SIMSとは
SIMS とは、固体試料にイオンビームを当て、表面から放出される二次イオンを質量分析する手法です。 元素も分子種も、高い感度で拾えます。表面の組成を知る手はいくつもある中で SIMS を選ぶのは、微量の不純物を深さごとに追えるからです。使い方は、最表面を壊さずに分子を見るか、削りながら深さ方向の微量元素を追うかで分かれ、深さ方向の濃度を数字にするときは標準試料と比べます。
一次イオンが、表面1 nm以下の粒を弾き出す
Section titled “一次イオンが、表面1 nm以下の粒を弾き出す”TOF-SIMS は、固体試料にイオンビーム(一次イオン)を照射し、表面から放出されるイオン(二次イオン)を質量分離します1。試料表面から 1 nm 以下の深さに存在する元素あるいは分子種の情報が、非常に高い検出感度で得られます1。真空に保てる固体なら、絶縁物、半導体、金属のどれにも使えます2。
表面に照射する一次イオンの単位面積あたりの個数はおおよそ 10^12 ions/cm² 以下で、シリコン表面の原子数 10^15 atoms/cm² と比べて少量なので、ほぼ非破壊で分析できます。この2つの数に当てはめると、一次イオン1個に対して表面の原子は約1,000個です。ただし、材料をスパッタして取り出す以上、手法そのものは本来「破壊的」です2。ほぼ非破壊で測れるのは、一次イオンの量を抑えた使い方です。
飛行時間は、重さの平方根に比例する
Section titled “飛行時間は、重さの平方根に比例する”飛行時間型は、飛行時間差を利用して質量分離します1。飛行時間は重さの平方根に比例します。この関係に当てはめると、質量が4倍のイオンは2倍の時間をかけて検出器に着きます。
一次イオン源には、サブミクロンのプローブ径と数100ピコ秒の短パルスを実現できる液体金属型イオン銃(LMIG)が広く用いられます1。LMIG では Ga・Au・Bi の 3 種類を選べ、Ga イオンは主に元素を見る低質量領域、Au と Bi は主に分子を見る高質量領域の分析に適します1。
質量分析計は飛行時間型だけではありません。深さ方向を測る装置では磁場型と四重極型の2種類が使われ、磁場型が最も一般的です3。最初のSIMS装置は、1960年代前半にNASAとの契約で、月の石を分析するために作られました3。
最表面の分子を見るか、削って深さ分布を追うかで使い方が分かれる
Section titled “最表面の分子を見るか、削って深さ分布を追うかで使い方が分かれる”スタティックSIMSは最表面の単原子層を相手にして主に分子の情報を取り、ダイナミックSIMSはバルクの組成と微量元素の深さ分布を、サブnmから数十nmの深さ分解能で調べます2。
情報深さが 1 nm 以下なので、より深い領域を測る場合はイオンスパッタリングで表面をエッチングします1。深さ方向分析には、無機材料では O2 や Cs イオン、有機材料では C60 や Ar ガスクラスターイオンを用います。ダイナミックSIMSの装置が酸素とセシウムの一次イオンを備えるのは、それぞれ正と負の二次イオンの強度を高めるためです2。
深さ分解能を上げるには、一次イオンのエネルギーを下げます。150 eVまで下げた低いエネルギーは、衝突の連鎖による原子の混ざりを減らし、深さ分解能をサブnmまで高めます2。
二次イオンの出方は環境で大きく変わり、定量は標準試料と比べて行う
Section titled “二次イオンの出方は環境で大きく変わり、定量は標準試料と比べて行う”SIMS の弱点は、信号の大きさがそのまま濃度にならないことです。二次イオンの出やすさは、化学的な環境とスパッタの条件(イオン種、エネルギー、角度)で大きく変わり、定量を複雑にします2。そのため数字にするには、スパッタが定常状態に達した後、標準試料と相対感度係数を使えば、信頼できる定量ができます2。
半導体での代表的な使い道が、イオン注入の評価です。SIMS による注入イオンの分布と拡がり抵抗法の分布を合わせると4、活性化率を求められます。SIMS が数えるのは原子の数で、拡がり抵抗法が見るのはキャリア濃度です。2 つの測りかたを重ねると、入れた数と運ぶ数の比が出ます。
絶縁物も、凹凸のある試料も測れる
Section titled “絶縁物も、凹凸のある試料も測れる”絶縁物を測定するときは、一次イオンとパルス化した低エネルギー電子を同時に照射して、一次イオンによる試料の帯電を防ぎます1。TRIFT 型アナライザーでは、エネルギーの高いイオンが軌道の外側を周回することで、エネルギーの違いによる飛行時間差が補正されます1。広角で二次イオンを取り込めるため、数100 µm 程度の凹凸に対しても影の小さいイメージが得られます。
非破壊・深さ・位置の分解能は、信号か試料の状態と引き換え
Section titled “非破壊・深さ・位置の分解能は、信号か試料の状態と引き換え”一次イオンの量を抑えれば試料をほとんど壊さずに測れますが、得られる信号が小さく、測定の時間が延びます。削りながら測れば深さ方向の分布が得られるものの、その試料は元の状態から離れます。プローブ径を絞れば位置の分解能が上がりますが、1 点あたりの信号が減ります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SIMS とは何ですか?
固体試料にイオンビーム(一次イオン)を照射し、表面から放出される二次イオンを質量分析する手法です。真空に保てる固体なら、絶縁物、半導体、金属のどれにも使えます。
TOF-SIMS の TOF とは何ですか?
飛行時間のことです。飛行時間が重さの平方根に比例することを利用して質量分離します。
どのくらいの深さの情報ですか?
試料表面から 1 nm 以下の深さに存在する元素あるいは分子種の情報が得られます。
試料は壊れますか?
ほぼ非破壊で分析できます。一次イオンの単位面積あたりの個数はおおよそ 10^12 ions/cm² 以下で、シリコン表面の原子数 10^15 atoms/cm² と比べて少量だからです。ただし原理は表面をスパッタして物を取り出すことなので、削りながら深さを測る使い方では試料は削れていきます。
一次イオンは何を使いますか?
液体金属型イオン銃(LMIG)で Ga・Au・Bi の 3 種類を選べます。Ga は低質量領域、Au と Bi は高質量領域に適します。深さ方向を測る装置は、正と負の二次イオンを強めるために酸素とセシウムの一次イオンを備えます。
深さ方向の分布も取れますか?
取れます。スパッタと測定を交互に繰り返して深さ方向プロファイルを得ます。深さ分解能はサブnmから数十nmで、一次イオンのエネルギーを150 eVまで下げると原子の混ざりが減ってサブnmに近づきます。
イオン注入の測定にも使いますか?
使います。SIMS による注入イオンの分布と拡がり抵抗法の分布を合わせると、活性化率を求められます。