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溶質捕獲とは

溶質捕獲とは、移動界面の前進が溶質原子の再分配と競合し、界面を挟む溶質組成差が平衡時より縮む現象です。 急速固化では、平衡熱力学の予測から大きく外れた濃度で溶質が固相へ取り込まれることがあります1。平衡分配係数が0より大きく1より小さい希薄溶液では、界面が速いほど液相へ戻る量が減り、固相側の組成が平衡時より高くなります。半導体製造では、レーザアニールで表層を溶かし、下地結晶から急速に液相エピタキシャル再成長させる場面が代表例です。

結果を決める変数は、界面速度と、界面で原子が再分配される速さの比です。界面が速いほど固相へ残る溶質は増え、急速な再成長の実験では平衡固溶度を超える準安定な取り込みが得られています。ただし、取り込んだ量がそのまま働く量にも、後熱のあとに残る量にもなるわけではありません。総化学濃度、格子位置、電気応答、後熱保持は測る対象が違うので、同じ溶融・再成長条件の試料群や分割片で別々に調べます。

界面が再分配より速く進むと、溶質は液相へ戻れずに固相へ残る

Section titled “界面が再分配より速く進むと、溶質は液相へ戻れずに固相へ残る”
界面を挟む組成の段差
低速 k_i≈k_e高速 k_i→1C_sC_lC_sC_l組成差縮んだ差液相へ戻るVV固相液相固相液相高さ=同じ基準の溶質組成
界面が遅いと溶質は液相へ戻り、固相側の組成は液相側より大きく下がります。界面が速いと戻りきれない溶質が固相に残り、界面を挟む組成差が縮みます。

固液界面では、界面の前進と、溶質原子が界面領域で液相側へ戻る再分配が競合します。0<k_e<1の希薄溶液で界面が遅ければ、溶質が界面前方へ戻る時間があり、固相側のC_sは液相側のC_lより低くなります。界面が速くなると原子が液相へ戻れる距離が短くなり、凝固速度が上がるほど界面を挟む濃度変化は段階的に小さくなります1。

どの速さから捕獲が目立つかについて、Ahmadらのphase-fieldモデルは溶質の拡散長D_I/Vが界面の厚さと同程度になると捕獲が起こることを示しています1。Vは界面速度、D_Iは界面領域での溶質の拡散係数です。拡散長が界面厚さlに近づくほど、捕獲は顕著になります。

分配係数k_iは、V/V_Dに応じてk_eから1へ移る

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局所界面分配係数はk_i(V)=C_s/C_lです。C_sは移動界面の固相側直近、C_lは同じ界面の液相側直近の溶質組成で、両者は同じ組成基準の原子分率(モル分率)で比べます。NISTの定式化でもc_Sとc_Lにモル分率を使い、系内のモル体積を一定と仮定しています。単位体積当たり濃度を使う場合は、固相と液相の原子数密度の差を換算してから比を取ります。固化層の平均濃度と初期濃度から求める工程上の実効値は、分子と分母を別に定めます。

CGMの速度依存
k_eと1の中間1k_e局所分配係数 k_iV=V_D界面速度 V/V_D(対数)平衡に近い捕獲が強い
希薄で0<k_e<1のCGMでは、k_iは低速で平衡値k_eに沿い、V=V_Dでk_eと1の中間を通り、高速で1へ近づきます。どこで切り替わるかはV_Dが決めます。

Azizのcontinuous growth model(CGM)を2、希薄溶液でk_eが0より大きく1より小さく、界面が平坦で鋭い場合の局所的な定常応答として書くと、k_i(V)=(k_e+V/V_D)/(1+V/V_D)、V_D=D_I/lです。D_Iは界面領域の拡散係数で、バルク液相の拡散係数とは別の量です。V_Dは実験では通常、k(V)のフィットから推定します。レーザーパルス中の熱履歴全体は、別に時間依存で解きます。

VがV_Dより十分小さいとk_iは平衡値k_eへ近づき、十分大きいと1へ近づきます。この式にV=V_Dを当てはめるとk_i=(k_e+1)/2で、ちょうどk_eと1の中間になります。つまりV_Dは、平衡に近い分配と捕獲が強い分配の境目を示す速さです。k_i→1が表すのは、界面を挟む同じ基準の局所組成差の縮小です。置換位置の割合とキャリア供給量は、固化後に別々の方法で測ります。

急速固化による溶質捕獲は、BakerとCahnが1969年にActa Metallurgicaの論文で扱っており3、Azizの溶質再分配モデルは1982年にJournal of Applied Physicsで発表されました。

固化後の深さプロファイルは、界面の分配に液相輸送と熱履歴が重なった結果

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溶融前と固化後の深さプロファイル
注入直後溶融・再成長後pile-up最大溶融深さ溶けた層表面深さ総化学濃度
固化後の分布は、界面での分配に、溶けていた間の液相拡散、初期の注入分布、表面の供給と損失が重なった形です。最大溶融深さ付近のpile-upは、溶質捕獲だけでは説明できない形として扱われています。

固化後の深さプロファイルは、局所のk_i(V)と熱輸送・溶質輸送を組み合わせて求めます。急速固化モデルは2、界面応答、熱輸送、溶質輸送を組み合わせて固相組成を求めます。レーザー溶融Siの実験でも4、液相拡散を含む計算と測定プロファイルを合わせて局所係数を推定しています。

溶けている間の輸送が無視できないのは、多くのドーパントで、拡散係数が固相より液相のほうがはるかに大きいためです5。吸収エネルギーと熱輸送から溶融深さ、溶融時間、温度勾配が決まり、界面速度の時間履歴V(t)が生じます。最終プロファイルには、さらに液相拡散、初期の注入分布や表面からの供給、表面損失が加わります。レーザーパルス幅は熱履歴を作る条件の一つにすぎないので、設定値に加えて実測した溶融深さ・時間と熱モデルでVを絞り、液相エピタキシャル成長の界面運動と液相輸送を組み合わせてk_iと最終プロファイルを解析します。

最大溶融深さに出るBの蓄積は、この枠組みに収まりません。Lillらは、Bを注入したSiウェーハのレーザー溶融アニールで複数の研究が観察してきたこのpile-upを、溶質捕獲の機構だけでは説明できないとしています3。レーザー結晶化したB/Siの研究では3、一定のk_pと液相拡散を使う数値モデルを測定プロファイルに合わせ、pile-upを再現する1超のk_pを得ました。著者らは機構候補に吸着性の連続界面を挙げ、MCやphase-fieldの枠組みでは吸着性の界面を仮定すれば原理的に1を超える分配係数が得られるとしています。一方、その界面を含みpile-upを予測する拡張モデルは今後の課題としています。得られたk_pは当該B/Siと熱履歴に対するフィット結果で、単純CGMとは別の実験結果です。固化層全体から実効分配係数を求める場合も、分子と分母に使った濃度を示します。

取り込んだ量、格子位置、電気応答、保持は別々に測る

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溶質捕獲で固相に残る溶質は、総化学濃度として測る量です。Whiteらのレーザー溶融Si研究は4、RBSで総量を、チャネリングで置換サイト濃度を分けて測りました。SIMSやRBSは元素量と深さ分布、チャネリングは格子位置、Hall測定や抵抗はドーパント活性化に関わる電気応答を調べます。SIMSは原子の数と分布を測り、電気的な活性化率やキャリア移動度は測りません。後熱保持は、同じ溶融・再成長条件の未加熱片と後熱片を対応させて確かめます。

総量と格子位置が離れる例は数字で見えます。Te注入Siでは550℃の炉アニールで3×10²⁰ cm⁻³までの過飽和が実現され、置換位置率は約70%と報告されています5。注入量を増やしたSe注入Siでは、置換位置率が45%まで下がっています5。

総化学濃度と機能は別の履歴をたどりえます。Sを高濃度導入したSiの後熱実験では6、SIMSプロファイルをほぼ保ったまま、光学・電気応答が変化しました。長距離の元素再分布が小さい場合でも、短距離の再配列や複合体化によって機能は変わりえます。

固相再成長では、一原子層の成長時間と拡散時間を比べる

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固相の移動界面でも、界面前進と原子再分配の時間競合が起こります。Se注入Siを固相エピタキシャル再成長させた研究は5、高濃度ドーピングを、ドーパントがとどまる時間が一原子層の再成長時間より長いときに非晶質/結晶界面で起こる溶質捕獲によるものとしています。比べるのは、Si一原子層(0.27 nm)を再成長する時間tau_Gと、同じ距離を拡散する時間tau_Dです5。tau_Gがtau_Dより短ければ再分配より先に界面が進み、Seを準安定に取り込みやすくなります。

同じ研究は、低温ではtau_Dがtau_Gよりはるかに大きく、低温アニールで固溶限を超えるドーピングが得られることをよく説明するとしています5。ただしtau_Gには大きな不確かさがあり、その理由をグループごとに報告値がばらつく再成長速度5に求めています。

液相側濃度C_lを使うCGMは固液界面を対象とし、固相の非晶質/結晶界面ではtau_Gとtau_Dで時間競合を表します。このSe/Si研究では、固相FLA試料の置換位置率が液相PLA試料より高い一方で、キャリア濃度は低く、Hall移動度は高い結果でした。また、固相FLAの時間を長くすると置換位置率が下がりました。置換位置率、キャリア濃度、キャリア移動度が同じ向きに動かない以上、固相エピタキシャル成長でも総量、格子位置、電気応答、温度と時間による保持を分けて調べます。

速くすれば取り込みは増えるが、上限は界面の安定性と後熱で決まる

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希薄溶液でk_eが0より大きく1より小さいCGMでは、界面が原子再分配より速く進むと平衡偏析が弱まり、溶質は固相へ残りやすくなります。急速な液相再成長と固相再成長の実験では、平衡固溶度を超える準安定な取り込みが得られています。ただし高濃度化の上限には、界面のセル状不安定化、格子ひずみ、第二相、後熱による不活性化も関わります。平坦な再成長、狙った総プロファイル、格子位置、電気応答、後熱保持を同時に満たす速度範囲を選ぶことが、工程設計の中身です。

イオン注入後にレーザー溶融を使う場合、プロセス担当は次の順に測定とモデル合わせを進めます。注入直後には結晶損傷、非晶質化、複数の格子位置が混在しうるため、先に初期プロファイルと結晶状態を測ってから再成長を追います。

  1. 溶融深さと溶融時間を測り、界面速度の履歴を熱モデルと実測から絞り込む。
  2. SIMSやRBSの全プロファイルを、局所k_i(V)、液相輸送、供給源、表面の供給・損失条件を含むモデルに合わせる。
  3. チャネリングとHall・抵抗を組み合わせ、格子位置と電気応答を別々に測る。
  4. 同じ溶融・再成長条件の未加熱片と、熱バジェットを与えた後熱片を対応させ、総量と機能の保持を比べる。
溶質捕獲とは何ですか?

界面の前進が溶質原子の再分配と競合し、界面を挟む溶質組成差が平衡時より縮む現象です。平衡分配係数が0より大きく1より小さい液相再成長では、液相へ戻る量が減り、固相側の組成が平衡時より高くなります。

界面速度が上がると分配係数は必ず上がりますか?

希薄溶液で0<k_e<1とする単純なCGMでは、同じ組成基準のC_sとC_lから求める局所分配係数k_iが、界面速度Vとともにk_eから1へ近づきます。実工程のk_iは、測定した組成プロファイルと溶融深さ・時間を熱・液相輸送モデルへ合わせて推定します。

SIMS濃度が高ければ、電気的にも活性ですか?

SIMSやRBSが示すのは総化学濃度です。置換サイトの割合はチャネリング、キャリア密度と移動度はHall測定や抵抗、後熱後の保持は再測定で別に確かめます。

非溶融の固相再成長でも溶質捕獲は起こりますか?

起こります。Seを注入した非晶質Siの固相FLAでは、Si一原子層ぶん(0.27 nm)の再成長時間tau_GがSeの拡散時間tau_Dより短いときに、平衡を超える取り込みが報告されています。固相ではこの時間競合で考え、C_s/C_lとCGM式は固液界面の局所分配に使います。

分配係数が1を超えることはありますか?

単純な希薄CGMではk_iは1へ近づくだけです。レーザー結晶化したB/Siでは、一定のk_pと液相拡散を使うプロファイルfitから1を超えるk_pが得られ、著者らは吸着性の連続界面を機構候補に挙げつつ、そのpile-upを予測する拡張モデルは今後の課題としています。単純CGMとは別の、その実験に限った結果です。

  • レーザアニール── 表層へ熱を入れて再結晶化させる工程。溶融深さと界面速度の履歴を入力にして、捕獲条件を解析します。
  • ドーパント活性化── 捕獲後のドーパントがキャリアを供給するかを電気測定で確かめる段階です。
  • 固相エピタキシャル成長── 非晶質/結晶界面が固相のまま進む再成長で、液相とは別の時間競合で捕獲を考えます。
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