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ノックオンとは

ノックオンとは、入射した粒子に衝突された原子が、元の格子点から押し出されて動く現象です。 注入したイオンがどこで止まったかとは別に、押し出された原子の行き先が基板の欠陥分布として残ります。1個のイオンが数100から数万個の原子を動かすので、注入後の熱処理で欠陥が集まり、接合リークの原因になります。欠陥の量は基板温度とイオン種で調整し、同じ欠陥を金属の捕獲に使う場面もあります。

押し出された原子が次の原子に当たり、欠陥が連鎖で増える

Section titled “押し出された原子が次の原子に当たり、欠陥が連鎖で増える”

照射損傷は電子線の照射による試料の構造劣化で、一次的な損傷にノックオンとイオン化があります1。ノックオンでは、入射電子に衝突された原子が格子点からはじき出されて格子間原子になり、元の格子点が原子空孔になります1。一次的な損傷に続く緩和の過程で特定の格子欠陥ができたり、非晶質化が起きたりする段階は、二次過程と呼ばれます。

イオン注入でも同じ連鎖が起こります。注入されたイオンは、物質中の電子や格子原子との衝突を繰り返しながらエネルギーを失って止まります2。格子原子に衝突された原子は押し出されると同時にエネルギーを受け取り、次の格子原子に衝突していくカスケード現象が続きます。抜けた跡の欠損を空孔、格子の隙間に入った原子を格子間原子と呼び、注入イオン1個あたり数100から数万個できます。これらは一次欠陥または点欠陥と呼ばれ、格子原子と対になって非常に速く拡散することが知られています。

衝突カスケード
入射イオン停止格子原子空孔格子間原子イオンの軌跡押し出された原子
イオンは格子原子に当たるたびにエネルギーを失い、当てられた原子は格子点を離れて格子間原子になります。抜けた格子点は空孔として残り、1個のイオンでこの対が数100から数万個できます。

チャネリングは、原子に当たらずに進んだイオンがどこまで届くかという現象で、ノックオンは、衝突された原子がどこへ動いたかという現象です。同じ1回の注入で両方が起こり、前者は深さ方向の裾に、後者は欠陥の数と位置に現れます。

欠陥は熱処理の後に、接合リークと分布のずれとして現れる

Section titled “欠陥は熱処理の後に、接合リークと分布のずれとして現れる”

一次欠陥は速く動くので、二次欠陥として現れるのは熱処理の後です。二次欠陥は熱処理でできる結晶欠陥で、注入後の熱処理では、余った格子間原子による転位ループや酸素誘起積層欠陥などができます3。高濃度に注入してアモルファス層ができた場合、これらの欠陥は飛程より少し深い、アモルファスと単結晶の境界にでき、EOR欠陥と呼ばれます。二次欠陥はキャリアの生成再結合中心として働き、接合リーク電流の原因になります。

深さ方向の分布も変わります。イオン注入では、過剰な格子間シリコンによる欠陥との相互作用でドーパントが通常より速く拡散する4ことが知られており、これを過渡増速拡散と呼びます。狙った飛程に合わせて組んだレシピでも、熱バジェットを経た後には分布が別の位置に移ります。結晶欠陥とドーパント活性化を別々に管理していると、この関係を見落とします。

注入原子を格子位置に入れると同時に、できた格子間原子や空孔を回復させる熱処理が活性化アニールです5。温度が高いほどドーパントの活性化率は上がりますが、同時に深さ方向へ拡散するので、先端デバイスでは拡散を抑えながら活性化するために、高温でミリ秒程度の短時間の熱処理を使います。温度を上げれば活性化率は上がって接合が深くなり、下げれば浅さは保てますが活性化率が下がります。日々の管理は電気的な測定で足ります。シート抵抗は注入層の濃度と深さで決まるので、イオン注入装置のQCに広く使われ6、四探針法で測ります。

基板温度は、上げても下げても欠陥と引き換えに何かを払う

Section titled “基板温度は、上げても下げても欠陥と引き換えに何かを払う”
高濃度注入と低温注入の断面
高濃度注入−30℃程度以下で注入飛程飛程境界にEOR欠陥EOR領域までアモルファスアモルファス層結晶SiEOR欠陥(転位ループ)
高濃度注入でアモルファス層ができると、飛程より少し深いアモルファスと結晶の境界にEOR欠陥ができます。−30℃程度以下で注入するとアモルファス層が厚く境界もなめらかになり、EOR欠陥のできる深さまでアモルファスになるので、アニール後の残留欠陥が減ります。

1つ目の調整項目は基板温度です。基板を温めながら注入すると結晶欠陥そのものができにくくなり、セルフアニーリング効果でできた欠陥も消えていきます7。加熱するとアモルファス化する臨界注入量を大きくでき、Siプロセスでは10の13乗個毎平方センチメートル程度の比較的低ドーズの注入に使い、基板温度は200〜300度がよく使われます。

温度を上げると、マスクの選択肢が減ります。高温注入では、高温でも形を保つ特殊なレジストを使います。SiCではさらに条件が厳しく、注入でできた欠陥が後の高温アニールでも回復しにくく抵抗が上がるので、基板を500度程度まで温めて注入することが多く、特に高濃度のAl注入では高温注入が必須です。500度に耐えるレジストは限られるので、マスクにはSiO2などのハードマスクを使います。フォトレジストからハードマスクに切り替えるかどうかは、この温度で決まります。

基板をマイナス30度程度以下に冷やして注入すると8、結晶がアモルファスになりやすく、アモルファス層と結晶Siの境界もなめらかになります。空孔と格子間原子の対が大量にできる分だけアニールで結晶に戻りやすく、アモルファス層が厚くなってEOR欠陥のできる領域までアモルファスになるので、残留欠陥が少なくなります。主な用途は10の15乗個毎平方センチメートル程度以上の高濃度注入です。温度を上げれば欠陥は減ってもマスクの選択肢が減り、下げれば残留欠陥は減っても、厚いアモルファス層をRTAで再結晶化させる必要があります。

分子やクラスターなら、同じ分布を高い加速電圧で作れる

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2つ目の調整項目は、電荷1個あたりに運ぶ原子の数です。BF2やN2のような分子イオンでは各原子の質量数に応じてエネルギーが分配されるので9、5キロエレクトロンボルトのBイオンと同じプロファイルをBF2で得るには、5×49÷11=22.3キロエレクトロンボルトで注入します。接合を浅くするには低エネルギー注入が必要ですが、エネルギーが低いとビームが発散して輸送効率が下がり、ビーム電流が低くなります。B10H14やB18H22のようなクラスターイオンは質量が大きいので加速エネルギーを高くでき、ビーム電流を多く取れます10。分子やクラスターを使えば同じ分布を高い加速電圧で作れてビーム電流を確保でき、原子イオンに戻すと輸送効率が下がります。

分析のSIMSも、一次イオンで同じ叩き込みを起こす

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裾が観測されたとき、注入が作ったのか分析が作ったのかを分ける手順が要ります。SIMSでは、真空中で固体表面にCsやO2などの一次イオンを連続照射すると試料表面から原子が弾き出され、試料が次第に削れていくので深さ方向分析ができます11。削る手段が、叩く手段そのものです。

極表面にドーピングしたBの分布を一次イオンエネルギー250、350、500エレクトロンボルトの3水準で測って比べると11、10ナノメートル付近に濃度の変曲点があり、10ナノメートルより深い側は3水準で一致しますが、0〜10ナノメートルでは差が出ます。10ナノメートルより深い緩やかな勾配はどの条件でも十分に測れます。0〜10ナノメートルは分布が急峻なので、350エレクトロンボルトと500エレクトロンボルトでは深さ方向の分解能が足りず、一次イオンによる叩き込みがプロファイルに現れます。

一次イオンエネルギーと測定プロファイル
B濃度010深さ(nm)変曲点250 eV350 eV500 eV3水準が一致
10 nmより深い側は3水準とも同じ分布をたどり、差は0〜10 nmの急峻な部分だけに出ます。350 eVと500 eVでは一次イオンによる叩き込みが分布に加わります。

一次イオンエネルギーは150エレクトロンボルトから15キロエレクトロンボルトのあいだで選べ、低いほど深さ方向の分解能は高くなりますが、分解能と感度はトレードオフの関係にあるので、必要最低限のエネルギーを選びます。深さの軸もずれます。表面近くではスパッタ率が試料内部より高いので、クレーター深さから換算した深さ軸が真の値からずれます。東芝ナノアナリシスは、ISO 23812:2009に準拠した深さ校正法を導入しています。

濃い層の下にどれだけ不純物が拡散したかを測る場合、表面の凹凸やスパッタエッチングに伴って、高濃度層からのクレーターエッジ効果とノックオンの影響を受けることがあり12、これを避ける方法として基板側から測るBackside SIMSがあります。Fを添加したSiO2膜と下層SiO2膜の界面付近で、表面側からの分析で検出されたF分布は、高濃度層の影響だったことが分かっています。

分解能の定義は、分析側の取り決めに合わせます。深さ方向分解能は、イオン強度が最大の84パーセントに相当する深さと16パーセントに相当する深さの差で、GaAsとAlAsの試料では約6ナノメートルです13。一次イオンの入射エネルギーを下げると分解能は上がりますが、十分な電流密度が得られず、深い位置の分析や微量元素の高感度分析が難しくなります。断面をTEMで調べる場合も同じ考え方です。

押し出す作用は、金属の捕獲とエッチングにも使われる

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プロセス中にウェーハに入った重金属を捕らえる方法として、イオン注入でダメージを入れる外部ゲッタリングがあります14。デバイス製造の熱処理が低温になって金属の拡散距離が短くなり、捕らえる力が弱くなったので、デバイスを作る領域のすぐ近くに捕獲層を設ける近接ゲッタリングが注目されています。そのイオン種には炭素や窒素を使います。損傷を入れた場所に金属汚染を集める方法です。

材料改質には10の16乗個毎平方センチメートル以上の注入が必要で15、半導体プロセスでは、エッチング速度を変える、表面の状態を変えてエリア選択プロセスを可能にする、応力を制御する、エッチング中のマスクを硬くするといった用途があります。中でもエッチング速度を変えて選択比を上げる使い方が注目されています。イオンビームエッチングは、加速したイオンを対象にぶつけ、スパッタリングで物理的に削り取る技術で16、反応性エッチングでは加工しにくい金属膜などに使います。スパッタリングは、押し出された原子が表面から外に飛び出す現象です。

装置の側から入る汚染もあります。イオン注入での金属汚染の入口には17、質量分析器やエネルギーフィルターを注入イオンと同じ軌道で通り抜ける成分、ビームラインがイオンに叩かれて出るスパッタ成分、イオン源から漏れる拡散成分などがあります。分析には全反射蛍光X線分析やICP質量分析法を使い、1平方センチメートルあたり10の8乗個程度までの微量金属を測れます。ビームはウェーハに届く前に、ビームラインの壁にも当たっています。

ノックオンとは何ですか?

入射した粒子に衝突された原子が、自分がいた格子点からはじき出されて動く現象です。はじき出された原子は格子の隙間に入って格子間原子になり、空いた格子点は原子空孔として残ります。

1個のイオンで、どれだけの原子が動きますか?

衝突で押し出されてできた欠損を空孔、格子の隙間に入った原子を格子間原子と呼び、1個のイオン注入で数100から数万個できます。衝突された原子はエネルギーを受け取って次の格子原子に衝突し、この連鎖(カスケード)が続きます。

チャネリングとはどう違いますか?

注目する対象が違います。チャネリングは原子に当たらずに進んだイオンがどこまで届くかという現象で、ノックオンは衝突された原子がどこへ動いたかという現象です。同じ1回の注入で両方が起こり、前者は深さ方向の裾に、後者は欠陥の数と位置に現れます。

現場では、いつ困りますか?

熱処理を通した後です。高濃度注入でアモルファス層ができると、飛程より少し深いアモルファスと単結晶の界面にEOR欠陥ができます。二次欠陥はキャリアの生成再結合中心となり、接合リーク電流を引き起こします。

何で調整しますか?

主に基板温度です。加熱すると結晶欠陥ができにくくなり、セルフアニーリング効果でできた欠陥も消えていき、Siプロセスでは基板温度200〜300度がよく使われます。マイナス30度程度以下に冷やすとアモルファス層が厚くなり、EOR欠陥ができる領域もアモルファスになるので、残留欠陥が減ります。

温度を上げると、何を手放しますか?

マスク材料の選択肢です。高温注入では高温でも形を保つ特殊なレジストを使い、SiCで基板温度を500度程度に上げる場合は、500度に耐えるレジストが限られるのでSiO2などのハードマスクを使います。

測ったプロファイルの裾は、注入と分析のどちらが作ったものですか?

分析側でも同じ叩き込みが起きるので、切り分けが要ります。極表面のBを一次イオンエネルギー250、350、500エレクトロンボルトの3水準で測ると、10ナノメートルより深い側は3水準が一致し、0から10ナノメートルで差が出ます。350と500では深さ方向分解能が足りず、一次イオンによる叩き込みがプロファイルに現れます。

  • チャネリングとは── 衝突せずに進むのがチャネリング、衝突して原子を押し出すのがノックオン
  • イオン注入とは── 入れた元素の分布を決める工程。その裏で動いた原子の数に関わるのがノックオン
  • 結晶欠陥(COP)とは── 基板がもともと持つ欠陥と、注入でできた欠陥を区別する出発点
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