アニールとサーマルバジェットの基本熱の上限は工程が進むほど低下
アニール(熱処理)は、イオン注入で入れたドーパントを電気的に働かせ、注入で傷んだ結晶を直す工程だ。ところが同じ熱は、ドーパントを周りへ拡散させ、接合(p型とn型の境目)を深くし、コンタクトの界面や配線の材料も傷める。そこで工程ごとに、それ以上の熱を入れてはいけない上限を決める。サーマルバジェット(熱予算)とは、この上限のことで、後の工程ほど低くなる。
Applied Materialsは、ソーク、スパイク、ミリ秒のどのアニールを選ぶかを、製造工程のその時点でデバイスが耐えられる温度と時間1で決めるとしている。熱のかけ方が、100枚を超えるウェーハをまとめて焼くバッチ炉から、表面だけを一瞬で焼くレーザーまで分かれているのは、工程ごとに許される熱の量が違うからだ。
アニールの仕事は、ドーパントを働かせ、結晶の傷を直すこと
Section titled “アニールの仕事は、ドーパントを働かせ、結晶の傷を直すこと”注入した直後のドーパントは、まだ電気的に十分働いておらず、結晶の損傷も残っている。アニールはこれを、同じ温度と時間の中で同時に進める。SCREENは、フラッシュランプアニール装置LA-31002の役割を、ソース/ドレインに注入したドーパントを高い割合で活性化しつつ、濃度の分布を精密に制御することだと説明している。
| アニールで進めること | 効く指標 | 熱が足りないとき | 熱が多すぎるとき |
|---|---|---|---|
| ドーパントの活性化 | シート抵抗、駆動電流 | シート抵抗が高く、電流が出ない | 接合が広がり、短チャネル効果を抑えにくくなる |
| 結晶損傷の回復 | リーク電流、信頼性 | リークの起点が残り、ばらつきが増える | 応力が変わり、欠陥が動く |
| 界面の反応(コンタクト形成) | コンタクト抵抗、シリサイドの相 | コンタクト抵抗が高いまま残る | 界面が荒れ、反応が進みすぎる |
シリサイドは、コンタクト金属とSiが反応してできる化合物の層だ。活性化で下げたいシート抵抗と、拡散で深くなる接合は、1本の熱の入れ方で同時に決まる。
熱の量は温度と時間の組み合わせで決まる
Section titled “熱の量は温度と時間の組み合わせで決まる”サーマルバジェットは「低温」と同じ意味ではない。最高温度、保持する時間、熱が届く深さの組み合わせで決まる量だ。高温でも極めて短い時間なら、中くらいの温度で長く焼くより、拡散も下の層への影響も小さく抑えられることがある。
熱の入れ方によって、先に進む反応と先に傷むものが変わる。高温で極めて短い加熱は、活性化や表面・界面の局所的な反応を進め、表面の荒れや急な温度差による局所ダメージを招きやすい。中温で長い加熱は、膜質の均一な安定化や酸化を進める一方、拡散も進めて接合を広げ、低誘電率膜を傷める。表面だけを焼けばシリサイド化やコンタクト界面の反応が進み、ウェーハ全体を均一に焼けば均一性とバッチ処理の安定が得られるが、後の構造まで積み上がる熱の総量が増える。
熱の上限は、工程が進むほど下がる
Section titled “熱の上限は、工程が進むほど下がる”FEOLはトランジスタを作る前半の工程帯で、ソース/ドレインの活性化までを含む。MOLはコンタクトを作る中間の工程帯、BEOLは配線を作る後半の工程帯だ。熱の上限が工程ごとに違うのは、前の工程で入れた熱が後の工程へ持ち越され、後の工程ほど守るべき構造と材料が増えるからだ。
| 工程帯 | アニールの主な目的 | 同時に守るもの |
|---|---|---|
| FEOL(トランジスタ) | ドーパントの活性化、注入損傷の回復 | 接合の深さ、短チャネル効果、リーク電流 |
| MOL(コンタクト) | シリサイド形成、界面の反応、コンタクト抵抗の低減 | コンタクト抵抗率、ソース/ドレインの欠陥、界面の荒れ |
| BEOL(配線) | 膜質の安定化 | Cu・Ru・Mo配線の抵抗、低誘電率膜、バリアとキャップ、CMP後の形状 |
| 3D集積・パッケージ | 接合前後の形の安定、反りの抑制 | 重ね合わせ、接合界面、信頼性 |
FEOLでは、ソース/ドレインの活性化率を上げてシート抵抗を下げながら、接合の深さと横方向の拡散を許される範囲に収める。その前段で、どんな形のソース/ドレインを作り、どの材料をその場ドープで成長させるかが、アニール後の活性化とコンタクトの条件を決める。キャビティ形成、エピ成長、アニール、コンタクト形成のつながりはソース/ドレインエピタキシーと歪み工学で扱う。GAAでは、インナースペーサ、ソース/ドレイン、コンタクト、自己発熱、均一性を同時に満たす必要があり、熱処理にも、活性化、コンタクト抵抗の低減、リークの抑制、微細な形の保持が同時に求められる。7 nm以降のコンタクト抵抗が界面でどう決まり、酸化膜除去から金属成膜までを真空でつなぐ装置が何をしているかはコンタクト抵抗は金属とSiの界面で決まるで扱う。
MOLでは、シリサイドの相と界面の反応を、決めた範囲に収める。反応が進みすぎると界面が荒れ、欠陥が増える。imecは、従来のNiシリサイドはNiがSi(Ge)の中を速く拡散するため、微細なトランジスタでは使いにくい3と説明している。コンタクトを作る前の洗浄と表面処理も、この段の熱の上限の中で行う。
BEOLまで来ると、アニールの役目は活性化から、低抵抗の配線と絶縁膜の特性を保ちながら膜質を安定させることに移る。守るものはCu・Ru・Moの配線、低誘電率膜、バリアとキャップ、CMP後の形状だ。
トランジスタの層を上へ積む3D集積では、上限はさらに低い。imecは、下の層のデバイス、配線、貼り合わせ界面を傷めないよう、上の層のデバイスを525℃未満で作る必要があるとしている4。ハイブリッドボンディングで積む場合も、前段で積み上がった熱履歴は、接合時の位置合わせ精度と信頼性の両方に影響する。
加熱が短い方式ほど、熱は表面に留まり拡散が進まない
Section titled “加熱が短い方式ほど、熱は表面に留まり拡散が進まない”熱のかけ方は、時間スケールで4つに分かれる。秒より長いバッチ炉、秒のスパイクRTP(rapid thermal processing、急速熱処理)、ミリ秒のフラッシュランプ、1ミリ秒を切るレーザーだ。加熱の時間が短いほど熱が届く範囲は最表層に限られ、ドーパントが拡散する余地も小さくなる。
| 方式 | 時間スケール | 主な役割 | 向く工程 | まず守るもの |
|---|---|---|---|---|
| バッチ炉(等温) | 秒より長い | 長く均一に焼く | 酸化、膜質の安定化、大量処理 | 均一性、スループット、ラン間の安定 |
| スパイクRTP / RTA | 秒 | 高温短時間で活性化率を上げる | ソース/ドレインの活性化 | 接合の深さ、リーク電流 |
| フラッシュランプ | ミリ秒 | 表面側へ強く熱を入れる | 浅い接合、表面側の活性化 | 拡散長、基板全体の熱負荷 |
| レーザー | ミリ秒未満からサブマイクロ秒 | 最表層だけを局所的に焼く | 先端のシリサイド形成、表面の反応 | コンタクト抵抗率、下の層のダメージ |
バッチ炉の例はTokyo ElectronのTELINDY PLUSで5、1回に125枚を等温で処理し、酸化、アニール、減圧CVDに使う。量産の均一性と生産性を守りたい工程で選ばれる。
RTPは、ランプでウェーハを1枚ずつ急速に加熱する。SCREENの解説によれば、赤外線ランプアニール装置は数十秒で1,000℃まで昇温できる6。アルバック販売のRTAシリーズ7は「保持まで10秒」をうたい、用途に活性化アニールとシリサイド形成を挙げる。
フラッシュランプは、キセノンランプの閃光で表面側を焼く。SCREENのLA-3100は2、数ミリ秒の熱量のプロファイルを制御し、ウェーハ全面を処理する。
レーザーは、さらに表面に熱を絞る。Applied MaterialsのVantage Astra DSAは8、表面の数原子層を1ミリ秒未満で1,000℃超まで加熱し(毎秒100万℃)、同じ速さで冷ます。同社はこれによりリークの原因になるソース/ドレインの欠陥を大きく減らし、FinFETのコンタクト抵抗のスケーリングを可能にしてきたとしている。SCREENの子会社LASSEは、マイクロ秒のQA-3000とサブマイクロ秒で表面を溶かすLT-31009を持つ。
微細なコンタクトの抵抗は界面の質で決まる
Section titled “微細なコンタクトの抵抗は界面の質で決まる”imecによれば、ソース/ドレインのコンタクト抵抗は接触面積に反比例して増え、14 nm世代から寄生抵抗の最大の要因になった3。今後の世代では、接触抵抗率を2×10⁻⁹ Ωcm²未満にする必要がある。imecは抵抗を下げる手段として、半導体側のドーピングを上げることと、金属と半導体の界面の質を高めることの2つを挙げる。imecのTiシリサイドの研究では、最も低い接触抵抗率は、完全には結晶化していない状態、つまり非晶質の中に小さな結晶粒が埋まった状態で得られた。
Tokyo ElectronのEpisode 1は10、Siの自然酸化膜を除くモジュールとTiを成膜するモジュールを1台に載せ、複数の工程を途切れずに続けて処理する11。同社はこの組み合わせを、先端ロジックの配線のコンタクト抵抗を下げるためのものとしている。酸化膜を除いた面へ途切れずにTiを成膜し、界面の質を保つ狙いだ。
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- 1Applied Materials:アニール技術の選び方(RTPの技術紹介)appliedmaterials.com ↩
- 2SCREEN:フラッシュランプアニール装置LA-3100の製品紹介screen.co.jp ab
- 3imec:7 nm以降のコンタクト抵抗とTiシリサイド(2019年4月)imec-int.com ab
- 4imec:Soitecと低温で作る積層デバイス(2018年7月)imec-int.com ↩
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- 6SCREEN:初心者のための半導体入門、成膜工程と赤外線ランプアニールscreen.co.jp ↩
- 7アルバック販売:赤外線ランプアニール装置RTAシリーズの仕様ulvac-es.co.jp ↩
- 8Applied Materials:レーザーアニール装置Vantage Astra DSAの製品紹介appliedmaterials.com ↩
- 9SCREEN LASSE:レーザーアニール装置QA-3000とLT-3100screen.co.jp ↩
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