」の問題をそれぞれ独自に観察しました1。Motorolaにいた J.R. Black はアルミ導体のエレクトロマイグレーション故障の原因調査に関わり、HuntingtonとGroneの研究をもとに、高い電流密度と温度にさらしたアルミ薄膜導体の故障時間を予測する簡単な半経験モデルを導きました。

モデルの前提は電子の衝突です。Blackは、電界の下でイオンと衝突する前も後も電子が完全にランダムに動くと仮定し、加速された電子がほぼ弾性的な衝突で運動量のすべてをイオンへ渡すとしました。金属格子のポテンシャル障壁EaE_\mathrm{a}を越えて動ける活性化イオンの数はアレニウスの法則に従い、これが式の exp⁡(Ea/kT)\exp(E_\mathrm{a}/kT) の項になります。定数AAには、金属の抵抗率、電子の自由行程、平均速度、電子に対するイオンの実効散乱断面積、金属の自己拡散の跳躍頻度因子といった物性が入り、配線の構造と材料で決まります。

金属原子は格子・粒界・表面の3つの経路で動き、薄膜ほど表面拡散の比重が増す

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半導体集積回路の Al 配線は多結晶構造、つまり単結晶粒の集まりです2。金属原子の拡散には格子拡散、粒界拡散、表面拡散の3つがあり、多結晶薄膜では粒界が多く欠陥も多いので、通常は粒界拡散が起こりやすくなります。

原子が動く3つの経路
格子拡散粒界拡散表面拡散電子の流れAl配線(多結晶)
配線の金属原子は、結晶粒の中、粒界、表面の3つの経路で動きます。多結晶の薄膜では粒界が多く欠陥も多いため粒界拡散が起こりやすく、薄くなるほど表面拡散の比重が増します。

微細化で薄膜になると表面の割合が大きくなり、表面拡散も重要な要因になります。寸法が縮むと、主な経路も変わります。

寿命は電流密度の2乗に反比例する

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エレクトロマイグレーションの故障モデル式 MTTF=A×J−n×exp⁡(Ea/kT)\mathrm{MTTF}=A\times J^{-n}\times\exp(E_\mathrm{a}/kT) で、MTTF\mathrm{MTTF} は平均故障時間、JJ は電流密度で単位は A/cm² です。J.R. Black によれば n=2n=2 で、EaE_\mathrm{a} は 0.6〜1.0 eV の値が報告されています。

nn が 2 なら、電流密度を2倍にすると寿命は4分の1、3倍にすると9分の1になります。配線の断面を細くする設計は、この関係の影響を直接受けます。製品の寿命計算にもこの形がそのまま使われ、Texas InstrumentsはTPS62366xのMTTF\mathrm{MTTF}を、Ea=1E_\mathrm{a}=1 eV、n=2n=2 の標準的なブラックの式で計算しています3。

電流密度と寿命
1×11/4×21/9×3電流密度 J平均故障時間 MTTFn=2
n=2では、電流密度を2倍にすると寿命は4分の1、3倍にすると9分の1になり、両対数で描くと、式のとおり傾き−nの直線になります。

温度は指数の中に入り、発熱で電流密度と連動する

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式の中の exp⁡(Ea/kT)\exp(E_\mathrm{a}/kT) は、アレニウスの形です。温度が高いほど原子が動きやすくなり、寿命が縮みます。活性化エネルギー EaE_\mathrm{a} が 0.6 eV か 1.0 eV かで温度に対する敏感さが切り替わり、同じ温度差でも加速の倍率が動きます。寿命の対数を温度の逆数に対して描くと、EaE_\mathrm{a} は直線の傾きになります2。2つの値を傾きの比に直すと、1.0 eV の直線は 0.6 eV の直線の約1.67倍の傾きです。

Eaは傾き
Ea 1.0 eVEa 0.6 eV高温低温温度の逆数 1/T寿命の対数 ln MTTF
寿命の対数を温度の逆数に対して描くと、Eaが直線の傾きになります。1.0 eVの直線は0.6 eVより急で、同じ温度差でも寿命の変わり方が大きくなります。

電流密度と温度は別々に影響します。ただし電流が流れれば配線が発熱するため、実際には2つが連動して悪い方向へ働きます。

試験条件から実使用条件へ、寿命の比を換算する

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この式を使うと、加速試験の条件と実使用の条件の間で寿命の比を取れます。電流密度と温度の両方を含んだ加速係数が得られます。ブラックの式は、決まった温度と電流密度のストレス条件に向けて、信頼性の高い金属導体を設計し製造するための重要な道具になりうる1とされています。

ロームは、GaN HEMT にも Si と同じくエレクトロマイグレーションが存在するとして4、標準的な信頼性試験の対象に含めています。ルネサスのハンドブックは、これに加えて素子に固有の仕組みには専用の試験が必要だとしています。共通の式と固有の試験を組み合わせて使います。

どの対策も、n=2のぶん効果も副作用も大きい

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配線を太くすれば電流密度が下がって寿命は延びますが、面積と寄生容量が増えます。結晶粒を大きくすれば粒界拡散は減りますが、粒を育てる熱処理が下の層の許容範囲と両立しにくくなります。動作電流を下げれば安全ですが、性能が落ちます。n が 2 という強い依存性があるので、どの対策も効果が大きい分、副作用も大きくなります。

ブラックの式とは何ですか?

エレクトロマイグレーションによる平均故障時間を表す式で、MTTF=A×J⁻ⁿ×exp(Ea/kT) と書きます。Motorolaにいた J.R. Black が、高い電流密度と温度にさらしたアルミ薄膜配線の故障時間を予測する半経験式として導きました。

n はいくつですか?

J.R. Blackは n=2 としています。電流密度を2倍にすると寿命は4分の1、3倍にすると9分の1です。

Ea はどのくらいですか?

0.6〜1.0 eVの値が報告されています。Texas InstrumentsはTPS62366xの寿命を、Ea=1 eV、n=2 の標準的なブラックの式で計算しています。

J は何ですか?

配線を流れる電流密度で、単位は A/cm² です。断面積あたりの電流が大きいほど、原子が押し流されやすくなります。

A は何ですか?

配線の構造と材料で決まる定数です。金属の抵抗率、電子の自由行程、平均速度、電子に対するイオンの実効散乱断面積、金属の自己拡散の跳躍頻度因子といった物性が入ります。

原子はどこを動きますか?

格子拡散、粒界拡散、表面拡散の3つです。多結晶薄膜では粒界拡散が起こりやすいとされています。

微細化で何が変わりますか?

薄膜になると表面の割合が大きくなるので、表面拡散も重要な要因になります。

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