基準電圧源とは
基準電圧源とは、電源電圧や温度が動いても一定の電圧をつくり、ほかの回路が電圧を測るときの目盛りとして使う回路です。 レギュレータは出力をこの目盛りへ合わせ込み、ADCは入力をこの目盛りで測ります。目盛りの値は基本的に設定できる出力電圧の下限になり、目盛りの誤差と経年の動きは、ほかの回路をどれだけ精密にしても残る精度の上限になります。
レギュレータは、出力を分圧して基準電圧と比べ続ける
Section titled “レギュレータは、出力を分圧して基準電圧と比べ続ける”リニアレギュレータの内部回路は、エラーアンプ、基準電圧源、出力トランジスタの3つで構成されます1。エラーアンプは誤差検出用のオペアンプです。入力や負荷が動いて出力電圧が変わり始めると、エラーアンプが出力からの帰還電圧と基準電圧を連続的に比べ、差分がゼロになるようにパワートランジスタを調整して出力を一定に保ちます1。この帰還ループ制御で、出力電圧は VREF に (R1+R2)/R2 を掛けた値に保たれます。
降圧型スイッチングレギュレータでも、比較の相手は同じです。出力電圧は内部の比較回路へ引き込まれて基準電圧と比べられ、この比較回路はリニアレギュレータのエラーアンプと同じものです2。比較の結果を、リニア側は出力トランジスタの連続的な加減へ、スイッチング側はスイッチのオンオフ時間(デューティサイクル)の制御へ渡します。どちらの方式でも、出力電圧の正しさの出どころは比較の相手にあたる基準電圧そのものです。
VREFの値が出力の下限を、VREFの誤差が出力の精度を決める
Section titled “VREFの値が出力の下限を、VREFの誤差が出力の精度を決める”基準電圧の値は、設定できる出力電圧の下限になります。エラーアンプが帰還電圧を VREF へ合わせ込むので、可変タイプで設定できる最低電圧は基本的に VREF です3。VREF はICの一部で、基本的に外から変えられません。ロームは、CMOS系のリニアレギュレータではおよそ0.8V、バイポーラ系ではおよそ1.2Vの VREF が一般的だとしています。1Vの出力が要る場面で1.2Vの VREF の品種を選ぶと、出力をそこまで下げられません。VREF が0.8V前後の品種を選ぶ必要があります。
精度も VREF から始まります。出力精度はリニアレギュレータの重要スペックで、可変タイプでは、IC自体の精度が VREF の精度そのものです3。出力電圧は外付け抵抗で決まるので、実際に得られる精度は VREF の誤差に抵抗の誤差を上乗せした形になります。固定出力タイプの許容誤差は、昔は±5%が標準的でしたが、最近は±1%という高精度の品種も数多くあります。出力精度は温度や出力電流とも密接な関係があるため、ロームは常温だけの値よりも全温度範囲のスペックを参照するとしています。
逆向きの温度特性を足して、平らな目盛りをつくる
Section titled “逆向きの温度特性を足して、平らな目盛りをつくる”半導体の中でこの目盛りをつくる代表的な回路が、バンドギャップ基準電圧(BGR)です。BGRは、温度によって直線的に増えるPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電圧と、温度が上がるほど減るCTAT(Complementary To Absolute Temperature)電圧を加算して、温度による変動を打ち消します4。CTATはシリコンPN接合のVBE特性から、PTATは抵抗とトランジスタの特性から得られ、両者を適切な比率で加算すると温度に依存しにくい基準電圧になります。
RAMXEEDは、ASIC設計上の主要なパラメータとして、出力電圧、温度係数、PSRR(電源電圧の変化に対する出力変動)、負荷変動耐性を挙げています。同社は、出力電圧は一般的に約1.2V付近に設定されることが多く、温度係数は数十ppm/℃以下を目標とするとしています4。基本的なPTAT-CTATの打ち消しでも一定の安定性は得られますが、−40℃〜125℃といった広い温度範囲では2次から3次の温度補償技術が要る場合があり、同社はこれで高温域と低温域でも±10ppm/℃以下の安定性が実現可能だとしています。代表的な構成として同社はBrokaw型(オペアンプと2つのバイポーラトランジスタ、抵抗器で構成)を挙げ、低消費電力化や小面積化を目的としたオペアンプレス型の構成も採られるとしています。
目盛りは温度、入力、負荷、時間で動き、変換器の精度の上限になる
Section titled “目盛りは温度、入力、負荷、時間で動き、変換器の精度の上限になる”基準電圧源の出力は、温度、入力電圧、負荷電流、そして時間によって変わります5。時間による変化は経年劣化によるもので、長期ドリフト(LTD)または長期安定性と呼ばれます。Texas Instrumentsは、変換の直線性が完全でも、どの変換器の精度も基準電圧の温度ドリフトや長期ドリフトで制限されるとしています6。同社は、ツェナーのドリフトとオペアンプのドリフトは誤差へそのまま加わり、抵抗の誤差は分圧抵抗どうしがどれだけ揃って動くかだけで決まるとしています。
ドリフトの原因には機械的な応力もあります。TIは、バンドギャップにかかる機械的な応力がトランジスタのVBEと抵抗を変え、基準電圧の出力をずらすピエゾ接合効果5を挙げています。ツェナーダイオードの接合や、直列に入れた温度補償用の接合に応力がかかっても、電圧がずれます。
BGRの使い道は、オペアンプやバッファアンプのバイアス生成、ADCの基準電圧、電圧検出やリミッタ回路のしきい値です4。目盛りが揺れれば、そこから作られるバイアス電圧やしきい値もいっしょに揺れ、ADCのオフセット誤差が増えたり、電源監視回路が誤動作したりします。基準電圧の安定性がアナログASIC全体の品質を左右するため、設計の初期にBGRの仕様が他の回路ブロックより先に決まる場合もあります。
製造ばらつきは設計で見込み、出荷時に詰める
Section titled “製造ばらつきは設計で見込み、出荷時に詰める”半導体プロセスのばらつきは、BGRの出力電圧や温度特性に大きく影響します。設計では、MOSFETやバイポーラトランジスタのしきい値と抵抗値がばらつく前提でマージンを取り、トランジスタの面積比や抵抗のレイアウト対称性を使ってばらつきを吸収し、シミュレーションではMonte Carlo解析で統計的な変動を見積もります4。用途によってはトリミング機構を設けて、出荷時の補正でプロセスばらつきに対処します。
BGRの出力は回路全体へ広がる基準になるため、雑音特性の最適化も要ります。熱雑音やフリッカーノイズは、トランジスタの面積を適切に確保して電流密度を最適化することで抑えます。電源の変動はそのままBGRの出力へ届くので、PSRRはカスコード電流源を使うか、レギュレータと組み合わせて抑えます。
給電系では、負荷の近くで基準電圧と比べてきた
Section titled “給電系では、負荷の近くで基準電圧と比べてきた”基準電圧は電源の供給側でも目盛りとして働きます。大型コンピュータの給電では、負荷近傍の電圧をセンスして基準電圧との差分を補正するリモートセンス方式が従来採られていました7。電子情報通信学会の知識ベースは、低電圧化が進むにつれてこの方式での補正が難しくなったため、給電系のインピーダンスを下げる方向、つまり負荷近傍への電源実装が最善だとしています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”基準電圧源とは何ですか?
電源電圧や温度が動いても一定の電圧をつくり、ほかの回路が電圧を測るときの目盛りとして使う回路です。リニアレギュレータの内部回路は、エラーアンプ、基準電圧源、出力トランジスタで構成されます。
レギュレータとの役割の違いは何ですか?
レギュレータは出力を基準電圧へ合わせ込む部分で、基準電圧源はその合わせ先そのものをつくる部分です。リニアレギュレータの出力電圧は、VREF に (R1+R2)/R2 を掛けた値になり、可変タイプで設定できる最低電圧は VREF です。
なぜ出力が約1.2Vなのですか?
温度に比例して増えるPTAT電圧と、温度が上がるほど減るCTAT電圧を加算し、温度依存を打ち消した結果です。RAMXEEDは、バンドギャップ基準電圧(BGR)の出力電圧が一般的に約1.2V付近に設定されることが多いとしています。
温度が動いても一定なのはなぜですか?
逆向きの温度特性を足し合わせるためです。シリコンPN接合のVBE特性がCTAT動作を示し、抵抗とトランジスタの特性から得られる電圧がPTAT動作を示すので、両者を適切な比率で加算すると温度依存が打ち消されます。
温度係数のppm/℃とは何を表しますか?
百万分の1を単位として、温度が1℃動いたときの基準電圧の動きを表す指標です。RAMXEEDは数十ppm/℃以下を目標に挙げ、−40℃〜125℃の広い温度範囲でも2次から3次の補償で±10ppm/℃以下の安定性が実現可能だとしています。
基準電圧の精度は何に響きますか?
レギュレータの出力電圧とADCの変換精度に直接響きます。可変タイプではIC自体の精度が VREF の精度そのもので、外付けの出力設定抵抗の誤差がこれに上乗せされます。固定出力タイプの許容誤差は昔は±5%が標準的でしたが、最近は±1%という高精度の品種も数多くあります。
製造ばらつきはどう吸収しますか?
しきい値や抵抗値の変動を見込んだマージン設計、トランジスタの面積比とレイアウト対称性の活用、Monte Carlo解析による統計的な見積もりで吸収します。用途によってはトリミング機構を設けて出荷時に補正します。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- バンドギャップとは── 基準電圧の値の由来になる、材料そのもののエネルギー差
- DC-DCコンバータとは── 基準電圧へ出力を合わせ込む側の回路
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- 1ローム:リニアレギュレータの動作原理techweb.rohm.co.jp ab
- 2ローム:降圧型スイッチングレギュレータの動作原理techweb.rohm.co.jp ↩
- 3ローム:リニアレギュレータの重要スペックtechweb.rohm.co.jp ab
- 4RAMXEED:アナログASIC設計におけるバンドギャップ基準電圧の基礎と応用技術ramxeed.com abcd
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- 6
- 7電子情報通信学会:知識ベース 8群5編1章 通信情報用電源・システム(2019年公開版)ieice-hbkb.org ↩