拡散炉とは
拡散炉とは、多数枚のウェーハをまとめて高温で熱処理する炉です。 名前は不純物を熱で拡散させる工程に由来しますが、酸化、アニール、成膜も同じ構造の炉で行われます。高温をつくって保つには時間がかかるので、まとめて入れてその時間を枚数で割ります。払う代償は、熱の総量が大きいことと、1バッチの異常が数百枚へ波及することです。石英管の炉は室温との往復で傷むため、使わない間も高温で待機させる運用があります。
まとめて熱処理するから、昇降温の時間を枚数で割れる
Section titled “まとめて熱処理するから、昇降温の時間を枚数で割れる”昇温と降温に時間を要する以上、1枚ずつ流すと装置あたりの枚数が頭打ちになります。数十枚から百枚以上をまとめて入れれば、1枚あたりの時間は下がります。熱酸化は酸素などのガスが入った処理室にウェーハを入れて加熱し、表面に酸化シリコンの膜をつくる方法で、バッチ処理で行えるため生産性が高い1工程です。
東京エレクトロンは、TELINDY PLUS2がバッチ式ならではのホットウォール内の熱均衡空間で処理するので、良好な膜質とクリーンルーム面積あたりの高い生産性を両立するとしています。同社は、TELINDYシリーズが累計1万台を超える実績を持つとしています。縦型バッチ成膜装置の市場は、KOKUSAI ELECTRICがGartnerの数値をもとに計算した2024年のシェアで、東京エレクトロンが47.4%、KOKUSAI ELECTRICが41.0%を占めます。
同じ構造で複数の工程を担えることも、炉の特徴です。KOKUSAI ELECTRICのグループは、LP-CVD技術、酸化技術、アニール(低温、高温)技術、拡散技術、ALD技術3に対応する成膜プロセス装置を提供しています。炉の中へ何のガスを流し、どんな温度履歴を与えるかで、ウェット酸化やドライ酸化にも、拡散にも、LPCVD(減圧CVD)やALDの成膜にもなります。酸化ではO₂やH₂Oを流して高温でSiO₂を育て、拡散では不純物源を高温で深さ方向へ広げ、アニールでは不活性ガスと温度履歴で格子を整え、LPCVDでは原料ガスを減圧で流して膜を積みます。イリノイ大学の実習用クリーンルームでは、Lindberg-Tempress 8500という2段積みの炉が8つの独立した石英の炉室を持ち、酸化、ドーパント拡散、アニールを行います4。
300mm世代は縦型が主流で、横型は管を段に重ねて床を使う
Section titled “300mm世代は縦型が主流で、横型は管を段に重ねて床を使う”ジェイテクトサーモシステムは、縦型と横型の炉ファミリー5に加えて、ランプアニールおよびRTPシステムとSiCパワー半導体向け熱処理装置をそろえています。横型は、ウェーハを垂直に立てて横方向へ並べます。同社の横型には、水平の処理管を最大4段まで縦に重ねて設置面積を有効に使う汎用装置があります5。
縦型は、ウェーハを水平に保って縦に積みます。300mm世代では、設置面積を抑えられることと、粒子が落ちてウェーハ面へ乗る経路を減らせることから、縦型が主流です。
1バッチは機種によって100枚から200枚になる
Section titled “1バッチは機種によって100枚から200枚になる”炉の性格は、1バッチに入る枚数と常用温度で決まります。TELINDY PLUSには125枚仕様のオプション、FTPSヒーター、短TAT、2ボート運用があります。TATは、ウェーハを投入してから回収するまでの時間です。最新機のEVAROSは6、300mmウェーハで従来比最大となる一度に200枚の処理能力と、ウェーハ搬送時間の短縮で、高い生産性を実現したと東京エレクトロンはしています。200mm縦型のALPHA-8SE iは前機種ALPHA-8SEのリニューアル装置として2018年にリリースされ2、150/200mmに対応し、一度に流せる枚数は最大150枚です。KOKUSAI ELECTRICは、200mm対応のVERTEX Revolutionに175枚の高生産性炉と100枚の低天井対応炉のオプションを用意しました。
使わないときも600℃で待たせ、運転中は±1℃に保つ
Section titled “使わないときも600℃で待たせ、運転中は±1℃に保つ”イリノイ大学のクリーンルームでは、炉を通常600℃の待機温度に保ちます4。待機温度をそれより高くしないのは、高温では炉心の巻線の寿命が急に縮むためです。完全に止めないのは、室温の約30℃から1000℃超までの往復で石英管が失透(結晶化)するためです。外側の結晶化した石英の層は安定性に役立ちますが、炉室の局所で制御されずに結晶化が進むと、応力の集中した部分ができて破損の原因になります。
運転中の温度は、ゾーンと熱電対で制御します。同大学の炉では、1つの炉室の3つの加熱ゾーンを、炉の外側の3本のスパイク熱電対と、カンチレバー型ローダーに組み込んだ3本のパドル熱電対の入力で制御します4。PID制御で設定温度まで素早く昇温し、±1℃以内に保持します。酸化と拡散では、炉室を通常950℃〜1100℃で運転します。ウェーハの搬入と搬出、時間、プロセスガスの順序はデジタルのプロセスコントローラーが受け持ち、最大16のレシピを保持できます。
量産機では、昇降温にかかる時間そのものを縮める工夫が進んでいます。東京エレクトロンはTELINDY PLUSに、処理温度までの昇温と反応終了後の急速冷却を可能にする独自の高速昇降温ヒーター2を載せ、リアクターの熱容量を最小にしてガスの置換効率を最大にしたとしています。
常用温度は用途で決まり、SiCでは1200℃から1900℃に及ぶ
Section titled “常用温度は用途で決まり、SiCでは1200℃から1900℃に及ぶ”温度域は用途ごとに異なります。ジェイテクトサーモシステムはSiC向けの8インチ100枚対応の量産装置7を業界に先駆けて市場へ投入したとしています。イオン注入後の活性化アニール装置は常用温度1900℃で、1バッチ100枚のVF-5300HLPと50枚のVF-3000HLPがあり、生産量に応じて選べます。ゲート絶縁膜形成用の酸窒化装置は常用温度1400℃、オーミックコンタクト層向けのランプアニール装置は常用1200℃に対応します。同社の研究・開発向けの小型ボックス炉8は400℃から1800℃までをそろえ、1150℃、1250℃、1500℃、1700℃、1800℃の各シリーズを持ちます。
縦に積んだ上と下で熱とガスの入り方が違い、ゾーンと排気で詰める
Section titled “縦に積んだ上と下で熱とガスの入り方が違い、ゾーンと排気で詰める”炉の中は、ヒーターで囲まれた石英の空間です。EVAROSは、温度の時間変化への追従性、応答性、安定性を示す動特性を強めた新開発のマルチゾーン制御ヒーターを採用し、高い均熱性と、昇降温や温度安定にかかる時間の大幅な短縮を実現する6と東京エレクトロンはしています。ゾーンを分けて温度を持たせるのは、縦に積んだウェーハの上と下で熱の入り方が異なるためです。
ガスの側にも同じ事情があります。KOKUSAI ELECTRICのAdvanced TSURUGI Plus-IIIは、独自の構造でローディング効果を抑えて膜厚均一性を高め、反応ガスの置換効率を上げて成膜の時間を短縮したとしています。ローディング効果とは、まとめて入れた枚数や表面積の分だけ原料ガスが消費され、位置によって膜厚が変化する現象です。東京エレクトロンは、EVAROSが排気配管の大口径化で優れたコンダクタンス特性を実現し、TELFORMULAがリアクター内部を完全石英面化してドライガスクリーニングでその清浄度を維持するとしています。
4つのつまみは、時間・熱・ばらつきの取引になる
Section titled “4つのつまみは、時間・熱・ばらつきの取引になる”- バッチ枚数を増やすと1枚あたりの時間は下がりますが、昇降温とガス置換の時間が伸び、1バッチ分がまとめて不良になる影響も大きくなります。減らすとTATとQタイムの管理は楽になり、装置あたりの枚数が落ちます。
- 温度を上げると反応の速さが上がって時間を詰められますが、熱バジェットの消費が増え、既に作り込んだ構造の寸法が動きます。下げるとバジェットは残り、同じ膜厚や同じ拡散長を得るための時間が伸びます。
- ゾーンごとの温度の傾斜を付けると、縦に積んだウェーハの上下で生じる膜厚や抵抗の差を詰められますが、ゾーン間の設定値が増えてレシピの再現性の管理に手間がかかります。傾斜を消すと管理は単純になり、面間のばらつきが出ます。
- 圧力とガス流量を下げると、減圧側で分子の移動が長くなって深い溝の底まで原料が届きますが、成膜の速さが落ちます。上げると速さは取れますが、ローディング効果と面内分布が悪化します。
炉が払うのは、熱の総量、リスクの粒度、メンテナンスの周期
Section titled “炉が払うのは、熱の総量、リスクの粒度、メンテナンスの周期”1つ目は熱の総量です。昇温、保持、降温のすべてに時間がかかるため、同じ最高温度でも枚葉のRTPやレーザアニールより熱バジェットを多く消費します。工程順が進むほど炉は使いにくくなり、RTA(急速熱処理)やレーザアニールへ移ります。
2つ目はリスクの粒度です。1バッチが100枚から200枚に及ぶため、温度やガスの異常が1回で数百枚へ波及します。ロットの切り方と抜き取りの設計が、そのまま損失の上限を決めます。
3つ目はメンテナンスの周期です。炉内の反応生成物が積もるとパーティクルの源になるため、クリーニングと部品交換の周期を予防保全で管理します。ジェイテクトサーモシステムはSiC向けの酸窒化装置で炉内にメタルフリー構造を採用してクリーニング頻度を軽減したとしています。東京エレクトロンは、ドライガスクリーニング技術の最適化と、ローディングエリアの雰囲気をさらに低い酸素濃度に保つ制御でプロセスの再現性を高め、微小パーティクルを制御するとしています2。環境の側では、EVAROSが消費電力と冷却水やガスなどの用力使用量を減らし、TELINDY PLUSと比べてウェーハ1枚あたりのCO₂排出量を約25%減らすと同社はしています。
この用語に対応する装置と製造メーカー
Section titled “この用語に対応する装置と製造メーカー”装置カタログDBから、この用語に一致する製品familyを持つメーカー 2社/3family を引いています。 各行は各社の公式製品ページを出典とします。 DBからの生成日: 2026-08-22
- Annealsys
- JTEKT Thermo Systems
- SiC power semiconductor heat treatment equipmentアニール・熱処理
- Vertical / horizontal furnace family熱処理(酸化・拡散・アニール)
出典は各社の公式製品ページです。 装置カタログDB では、同じ製品familyを工程・メーカー横断で検索できます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 酸化・拡散の工程ページ── 工程分類と、この工程の公開求人
- アニール・熱処理の工程ページ── 炉を共有する熱処理
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
- バッチALD、遅さを数十枚の一括成膜で補う|KOKUSAIはミニとラージの2系統── 炉でまとめて成膜する量産の例
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”拡散炉とは何ですか?
多数枚のウェーハをまとめて高温で熱処理する炉です。名前は不純物を熱で拡散させる工程に由来しますが、酸化、アニール、成膜も同じ構造の炉で行われます。
縦型と横型の違いは何ですか?
ウェーハを配置する向きが異なります。縦型はウェーハを水平に保って縦に積み、横型は垂直に立てて横方向へ配置します。300mm世代では設置面積と粒子の落下の観点から縦型が主流で、横型でもジェイテクトサーモシステムは処理管を最大4段まで縦に重ねる装置を用意しています。
なぜまとめて熱処理するのですか?
高温を保つのに時間がかかるためです。昇温と降温に時間を要する以上、1枚ずつ流すと装置あたりの枚数が頭打ちになるので、数十枚から百枚以上をまとめて入れて1枚あたりの時間を下げます。
拡散炉ではどの工程を行いますか?
KOKUSAI ELECTRICのグループは、LP-CVD技術、酸化技術、アニール(低温、高温)技術、拡散技術、ALD技術に対応する成膜プロセス装置を提供しています。炉という同じ構造の上で、流すガスと温度履歴を変えて別の工程を行います。
拡散炉の弱点は何ですか?
与える熱の総量が大きくなることです。昇温、保持、降温のすべてに時間がかかるため熱バジェットを多く消費し、工程順が進むほど使いにくくなって、短時間で済むRTPやレーザアニールが選ばれます。
炉のメーカーはどこですか?
KOKUSAI ELECTRIC、ジェイテクトサーモシステム、Annealsysなどです。当サイトの装置カタログDBで、炉や熱処理に一致する製品familyを持つメーカーを公式製品ページ単位で引けます。
1バッチに何枚入りますか?
機種で異なります。東京エレクトロンのTELINDY PLUSには125枚仕様のオプションがあり、EVAROSは一度に200枚の300mmウェーハを流せます。200mm縦型のALPHA-8SE iは最大150枚です。KOKUSAI ELECTRICのVERTEX Revolutionには175枚の高生産性炉と100枚の低天井対応炉のオプションがあります。
温度はどこまで上がりますか?
用途ごとに異なります。ジェイテクトサーモシステムのSiC向け装置は、活性化アニール装置が常用温度1900℃、ゲート絶縁膜形成用の酸窒化装置が常用温度1400℃、オーミックコンタクト層向けのランプアニール装置が常用1200℃です。同社の研究・開発向けの小型ボックス炉は400℃から1800℃までの温度域をそろえています。
現場のつまみは何ですか?
バッチ枚数、温度、ゾーンごとの温度の傾斜、圧力とガス流量です。枚数を増やすと1枚あたりの時間は下がりますが、昇降温とガス置換の時間が伸び、1バッチ分の一括不良の影響も大きくなります。
炉の生産性はどこで上がりますか?
熱制御と搬送です。東京エレクトロンはEVAROSで、新開発のマルチゾーン制御ヒーターで動特性を高めて高い均熱性を実現し、昇降温と温度安定にかかる時間を大きく縮めたとしています。排気配管の大口径化とウェーハ搬送時間の短縮も加え、TELINDY PLUSよりウェーハ1枚あたりのCO₂排出量を約25%減らすとしています。
炉のメンテナンスで管理するのはどこですか?
炉内の材質とクリーニング、そして石英管の温度履歴です。東京エレクトロンはTELFORMULAでリアクター内部を完全石英面化し、その維持にドライガスクリーニングを採用したとしています。室温と1000℃超の往復は石英管を結晶化させるため、炉は使わないときも600℃前後で待機させる運用があります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 酸化・成膜工程の全体像── 炉を共有する成膜側
- アニールと熱予算── 熱処理と熱予算
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- 1SCREEN:成膜工程(初心者のための半導体入門)screen.co.jp ↩
- 2東京エレクトロン:成膜 TELINDYシリーズtel.co.jp abcd
- 3KOKUSAI ELECTRIC:製品kokusai-electric.com ↩
- 4イリノイ大学 ECE:Furnacefabweb.ece.illinois.edu abc
- 5ジェイテクトサーモシステム:半導体jtektthermos.com ab
- 6東京エレクトロン:EVAROS 販売開始のお知らせ(2025年12月)tel.co.jp ab
- 7ジェイテクトサーモシステム:SiCパワー半導体thermos.jtekt.co.jp ↩
- 8ジェイテクトサーモシステム:研究・開発向け装置thermos.jtekt.co.jp ↩