固相エピタキシャル成長(SPE)とは
固相エピタキシャル成長(SPE)とは、下地の結晶を種として、その上のアモルファス層や多結晶層が加熱だけで単結晶へ戻る現象です。 液体にも気体にもならず、固体のまま結晶が育ちます。原子は通常、界面のすぐ近くでしか動かず、融かさずに下地の向きを写し取ります。代わりに成長の速さは温度に対して指数関数的に変わり、温度が結果を決める変数になります。
原子はふつう界面から数結合長しか動かず、下地の向きを引き継ぐ
Section titled “原子はふつう界面から数結合長しか動かず、下地の向きを引き継ぐ”固相エピタキシャル成長装置は、単結晶ウェーハ上の多結晶あるいはアモルファス層を熱処理することによって単結晶層を成長させる装置です1。一度アモルファス化した層は、そのままでは結晶の性質を失っています。しかし融かして固め直す必要はなく、下地の結晶と接した状態で加熱するだけで、同じ向きの結晶が一層ずつ育ちます。
何が起きているかは、界面の原子の並び直しです。SPEは、結晶層と接した準安定なアモルファス層が、界面で原子が並び直すことで、エネルギーの低い結晶相へ変わる成長過程です2。原子が活発に動く液相や気相のエピタキシーと違い、SPEでの原子の動きは通常、界面から数結合長の範囲に限られます2。
エピタキシャル成長のほかの方法と並べると、違いは原料の置き場所にあります。気相(VPE/CVD)は気相成分を基板表面に堆積し、液相(LPE)は過飽和溶液から結晶成分を析出させます3。分子線(MBE)は超高真空中での蒸発・堆積で、固相(SPE)の例には電子ビーム照射による加熱が挙がります。SPEは、CVDなどと違い、成長に使う原子をすでに膜として持っています。今ある層の並びを、そのまま結晶へ組み直します。
原子面は、ステップができて横へ広がることで一層ずつ育つ
Section titled “原子面は、ステップができて横へ広がることで一層ずつ育つ”KIOXIAは従来の電子顕微鏡技術を改良し、温度823K(約550℃)に加熱した状態で、a-Si/c-Si界面でSi原子面が一層(厚さ0.31nm)ずつ形成される過程を100ms刻みで観察しました4。観察したのはSi<111>方向の成長です。
一層の作られ方には順番があります。最初にステップと呼ばれる突起部が界面にでき、次にそのステップが結晶表面を覆うように沿面成長して原子層1ができました4。その後、新しいステップが原子層1の上にでき、同じように広がって原子層2ができます。KIOXIAは、この過程を理想的な固相エピタキシャル成長で、欠陥の無いSi結晶ができているとしています4。下の結晶の向きが、そのまま上へ引き継がれます。
多結晶Siチャネルでは、核ができるまでの時間と成長速度が粒の大きさを決める
Section titled “多結晶Siチャネルでは、核ができるまでの時間と成長速度が粒の大きさを決める”KIOXIAがこの観察に取り組んだ背景は、3次元LSIです。3次元LSIでは多結晶Siにトランジスタを作り、その多結晶Siチャネルの高性能化にはチャネル内の欠陥を減らすことが有効です4。KIOXIAが追ったのは、そのポリシリコンの粒1つ1つの育ち方です。
同じ823Kで、619秒まで保持すると、a-SiとSiO₂の界面に粒径2.0nmのSi微結晶ができました4。その後しばらくは非常に緩やかに育ち、続いて約0.1nm/sの一定速度で結晶成長が進み、他の粒と接触する直前から速度が落ちました4。KIOXIAは、X線回折やラマン分光を使う従来の手法では隣り合う個別の結晶粒の成長を選んで捉えられず、今回の技術で個別の粒の詳しい成長を初めて観察できるようになったとしています。
粒を大きく育てる工夫もあります。選択的に核を作ってからSPEで育てる方法(SNSPE)は、アモルファスSiを600℃以下の低温で結晶化させながら、多結晶Siの粒を大きくする成長過程です2。この方法で得られる最大の粒径は、核ができるまでの潜伏時間と固相エピタキシーの速度の積でおおよそ決まります2。
回復速度は温度に対して指数関数的に変わり、温度計にもなる
Section titled “回復速度は温度に対して指数関数的に変わり、温度計にもなる”イオン注入で生成したアモルファスSi層は、シリコン基板上で熱処理により回復(再結晶化)します。その回復速度R(nm/s)は、アニール温度T(K)に対してアレニウスの式の形で指数関数的に変化します5。速さは温度だけで決まるわけではなく、ボロン、リン、アルミニウムのような不純物は固相エピタキシーの速度を高め、核形成の速度にも影響します2。カリフォルニア工科大学の博士論文では、速度そのものをアニールを重ねるたびに成長界面の移動量を測って求めています2。
温度に敏感なことは、逆に温度計として使えます。産総研はこの回復現象を利用して、膜厚の変化量から熱処理中の温度を逆算する計測法(REAL法)を作っています。再現性の高い測温ウェハは3種あり、使える温度域はType(I)が420〜480℃、Type(II)が475〜550℃、Type(III)が520〜600℃です。イオン注入の条件を変えると、適した温度域も変わります。
同じ考え方は、ごく短い加熱でも使われています。コーネル大学の研究は、CO₂レーザーを使う横方向に温度勾配を付けたレーザースパイクアニールで、滞在時間250 µsから10 msの範囲のアモルファスSiの固相エピタキシーを調べました6。SPEの速度は温度に指数関数的に依存するため、レーザー出力に対してアニール中に到達した温度を校正する手段にもなります6。
イオン注入で乱れた結晶を、拡散を抑えながら戻す
Section titled “イオン注入で乱れた結晶を、拡散を抑えながら戻す”産総研の計測法が使う現象は、イオン注入でSi結晶がアモルファス化した層が、熱処理で下地の結晶へ戻る過程そのものです。イオン注入で極浅接合を作る工程では、SPEで結晶の並びを回復させながら、不純物の拡散を最小限に抑える設計条件が課されます。
欠陥を抑えた単結晶のかわりに、向きと温度域が縛られる
Section titled “欠陥を抑えた単結晶のかわりに、向きと温度域が縛られる”種となる結晶に沿って育てば、余分な核形成を経ずに、欠陥を抑えた単結晶を得られます。その代わり成長できる向きは下地の結晶方位に沿ったものへ限られます。速さは温度に対して指数関数的に変化するため、狙った温度域から離れると再現性は大きく崩れます。イオン注入の条件によって回復速度は左右されるため、同じ温度でも仕込み方の差で得られる再現性は上下します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”固相エピタキシャル成長とは何ですか?
単結晶ウェーハ上の多結晶あるいはアモルファス層を熱処理して単結晶層を成長させる現象で、加熱だけで下地の結晶と同じ向きの単結晶へ戻ります。界面で原子が並び直すことで、準安定なアモルファスがエネルギーの低い結晶相へ変わります。
気相や液相のエピタキシーと何が違いますか?
気相(VPE/CVD)は気相成分を堆積し、液相(LPE)は過飽和溶液から析出させます。固相(SPE)は既にある膜を加熱して結晶化させ、原子の動きは通常、界面から数結合長の範囲に限られます。
どのくらいの速さで結晶化しますか?
KIOXIAは823Kの観察で、a-Si/c-Si界面にSi原子面が一層(厚さ0.31nm)ずつできる過程を記録しました。別の観察では、619秒で粒径2.0nmの微結晶ができた後、約0.1nm/sの一定速度で結晶が育ちました。
面方位はどう決まりますか?
下の結晶Si基板の向きがそのまま引き継がれます。KIOXIAの観察は、Si<111>方向の成長過程を追跡したものです。
温度によって速さはどう変化しますか?
アモルファス層の回復速度は、熱処理の温度に対してアレニウスの式の形で指数関数的に変化します。ボロン、リン、アルミニウムのような不純物も成長速度を高めます。
イオン注入とはどう関係しますか?
イオン注入はSi結晶をアモルファス化することがあり、SPEはその回復(再結晶化)として働きます。産総研はこの現象を逆に温度計測へ応用しています。
半導体でどこに使われますか?
イオン注入で乱れた結晶を回復させる工程や、下地の結晶を種にして薄膜を単結晶化する工程で使われます。3次元LSIの多結晶Siチャネルの欠陥を減らす研究にも関わります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”6件を表示
- 1SEMI-NET:半導体用語集「固相エピタキシャル成長装置」semi-net.com ↩
- 2
- 3ウシオ電機:技術用語集「エピタキシャル成長」ushio.co.jp ↩
- 4
- 5
- 6コーネル大学:レーザースパイクアニールによるアモルファスSiの固相エピタキシー研究(eCommons)ecommons.cornell.edu ab