DAC(D/Aコンバータ)とは
DAC(D/Aコンバータ)とは、デジタル量をアナログ量へ変換する回路です。 A/Dコンバータはこれと逆向きの変換器です。同じ分解能へ届く方式が複数あり、違いは素子の数と、素子に求める精度の配分にあります。素子を減らせば精度の要求が上がり、雑音を抑えれば回路が大きくなるので、方式の選択はどれを払うかの選択です。
演算をデジタルへ移したから、出口の変換器が要る
Section titled “演算をデジタルへ移したから、出口の変換器が要る”デジタル量は、時間の刻みも値の刻みも飛び飛びで、刻みの間隔がそろった量です1。アナログ量は自然界の現象そのもので、時間も値も途切れずに連続します。D/Aコンバータは前者から後者をつくり、A/Dコンバータはその逆を担います。
両方が要るのは、演算をデジタルへ移したからです。電気的に高度で高速な演算は、CPUやDSPがデジタルで受け持ちます。自然界の現象をA/D変換で取り込み、デジタルで処理し、その結果を自然界の値へ返すためにD/Aコンバータを載せます2。用途は、CDやMDなどのデジタルオーディオ、DVDやデジタルスチルカメラなどのデジタルビデオ、スマートフォンやFAXなどの通信機器、パソコンの音源やビデオカード、プログラマブル電源などの測定器です。
分解能を作る素子は、抵抗、キャパシタ、電流源、オーバーサンプリングの4通り
Section titled “分解能を作る素子は、抵抗、キャパシタ、電流源、オーバーサンプリングの4通り”D/Aコンバータの分解能は、何段階のアナログ値を作り分けられるかを表します。実現方法は、抵抗を用いるもの、キャパシタを用いるもの、電流源を用いるもの、オーバーサンプリング方式の4つです3。
抵抗はLSI上で最も使いやすいアナログ素子とされ、比精度も比較的良く、トリミングなしで10ビット精度程度まで実現できます。キャパシタはLSIでは抵抗より比精度が良いため中高精度のD/Aコンバータで使われますが、高精度には大きな容量が要り、充放電に時間がかかるため高速化は困難です。低い周波数ではリーク電流を補うリフレッシュも要り、リフレッシュ中も出力電圧を保つ工夫が求められます。キャパシタ方式では、2つのスイッチが同時にオンになると電荷保存の関係が崩れるので、クロック信号でオン時間が重ならないように制御します。
電流源は数MHz以上の高速用途向けで、デジタル入力で電流源を切り替え、出力電流を抵抗や演算増幅器で電圧へ直します。オーバーサンプリング方式は16ビット以上の高精度用途向けで、低分解能・高サンプリングレートの出力をフィルタして目的のアナログ信号を得ます。2値出力とローパスフィルタで構成する1ビットのデルタシグマ方式が一般的です。
抵抗の数を減らすと、抵抗の精度が要る
Section titled “抵抗の数を減らすと、抵抗の精度が要る”最も簡単なD/Aコンバータは抵抗分圧方式で、抵抗ストリングとも呼ばれます。基準電圧を抵抗で分圧し、スイッチで1か所を選ぶ方式で4、線形性に優れ、原理上、単調増加性が必ず保証されます。短所は回路規模で、3ビットで8つの抵抗とスイッチ、4ビットで16個、10ビットでは1024個の抵抗とスイッチが要り、分解能に対して回路規模が指数関数的に増えます。速さにも上限があり、抵抗値を小さくして後段のバッファアンプを速くすればそれなりの高速動作ができる一方、高分解能ではスイッチの寄生容量で動作速度が落ちます。
段に分ける手もあります。2段構成の例では、6ビットの分解能に必要な抵抗とスイッチが16個と18個に収まり、1段構成ならどちらも64個です。ただし段を増やすごとにアンプが2個要るため、速度はアンプ2つ分だけ遅れ、出力電圧にはアンプ2段分のオフセットが乗る可能性が生まれます。
もう1つの道がバイナリ方式です。代表例のR-2Rラダー回路は5、どのノードから測っても抵抗値2Rが並列に入る形になるため、1ノードごとに電流値が半分になっていきます。NビットのD/Aコンバータに要る抵抗は3N本で、10ビットに当てはめると30本です。スイッチは小型のままで足り、デコーダも省けます。10ビット程度までなら小面積で作りやすく、他の方式と組み合わせれば14ビット程度まで届きます。
減らした素子の数は、精度の要求に置き換わります。R-2Rラダーは抵抗に要求される比精度が高く、高精度を出すにはMOSFETのサイズなどスイッチの工夫と、レイアウトの工夫が要ります。レイアウトではRと2Rのペア性が重要で、とくにMSB側の抵抗を精度よく作る必要があります。
グリッチを消した分は、デコーダの面積で払う
Section titled “グリッチを消した分は、デコーダの面積で払う”デジタル値が切り替わる瞬間に、まったく別の電圧や電流が出てしまうことがあり、これによって出力のアナログ信号に乗る雑音をグリッチと呼びます6。回避策の1つが温度計コード(サーモメーターコード)です。1がいくつあるかで数字を表す符号で、人が指を立てて数を数えるのと同じ考え方です。3から4へ移る場面に当てはめると、3ビットのバイナリコードは011から100へ3桁とも入れ替わり、7桁の温度計コードは0000111から0001111へ1が1個増えるだけです。
抵抗モードと電流モードの例では、温度計コードで制御することでグリッチを抑えられます。そのかわり、バイナリコードを温度計コードへ直すデコーダが、分解能に応じて指数関数的な回路規模になります。電流モードでは電流源をカスコード電流源にすると、出力電圧の影響を受けにくくなって精度が上がる一方、出力できる電圧範囲は狭まります。ここでも、精度は別の何かと引き換えです。
製品の分解能は32ビットに達し、音源の情報量が増えている
Section titled “製品の分解能は32ビットに達し、音源の情報量が増えている”ロームは、ハイレゾ音源の再生に向く高音質オーディオ機器向けの32ビットD/AコンバータIC「BD34352EKV」を開発し、評価ボード「BD34352EKV-EVK-001」と併せて販売を始めました7。同社は、D/A変換回路を電流セグメントで構成し、SN比126dB、THD+N-112dBという数値性能を達成し、デジタルフィルタでは阻止帯域減衰量-150dB以下を実現したとしています。
一般的な音楽用CDで再生される音楽はサンプリング周波数44.1kHz・量子化ビット数16ビットなのに対し、ハイレゾ音源はサンプリング周波数96kHz以上・量子化ビット数24ビット以上のデータが一般的とされています。分解能を上げる工夫が続く理由は、音源そのものの情報量が増えているところにあります。
ルネサスは、自社の高速・低消費電力のD/Aコンバータ製品が通信システム、医療・試験用計測機器、映像アプリケーションに幅広く対応するとしています8。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”DAC(D/Aコンバータ)とは何ですか?
デジタル量をアナログ量へ変換する回路です。A/Dコンバータはこれと逆向きの変換器です。
A/Dコンバータとどう違いますか?
向きが逆です。演算をデジタルへ移したことで、自然界の現象を取り込むA/Dコンバータと、演算の結果を自然界の値へ返すD/Aコンバータの両方が必要になり、機器の入口と出口をそれぞれ受け持ちます。
D/Aコンバータの分解能とは何ですか?
何段階のアナログ値を作り分けられるかを表すビット数です。抵抗分圧方式の例では、3ビットで8段階、4ビットで16段階となり、段階の数が2のビット数乗で増えていきます。
抵抗分圧方式とR-2Rラダーはどちらが良いのですか?
素子の数と精度のどちらを払うかで変わります。抵抗分圧方式は線形性に優れ、単調増加性が原理上保証される一方、10ビットでは抵抗とスイッチが1024個ずつ要ります。R-2RラダーはNビットで抵抗3N本と少なく済む一方、抵抗どうしの比精度が高く要求されます。
グリッチとは何ですか?
データが切り替わる瞬間に、まったく別の電圧や電流が出てしまい、出力のアナログ信号に乗る雑音です。回避策の1つが温度計コードによる制御です。
温度計コードとは何ですか?
1がいくつあるかで数字を表す符号で、人が指を立てて数を数えるのと同じ考え方です。グリッチの回避策の1つですが、バイナリコードを温度計コードへ直すデコーダが分解能に応じて指数関数的な回路規模になります。
どんな製品に入っていますか?
CDやMDなどのデジタルオーディオ、DVDやデジタルスチルカメラ、スマートフォンなどの通信機器、パソコンの音源やビデオカード、プログラマブル電源などの測定器です。ルネサスは自社のD/Aコンバータ製品の用途として、通信システム、医療・試験用計測機器、映像アプリケーションを挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ADC(A/Dコンバータ)とは── 向きが逆で、アナログ量をデジタル量へ変える回路です
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- 1ローム:D/Aコンバータとは?rohm.co.jp ↩
- 2ローム:A/D変換,D/A変換の必要性rohm.co.jp ↩
- 3ローム:D/A変換方式の種類rohm.co.jp ↩
- 4ローム:DAC 基本形1(デコーダ方式)rohm.co.jp ↩
- 5ローム:DAC 基本形2(バイナリ方式)rohm.co.jp ↩
- 6ローム:DAC 基本形3(温度計コード方式)rohm.co.jp ↩
- 7
- 8ルネサス:D/Aコンバータ(DAC)renesas.com ↩