フォーミングガスアニール(FGA)とは
フォーミングガスアニールとは、配線層の形成を終えた後に、水素と窒素の混合ガス中で行う低温の熱処理です。 界面に残ったダングリングボンドを水素で終端し、デバイスを仕上げます。配線の前ならもっと高温で熱処理できますが、配線を終えた後は金属が耐えられる温度が上限になります。その低い温度でも働く仕上げの一手が水素による終端で、効く範囲が界面の近くに限られることが、この工程の強みと限界の両方を決めています。
配線を作り終えた後、400℃で行う最後の熱処理
Section titled “配線を作り終えた後、400℃で行う最後の熱処理”ゲートスタック作製の最後の段階では、NiSiによるサリサイド化と配線層の形成の後、400℃のフォーミングガスアニールを行ってデバイスを完成させます1。KIOXIAも、フォーミングガス(N2/H2)中での熱処理をSi CMOS LSIの形成に必要な工程2と位置づけています。
フォーミングガスは水素と窒素を混合したガスです。前工程の外でも使われ、共晶・はんだダイボンディングでは、リードフレームやはんだの酸化防止と、酸化したフレームの還元に使います3。アニールは4、シリコンウェハ製造やLSI製造の熱処理のうち、酸化や成膜という結果よりも熱処理そのものを主眼とする区分で、水素を使うアニールもここに入ります。
処理する炉の一例として、NNCIが紹介する装置は、窒素90%・水素10%のフォーミングガス雰囲気でシリコンウェーハをアニールする専用炉です5。3ゾーンの加熱で温度の均一性を出し、最大6インチのウェーハを1回に50枚まで処理できます。この炉での標準的な条件は500℃で、400〜700℃の範囲で運転できます5。
水素がダングリングボンドを終端し、界面準位を減らす
Section titled “水素がダングリングボンドを終端し、界面準位を減らす”水素(重水素)はSi基板界面のダングリングボンドを終端し、界面準位によるしきい値電圧のずれや、ゲートスタックの経時絶縁破壊を抑えます。
FGAで界面がよくなる例は、Si以外にもあります。パデュー大学の研究グループは、ナノワイヤ厚さ6 nm、チャネル長80 nm未満のInGaAsのゲートオールアラウンドMOSFETで、400℃・30分のFGA(水素4%・窒素96%)がAl2O3/InGaAs界面の質を高めた6と報告しています。
効果は界面準位密度とSSの数字に出る
Section titled “効果は界面準位密度とSSの数字に出る”大陽日酸の技報では、High-kゲート絶縁膜の界面準位密度は、水を酸化剤に使った場合の5×10¹¹cm⁻²eV⁻¹に対し、水素の供給を重水で増やした場合は2×10¹¹cm⁻²eV⁻¹に下がりました1。この効果でTDDB寿命が約12倍改善し、電源電圧1.1Vで10年寿命を保証できるようになりました。
界面がきれいになると、トランジスタの切り替わりの鋭さに表れます。パデュー大学のグループは、FGAでサブスレッショルドスイングが平均117 mV/decから93 mV/decへ、20 mV/dec超下がったとしています6。界面の改善はオン状態の性能にもよい影響があり、FGAを施した素子でチャネル長20 nmまでのスケーリングを調べたところ、ゲートの静電制御は優れていたとしています。
酸化物半導体では、しきい値電圧が負へずれる
Section titled “酸化物半導体では、しきい値電圧が負へずれる”酸化物半導体では、400℃のフォーミングガスアニール後にしきい値電圧が負方向にずれる課題があります2。KIOXIAは、Si CMOS LSIの形成で必要なフォーミングガス中での熱処理への耐性を、酸化物半導体FETの課題の一つに挙げています。同じ400℃の熱処理が、Siの界面では欠陥を減らし、酸化物半導体ではしきい値電圧を動かすので、効果の向きは膜の種類によって異なり、材料設計の側でこの熱処理に耐える工夫が要ります。
KIOXIAが設計したのは、フッ素を添加した酸化物半導体(IGZO:F)です。同社は、IGZO:FではIGZOより酸素欠損の形成エネルギーが高くなり、熱安定性が上がる2ことを見出し、400℃のフォーミングガスアニール後のしきい値電圧の負シフトを抑えたとしています。フォーミングガス熱処理への耐性と高いオン電流を両立できる材料です。
重水素は質量が2倍なので、界面に長くとどまる
Section titled “重水素は質量が2倍なので、界面に長くとどまる”重水素は水素の2倍の質量を持つので拡散係数が小さく、ストレスでSi-D結合が切れても界面付近に長くとどまります1。Si-D結合の振動数はシリコンの光学フォノンの振動数に近いため、結合がエネルギーを受け取っても切れにくくなります。
同じ終端でも、どの同位体を使うかで強さの出方が異なります。フォーミングガスアニールは、その中で比較的容易に使える水素を用いる標準的な仕上げです。
高温工程を足さずに信頼性を上げるが、効くのは界面近くだけ
Section titled “高温工程を足さずに信頼性を上げるが、効くのは界面近くだけ”配線を終えた後の低温熱処理で界面の欠陥を減らせば、追加の高温工程なしに信頼性を底上げできます。その代わり、温度は配線が耐えられる範囲に限られ、効果は界面近くにとどまります。熱処理そのものでしきい値電圧が動く酸化物半導体では、水素を増やすことが別の課題を招くこともあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”フォーミングガスアニールとは何ですか?
ゲートスタック作製の最後の段階で、サリサイド化と配線層の形成の後に行う400℃の熱処理です。これでデバイスが完成します。
フォーミングガスとは何ですか?
水素と窒素を混合したガスです。ダイボンディングでは、リードフレームやはんだの酸化防止と、酸化したフレームの還元にも使います。
何のために水素を使うのですか?
水素(重水素)がSi基板界面のダングリングボンドを終端し、界面欠陥によるしきい値電圧シフトやゲートスタックの経時絶縁破壊を抑えるからです。
効果は数字で示せますか?
水素の供給を重水で増やした試料では、界面準位密度が5×10¹¹から2×10¹¹cm⁻²eV⁻¹に下がり、TDDB寿命が約12倍改善しました。InGaAsのトランジスタでは、400℃・30分のFGAでサブスレッショルドスイングが平均117から93 mV/decへ下がった報告があります。
酸化物半導体でも同じ効果ですか?
違います。400℃のフォーミングガスアニール後に、酸化物半導体のしきい値電圧が負方向にずれる課題があり、効果の向きは膜の種類によって異なります。
なぜ400℃という低い温度なのですか?
配線層の形成を終えた後に行う最後の熱処理のため、金属配線が耐えられる温度に抑える必要があるからです。
アニールと呼ぶのはなぜですか?
アニールは、シリコンウェハ製造やLSI製造の熱処理のうち、酸化や成膜という結果よりも熱処理そのものを主眼とする区分で、水素を使うアニールもこれに含まれます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- BTI(バイアス温度不安定性)とは── 水素終端が抑える劣化
- 酸化膜トラップとは── 終端されなかった欠陥の姿
- 界面準位とは── この熱処理が減らす対象
- 熱予算とは── 400℃という上限の背景
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- 1大陽日酸:重水を用いた原子層成長技術によるHigh-kゲート絶縁膜への重水素添加(大陽日酸技報 No.24、2005年)nsc.jp.nipponsanso.com abc
- 2
- 3SEMI-NET:半導体用語集「フォーミングガス」semi-net.com ↩
- 4SEMI-NET:半導体用語集「アニール」semi-net.com ↩
- 5NNCI:フォーミングガスアニール炉の装置紹介ページnnci.net ab
- 6パデュー大学:InGaAsゲートオールアラウンドMOSFETの論文(学術リポジトリ)docs.lib.purdue.edu ab