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FIB(集束イオンビーム)とは

FIB(集束イオンビーム)とは、細く絞ったイオンのビームを試料に当て、表面を像として見ながら、その場で狙った1点だけを削り取る装置です。 名前はFocused Ion Beamの頭文字です。FIBの価値は、加工位置精度が10nm程度という狙いの細かさにあります。その代わり一度に扱える幅は数100μmにとどまり、シリコンを削った面には加速電圧を10kVまで下げても9nm程度のダメージ層が残ります。どの装置で断面を作るかは、狙いの細かさと広さ、そしてこの層をどこまで許せるかで決まります。

不良解析では、電気の測定で「このチップが落ちました」というところまでは早く分かります。どの層のどこがどう壊れているのかを言うには内側の姿が要り、FIBはその断面を狙った場所に作ります。

数十μm以下の断面は、機械加工では非常に難しい

Section titled “数十μm以下の断面は、機械加工では非常に難しい”

不良要因の調査では、まず表面を観察し、表面で判断できる範囲を超えた要因については内部の断面まで観察へ進む場合が多くあります。ところが、数十μm以下の微小な領域について、機械加工で断面を作ることは非常に困難です1。この隙間を埋めるのがFIBです。FIBによる断面試料作製は、多くの試料で研磨などの前処理が要らず、試料をホルダーに固定すれば試料面の任意の位置で作れます2。

FIBは、イオン源から出したイオンを静電レンズで試料上に集束させ、静電偏向器で走査します3。試料から出る二次電子を走査に合わせて拾って走査顕微鏡像を作り、その像の上で加工する範囲を決め、決めた範囲へだけビームを当てて削ります。像を見て、その像の上で削る場所を指定する順番です。

重いガリウムイオンを、静電レンズで絞る

Section titled “重いガリウムイオンを、静電レンズで絞る”

イオンの質量は電子よりはるかに大きく、試料の原子と強く相互作用します。この重さの差が、そのまま削れるかどうかの差になります。重さは絞り方も変えます。質量の大きいイオンは磁界型レンズでは集束が難しいため、静電型レンズを使うのが一般的です4。FIBは、ガリウムの液体金属イオン源へ引き出し電極の電界をかけてイオンビームを取り出し4、コンデンサーレンズと対物レンズという2組の静電レンズで細く絞って試料上へ集めます。走査は偏向板が担い、ビームをX方向とY方向へ振ります。この液体金属イオン源(LMIS)は1975年にR.Clampittが発明し、以来FIB技術は急速に発展しました3。

装置の構成
ガリウムのイオン源タングステン針に液体Ga引き出し電極コンデンサーレンズ偏向器X・Yへ走査対物レンズ静電型試料二次電子検出器2組の静電レンズでビームを絞る
ガリウムのイオン源から引き出したイオンを、2組の静電レンズで絞り、偏向器で走査して試料に当てます。試料から出た二次電子で像を作り、その像の上で削る範囲を決めます。

ガリウムが選ばれる理由は3つあります。原子量69.723という比較的重い原子なので、加工に足りるスパッタリング速度が出ます。融点29.8℃と低いので、一度温めれば過冷却によって室温でも液体の状態を保ちます。タングステンの針と反応せず、それでいて一定の濡れ性も保つため、針先へ流れる量が安定します。

ビームの条件には、イオンの性質からくる制約があります。イオンのエネルギーの広がりが5eV程度と大きいため、鋭い加工形状を得るには加速電圧を高くして色収差の影響を小さくします3。市販の汎用機のビーム仕様は、電流が1pAから100nA、電圧が30kV程度までの範囲に収まるものがほとんどです。

1本のビームで、写す・削る・付ける

Section titled “1本のビームで、写す・削る・付ける”

FIBの働きは、写す(SIM)、削る(スパッタリング)、付ける(FIB-AD)の3つに分かれます。

写す側では、イオンが最初にぶつかった時点で運動エネルギーの大半を使い切るため、画像になるのは試料のいちばん外側です。結晶になっている試料ではチャネリングによるコントラストが強く出ます。SIM像はSEM像とは別のコントラストになり、結晶の向きを映すコントラストがよく出るため2、金属の組織を調べる用途に向きます。

削る側では、高いエネルギーのイオンが試料表面に衝突して表面の原子をはじき出す現象を使い、材料を原子レベルで削ります1。原理はスパッタリングと同じです。ビームが飛んでくる向きに沿って形が付き、走査する場所と当てる時間を組み合わせると、立体的な形も彫れます。材料を取り除くという点ではエッチングと同じ操作ですが、FIBでは設定した範囲へだけビームを当てて削ります。

付ける側では、ガスを併用すると狭い範囲にだけ膜を作れます。ガスノズルで原料ガスを当てると、ビームの当たった範囲にだけ炭素・タングステン・白金などを積め1、試料表面の保護や配線をつなぐ用途に使えます。ガス種を選べば、導電膜も絶縁膜も作れます。たとえばW(CO)6などの有機金属ガスを入れながらガリウムイオンビームを走査すると、試料表面にタングステンなどの膜を成長させられます4。

SEMを載せたFIB-SEM複合装置なら、場所を決めた断面の加工と観察に加えて、立体での観察まで行えます。断面を加工した試料を大気にさらさずにSEM観察や元素分析へ回せることも4、複合装置の利点です。JAIMAは、3D NANDメモリーの断面SEM像を5nmピッチで連続して取得し、再構成して3D表示した例3を挙げ、再構成後は任意の位置の断面を画面に出して構造の確認や寸法の計測ができるとしています。3D実装の熱試験チップでは、FIB-SEMの断面観察でTSV列の外周に未接続のTSVが見つかった例もあります。

一番の仕事は、TEM用の薄片を切り出すこと

Section titled “一番の仕事は、TEM用の薄片を切り出すこと”

FIBは主にTEM(透過電子顕微鏡)の薄片試料作製に使われます5。手順はこうです。観察したい範囲の上へ保護層を置き、その周りをFIBで削り落とします。残った塊へ金属プローブをデポジションでくっつけ、下側を削り切って基材から離します。取り出した薄片をTEM用のメッシュへ付け替え、プローブを切り離してから、両面を削って電子線が抜ける厚さまで追い込みます。不良の場所を含む小さな塊だけを切り出すので、広い面を磨く方法よりも短い時間で目的の断面へ届きます。

厚さを100nm以下まで落とすと高エネルギーの電子線が通り抜け3、TEMで観察できます。最先端デバイスでは、構造どうしを切り分けるために10nm程度まで落とす必要が生じています。そこまで薄くするには、SEMによる加工の終点検知、裏面からのFIB加工、低加速のFIBやアルゴンビームによる仕上げ加工といった技術を組み合わせます。日鉄テクノロジーは、関心のある領域を100nm未満の位置精度で加工でき、機械加工やイオンミリングより加工のダメージと凹凸を抑えられるとしています。

削った面には、9nmのアモルファス層が残る

Section titled “削った面には、9nmのアモルファス層が残る”

削る道具である以上、代償があります。FIBの加工面にはダメージ層ができ、シリコンを断面加工する場合は加速電圧を10kVまで下げた条件でも9nm程度のアモルファス層が生じます3。実際の加工では、この層の分を織り込んでビーム条件を選ぶことになります。100nmの薄片に対して9nmは1割弱ですが、10nmまで薄くする段に当てはめると、9nmは目標の厚さとほぼ同じ長さです。

薄い層を測る場面ほど、この9nmが結論を左右します。膜の厚みそのものが数nmから数十nmのバリアメタルや高誘電率膜を測るとき、加工でくずれた層と本来の膜を取り違えると、答えが変わります。

同じ尺度で並べた厚さ
10kVで削ったシリコンの断面結晶のシリコンアモルファス層 9 nmTEMに通る厚さ100 nm最先端で要る厚さ10 nm加工面
同じ尺度で並べると、10kVでも残る9nmの層は、TEMに通る100nmの1割弱で、最先端で要る10nmとはほぼ同じ長さです。

位置精度10nmと引き換えに、加工幅は数100μm

Section titled “位置精度10nmと引き換えに、加工幅は数100μm”

もう1つの代償は、一度に扱える範囲の狭さです。FIBは最大加工幅が数100μmで、加工位置精度は10nm程度です6。アルゴンの広いイオンビームを使うCP(クロスセクションポリッシャ)は、最大加工幅8mm、加工位置精度3μm程度です。位置を絞る精度と、見渡せる広さが逆になっています。日本電子は、プリント基板の断面作製の事例から、CPは広い範囲の断面作製に、FIBは特定の位置の断面作製に優れるとしています。

精度と広さ
FIB10 nm数100 μmCP3 μm8 mm1 nm1 μm1 mm10 mm加工位置精度最大加工幅
対数の軸に置くと、FIBは10nm程度の精度から数100μmの幅まで、CPは3μm程度の精度から8mmの幅までを受け持ち、両者は軸の上でずれています。

広さの側を埋める動きもあります。ICPプラズマのイオン源を使うFIBならμAオーダーのビームも作れ、TSVのような大面積の加工へ用いられ始めています。逆に小電流の側では、ガス電界電離イオン源(GFIS)を使うFIBで1nm以下の像分解能が報告されています3。ロームは、分析センターが現在5台のFIBを持ち、いちばん新しいプラズマFIBなら数百ミクロン規模の断面まで解析できるとしています7。

FIB(集束イオンビーム)とは何ですか?

細く絞ったイオンのビームを試料に当て、表面を像として見ながら、その場で狙った1点だけを削り取る装置です。ガリウムの液体金属イオン源から出したイオンビームを、2組の静電レンズで縮小して試料上へ集束させ、静電偏向器で走査します。

イオンビームを使うと何ができるのですか?

像の取得に加えて、加工まで行えます。イオンの質量は電子よりはるかに大きく、試料の原子と強く相互作用するため、像の上で削る場所を指定し、そのまま加工へ進めます。

なぜガリウムを使うのですか?

理由は3つです。原子量69.723と比較的重いため加工に足りるスパッタリング速度が出ること、融点29.8℃と低く一度温めれば過冷却で室温でも液体を保つこと、タングステンの針と反応せず濡れ性も保つため針先へ流れる量が安定することです。

FIBで何ができるのですか?

写す(SIM像の取得)、削る(スパッタリングによる加工)、付ける(ガスを併用したデポジション膜の形成)の3つです。付ける働きは、試料表面の保護や配線をつなぐ用途に使えます。

TEM観察には、どこまで薄くするのですか?

厚さを100nm以下まで落とすと高エネルギーの電子線が通り抜け、TEMで観察できます。最先端デバイスでは、構造どうしを切り分けるために10nm程度まで落とす必要が生じており、SEMによる加工終点の検知、裏面からの加工、低加速のFIBやアルゴンビームによる仕上げを組み合わせます。

加工した面はそのまま信じてよいのですか?

ダメージ層の厚みを差し引いて判断します。シリコンを断面加工する場合、加速電圧を10kVまで下げても9nm程度のアモルファス層が生じるため、この層を考えたビーム条件を選びます。

広い断面が要るときはどうするのですか?

別の道具を使うか、大電流のイオン源へ替えます。アルゴンの広いイオンビームを使うCPの最大加工幅は8mmで、FIBは数100μmです。ICPプラズマのイオン源を使うFIBならμAオーダーのビームも作れ、TSVのような大面積の加工へ用いられ始めています。

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