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過渡増速拡散(TED)とは

過渡増速拡散(TED)とは、イオン注入の後のアニールで、その初期の区間に限ってドーパントが通常の熱拡散より速く動く現象です。 拡散の深さは温度と時間から見積もれますが、実際の接合は見積りより深くなることがあります。注入でできた過剰な格子間シリコンが、アニールの初期だけ拡散を速めるからです。そのため、同じ熱処理のレシピでも、注入のドーズ量やエネルギーが変われば接合深さが変わります。浅接合を守る手は、熱処理をミリ秒級まで短くするか、注入の段階で欠陥を変えるかの2つです。

拡散が速いのは、過剰な格子間シリコンが残っているあいだだけ

Section titled “拡散が速いのは、過剰な格子間シリコンが残っているあいだだけ”
アニール時間と拡散長
拡散長アニール時間格子間Siが尽きる過渡増速拡散あり通常の拡散 √(Dt)余分に進む分
拡散が速いのはアニールの初期だけで、過剰な格子間シリコンが尽きると通常の伸び方に戻ります。初期に余分に進んだ分は、そのまま接合の深さに残ります。

見積りの出発点は拡散係数です。濃度勾配があればドーパントはフィックの法則に従って拡散し、拡散係数DDは温度の関数で、拡散する粒子と物質で決まります1。拡散長LLはDt\sqrt{Dt}で、ttは熱処理時間です。この式のとおりなら、アニールの温度と時間を決めた時点で接合の伸びも決まります。実際には、同じ温度と時間でも、その手前の注入の履歴で伸びが変わります。DDの側が注入の履歴で上下するためです。

熱処理の途中で通常より速く進む拡散は、増速拡散2と呼ばれます。酸化やシリサイド化で格子間シリコンが過剰に供給されると、ドーパントがその過剰シリコンと対を組んで速く動きます。イオン注入では、過剰な格子間シリコンからなる{311}欠陥との相互作用でドーパントが異常拡散することが知られており、これを過渡増速拡散(TED)と呼びます。

TEDは、イオン注入後のアニールの初期段階で認められる、通常より拡散速度の速い不純物拡散です3。「過渡」は、速い区間が有限であることを表します。過剰な格子間シリコンが残っているあいだだけ拡散が速く、それが尽きれば通常の拡散に戻ります。レシピの熱量が同じでも、過剰な格子間シリコンの量が違えば接合深さが変わります。

過剰な格子間シリコンは、注入のカスケードで生まれる

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点欠陥の生成と2つの行き先
格子原子格子間原子空孔注入イオンカスケード点欠陥1イオンで数100〜数万個過渡増速拡散ドーパントと対で拡散転位ループ・EOR欠陥接合リーク電流の原因
1個の注入イオンが空孔と格子間原子を数100から数万個つくります。格子間原子はドーパントと対を組んで拡散を速めるか、熱処理で集まって転位ループやEOR欠陥として残ります。

注入されたイオンが格子原子と衝突すると、弾き飛ばされた原子がエネルギーを受け取ってさらに格子原子と衝突する、というカスケードが繰り返されます4。弾き飛ばされてできた欠損が空孔、格子間にある原子が格子間原子で、1個のイオン注入で数100から数万個発生します。これらの空孔や格子間原子とその複合体は一次欠陥または点欠陥と呼ばれ、格子原子と対になって非常に速く拡散することが知られています。

数100から数万個という幅は、イオン種とエネルギーで決まります。イオン注入のドーズ量とエネルギーを決めた時点で、後のアニールで供給される格子間原子の量もほぼ決まります。この量は見積もれます。モンテカルロシミュレーション5では注入イオンの分布に加えて格子間原子や空孔の分布も計算でき、代表例にSRIM/TRIMコード、ターゲットの結晶性まで考慮したCrystal-TRIM、MARLOWEコードがあります。

格子間原子の行き先は2つあります。1つはドーパントと対を組んで拡散を速める方向、もう1つは熱処理で集まって欠陥として残る方向です。イオン注入後の熱処理では、過剰な格子間原子から転位ループや酸素誘起積層欠陥(OSF)が発生します6。高濃度注入でアモルファス層ができた場合は、飛程より少し深いアモルファスと単結晶の界面に発生するので、EOR(End of range)欠陥と呼ばれます。二次欠陥はキャリアの生成再結合中心として働き、接合リーク電流の原因になります。同じ熱処理が、結晶欠陥とドーパントの両方を動かします。

影響は浅接合の深さとシート抵抗に出る

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深さ方向の濃度分布
伸びた分濃度(対数)表面からの深さ注入直後温度と時間の見積りTEDあり
注入直後とアニール後の分布を重ねると、TEDで伸びた裾がそのまま見えます。温度と時間からの見積りより深い分が、接合深さの伸びです。

MOSトランジスタの微細化に伴い、短チャネル効果を抑えるために浅い接合が必要になります。そのためには、注入エネルギーを下げるだけでなく、注入後の熱処理による拡散を抑える必要があります7。浅くするほど抵抗が上がるので、微細トランジスタではチャネル端だけを浅接合にするエクステンション構造が使われます。TEDが問題になるのは、この浅接合です。

深さを直接測るには、深さ方向の濃度分布を見ます。SIMS(二次イオン質量分析法)は8、酸素やセシウムのイオンを試料に当て、スパッタされた原子を質量分析する方法です。試料を深さ方向に削りながらその深さを測るので、深さ方向の情報が得られ、濃度分布が分かっている標準試料を使えば濃度も正確に定量できます。イオン注入分布とその後のアニールによる拡散状態を調べるために広く使われます。注入直後とアニール後のプロファイルを重ねれば、伸びた分がそのまま数値になります。SIMSが数えるのは原子の数で、電気的に働くキャリアではありません。

電気的な測定と組み合わせると、活性化と拡散を切り分けられます。SR法は斜めに研磨した試料の拡がり抵抗から深さ方向のキャリア濃度分布を求める方法です9。研磨面に立てた2本の針のあいだの抵抗から比抵抗を求め、比抵抗とキャリア移動度の関係からキャリア濃度を出します。SIMSによる注入イオンの分布と合わせると活性化率が求まります。日々のQCは四探針法によるシート抵抗です。シート抵抗はイオン注入層の濃度と深さに依存するので、イオン注入装置のQC法として広く使われています10。TEDが起きると、活性化率が同じでも深さが変わるので、シート抵抗の1点だけで原因を判断すると誤ります。

対策1は、熱処理の時間をミリ秒まで縮めること

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温度には逆向きの2つの要求があります。活性化アニールの温度が高いほどドーパントの活性化率は高くなりますが、同時にドーパントが深さ方向に拡散します11。先端デバイスでは、拡散の抑制と活性化を両立させるために、高温でミリ秒程度の短時間熱処理が使われます。

温度を上げると活性化率が上がってシート抵抗が下がる一方、過剰な格子間シリコンの動きも速くなって接合が深くなります。温度を下げると接合は浅く保てますが、活性化率が落ちてシート抵抗が上がり、エクステンションの寄生抵抗が増えます。

そこで短くするのは時間です。スパイクアニールは極短時間の急速加熱処理で、昇温・降温速度の例として300℃/sから100℃/sが報告されています3。最高温度で保持せずにすぐ下げれば、拡散が速い区間にかかる時間が短くなります。条件の組み方はスパイクアニールとRTA(急速熱処理)の項にあります。

さらに短い方法もあります。SCREENセミコンダクターソリューションズのフラッシュランプアニール装置LA-3100は、キセノンフラッシュランプを瞬間的に発光させて数ミリ秒だけ光を当て、ウェーハ表面の温度を高速に上げ下げすることで、サーマルバジェットを低く抑えた熱処理ができるとしています12。同社はこれにより、ソース・ドレインの不純物を高く活性化しながら、濃度プロファイルも精密に制御できるとしています。同じ装置には、ミリ秒単位の熱処理中にウェーハ温度を実測する機能も搭載されています。ミリ秒まで短くするほど、温度を測る仕組みが必要になります。局所加熱の方法はレーザアニールです。

熱の総量も同時に変わります。高温でも時間が短ければサーマルバジェットは小さく、比較的低温でも時間が長ければ大きくなるので、温度と時間の合計で考える必要があります13。温度だけで比べると、熱バジェットの総量を見誤ります。

対策2は、注入の段階で欠陥の量と形を変えること

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過剰な格子間原子の量は、注入の段階で減らせます。ヒーターなどで基板を加熱しながら注入すると、結晶欠陥の発生そのものが減り、セルフアニーリング効果でできた欠陥も消えます14。Siプロセスでは1E13/cm2程度の比較的低ドーズの注入に使い、基板温度は200から300℃にすることが多いです。マスク材には、高温でも形を保つ高温対応の特殊レジストを使います。基板温度を上げるほど欠陥は減りますが、その分フォトレジストの選択肢が狭まります。

逆に、結晶を完全に壊す方法もあります。基板をマイナス30℃程度以下に冷やしながら注入すると、結晶がアモルファス化しやすくなり、アモルファス層と結晶Siの界面も滑らかになります15。高濃度注入後の結晶回復では飛程より少し深い位置にEOR欠陥が残りやすいのに対し、低温注入ではアモルファス層が厚くなり、EOR欠陥が発生する領域までアモルファス化されるので、残留欠陥が減ります。低温注入は1E15/cm2程度以上の高濃度注入で使われることが多いです。

同じ考え方の前処理がプリアモルファス化です。浅接合の形成でチャネリングにより分布がテールを引くのを避けるため、ドーパントの注入前に結晶を非晶質化する工程で16、SiデバイスではSiやGeのイオンが使われます。この工程では、結晶回復のプロセスとドーパントとの位置関係がパラメータになります。チャネリングによる裾は減りますが、壊した層を回復させる条件を熱処理で設計する必要があります。

注入でできるもう1つの方法は、ドーパント以外のイオンを一緒に入れることです。コインプラは、ドーパントと同時に別のイオンを注入して、ドーパントの拡散や活性化を制御する技術です17。Siではボロン(B)の拡散を抑えるために窒素(N)や炭素(C)を同時に注入し、過剰に入った格子間のN原子とC原子がBの拡散を抑えるので、浅い接合を作れます。一方、フッ素(F)を注入するとBの拡散は速くなりますが、不活性化は抑えられます。拡散を抑えたいか、活性を保ちたいかで、加える元素が変わります。

濃度の上限も関係します。固溶度は物質中に許容される不純物濃度で、温度で決まります18。固溶度を超えて導入された原子は、格子間に析出した状態になります。シート抵抗を下げるためにドーズ量を上げると、過剰な格子間原子と析出の両方が増えます。

過渡増速拡散とは何ですか?

イオン注入の後のアニールで、その立ち上がりの区間に限ってドーパントが通常の熱拡散より速く動く現象です。イオン注入後のアニールの初期段階に見られる、通常より拡散速度の速い不純物拡散を指します。

なぜ「過渡」と呼ぶのですか?

速い区間が有限であるためです。イオン注入では、過剰な格子間シリコンからなる欠陥との相互作用でドーパントが異常拡散します。供給源の格子間シリコンが残っているあいだだけ速く進み、尽きれば通常の拡散へ戻ります。

現場ではどこに出ますか?

接合深さの伸びと、シート抵抗のずれです。同じレシピの温度と時間でも、手前の注入条件が違えば深さが変わります。浅接合を作るには、注入エネルギーの低加速化に加えて注入後の熱処理による拡散の抑制が要ります。

何を測ると分かりますか?

深さ方向の濃度分布です。SIMSは試料を深さ方向にスパッタしながら質量分析し、イオン注入分布とアニール後の拡散状態を調べるのに広く使われます。拡がり抵抗法の結果とSIMSの分布を合わせると活性化率が求まり、日々のQCはシート抵抗の四探針測定です。

どう抑えますか?

熱の入れ方の形です。先端デバイスでは、拡散抑制と活性化を両立させるために高温でミリ秒程度の短時間の熱処理が使われます。スパイクアニールでは、昇温速度と降温速度の例として300℃/sから100℃/sが報告されています。

注入の側でできる手はありますか?

あります。基板を加熱しながら注入すると結晶欠陥の発生を抑えられ、Siプロセスでは基板温度200〜300℃、注入量1E13/cm2程度の比較的低ドーズで使われることが多いです。ボロンの拡散を抑えるために、窒素や炭素を同時に注入するコインプラもあります。

抑えると何が悪化しますか?

温度を下げれば接合は浅く保てますが、活性化率が下がるので、シート抵抗が上がります。高温注入ではマスク材が高温対応の特殊レジストに限られます。低温注入やプリアモルファス化では、壊した層を回復させる条件を熱処理で設計する必要があります。

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