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ワイヤーソーとは

ワイヤーソーとは、細い金属線を高速で走らせ、砥粒の作用でインゴットを切断する装置です。 多数本の線を平行に並べ、1本のインゴットから多数枚のウェハを一度に切り出します。その並列度と引き換えに、線の太さと砥粒の分だけ材料をカーフロスとして失い、1回の切断に8〜10時間の装置の占有時間を払います。損失を決めるつまみは線径と砥粒で、どちらを動かしても破断力、傷の深さ、切断時間のどれかが反対側に振れます。

平行に張った線で、1本のインゴットを数百枚に同時に切る

Section titled “平行に張った線で、1本のインゴットを数百枚に同時に切る”
マルチワイヤの切断
押し当てるインゴットウェハになる部分線(断面)カーフ拡大砥粒結晶線砥粒
インゴットを平行な線の列に押し当てると、すべての溝が同時に切り進み、溝の間がウェハになります。溝の幅が、線の太さと砥粒の分のカーフです。

シリコンインゴットをウェハにするには、円柱を輪切りにします。1枚ずつ切っていては、1本を切り終えるまでに膨大な時間がかかります。そこで多数本の線を平行に張り、そこにインゴットを押し当てます。1回の動作ですべての切断面が同時に進むので、1本から数百枚を一度に切り出せます。

実際に削っているのは砥粒で、線は砥粒を運んで押しつける役目を担います。砥粒を含んだ液を供給する遊離砥粒の方式と、線の表面にあらかじめ砥粒を固着させた固定砥粒の方式があります。ソーワイヤの「ソー」はノコギリのことで、ノコギリのように切削に使うワイヤを指します。素材には真鍮や銅めっきを施した高炭素鋼が一般に使われ1、マルチワイヤソーでインゴットをウェーハ状にスライスします。

切断方式は1つに絞られていません。SUMCOは単結晶インゴットを外周研削で直径をそろえたあと、お客さまが希望する抵抗率に応じて、内周刃切断機もしくはワイヤーソーを用いて厚さ1mm程度にスライスします2。グローバルウェーハズ・ジャパンも、ワイヤーソー方式もしくは内周刃方式3の2択を示しています。

必ず生じるのがカーフロスです。線の太さと砥粒の分だけ、切りしろとして材料が削り取られます。SUMCOは円柱状のインゴットをおよそ1mmの厚さにスライスします4。1枚ごとにカーフロスが加わるので、インゴットの長さから取れる枚数はその分だけ減ります。

線を細くすると、切りしろと一緒に破断力も減る

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線径と破断力
0.100.120.140.160.18線径(mm)破断力(N)30N84N9N94Nソーワイヤダイヤモンドワイヤのコア
ソーワイヤの破断力は0.18mmの84Nから0.10mmの30Nまで下がり、ダイヤモンドワイヤのコアも50μmでは9Nしかありません。

線径は、材料歩留まりと切断の安定性を同時に動かします。ジャパンファインスチールの測定値1による引張強さと破断力の目安は、線径0.10mmで引張強さ3800±200 N/mm²・破断力30N、0.12mmで3700±200 N/mm²・42N、0.14mmで3700±200 N/mm²・57N、0.16mmで3500±200 N/mm²・70N、0.18mmで3300±200 N/mm²・84Nです。線径公差は±0.001mm、偏径差は0.001mmです。

細い側で引張強さが上がっているのに、破断力は下がります。引張強さは単位断面積あたりの強さなので、断面積が細さの2乗で減れば、線1本が耐える力は下がります。0.10mmの30Nと0.18mmの84Nを割り算すると、2.8倍の差です。細い線は材料を節約する代わりに、太い線と同じ張力をかければ切れてしまいます。

線は約φ5mmの線材から引き伸ばし、300km単位で使う

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ソーワイヤは、約φ5mmの線材から作ります。ジャパンファインスチールによると、φ0.12〜0.16mmのソーワイヤを製造するためには熱処理がなくてはならない工程です1。伸線では線材をダイスに通して断面積を小さくし、乾式伸線では7〜10枚、湿式伸線では20〜25枚のダイスを連続で通して段階的に細くします。熱処理した線材の表面には銅、亜鉛の順にめっきを施し、拡散させて伸線に適したブラスめっきを作ります。このめっきが湿式伸線での伸びやすさを高めます。同社は1996年ごろからソーワイヤを製造し、長いものでは1000kmを超える1本もののワイヤを製造できるとしています。

長さが要るのは、切断に時間がかかるからです。ワイヤソーではセットしたワークを非常に遅い速度で動かしてスライスするので、スライスの完了までに8〜10時間が必要で、その間ワイヤは500〜1000m/minで走行し続けます1。そのため300kmや1000kmという長さのワイヤが必要になります。時間は仕様によって変わります。

遊離砥粒は垂直に傷を残し、固定砥粒は面方向の傷で済む

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砥粒の持たせ方と傷
遊離砥粒転がるSiC砥粒面に垂直な傷固定砥粒切削方向固着ダイヤモンド面方向の傷が小さいウェハ線
遊離砥粒は線とウェハの間で転がってウェハの面に垂直な傷を残し、固定砥粒は切削方向に引っ掻いて進むので面方向へのダメージが小さく済みます。

砥粒の持たせ方で、傷の入り方が変わります。ソーワイヤはSiCスラリーを用いる従来の遊離砥粒加工に使われ、ダイヤモンドワイヤはスラリーを使わない固定砥粒加工に使われます。遊離砥粒では、SiCがワイヤと加工物のあいだで転動して少しずつ削るため、切り出されるウェハに垂直方向の転動ダメージが残ります5。固定砥粒では、最も硬いダイヤモンドの砥粒をワイヤに直接固定していて、切削方向を引っ掻いて進むため、ウェハの面方向へのダメージが小さくなります。ジャパンファインスチールは、固定砥粒ならスラリーを省けるので切り屑もリサイクルでき、加工効率が非常に良いためワイヤ使用量も大きく削減できるとしています。

固定砥粒では、ワイヤの外径がそのまま切りしろの下限になります。同社の仕様は5、コアワイヤ径50μmの破断力を9N、80μmを23N、100μmを33N、120μmを46N、180μmを94Nとし、ダイヤモンド砥粒径を6〜12μm(D50は7.5μm)から40〜60μm(D50は34.4μm)まで並べています。両者の組み合わせで決まるダイヤモンドソーワイヤ外径は、コア80μmに8〜16μmの砥粒で95μm、コア100μmに10〜20μmで120μm、コア100μmに30〜40μmで170μm、コア160μmに20〜40μmで200μm、コア180μmに40〜60μmで250μmです。95μmの線を選べば、切りしろの下限も95μm前後になります。

砥粒の保持の仕方でも性格が分かれます。同社は、電着型はダイヤモンド砥粒の保持力に優れるため、高い切削能力と高寿命が特徴で5、SiCやGaNのような硬質材の加工に有利だとしています。レジン型は柔らかいレジンで砥粒を固着させるので切り出したウェハへのダメージが小さく、電着型より安価で、レジンクッション効果によってウェハ表面のダメージが軽くなり鏡面に近づくとしています。硬い材料を速く切りたいなら電着型、面を優先するならレジン型です。SiCウェハ(炭化ケイ素基板)で電着型が前提になるのは、この硬さの差からです。

切断で入れたうねりの分だけ、仕上げで削る厚みが増える

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切断したままの表面には、傷と加工による歪みが生じます。デバイスを作るには、ラッピングで厚みと平坦さを整え、エッチングで加工変質層を除き、研磨で鏡面に仕上げます。切断は仕上げの出発点です。

仕上げの取り代は、切断の質で決まります。ディスコは、ワイヤ加工の場合はウェーハ表面に生じる40μm程度のうねりを除去するためのラップ研削が必要でしたとしています6。この40μmは、同社がユーザヒアリングに基づく一般値として示す数値です。切断で入れたうねりの分だけ、ラッピング、ウェットエッチング、鏡面研磨で削り落とす厚みが増えます。ここで入れたうねりと変質層からは、ウェハ平坦度や反りの初期値も定まり、切断が荒ければ両面研磨(DSP)で取り返す厚みが増えます。

SiCでは、ワイヤの切断時間とカーフロスがレーザ剥離に対して大きく開く

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SiCウェーハ1枚あたりの厚み
ワイヤ加工レーザ剥離ウェーハ 350μmカーフ 180μmウェーハ 350μm剥離層 80μmウェーハカーフロス剥離層の除去分
ディスコは、350μmのSiCウェーハ1枚に、ワイヤ加工では180μm程度のカーフロスが、同社のレーザ剥離では80μmの剥離層の除去分が加わるとしています。

SiCはシリコンより硬く、切断に時間がかかり、線の消耗も大きくなります。歩留まりと生産性の両面で負担が増え、SiCウェハが高価である理由の1つになっています。ディスコは、従来SiCインゴットからウェーハを切り出す方法はダイヤモンドワイヤソーでの加工が主流だったとしたうえで6、硬いので加工に時間がかかること、切断部分の素材ロスが多くインゴット1本あたりの取り枚数が少ないことから、量産には多数台のワイヤソーが必要だったと説明しています。

同社は、Φ6インチSiCインゴットからウェーハを切り出すまでの加工時間を、従来は1枚あたり3.1時間前後、1インゴットあたり100時間としています6。前提はΦ6インチ・厚さ20mmのSiCインゴットから指定厚350μmのウェーハを生産する場合で、この時間もユーザヒアリングに基づく一般値です。同社のレーザ剥離(KABRAプロセス)では1枚あたり10分、1インゴットあたり約31時間まで縮むとしています。カーフロスも、ワイヤ加工ではウェーハ1枚あたり180μm程度あり、KABRAでは切断時点での素材ロスがないとし6、剥離層の除去分の80μmに収まるので、インゴット1本あたりのウェーハ取り枚数は従来比で約1.4倍になるとしています。装置側の対応範囲はΦ8インチインゴット、最大インゴット厚40mm、本体寸法6,740×2,755×1,800mmです。同社は2021年10月現在で特許登録済45件、特許出願中69件としています。

切り出したあとの検査も専用の装置があり、レーザーテックはSiCウェーハ検査およびレビューシステムのSICA108とSICA887を出しています。

線径・砥粒径・砥粒の持たせ方は、どれを動かしても別の代償が出る

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線径を細くすると1枚あたりのカーフロスが減り、同じインゴットからの取れ枚数が増えます。代わりに破断力が下がるので、張力と送り速度の余裕が消えます。太くすると切断は安定しますが、切りしろが増えて材料が粉になります。

砥粒径を大きくすると切削能力が上がって切断時間が縮みます。代わりにダイヤモンドソーワイヤ外径が増え、同じコア100μmでも砥粒10〜20μmの120μmから砥粒30〜40μmの170μmへ切りしろが広がり、ウェハ表面の傷も深くなります。小さくすると面はきれいになりますが、切断が遅くなります。

固定砥粒に振ると加工効率が上がり、面方向のダメージも小さくなります。代わりにワイヤの単価が上がります。遊離砥粒に振るとワイヤは安くなりますが、SiCの転動による垂直方向のダメージが残り、スラリーの供給と廃棄も抱えます。電着型は保持力と寿命で有利で硬質材に向く代わりに、加工物へのダメージが大きくなります。レジン型はクッション効果で面が鏡面に近づき安価ですが、硬質材の切削能力で劣ります。

ワイヤーソーが差し出しているのは、切りしろとして消える材料と、8〜10時間という装置の占有時間です。得ているのは、1回の動作で数百枚を同時に切り出す並列度です。

ワイヤーソーとは何ですか?

細い金属線を高速で走らせ、砥粒の作用でインゴットを切断する装置です。多数本の線を平行に張るので、1本のインゴットから多数枚のウェハを一度に切り出せます。

なぜ多数枚を一度に切るのですか?

1枚ずつ切っていては時間がかかりすぎるためです。線を平行に何百本も張ってインゴットを押し当てれば、1回の動作ですべての切断面が同時に進みます。

カーフロスとは何ですか?

切断で失われる材料の厚みです。線の太さと砥粒の分だけ、切りしろとして材料が削り取られます。SUMCOはインゴットをおよそ1mmの厚さにスライスし、そこにカーフロスが加わるので、インゴットの長さから取れる枚数はその分だけ減ります。

どうすればカーフロスを減らせますか?

線を細くします。ただし細くするほど破断力が下がり、ジャパンファインスチールの測定値では線径0.10mmの破断力が30N、0.18mmが84Nです。材料歩留まりと切断の安定性のどちらを取るかの設計になります。

切ったあとはどうしますか?

表面には切断による傷と歪みが生じます。ラッピングで厚みと平坦さを整え、エッチングで加工変質層を除き、研磨で鏡面に仕上げます。ディスコは、ワイヤ加工では40μm程度のうねりを除くラップ研削が必要だったとしています。

SiCでは何が違いますか?

SiCはシリコンより硬く、切断に時間がかかり、線の消耗も大きくなります。ディスコは、Φ6インチSiCインゴットからウェーハを切り出す加工時間を1枚あたり3.1時間前後、1インゴットあたり100時間としており、これがSiCウェハが高価である理由の1つです。レーザーテックはSiCウェーハ検査システムのSICAシリーズを出しています。

遊離砥粒と固定砥粒はどちらを選びますか?

材料の硬さと面の要求で分けます。SiCスラリーを用いる遊離砥粒加工ではSiCがワイヤと加工物のあいだで転動して少しずつ削るため垂直方向に転動ダメージが残り、ダイヤモンドを固着させた固定砥粒加工では切削方向を引っ掻いて進むため面方向へのダメージが小さくなります。

1回のスライスにどれくらい時間がかかりますか?

スライスの完了までに8〜10時間を要し、その間ワイヤが500〜1000m/minで走行し続けるので、ワイヤの長さは300kmや1000kmという単位になります。時間は仕様によって変わります。

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