シリコンインゴットとは
シリコンインゴットとは、CZ法などで育てた円柱状のシリコン単結晶です。 ウェハの直前の形で、これを輪切りにしたものがウェハです。1本から取れる枚数は長さと切りしろで決まりますが、実際に効くのは、ドープ剤の偏析で長さ方向に動く抵抗率が受入窓に収まる区間の長さです。両端と外周は出荷の前に落とします。
純度99.999999999%の多結晶を約1420℃で融かし、種結晶から回しながら引き上げる
Section titled “純度99.999999999%の多結晶を約1420℃で融かし、種結晶から回しながら引き上げる”原料の側から見ると、インゴットは精製の最終段にあたります。ケイ石を炭素とともに電気炉で融かして得る金属シリコンの純度は約98%です。これを塩化水素と反応させてトリクロロシランにしてから蒸留し、超高純度の水素と反応させて得る多結晶シリコンは、99.999999999%(イレブン・ナイン)に達します1。この高純度材料(イレブンナイン)が、インゴットの出発点です。金属不純物の濃度がppb以下(1ppb=10億分の1)に高純度化された多結晶シリコンを、ホウ酸(B)やリン(P)とともに石英ルツボへ入れて約1420℃で融解させます2。加熱は、不活性雰囲気の減圧下で黒鉛ヒーターによって行います3。
融液の液面に種結晶のシリコン棒をつけ、回転させながら引き上げると、種結晶と同じ原子配列の単結晶インゴットができます2。回しながら引き上げるので、断面は円になり、ウェハの外形が円になるのもこの作り方に由来します。結晶は、過冷却や過飽和で生じる化学ポテンシャルの差を駆動力に、液相の原子が固体側の原子と結合して成長します。成長を一定の速度に保つため、炉中の温度勾配、炉の構造、結晶の引き上げ速度と回転速度が精密に制御されます4。
所望の方位の種結晶を融液へ触れさせたあと、直径を約3mm程度まで細く絞ると、種結晶に入っていた転位が消滅して無転位単結晶が育ちます4。この無転位化は1958年にDashが発見したもので、現在の大口径・大重量の高速大量生産を支える技術です。絞りから所定の口径まで広げる区間がコーン部で、ここも結晶欠陥(COP)や口径の面から出荷対象から外れます。
CZ法の石英ルツボは酸素を含むため、微量の酸素が単結晶シリコンに入り込み、IC製造では結晶内の酸素濃度がきわめて重要です1。SUMCOは、顧客のニーズに応じて、CZ法に強い磁場をかけるMCZ法や、石英ルツボを使わずに低酸素の単結晶を育てるFZ法2を使う場合もあるとしています。半導体シリコン結晶の5〜10%がFZ法で作られて新幹線やハイブリッド車の高耐圧の電力制御用素子に使われ、残りの90〜95%はCZ法で作られてMOSメモリやFlashメモリなどの低電圧素子に使われています4。酸素や抵抗率は、結晶を育てる段階で決まる量です。
引き上げ速度で、結晶に残る点欠陥の型が変わる
Section titled “引き上げ速度で、結晶に残る点欠陥の型が変わる”引き上げ速度を上げると、1本あたりの炉の占有時間が縮み、生産量が伸びます。代わりに、点欠陥の移動速度を育成速度が追い越して結晶内部が過飽和になり、高速側では空孔型欠陥が支配的になります4。下げると格子間型欠陥の側が支配的になり、炉の占有時間も伸びます。温度分布の異なる引上炉は「育成速度/温度勾配」で規格化して論じるので、速度の数字は温度勾配と組にして初めて意味を持ちます。
空孔型の欠陥にはCOPがあり、単結晶の格子点にシリコン原子がない「空孔」が集まった微細な欠陥で、ゲート酸化膜の耐圧に悪影響を及ぼします5。
両端を落とすのは、偏析で抵抗率が長さ方向に動くから
Section titled “両端を落とすのは、偏析で抵抗率が長さ方向に動くから”導電型は添加するドープ剤の種類で分け(P型はボロン、N型はリン・アンチモン・ヒ素)、添加する量で抵抗率を制御します1。ところがドープ剤は融液側に残りやすく、結晶が育つにつれて融液の中で濃くなります。多結晶原料の90%が固化した時点の結晶と最初に固化した結晶の不純物濃度の比は、CZ法のp型ボロンで1.58倍、CZ法のn型リンで4.5倍です4。FZ法ではボロン1.25倍、リン2.8倍で、不純物濃縮の影響を受けにくくなります。
濃縮の大きさは、受け入れ側の窓と比べて初めて意味を持ちます。基板抵抗率はしきい値電圧へ影響するため、基板の購入仕様の抵抗率範囲が例えば8〜12Ωcm、つまり幅1.5倍になっている例があります4。4.5倍に振れるリンを1.5倍の窓へ収めようとすれば、定径部のうち窓に入る区間だけを出荷へ回すことになります。n型リンがp型ボロンより製品歩留りが低く、製造コストが高くなるのは4、この差の帰結です。n型半導体・p型半導体の選択が、そのまま1本あたりの取れ高を動かします。
外周を研削して径を揃え、ノッチで結晶の向きを残す
Section titled “外周を研削して径を揃え、ノッチで結晶の向きを残す”引き上げ中の口径には揺らぎがあり、そのままの径は規格から逸れます。そこで育てたあとに外周を研削して規定の直径へ仕上げ、スライス加工の前に規定の長さへ切断します3。
研削と同時に、結晶の向きを示す加工もします。結晶には向きがあり、加工の条件や電気的な性質が向きによって変わります。ウェハになったあとで向きが分かるよう、外周の一部へ結晶方位を示す溝(ノッチ)あるいは平面(オリエンテーションフラット、オリフラ)を加工します3。搬送装置も、この切り欠きを基準に向きを合わせます。ウェーハのサイズはφ200mmとφ300mmが一般的で、200mmウェーハまではオリフラが一般的、300mmウェーハにはより小さなノッチと呼ばれる切れ目が付いています6。オリフラは外周を弦で削るため面積を失いますが、ノッチは切り欠きだけなので有効面積の損失を小さく抑えます。ノッチと結晶方位の使い分けは、この面積と検出のしやすさの取引です。
外周を揃えたインゴットは、顧客の希望する抵抗率に応じて、内周刃切断機かワイヤーソーで厚さ1mm程度にスライスします2。SUMCOの製品ページの表現では、円柱状のシリコンインゴットをおよそ1mmの厚さへスライスしてウェーハにします7。
1本から取れる枚数は、長さを厚みと切りしろで割った数
Section titled “1本から取れる枚数は、長さを厚みと切りしろで割った数”1本のインゴットから取れるウェハの枚数は、長さを1枚あたりの厚みと切りしろの合計で割った数です。切りしろの分は材料として失われるため、切る技術がそのまま歩留まりを左右します。長いインゴットを育てられるほど、1本あたりの取れ高が上がります。
直径300mmウェーハ用の結晶は、長さ2m・重さ300kgを超えます3。この長さを厚さ1mm程度で割るだけの計算なら2,000枚ですが、実際には切りしろと両端の落とし分が引かれるため、取れ高はこの数を下回ります。
切りしろの桁は、材料で大きく変わります。ディスコは、Φ6インチ・厚さ20mmのSiCインゴットから指定厚350μmを取る場合のワイヤ加工のカーフロスを、ウェーハ1枚あたり180μm程度とし8、ユーザヒアリングに基づく一般値として示しています。この180μmを1mm厚のウェハに当てはめると、材料の15%以上が切り粉になる計算です。スライシングの線を細くする開発が続く理由は、この割り算にあります。
重さ300kgという数字は、装置側の要求条件へ直結します。直径400mmウェハの開発は1996年3月に設立されたスーパーシリコン研究所で2001年1月まで進められ5、主要テーマに大重量の結晶引き上げ・保持機構とその制御、大型石英坩堝の設計が入っていました。同研究所は、基盤技術研究促進センター(当時の通商産業省と郵政省の共管組織)と国内ウェハメーカ7社の共同出資です。口径を上げると、結晶そのものより先に、それを吊る機構と石英部材の設計が上限になります。直径300mmウェハは、LPレコードと同じサイズです。300mmの次の世代としては450mmがITRSで示され、日本の400mmウェハ研究開発の多くが450mmへ展開しうると期待されていました5。
動かせるつまみは4つで、どれも別の場所を悪くする
Section titled “動かせるつまみは4つで、どれも別の場所を悪くする”インゴット側で動かせるつまみは、引き上げ速度、定径部の長さ、外周研削の取り代、ドーパント種の4つです。引き上げ速度は、生産量と点欠陥の型の取引です。定径部を長くすると1本あたりの取れ高が上がりますが、テール側ほどドープ剤が濃縮するため、受入窓から逸れる区間が伸びて落とし分が増えます。短くすると窓に入る割合は上がりますが、コーン部とテール部という固定の損失が相対的に重くなります。
外周研削の取り代を大きくすると、育成中の口径の揺らぎを吸収でき、規格径に確実に収まります。代わりに削った分の材料が粉になり、直径がわずかに細くなるため1枚あたりの有効面積も減ります。小さくすると材料の損失は小さく済みますが、口径の揺らぎがそのまま残って規格から逸れる区間が生じます。ドーパント種では、p型ボロンは長さ方向の濃縮が1.58倍で収まるため取れ高が高く、n型リンは4.5倍に振れるため落とし分が増えます。用途がn型を要求する場合、この歩留まりの差は費用として払うことになります。
インゴットの段階で払う代償は材料と炉の時間で、得るものは口径の均一さ、抵抗率の長さ方向の一様さ、無転位という結晶の質です。両端を落とし、外周を削り、育成速度を抑える操作は、材料と時間を差し出して均一性を買う行為です。ここで妥協した揺らぎはウェハ平坦度や酸素析出物(BMD)の面内分布として下流へ持ち越され、アニールウェーハなどで取り返す費用が上がります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 単結晶育成・インゴットの工程ページ── 工程分類と、この工程の公開求人
- インゴット切断・ウェーハスライスの工程ページ── 切る側の工程
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”シリコンインゴットとは何ですか?
CZ法などで育てた円柱状のシリコン単結晶で、ウェハの直前の形です。外周を研削してから、内周刃切断機かワイヤーソーでおよそ1mmの厚さへスライスしてウェーハにします。
なぜ円柱なのですか?
融液から回転させながら引き上げて育てるため、断面が円になります。ウェハが円形なのも、この作り方に由来します。
1本からウェハは何枚取れますか?
長さを1枚あたりの厚みと切りしろの合計で割った数から、両端の落とし分を引いた数です。直径300mmウェーハ用の結晶は長さ2m・重さ300kgを超え、長いインゴットほど1本あたりの取れ高が上がります。
両端は使えるのですか?
出荷から除く部分があります。引き上げの初期と末端では口径と結晶の質がばらつき、偏析でテール側の抵抗率も下がるため、両端を落として使える範囲だけを残します。この歩留まりが費用を左右します。
口径はどうやって揃えますか?
引き上げ中の口径には揺らぎがあるため、育てたあとに外周を研削して所定の径へ揃えます。同時に、結晶の向きを示すノッチまたはオリフラを加工します。
インゴットのメーカーはどこですか?
信越化学工業とSUMCOが世界の主要な供給者で、ウェハまで一貫して製造します。当サイトの装置カタログDBは装置familyを収録しており、インゴットそのものは収録していません。
なぜテール側の抵抗率が下がるのですか?
偏析のためです。原料の90%が固化した時点と最初に固化した時点の不純物濃度の比は、CZ法のp型ボロンで1.58倍、n型リンで4.5倍です。融液に残ったドープ剤が濃くなるので、後から固まった側の抵抗率が下がります。
種結晶のすぐ下が細いのはなぜですか?
転位を消すための絞りです。種結晶を融液へ触れさせたあと直径を約3mm程度まで細く絞ると、種結晶に入っていた転位が消滅し、無転位単結晶を育てられます。この技術は1958年にDashが発見しました。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ウェーハと基板── 工程としてのウェーハ製造
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- 1信越半導体 白河工場:製品案内shinetsu.co.jp abc
- 2SUMCO:シリコンウェーハの製造方法sumcosi.com abcd
- 3グローバルウェーハズ・ジャパン:製造プロセスsas-globalwafers.co.jp abcd
- 4
- 5JEITA半導体部会:大口径化の進むシリコンウェハsemicon.jeita.or.jp abc
- 6SCREENセミコンダクターソリューションズ:ウェーハの調達screen.co.jp ↩
- 7SUMCO:Productssumcosi.com ↩
- 8ディスコ:KABRAdisco.co.jp ↩