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組成的過冷とは

組成的過冷とは、固液界面の前方で、液相の実温度がその場所の組成に対応する液相線温度を下回る現象です。 界面から排出された溶質が液相側へ集まると、融液の中で凝固し始める温度が場所ごとに変わります。溶質輸送と熱勾配が、平らな成長面を維持できる条件を左右します。

CZ法で速く結晶を育て、高濃度にドープしたいときは、界面への溶質濃化が平面成長の制約になります。Siを溶かして結晶に戻す液相エピタキシャル成長でも、狙った組成の取り込みと成長面の形を一緒に管理します。

溶質が集まる界面では、局所液相線が下がる

Section titled “溶質が集まる界面では、局所液相線が下がる”

液相線は、その組成の液体から固相が現れ始める温度を表します。固相へ入りにくい溶質を排出しながら結晶が成長すると、界面の直前に溶質が濃い液相ができます。溶質が融点を下げる系では、界面に近い液相ほど液相線温度が低くなります1。

融液の奥ほど高温になる育成では、界面から離れるほど実温度も上がります。同時に溶質濃度が下がるため、局所液相線も上がります。液相線の上昇が実温度の上昇より急なら、その間に実温度が局所液相線を下回る領域ができます。

温度勾配と局所液相線
温度勾配と局所液相線左と右の軸範囲と局所液相線は同じ。局所液相線はティールの実線、実温度は濃い灰色の破線。両線は固液界面で一致する。右図は、界面前方で実温度が局所液相線を下回る領域を両線の正の交点まで塗って示す。温度勾配と局所液相線熱勾配が大きい界面から液相へ温度固液界面実温度局所液相線熱勾配が小さい界面から液相へ温度固液界面実温度局所液相線組成的過冷の領域
界面から離れて溶質濃度が下がると、局所液相線は上がる。実温度の上昇がそれより緩やかなら、界面前方に組成的過冷の領域ができる。

温度勾配と成長速度を、溶質輸送と合わせて比べる

Section titled “温度勾配と成長速度を、溶質輸送と合わせて比べる”

溶質を一種類含む希薄な融液で、平らな界面が液相へ一定速度V>0V>0で進む場合を考えます。液相は十分広く、対流がなく、界面とともに動く座標で拡散が定常になった状態とします。固相内の拡散と固液の密度差を省き、界面を局所平衡として、液相拡散係数DLD_\mathrm{L}と平衡分配係数kek_\mathrm{e}を一定にします。

kek_\mathrm{e}は界面直近の固相組成を液相組成で割った値です。0<ke<10<k_\mathrm{e}<1では、界面から液相へ排出する溶質と、液相内を拡散する溶質の収支2によって濃度分布が決まります。界面から十分遠い液相の組成をC∞C_\inftyとすると、界面直前の液相組成はC∞/keC_\infty/k_\mathrm{e}になります。濃化の超過分が1/e1/eに減る距離はDL/VD_\mathrm{L}/Vです。

液相線を組成に対して直線で近似し、その傾きをmL<0m_\mathrm{L}<0とします。液相の実温度も直線で近似し、液相側へ向かう温度勾配を一定のGL≥0G_\mathrm{L}\geq0とします。このモデルで正の幅を持つ組成的過冷領域ができる条件は、次の不等式です。

GLV<∣mL∣C∞(1−ke)keDL\frac{G_\mathrm{L}}{V} < \frac{|m_\mathrm{L}| C_\infty(1-k_\mathrm{e})}{k_\mathrm{e} D_\mathrm{L}}

右辺は、溶質濃化によって局所液相線が界面からどれほど急に上がるかを、成長速度で割った量です。mLm_\mathrm{L}とC∞C_\inftyは同じ組成基準で組み合わせます。等号では両曲線が界面で接し、過冷領域の幅はゼロになります。

成長速度を上げると、溶質の濃化がより狭い範囲へ集中し、局所液相線の界面勾配が急になります。温度勾配を大きくするか成長速度を下げると、実温度を局所液相線より高く保つ方向へ変わります。

凹凸が成長すると、セル間へ溶質が集まる

Section titled “凹凸が成長すると、セル間へ溶質が集まる”

過冷領域へわずかに突き出した固相は、より大きい過冷度を持つ液体に接して成長しやすくなります。どの大きさの凹凸が増幅するかは、界面の曲率と固液両相の熱輸送、溶質輸送の応答で変わります。Mullins–Sekerka型の線形安定性解析では3、凹凸の波長ごとに増幅と減衰を調べます。

セル状に成長した場合は、固相の突起の間に液相の溝が残ります。突起が液相へ排出する溶質は溝へ集まり、成長方向だけでなく横方向にも組成のむらを作ります。

界面の凹凸と溶質輸送
界面の凹凸と溶質輸送ティールの点は溶質、灰色は固相、白は連結した液相。液相側の濃化と少量の固相への取り込みを描く。右は界面の凹凸が増幅した場面で、セル間の溝は上方の融液へつながっている。界面から液相へ向く矢印と、溝に集まる溶質を示す。界面の凹凸と溶質の行き先平面に近い成長面成長方向界面前方に溶質が濃化凹凸が増幅した成長面成長方向セル間の液相へ溶質が濃化固相液相溶質
界面の凹凸が成長すると、固相へ入りにくい溶質がセル間の液相へ集まり、組成が横方向にも不均一になる。

高濃度AsのCZ結晶では、セル状形態、その構造に沿ったAs濃化とSiAs析出が観察されています4。同研究は、Asが列状に濃化し、SiAs析出と多結晶化へ進む過程を、観察と状態図に基づくモデルとして説明しています。

Tiを注入したSiのレーザー液相再成長では、Tiが集まった非晶質のセル壁5がTEMとEDXSで確認されました。組成の断面プロファイルに加え、面内でどこへ溶質が偏るかを見る必要があります。

工程では、育成時間・ドープ濃度・組成の均一性を両立する

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この定常モデルでは、C∞C_\inftyとkek_\mathrm{e}が同じなら、界面直前の液相組成C∞/keC_\infty/k_\mathrm{e}は成長速度によらず一定です。速度を下げると、同じDLD_\mathrm{L}でも溶質濃化の1/e1/e減衰長DL/VD_\mathrm{L}/Vが大きくなり、界面直前の濃度勾配と局所液相線の勾配が緩やかになります。正の温度勾配を一定に保つと、過冷領域の幅は縮みます。DL/VD_\mathrm{L}/Vは溶質分布の減衰長で、過冷領域の幅とは別の量です。速度を下げるほど、結晶の育成に時間がかかります。狙うドープ濃度を上げるほど濃化の影響も大きくなるため、速度と濃度を別々に決めると、成長面や組成分布が変わります。

熱勾配の管理では、炉の設定温度と界面近傍の実際の勾配を対応させます。Siの一方向性凝固による純化では、上部加熱によって液相の温度勾配を変え、不純物が急増するまでの凝固割合を調べた実験があります1。融液の混合や界面近傍の輸送も含めて、温度分布と組成分布を合わせます。

急速な再成長では、界面速度に応じた溶質捕獲によって局所の分配も変わります。温度履歴、液相内の輸送、界面の成長応答を一緒に扱います。条件を見直すときは、温度分布、界面形状、同じ断面の組成分布を対応させ、予測した過冷領域と実際の溶質の偏りを確認します。

組成的過冷では、何を基準に過冷と呼びますか?

その場所の液相組成に対応する液相線温度を基準にします。界面から排出された溶質が液相側に集まり、液相線の空間分布が変わるため、実温度との間に過冷領域が生じます。

成長速度と温度勾配は、過冷領域をどう変えますか?

溶質が液相へ排出されて液相線を下げる、定常の拡散支配モデルでは、成長速度を下げるか液相温度勾配を大きくすると過冷領域が縮みます。速度を下げるほど育成に時間がかかるため、狙う組成と平面成長を両立する条件を選びます。

組成的過冷と界面の形態安定性は、何を比べますか?

組成的過冷は実温度と局所液相線の大小を比べ、形態安定性は界面の凹凸が増幅するか減衰するかを調べます。一般のMullins–Sekerka問題では、組成的過冷の勾配不等式は形態不安定化の必要条件でも十分条件でもありません。熱輸送、溶質場、界面の曲率、波長を含めて判定します。

CZ法の点欠陥管理で使うV/Gとは、何を見ている点が違いますか?

CZ法の点欠陥管理では、成長速度と温度勾配の比から空孔や格子間シリコンの挙動を考えます。組成的過冷では、液相側の溶質分布が作る液相線と実温度を比べ、固液界面の形を調べます。

急速な液相再成長では、何をモデルに加えますか?

界面速度で変わる局所分配、液相内の溶質輸送、熱輸送と界面の成長応答を合わせて扱います。古典式の平衡分配係数k_eを速度依存のk(V)へ置き換えるだけでは、凹凸の増幅やセル間隔は決まりません。

工程でセル状成長や組成の偏りをどう確認しますか?

断面観察と組成分析を対応させます。高濃度AsのCZ結晶では顕微鏡とEPMA、Tiを添加したSiのレーザー液相再成長ではTEMとEDXSによって、セル状形態に沿った溶質の偏りが調べられています。

  • チョクラルスキー法で、単結晶の引き上げと点欠陥・酸素の管理を確認できます。
  • 溶質捕獲は、移動界面で固相と液相へどれだけ溶質が分配されるかを扱います。
  • レーザアニールで、表層の溶融と再成長に熱を与える方法を確認できます。
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