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ウェット酸化とは

ウェット酸化とは、水蒸気を酸化種にして高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を育てる方法です。 酸素ガスだけを流すドライ酸化と対になる呼び方で、水分酸化やパイロジェニック酸化とも呼ばれます。水蒸気は酸化力が強く、素子分離のような厚い膜を短時間で作れます。代わりに膜の中には水酸基が多く残り、ドライ酸化の膜より絶縁破壊電界が下がります。速さと界面の水素終端を取るか、膜の内部のち密さを取るかで、2つの酸化は使い分けられ、組み合わせられてきました。

熱酸化はシリコン自身を膜に変え、流す酸化種で名前が変わる

Section titled “熱酸化はシリコン自身を膜に変え、流す酸化種で名前が変わる”

熱酸化は、外から材料を運んで堆積する成膜とは材料の供給源が違います。熱酸化膜はシリコンウェーハ自身が反応して成長する膜で、高温炉の中でシリコンに水蒸気(H2O)または酸素ガス(O2)を加えて二酸化ケイ素を作ります1。できたSiO2は主に絶縁層として使われます。1,000Åの熱酸化膜を作ると、表面のシリコン440Å分が反応に使われます。消えたシリコンの2.27倍の厚みの膜が育つ計算で、膜の一部は元の表面より下へ食い込みます。

熱酸化で消費されるシリコン
酸化前酸化後元の表面1,000Å440Å酸化種が界面へ酸化膜シリコン
1,000Åの膜のうち440Å分は元のシリコンが変わった部分で、膜は元の表面の上下にまたがります。酸化種は、すでにできた膜を通り抜けて下の界面で反応します。

反応する場所が界面にあるので、成長は膜が厚くなるほど遅くなります。酸素がシリコンと反応するには、すでにできた膜の中を突き抜けて界面までたどり着く必要があり1、膜が厚いほど通る距離が長くなるからです。

MOSトランジスタのゲート絶縁膜は1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきており、酸化種は酸素(O2)分子と水(H2O)分子です2。水分子を使うのがウェット酸化です。1960年代前半の横型拡散炉でも、800〜1,100℃程度に加熱した炉へ酸素または水蒸気を含んだ酸素を流していました3。2つの方法は横型炉の時代から使い分けられています。その炉は初期には内製で、1960年代中期から市販品が使われ始め、1963年に国際電気(のちの日立国際電気)が日本初の純国産拡散炉を開発し、1968年にはテルサームコが国内生産を始めました。

水蒸気は、水素と酸素を炉の手前で燃やして作る

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ウェット酸化と聞くと湯気を送り込む絵を思い浮かべますが、量産の現場での作り方は違います。東芝は炭化ケイ素の炭素面に対する酸化方法として、酸素(O2)と水素(H2)を燃やして進めるパイロジェニック酸化を挙げ、これをウエット酸化と同じものとしています4。水素と酸素を炉の手前で燃やして水を作り、その水蒸気をそのまま炉へ送ります。

水蒸気の作り方と炉への流れ
パイロジェニックH2O2燃焼H2O800〜1,100℃バブラー98℃H2O石英管ウェーハヒーター純水
量産では水素と酸素を炉の手前で燃やして水蒸気を作り、実験室では加熱した純水から水蒸気を作ることもあります。どちらも、炉の側はドライ酸化と同じ石英管です。

実験室の炉では、加熱した純水から水蒸気を作るバブラーも使われます。ニュージャージー工科大学の研究では、バブラーの温度を98℃にして5ウェット酸化の速度を調べています。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の実習手順では、加熱マントルを酸化開始の20分前に入れ、10分後に純水の滴下を始めます6。酸化中は酸素を止めてプロセス用のスイッチを入れ、終わったら酸素を5分流してから窒素に切り替え、試料を窒素中で5分アニールします。

炉はドライ酸化と同じものを使います。産総研のナノプロセシング施設にある共用の横型ウェハー酸化炉は、試料室を乾いた酸素の雰囲気にも、水分を含んだ酸素の雰囲気にも、窒素という不活性ガスの雰囲気にもでき、使用ガスはO2、N2、H2Oです7。カリフォルニア工科大学KNIの管状炉は、1本の管で150mm(6インチ)のウェーハを最大100枚処理でき8、フラスコ式の蒸発器を付けた1本目をウェットとドライの酸化に、2本目をドライ酸化とアニールに割り当てています。同じ炉、同じウェーハの並べ方のまま、流すものを切り替えるだけで工程の性格が変わります。

速く育つので、素子分離の厚い膜に使われてきた

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厚い膜を作る工程では、成長速度がそのまま炉の占有時間になります。膜は厚くなるほど成長が遅くなるので、遅い方法で厚い膜を作ると時間が長くなります。そこでウェット酸化が選ばれます。東芝の炭化ケイ素での報告では、パイロジェニック酸化はドライ酸化より酸化力が強くなります4。ニュージャージー工科大学の研究は、シリコンのウェット熱酸化をVLSIのフィールド酸化膜を作るうえで極めて重要な工程5と位置づけ、800℃、900℃、1000℃、1100℃で100Åから7000Åまでの膜を育てて速度定数を求めています。

代表例が、トランジスタどうしを電気的に分離する工程です。LOCOSプロセスでは、シリコン表面に薄い酸化膜と窒化膜を積み2、トランジスタを作る領域以外の窒化膜をドライエッチングで取り除いた後、高温の水分酸化を行います。すると窒化膜を取り除いた部分にだけ酸化膜が成長し、この酸化膜を分離層に使います。最後に窒化膜はホットリン酸で除去します。窒化膜が酸化を妨げるので、マスクを付けたまま必要な場所にだけ厚い膜を成長させられます。

その後の世代の素子分離でも、熱酸化は工程に残っています。SEAJの技術ロードマップ2012年版は、STIの形成手順の一例を初期酸化、LPCVDによる窒化膜形成、リソグラフィ、エッチング、熱酸化、ギャップフィルのCVD酸化膜形成、CMP、アニール、窒化膜除去とし9、STIの開口部や底のコーナーに応力を緩める丸みを作る酸化技術も関連技術として重要としています。掘った溝の内壁を酸化して形状を整える工程です。

薄い膜でも水蒸気は使われてきました。ゲート絶縁膜の形成でも、一般的な条件は750〜850℃程度の水分酸化です。厚さ5.4nmの膜を持つMOSダイオードで絶縁破壊の起きやすさを比べた電子情報通信学会の知識ベースの図でも、比較の基準にした熱酸化膜は750℃のウェット酸化で作られています。水蒸気の出番は、厚い膜から薄い膜まで広がります。

速さと引き換えに膜はち密さを失い、界面はよくなる

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成長の速さと引き換えに劣るのが、膜の内部の質です。東芝の試作では、パイロジェニック酸化で作ったゲート酸化膜はドライ酸化の膜よりち密さに欠け4、水酸基(OH基)を多く含むため、絶縁破壊電界が8MV/cm程度と低くなりました。炭化ケイ素(SiC)の炭素面に作った直径100μmのMOSキャパシタでの測定値です。シリコンの熱酸化膜の絶縁破壊電界は一般に約12MV/cmで、この値と並べると低さがわかります。

水蒸気が膜中と界面に残すもの
膜中に水酸基が多い絶縁破壊電界 8MV/cm程度水素が未結合手を終端界面準位密度が下がるH 3×10の21乗atoms/cm3酸化膜SiC界面の水素膜中の水酸基
水蒸気の水素は界面に集まって未結合手を終端し、界面準位を下げます。同じ水蒸気が膜の中には水酸基を残し、絶縁破壊電界を下げます。

一方で、界面には利点があります。東芝の報告では、パイロジェニック酸化は酸化力が強いため膜中や界面に残る炭素の脱離が進み、さらに水蒸気に含まれる水素原子が界面の未結合手を終端するので、界面準位密度が下がります。二次イオン質量分析では、酸化膜の界面に3×10の21乗atoms/cm3という高濃度の水素が局在していました。界面の質を反映するチャネル移動度は、この方法で作った素子のほうが高くなっています。

膜の内部と界面は別々に決まるので、2つの酸化を順に使う手があります。東芝は、ドライ酸化でち密な膜を作ってから水蒸気で界面を作り直す方法を考案し、炭化ケイ素の炭素面で破壊までの注入電荷量が5.0C/cm2から17.5C/cm2に伸びたと報告しています。

仕上がりは、炉への入れ方、酸化前の表面、熱バジェットで決まる

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調整するのは、炉の温度、燃焼させる水素と酸素の量、保持時間です。測るのは、仕上がった膜厚とその面内ばらつきです。縦型炉の導入でウェーハの回転機構が入り、プロセスの面内均一性が大きく向上しました10。横型炉では、石英ボートを反応管へ挿入するときのこすれでパーティクルが発生し、挿入時に巻き込む大気で自然酸化膜が成長することが、微細化の障害になり始めていました。膜厚を測る前に、ウェーハの入れ方と炉の状態が結果を左右します。

酸化前の表面も同じです。ゲート絶縁膜を作る前の洗浄で、パーティクル汚染、金属汚染、有機物汚染を除去してから酸化します。カリフォルニア工科大学KNIの管状炉は、金属のピンセットなどに触れたウェーハを、金属汚染を除く洗浄なしに入れることを禁じています8。ウェット酸化はシリコンの表面をそのまま取り込んで進むので、酸化前に残ったものは膜と界面に持ち越されます。

3つ目の制約は熱バジェットです。成長が速いとはいえ、ウェーハは800℃から1,100℃の中で長い時間を過ごします。すでに打ち込んだ不純物の分布はその間も動くので、工程の後段ほど厚い膜を熱酸化で作りにくくなります。そのため、厚い膜を外から堆積するCVDも並行して使われます。

ウェット酸化とは何ですか?

水蒸気を酸化種にして、高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を成長させる方法です。ゲート絶縁膜は1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきており、酸化種は酸素(O2)分子と水(H2O)分子で、このうち水分子を使うのがウェット酸化です。

水はどうやって用意するのですか?

炉の手前で酸素(O2)と水素(H2)を燃やして作ります。この燃焼による酸化をパイロジェニック酸化と呼び、ウエット酸化と同じものとして扱います。実験室の炉では、加熱した純水から水蒸気を作るバブラーやフラスコ式の蒸発器も使われます。

なぜ水蒸気を使うのですか?

酸化力が強いためです。東芝の報告では、パイロジェニック酸化はドライ酸化より酸化力が強く、同じ時間で厚い膜まで成長するので、厚い膜が必要な工程で選ばれます。

どんな場面で使われますか?

素子分離のLOCOSプロセスでは、窒化膜を残したまま高温の水分酸化を行い、窒化膜を取り除いた部分にだけ成長した酸化膜を分離層に使います。ゲート絶縁膜でも、一般的な条件は750〜850℃程度の水分酸化です。

成長が速い代わりに、何が劣りますか?

膜のち密さです。東芝が炭化ケイ素(SiC)の炭素面で試作した素子では、パイロジェニック酸化の膜はドライ酸化の膜よりち密さに欠け、水酸基(OH基)を多く含むため、絶縁破壊電界が8MV/cm程度と低くなりました。

界面には良いと聞きますが、膜が弱いこととどう両立しますか?

働く場所が違います。東芝の報告では、水蒸気中の水素原子が界面の未結合手を終端して界面準位密度が下がり、二次イオン質量分析で酸化膜の界面に高濃度の水素が局在していました。界面がよくなることと、膜の内部がち密に仕上がることは、別々に決まります。

ドライ酸化とは使い分けるのですか?

組み合わせる例があります。東芝は、ドライ酸化でち密な膜を作った後にパイロジェニック再酸化で界面を作り直す方法を考案し、破壊までの注入電荷量が5.0C/cm2から17.5C/cm2へ伸びたと報告しています。

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