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ミキサとは

ミキサとは、2つの入力を掛け合わせて、和と差の周波数の信号を作る回路です。 増幅器が信号の大きさを変えるのに対し、ミキサは信号の周波数そのものを移します。

掛け算は和と差を同時に作るため、局部発振波を挟んだ反対側の周波数も同じ中間周波数へ降りてきます。この性質が受信機の設計を左右します。

2つの入力のうち、片方は局部発振波

Section titled “2つの入力のうち、片方は局部発振波”

周波数混合器(ミキサ)は、2つの入力を掛け合わせて周波数の足し算と引き算、すなわち周波数変換を担う回路です1。周波数を移す利点は、帯域を用途ごとに割り振れることと、無線通信ではアンテナのような受動素子を小型にできることです。

片方の入力はたいていPLLで作られた高周波の周期信号で、これをLO信号と呼んで、残る入力信号(IN)と区別します。入力を低い周波数へ移す向きの使い方をダウンコンバージョンミキサ、高い側へ移す向きをアップコンバージョンミキサと呼びます。

掛け算は和と差を同時に作り、イメージ周波数も降りてくる

Section titled “掛け算は和と差を同時に作り、イメージ周波数も降りてくる”

モバイル通信用受信機の基本構成は2、RFの帯域通過フィルタ(BPF)、低雑音増幅器(LNA)、受信ミクサ、受信フィルタの順に並び、受信ミクサの手前のBPFがイメージ応答を抑える役目を負います。

イメージ応答とは、局部発振波の周波数fpを挟んで反対側にある周波数が、希望波と同じ中間周波数fifへ降りてくる現象です。fp+fifとfp−fifの2つはfpを中心に対称の位置へ並び、片方を希望波の周波数に選ぶと、残る片方がイメージ周波数になります。イメージ周波数は受信スプリアス応答の原因の1つです。受信ミクサ前段のフィルタでの減衰量が足りずに通り抜けた干渉妨害波は、受信ミクサで中間周波数へ変換され、感度を劣化させる場合があります。

局部発振波を挟んだ両側が、同じ中間周波数へ降ります
周波数希望波局部発振波干渉妨害波イメージ周波数fp − fiffpfp + fiffiffif中間周波数 fif前段のBPFで、この側を抑えます
ミキサは差の周波数を作るため、局部発振波を挟んで等距離にある2つの周波数が同じ中間周波数へ降ります。片方を選ぶ役目は、ミキサの前に立つフィルタが担います。

ミキサからは、直流、入力信号finとその高調波m・fin、局部発振波fpとその高調波n・fp、およびそれらの混合波m・fin±n・fpが出力され3、所望の混合波以外の混合波はスプリアスになります。周波数を自由に移せる代わりに、所望以外の組み合わせも一緒に生まれます。

理想のスイッチでも、変換利得は−3.92 dBで頭打ちになる

Section titled “理想のスイッチでも、変換利得は−3.92 dBで頭打ちになる”

ミキサの基本動作は、局部発振波による信号波のスイッチングです。LO電力を高めるほど理想スイッチのデューティ比δが高まって変換利得が上がり、δ = 0.5で最高値−3.92 dBに漸近して飽和します。実際のミキサでは、理想スイッチの機能を半導体素子の非線形動作が代替するため、接合面の寄生抵抗や容量により変換利得が低下します。そのためFETなどのアクティブ素子を使って、周波数変換と同時に増幅も行います。

切り替えるだけの型は損をし、増幅を兼ねる型は0 dBを超えます
変換利得(dB)/0 dBより下は変換損です+100−10理想スイッチの天井 −3.92 dB変換利得 8 dB変換損 10 dB変換損 11.5 dB 以下ゲートミキサミリ波帯/1.2×2.9 mm偶高調波ミキサ40 GHz帯/1.7×1.5 mmリングダイオードミキサ6〜18 GHz/2.6×2.2 mm
MMICミキサの開発例を、変換損を変換利得の符号反転として同じ目盛りへ載せた図です。理想スイッチの天井が−3.92 dBにあるため、素子で切り替えるだけの型は0 dBより下に並び、FETで増幅を兼ねるゲートミキサだけが上へ抜けます。

MMICミキサの開発例では、広帯域なマーチャントバランを使ったリングダイオードミキサがRF周波数6〜18 GHzで変換損11.5 dB以下、チップは2.6 mm×2.2 mmです。ミリ波帯のゲートミキサは変換利得8 dBで1.2 mm×2.9 mm、アンチパラレルダイオードペア(APDP)を使った偶高調波ミキサは40 GHz帯における変換損10 dBで1.7 mm×1.5 mmです。

型は、スイッチ素子と分波回路の組み合わせで決まる

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ミキサの中身は、スイッチングを担う半導体素子と、LO波や入出力信号を行き先ごとに分ける分波回路の2つです。MMIC上ではショットキー障壁ダイオード(SBD)やMESFETが使われ、GaAs MMIC上のSBDの障壁電位は0.7 V程度です。近年はSiやSiGeプロセスのバイポーラトランジスタや、CMOSプロセスを使ったギルバートセルミクサも使われます。

INだけを差動にした構成をシングルバランスミキサ、LOも差動にした構成をダブルバランスミキサと呼びます1。前者では出力側へLO信号がそのまま漏れるのに対し、後者ではLO信号の漏れを抑えられます。LSIで多く採られるのはダブルバランス型のスイッチングミキサで、LO信号を受けるスイッチトランジスタへ直流のバイアス電流を与える構成をアクティブ型、そのバイアスを省いた構成をパッシブ型と呼びます。ダブルバランスでアクティブ型のものは、発明者の名前からギルバートミキサと呼ばれます。

近年パッシブ型がよく使われるようになったのは、低電圧動作が可能で、フリッカ雑音の影響を受けにくいためです。課題は、出力インピーダンスが小さいこと、利得の点で不利なこと、LO信号に要求される振幅がアクティブミキサより大きくなることです。

レーダは、送信波と受信波の差の周波数で距離を測る

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三菱電機の前方監視用ミリ波レーダはFMCW方式を採り、受信MMICが送信波と受信波を掛け合わせ、チャープごとに両者の周波数の差にあたるビート信号を得ます4。この差の周波数をビート周波数と呼びます。ビート信号はベースバンドアンプで増幅されたのちMCUでA/D変換して取り込まれ、FFTでビート周波数が観測され、そこから対象物との距離と相対速度を算出します。

試作品の仕様は、中心周波数76.5 GHz、レーダ方式FMCW、距離測定範囲0.5〜200 m、相対速度測定範囲−260〜+100 km/h、角度測定範囲−34〜+34度、寸法はW99×H80×D40 mmです。通信の受信機では周波数を下げるために使う掛け算を、レーダでは電波が往復した遅れ時間そのものを周波数へ移すために使っています。

集積回路の中では、ミキサが2段並ぶ

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三菱電機が0.35 μm SiGe BiCMOSプロセスで試作したDSRC車載器用RFICは5、1st MIXと2nd MIXという2段のミキサを、LNA、VCO、PLL、変調回路とともに同じIC上へ載せています。チップサイズは3.6 mm×3.2 mmで、受信時の雑音指数は6.2 dB、入力換算の1 dB利得圧縮電力は−34.5 dBmです。いずれも5.8 GHz帯の同社試作品の値です。

段を重ねる作りは、受信機の側の事情から来ます。高選択度のIFのBPFを使うスーパヘテロダイン方式2は高いダイナミックレンジを持ち、大半の無線用受信機に使われてきました。RFからベースバンドへ直接周波数変換を行うダイレクトコンバージョン方式は、受信側の選択度をベースバンドのフィルタで持たせられるので集積化に向き、携帯端末への採用が進んでいます。周波数を何段で落とすかという選択が、そのままチップの構成に出ます。

ミキサとは何ですか?

2つの入力を掛け合わせて、和と差の周波数の信号を作る回路です。周波数の足し算と引き算、すなわち周波数変換を担います。

増幅器とはどこが違いますか?

動かす対象が違います。増幅器は信号の大きさを変え、ミキサは信号の周波数を移します。入力を低い周波数へ移す向きの使い方をダウンコンバージョンミキサ、高い側へ移す向きをアップコンバージョンミキサと呼びます。

2つ目の入力は何ですか?

局部発振波(LO信号)です。片方の入力はたいていPLLで作られる高周波の周期信号で、これをLO信号と呼んで、もう一方の入力信号と区別します。

なぜ周波数を移すのですか?

帯域を用途ごとに割り振れるためです。無線通信では、アンテナのような受動素子を小型にできる利点もあります。

イメージ応答とは何ですか?

局部発振波を挟んで反対側にある周波数が、希望波と同じ中間周波数へ降りてくる現象です。局部発振波の周波数fpに対してfp+fifとfp−fifが対称に並び、片方を希望波に選ぶと、残る片方がイメージ周波数になります。受信ミクサの手前のBPFでイメージ応答を抑えます。

ミキサは信号を増幅もしますか?

回路の型によります。理想スイッチによる変換利得はデューティ比0.5で最高値−3.92 dBに漸近し、実際のミキサでは半導体素子の寄生抵抗や容量で変換利得が低下します。そのためFETなどのアクティブ素子を使って、周波数変換と同時に増幅も行います。

通信以外でも使いますか?

使います。FMCW方式のミリ波レーダでは、受信MMICが送信波と受信波を掛け合わせ、両者の周波数の差にあたるビート信号を得ます。このビート周波数から対象物との距離と相対速度を算出します。

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