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熱拡散(不純物拡散)とは

熱拡散(不純物拡散)とは、炉の中でウェーハ表面に不純物を供給し、高温で結晶の内部へ拡散させてp型・n型の層を作るドーピング方法です。 不純物の量は表面の条件で、深さは温度と時間で決まります。

難しさは、量と深さを別々に決めにくい点にあります。表面濃度は固溶度で上限が決まり、一度入れた不純物は後の高温工程のたびに動きます。LSIのドーピングはイオン注入で量を決めてから加熱する流れに移り、熱拡散は太陽電池のエミッタや、深い接合を作るパワーデバイスで使われています。

プリデポジションで量を入れ、ドライブインで深く押し込む

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熱拡散は2つの工程に分けて考えます。1つ目のプリデポジションでは、表面に所定の量の不純物を供給します1。1960年代は、表面に不純物の膜や気相を接触させて入れていました。このとき表面濃度は平衡固溶度で上限が決まり、濃度分布は相補誤差関数(erfc)の形になり、入る量は時間の平方根に比例して増えます。

2つ目のドライブインでは、プリデポジションのあとに供給を断って基板を加熱し、この拡散で接合深さと分布の鋭さが決まります。入れた量が一定のまま広がるので分布はガウス形になり、表面濃度は時間の平方根に反比例して下がります。p-n接合の深さは、拡散した不純物の濃度が基板の濃度と等しくなる位置です。

ボロン拡散の濃度分布
0.06 µm0.18 µm0深さ10¹⁸10¹⁷10¹⁶ボロン濃度(cm⁻³)プリデポ後 1000℃・1時間ドライブイン後 1100℃・1時間基板のn型濃度
一定の表面濃度でボロンを入れると表面近くに集まった分布になり、供給を断って加熱すると同じ量のまま深く広がって、接合深さは約0.06µmから約0.18µmへ約3倍になります。

数字で見ると、ドライブインの効き方がはっきりします。MITの講義1の演習では、ドナー濃度1×10¹⁶ cm⁻³のn型Siに、表面濃度1×10¹⁸ cm⁻³の一定ソースからボロンを1000℃で1時間入れると、接合深さは約0.06µmです。供給を断って1100℃で1時間ドライブインすると、接合深さは約0.18µmまで進み、約3倍になります。演習の数値をerfcとガウス分布の式に当てはめると、ドライブイン後の表面濃度は約2×10¹⁷ cm⁻³で、プリデポ時の5分の1ほどまで下がります。深さを稼ぐ代わりに、表面の濃度を手放す工程です。

ボロンの拡散係数は、1000℃から1100℃で約10倍になる

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拡散係数の温度依存
7.6×10⁻¹⁶ cm²/s7.57×10⁻¹⁵ cm²/s約10倍1000℃1100℃10⁻¹⁵10⁻¹⁶拡散係数 D(cm²/s)温度
Ea=3.46 eVのボロンでは、温度を100℃上げるだけで拡散係数が約10倍になります。同じ1時間でも、どの温度で炉を回すかで深さが大きく変わります。

不純物が動く距離の目安は拡散長で、拡散係数DDと時間ttから2Dt2\sqrt{Dt}と表します。拡散係数は温度に対して指数関数的に変わり、D=D0exp⁡(−EakT)D = D_0 \exp\left(\frac{-E_\mathrm{a}}{kT}\right)の形で書けます。シリコン中では主に空孔を介した拡散が重要で1、空孔ができることと、活性化エネルギーEaE_\mathrm{a}を越えることの両方が必要です。

前の節の演習では、ボロンの拡散係数をD0=0.037D_0=0.037 cm²/s、Ea=3.46E_\mathrm{a}=3.46 eVとして、1000℃で7.6×10⁻¹⁶ cm²/s、1100℃で7.57×10⁻¹⁵ cm²/sと計算しています。温度が100℃上がるだけで、拡散係数は約10倍になります。この温度依存の大きさは、指数の中の活性化エネルギーEaE_\mathrm{a}で表されます。

不純物の濃度が高いと、拡散はさらに速くなります。講義資料は、高濃度では荷電した空孔を介した拡散が加わり、実効的な拡散係数が単一の活性化エネルギーで求めた値より大きくなること、その結果として分布の先端が鋭くなることを示しています。

表面濃度は固溶度で頭打ちになり、量と深さを別々に決めにくい

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イオン注入を半導体ドーピングに使う概念の特許は、ショックレーが1956年に取得しました2。Pfannが拡散の概念で特許を取った2年後です。商用のイオン注入装置は1973年に登場しています。

Georgia Techの講義資料は、イオン注入の利点として、ドーズをとても精密に制御できること、不純物の深さとドーズを独立に制御できること、ウェーハ内部にピークを持つ分布を作れること、多段のエネルギーで複雑な分布を作れることを挙げています。熱拡散では、表面濃度は固溶度で、深さは温度と時間でそれぞれ決まり、入れた量も後の熱で動きます。MITの講義資料も、現在のドーピングを、非平衡のイオン注入で入れてから加熱して拡散させる流れとして示しています。量を注入で決め、深さは注入後の熱、つまり熱バジェットで管理する形です。

注入にも弱点があります。イオンは結晶に損傷を与えるので、注入後にアニールが必要で、その熱処理で分布も変わります。同じ資料は注入の欠点として、非常に深い分布や表面ごく近くの分布を作りにくいこと、損傷の一部が熱処理の後にも残ること、装置が高価であることも挙げています。MITの資料は、表面に不純物の膜や気相を接触させる方式に再び戻る流れにも触れており、これは気相ドーピングや固相拡散につながる話題です。

太陽電池のエミッタは、POCl3の管状炉で拡散させる

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管状炉やバッチ式の拡散炉は、シリコンウェーハのドーピングに使われる一般的な産業用の装置です3。太陽電池の製造ではエミッタ形成に使われ、液体ソースの拡散は産業で最も一般的な拡散方式とされています。

POCl3の管状炉拡散
N2POCl3バブラーO2石英管(炉の中)ウェーハプリデポジションドライブイン希フッ酸 1〜2分P2O5の層PSG+リン拡散層リン拡散層下地はSi
POCl3の蒸気と酸素からできたP2O5がウェーハ表面でリンの供給源になり、ドライブインでリンが内部へ入ります。表面に残ったPSGは、希フッ酸で取り除きます。

窒素のキャリアガスを液体のPOCl3に通して蒸気を石英管へ運び、酸素と反応させてP2O5を作ります。P2O5はウェーハ表面に層として付き、プリデポジションの段階では無限ソースとして働きます。ドライブインでは、P2O5が表面のSiで還元されてリンができ、ウェーハの内部へ拡散します。拡散後の表面にはリンを含む酸化膜(リンシリケートガラス、PSG)が残るので、希フッ酸に1〜2分(表面が撥水性になるまで)浸して除去し、純水で洗います。PV Manufacturing Educationの解説は、ボロンをBCl3で拡散させる場合の温度を800〜1100℃としています。装置としての構成は拡散炉で詳しく解説しています。

深い接合が要るパワーデバイスでは、注入後に長時間拡散させる

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注入が苦手な深さを稼ぐのが、熱拡散のもう一つの居場所です。米国特許US5981982A4の電力用スイッチング素子では、酸化膜越しにAl・Ga・Bをイオン注入したあと、約1275℃で約16時間の拡散を行います。Alは高耐圧のための深い接合(約4ミル、およそ100µm)を作るために使います。

同じ特許は、Alの電気的に活性になる割合が約4%と低いため、GaとBを加えてアクセプタの濃度を補うとしています。従来の技術では1275℃で約135時間といった非常に長い高温拡散が必要で、そのぶんNaなどの不純物で汚染されやすいとも書いています。この例では、注入で量を決め、熱拡散で深さを稼いでいます。IGBTなどのパワーデバイスの構造は、それぞれの用語ページで解説しています。

熱拡散とは何ですか?

炉の中でウェーハ表面に不純物(ボロンやリンなど)を供給し、高温で結晶の内部へ拡散させて、p型やn型の層を作るドーピング方法です。

プリデポジションとドライブインの違いは何ですか?

プリデポジションは表面に所定の量の不純物を入れる工程で、表面濃度は固溶度で決まり、分布は相補誤差関数の形になります。ドライブインは不純物の供給を断った状態で加熱し、入れた量を保ったまま深く押し込んで接合深さを設定する工程で、分布はガウス形になります。

接合深さはどれくらいになりますか?

MITの講義の演習では、1×10¹⁶ cm⁻³のn型Siにボロンを1000℃で1時間拡散すると接合深さ約0.06µm、その後1100℃で1時間ドライブインすると約0.18µmになります。

なぜイオン注入に置き換わったのですか?

イオン注入はドーズをとても精密に制御でき、深さとドーズを別々に決められるからです。熱拡散では表面濃度が固溶度で上限を持ち、深さは温度と時間の積み重ねで決まります。

今はどこで使われていますか?

太陽電池の製造では、POCl3を使う液体ソースの管状炉拡散が、産業で最も一般的な拡散方式とされています。パワーデバイスでは、アルミニウムで深い接合を作るために長時間の高温拡散が使われる例があります。

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