寿命外挿とは
寿命外挿とは、加速した条件で測った寿命から、実使用条件での寿命を見積もる手順です。 寿命の対数が温度の逆数に対して直線に乗るという前提を置き、測った範囲の外へその直線を伸ばします。10年の保証を確かめるのに10年かけるのは、実務では無理があります。数百時間の試験で10年を語れるのは、この直線を伸ばしているからです。見積もりの確かさを決めるのは、直線の傾きと、測った範囲から使用条件までの距離です。
寿命の対数は、温度の逆数に対して直線に乗る
Section titled “寿命の対数は、温度の逆数に対して直線に乗る”の両辺の対数を取るとになり、寿命の対数と温度の逆数が直線になります1。高い温度で測った点を直線で結び、実使用の温度まで伸ばして得られる値が、その条件での寿命の見積もりです。たとえば150℃と85℃で測った2点を結び、30℃まで伸ばします。
この直線の傾きが活性化エネルギーで、これを基に2点間の加速係数を求められます。傾きは2点で決まりますが、点が直線に乗ることを確かめるには3点以上の温度が要ります。
外挿の幅が広いほど、傾きの誤差が大きく効く
Section titled “外挿の幅が広いほど、傾きの誤差が大きく効く”試験の温度と実使用の温度が離れているほど、外挿の幅が広くなります。傾きのわずかな誤差が、伸ばした先で大きな差になります。ルネサス エレクトロニクスの耐湿性の計算例は、実使用条件を30℃、試験条件を85℃としています1。55℃の差を、活性化エネルギー1.0 eVの仮定で埋めることになります。この仮定をに当てはめると、85℃と30℃の寿命の比は約360倍です。試験での1時間が実使用の約360時間にあたり、傾きを読み違えればこの倍率がそのままずれます。
試験の温度を高くすれば短期間で済みますが、外挿の幅が広がります。下げれば幅は狭まりますが、そのぶん試験時間が延びて日程で払います。測る点を増やせば直線の確からしさは上がりますが、費用が増えます。どの選び方でも、確かさと時間と費用のうち一つを差し出すことになります。
同じ考え方は温度以外にも使います。電圧や湿度を含めた寿命式としてはアイリングモデルがあります。ハイブリッド接合の寿命評価のように、絶縁破壊電圧の分布を測って使用条件の寿命へ外挿する例もあります。
故障の仕組みが替わると、直線は折れる
Section titled “故障の仕組みが替わると、直線は折れる”直線が成り立つ前提は、測った範囲と外挿の先で同じ仕組みが支配的なことです。途中で別の仕組みが支配的になれば、傾きが変わります。折れる点を測らずに直線を伸ばすと、実際より長い寿命が出ます。安全側だと思っていた見積もりが、逆を向くことになります。
活性化エネルギーは、それぞれの故障メカニズムに対して代表的な値が求められています1。仕組みを特定してから値を選ぶ順序が要ります。
初期故障は、時間の軸で市場1年まで伸ばす
Section titled “初期故障は、時間の軸で市場1年まで伸ばす”外挿は温度の軸だけで行うものではありません。ルネサスは初期故障を市場で1年稼動したときの故障率(ppm)として推定し、スクリーニングのデータをワイブルプロットして寿命を予測しています1。温度ではなく時間の軸で、ワイブル分布を使って寿命を予測する例です。
初期故障の特長は、形状パラメータが小さいことです。これを試験で確認するには大量のデータが要ります。
実アプリケーションでは、回路のストレスを波形で写す
Section titled “実アプリケーションでは、回路のストレスを波形で写す”ロームは、DHTOLとSALTによる加速試験から寿命を推定し、その結果を実アプリケーションへ展開する手順2を示しています。LLC共振型コンバータとTotem-pole PFCの臨界モードを例に、スイッチング波形のシミュレーションを寿命計算へ使う方法です。
ロームは、電源システムがGaN HEMTのほかにゲートドライブ回路、制御回路、保護回路、トランスやインダクタやコンデンサ、放熱部品、基板などから成り立ち、GaN HEMT以外の劣化要因も多いため、素子単体の寿命予測を実機で検証するのは難しいとしています2。回路の方式もさまざまで、電圧、電流、スイッチング周波数、Duty、、、温度が用途ごとに違います。
素子単体の外挿に加えて、実際の回路で受けるストレスの形を写す段が、もう一つ要ります。波形のシミュレーションがその役を担います。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”寿命外挿とは何ですか?
加速した条件で測った寿命から、実使用条件での寿命を見積もる手順です。測った範囲の外へ直線を伸ばします。
なぜ直線になりますか?
L=A exp(Ea/kT) の対数を取るとln L=ln A+Ea/kTになり、寿命の対数と温度の逆数が直線になるからです。
傾きは何ですか?
この直線の傾きが活性化エネルギーです。傾きが決まれば、2点間の加速係数も決まります。
何点で測りますか?
最低2点で傾きは出ますが、直線に乗ることを確かめるには3点以上が要ります。
落とし穴は何ですか?
高温側と実使用側で支配的な故障の仕組みが替わると、直線が途中で折れます。折れる点を測らずに伸ばすと、実際より長い寿命が出ます。
電圧でも同じですか?
同じ考え方を使います。電圧や湿度を含めた寿命式として、アイリングモデルがあります。
実アプリケーションでも使いますか?
使います。ロームは、SALTによる加速係数からソフトスイッチングのアプリケーションでの寿命を予測する方法を示しています。電源システムの実機ではGaN HEMT以外の劣化要因も多く、素子単体の寿命を実機で確かめるのは難しいためです。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 加速係数とは── 直線から読み取る倍率
- 活性化エネルギーとは── 直線の傾きそのもの
- ワイブル分布とは── 各点のばらつきを表す分布
- ブラックの式とは── 電流密度まで含めた寿命の式
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- 1ルネサス エレクトロニクス:半導体信頼性ハンドブック Rev.2.50(2017年1月)renesas.com abcd
- 2ローム:EcoGaN のソフトスイッチング動作に対する寿命の考え方 Rev.001(2024年6月)fscdn.rohm.com ab