SAWフィルタとは
SAWフィルタとは、圧電基板の表面を伝わる弾性表面波を使って、決まった周波数帯の信号だけを通す高周波部品です。 スマートフォンのアンテナの直後に並び、自分が使う電波と、それ以外の電波を選り分けます。
周波数を決めているのは、材料の速度と電極の寸法という2つだけです。速度は基板でほぼ決まるので、高周波化はそのまま電極を細くする加工の勝負になります。
電極の周期が、通す波長を選ぶ
Section titled “電極の周期が、通す波長を選ぶ”弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)は、エネルギーが媒質の表面近くに集まったまま進む弾性の波です1。この波を周波数の選別に使った部品がSAWフィルタです。
中心にあるのは、圧電性基板の表面に金属薄膜で作られた「すだれ状電極」(Interdigital Transducer:IDT)です。IDTに電気信号を入れると圧電逆効果によって基板に周期的な歪みが生まれ、電極周期に対応した波長のSAWが励振されます。受け取る側にも同じ性質があり、IDTの周期と一致した波長の波が電気信号になります。送信側と受信側へ同じ周期のIDTを設ければ、この2回のふるい分けによって帯域通過フィルタになります。
中心周波数と表面波の伝搬速度の関係は で2、波長は電極の幅と空隙から で決まります。
波長が10万分の1になるので、部品が小さくなる
Section titled “波長が10万分の1になるので、部品が小さくなる”空気中を飛ぶ2GHzの電波の波長は、光速を周波数で割って計算すると約15cmです。一方、圧電基板の表面を走る波の速度は数千メートル毎秒にとどまり、同じ2GHzに対する波長は約2.1µm、比にすると約7万分の1です。この縮み方は一般に約10万分の1とされ、素子の小型化に有利です。
波長の差は、製品の寸法まで届きます。村田製作所は2019年7月に、SAWフィルタを0.9mm×0.7mm、SAWデュプレクサを1.6mm×1.2mmまで小型化して量産を始めました3。同社は、従来品のそれぞれ1.1mm×0.9mm、1.8mm×1.4mmに対して約37%と約24%の小型化にあたるとしています。
同社は、特定地域向けのミドルクラス機で1台あたり14個から15個、世界の各地域に対応するプレミアムモデルでは30個から40個のSAWデバイスが採用されることがあるとしています。1個あたりの面積が、そのまま基板の混み具合を左右します。
周波数は、電極の細かさで決まる
Section titled “周波数は、電極の細かさで決まる”を裏返すと、周波数を上げる手立ては波長を縮めることに絞られます。速度は基板の材料と結晶方位でほぼ決まってしまうためです。
LiTaO₃ 36°Yカット・X伝搬(リーキ波用、伝搬速度4,178 m/s)を例に、電極の幅と空隙を同じ寸法とし、電極指の幅を波長の4分の1として から計算すると次のようになります。
| 中心周波数 | 波長 | 電極指の幅(の4分の1) |
|---|---|---|
| 700MHz | 約5.97µm | 約1.49µm |
| 2.6GHz | 約1.61µm | 約0.40µm |
| 3.5GHz | 約1.19µm | 約0.30µm |
| 5.0GHz | 約0.84µm | 約0.21µm |
金沢村田製作所は、SAWデバイスの高周波化では圧電体基板の上に作る櫛型電極(IDT)をどこまで細く薄くできるかが鍵になるとし4、その加工で半導体の製造で求められる水準を超えるナノオーダーの精度に達したとしています。SAWの高周波化は、材料の話であると同時に、リソグラフィと薄膜加工の話でもあります。
基板を選ぶと、速さと温度の強さが入れ替わる
Section titled “基板を選ぶと、速さと温度の強さが入れ替わる”SAWフィルタの圧電性基板には水晶、LiNbO₃、LiTaO₃の単結晶1が使われます。水晶は温度安定性に優れる一方で圧電性が小さく、LiNbO₃は大きな圧電性を持つ一方で温度安定性が劣り、LiTaO₃は中間的な特性のため多用されます。日本電波工業の応用ノート2の数値で並べると次のとおりです。
| 波動モード | 材料とカット | 伝搬速度 | 結合係数 | 一次温度係数 |
|---|---|---|---|---|
| レイリー波 | ST-quartz 42.75°Y・X伝搬 | 3,157 m/s | 0.16% | 0(二次係数 −34×10⁻⁹/K²) |
| レイリー波 | LiTaO₃ Xカット・112°Y伝搬 | 3,295 m/s | 0.64% | −18×10⁻⁶/K |
| レイリー波 | LiNbO₃ 128°Yカット・X伝搬 | 4,000 m/s | 5.56% | −74×10⁻⁶/K |
| リーキ波 | LiTaO₃ 36°Yカット・X伝搬 | 4,178 m/s | 4.8% | −33×10⁻⁶/K |
| リーキ波 | LiNbO₃ 64°Yカット・X伝搬 | 4,742 m/s | 11.3% | −79×10⁻⁶/K |
速度が上がるほど結合係数も大きくなり、あわせて温度係数の絶対値も大きくなる並びです。日本電波工業は、音速が高いぶん高周波化しやすいリーキ波用の基板を、低損失が条件になる携帯電話向けの製品に主に用いるとしています。温度特性が最も優れるSTカット水晶は、結合係数が小さい材料です。
温度の問題は、パッケージにも回ってきます。SAWデバイスに熱が加わると素子が変形して特性に悪影響が出るため、京セラは熱膨張係数の低いセラミックで熱による素子の変形を抑えるとしています5。同社は気密封止への対応と、厚みを0.1mmに抑えた超低背基板の量産も挙げています。
3GHzを超えると、別の方式に交代する
Section titled “3GHzを超えると、別の方式に交代する”5GやWi-Fi 6E、Wi-Fi 7が使う3GHz以上の高周波数帯について、村田製作所は、必要な周波数の信号を取り出す役目を、これまでLTCCフィルタやBAWフィルタが担うのが一般的だったとしています6。
同社が2025年7月に量産出荷を始めたXBAR技術は、櫛型電極と圧電単結晶薄膜でバルク波を起こす独自方式です。同社は、2022年に買収したResonant社のXBAR技術と自社のフィルタ技術を組み合わせて開発したもので、世界初の商品化にあたるとしています。すだれ状電極という道具立てはそのままに、使う波を表面からバルクへ移した格好です。
表面を走る波が得意な帯域と、厚み方向に振動する波が得意な帯域があります。700MHzから2.6GHzを担ってきたSAWフィルタは、周波数が上がるにつれて、電極をどこまで細くできるかという勝負に入ります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SAWフィルタとは何ですか?
圧電基板の表面を伝わる弾性表面波を使って、決まった周波数帯の信号だけを通す高周波部品です。スマートフォンのアンテナの直後などで使われます。
どうやって周波数を選んでいるのですか?
圧電基板の表面に作ったすだれ状電極(IDT)の周期で選びます。IDTは自分の周期と一致した波長の波を強く励振し、受け取る側も同じ周期の波だけを電気信号に変えます。送受へ同じ周期のIDTを設けると、2回のふるい分けによって帯域通過フィルタになります。
なぜそんなに小さくできるのですか?
波が遅いためです。SAWの位相速度は数千メートル毎秒で、波長が同じ周波数の電磁波の約10万分の1になるため、素子の小型化に有利です。村田製作所が2019年に量産を始めたSAWフィルタは0.9mm×0.7mmです。
周波数を上げるには何をするのですか?
電極を細かくします。中心周波数と表面波の伝搬速度の間には f0 = v/λ の関係があり、波長λは電極の幅と空隙から決まります。速度は基板でほぼ固定されるため、周波数を上げる手立ては波長を縮めることに絞られます。
基板には何を使うのですか?
水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO₃)、タンタル酸リチウム(LiTaO₃)の単結晶です。水晶は温度安定性に優れる一方で圧電性が小さく、LiNbO₃は圧電性が大きい一方で温度安定性が劣り、中間的な特性のLiTaO₃が多用されます。
温度が上下すると特性はどうなりますか?
中心周波数がずれます。一次温度係数はSTカット水晶が0で最も安定し、リーキ波用のLiNbO₃ 64°Yカット・X伝搬は−79×10⁻⁶/Kです。熱で素子が変形すると特性に悪影響が出るため、京セラは熱膨張係数の低いセラミックパッケージで変形を抑えるとしています。
BAWフィルタとはどう使い分けるのですか?
周波数帯で分担します。村田製作所は、3GHz以上の高周波数帯で必要な信号を取り出す役目を、これまでLTCCフィルタやBAWフィルタが担うのが一般的だったとしています。同社が2019年に量産を始めたSAWフィルタとデュプレクサは、700MHz帯から2.6GHz帯に対応する製品です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- BAWフィルタとは── 膜の厚み方向の共振を使い、3GHz以上を担います
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- 1電子情報通信学会:知識ベース 9群8編3章 弾性波デバイスieice-hbkb.org ab
- 2日本電波工業:弾性表面波デバイス 応用ノートndk.com ab
- 3
- 4金沢村田製作所:金沢ムラタの技術murata.com ↩
- 5京セラ:SAWデバイス用パッケージkyocera.co.jp ↩
- 6