コンテンツにスキップ

膜中水素とは

膜中水素とは、成膜のときに原料ガスから持ち込まれた水素が、できあがった膜の中にSi-HやN-Hといった結合として留まったものです。 水素は原料に含まれるので、膜から完全になくすのは難しい成分です。

しかも同じ水素が、界面の欠陥を埋めて特性を安定させる一方で、後の工程で抜けて特性を変える原因にもなります。

水素は原料から必ず入り、赤外吸収で調べる

Section titled “水素は原料から必ず入り、赤外吸収で調べる”

プラズマCVDによるSiN膜は、一般にモノシラン、アンモニア、窒素を原料とし、350℃前後に保持した基板上へ成膜されます1。モノシランは1分子あたり4個、アンモニアは3個の水素を持つため、プリカーサが分解してできた断片が膜へ入ります。ソニーセミコンダクタソリューションズの久保井らは、現実の成膜プロセスではSiN膜へ水素が含まれるとして、この膜をSiN:H膜と表記しています2。

膜厚測定やエリプソメトリでは水素の情報は得られず、赤外吸収で調べます。FT-IRでSiN膜中のSi-H結合、Si-N結合、Si-O結合の量を測ると、原料をモノシランから有機シランに替えた膜ではSi-H結合の存在比率が減っています。膜厚と屈折率は分光エリプソメータで、電気特性はC-V測定とI-V測定で測ります。

水素の2つの働き
原料ガスSiH4・NH3・N2350℃前後で成膜膜の中に残るSi-H結合・N-H結合FT-IRで測れる後の熱と加工膜の外へ出ていく界面へも移る終端する働き界面のダングリングボンドを埋める特性を変える働き抜けると界面準位が生成されます下地のダメージと加工の速さも変わる
水素は原料ガスから膜に入り、膜の中でSi-HやN-Hとして残ります。後の熱処理や加工で動き始めると、界面のダングリングボンドを埋める働きと、抜けたあとに界面準位や加工の速さを変える働きの2つがあります。

200℃以下では、原料を替えないと膜が緩む

Section titled “200℃以下では、原料を替えないと膜が緩む”

成膜温度は膜中水素に直接影響します。モノシラン、アンモニア、窒素を原料として成膜温度を200℃以下に下げると膜質が急に悪化し、高品質なSiN膜は作りにくくなります。それでも温度を下げたい理由は下地にあります。TSVプロセスでシリコン基板の裏面と支持基板を貼り合わせる接着層は耐熱温度が200℃付近なので、SiN成膜を200℃以下にする要求があります。熱バジェットの上限が、水素の抜け方の上限も決めます。

有機シランを使うと、成膜温度200℃でモノシランより優れたSiN膜が得られ、有機シラン系SiN膜の耐薬品性は500倍程度向上しました。原料をモノシランから有機シランに替えるとSi-H結合の存在比率が減り、耐薬品性が上がります。耐薬品性は、バッファードフッ酸に対するSiN膜のエッチングレートで測っています。モノシランは毒性と自然発火性を持つガスで、高額な設備投資も必要です。

成膜温度と使える原料
SiH4系では膜質が急悪化一般的なPECVDのSiN膜は350℃前後です100150200250300350400成膜温度(℃)120℃以下有機シランで成り立ちます温度を下げたい理由TSVの支持基板を貼る接着層の耐熱が200℃付近です膜中のSi-H結合比率を下げるとバッファードフッ酸への耐性が500倍程度になります
モノシラン系は200℃以下で膜質が急に悪化しますが、有機シランへ替えると120℃以下でも成り立ち、Si-H結合の存在比率が下がってバッファードフッ酸への耐性が500倍程度になります。温度を下げたい理由は、接着層の耐熱が200℃付近という下地側の上限にあります。

原料と温度が同じでも、プラズマの当て方で電気特性が2桁変わる

Section titled “原料と温度が同じでも、プラズマの当て方で電気特性が2桁変わる”

電極間距離とプラズマパワーだけを変えた2条件で、1メガボルト毎センチメートルでのリーク電流が1×10⁻⁶アンペア毎平方センチメートルと6×10⁻⁹アンペア毎平方センチメートル、膜応力がマイナス11メガパスカルとマイナス74メガパスカルになりました。プラズマの当て方だけで、電気特性が2桁以上変わります。応力ライナーのように応力そのものを使う膜では、この2つの数値が同時に変わる点が問題になります。

パルスで当てる時間も効きます。a-Si:H膜では、膜構造を疎にして膜品質を下げると考えられるSi-H2モードが、プラズマのオン時間10マイクロ秒程度から減り始め、オン時間が10マイクロ秒程度以下で光導電率と暗導電率の比が7桁程度まで向上しました3。励起周波数81.36メガヘルツでオン時間を2〜5マイクロ秒まで短くした条件では、成膜速度が毎秒1ナノメートル近くでもSi-H2モードを低く抑えられました。シャープは、オン時間が長いと短寿命のSiHやSiH2が母ガスのモノシランと反応を繰り返してクラスター化分子や微粒子が育ち、それが膜へ取り込まれると推察しています。ラジカルの寿命の差が、そのまま膜中の水素の結合状態へ写ります。

界面の水素終端が、窒素の取り込みを決める

Section titled “界面の水素終端が、窒素の取り込みを決める”

シリコン上にゲート酸化膜を作る直前にフッ化水素で自然酸化膜を除去すると、シリコン表面が水素終端されます4。この状態が成膜の初期を左右します。一酸化二窒素とモノシランを使うプラズマCVDでモノシランの比率が高くなると、膜中の窒素が多くなります。東芝は、フッ化水素処理したシリコン表面のSi-Hがプラズマ中のSi-Hxと同じ結合状態にあるため、成膜初期に酸素が足りなくなり、界面だけに窒素が取り込まれると推定しています。できたシリコン窒化膜は電子を捕獲するので、デバイス特性が悪化するおそれがあります。

対策は、結合力の弱いSi-Hを結合力の強いSi-Oにあらかじめ置き換えることです。フッ化水素で自然酸化膜を除去したあと、有機アルカリと過酸化水素でシリコンの最表面だけを酸化し、水素終端をなくしてからシリコン酸化膜を作ると、XPSとFT-IRで見たN-Si結合とN-H結合のピーク強度が下がりました。C-V測定では、フラットバンド電圧の理論値マイナス0.97ボルトに対するシフト量が、最表面を酸化した条件で0.13ボルト、そのまま成膜した条件で0.78ボルトでした。DHF洗浄直後の表面状態が、窒化と成膜の初期を左右します。

窒素の取り込みは、一酸化二窒素に対するモノシランの比率を下げても抑えられます。ただしその場合は成膜速度が下がる問題がありました。比率を動かすと、界面の窒素と1枚あたりの時間が反対向きに動きます。

界面の水素は、抜けるとNBTIの劣化になる

Section titled “界面の水素は、抜けるとNBTIの劣化になる”

シリコン基板とゲート絶縁膜の界面に生じたダングリングボンドは、水素で終端されています。この水素の脱離と界面準位の生成が、NBTIにおける劣化メカニズムと考えられています5。界面で発生した水素関連種の拡散は中性の水素分子の拡散が主体と考えられており、これによる特性劣化ではしきい値電圧の変化量が時間の6分の1乗に比例します。バイアスをオンからオフへ移した瞬間に非常に早い回復が起こるため、正確な劣化量を測るには、バイアスを一定に保ったまましきい値電圧の変化を測るオンザフライ法や、マイクロ秒領域の高速I-V測定が要ります。BTIの側から辿ると、同じ現象に行き着きます。

反対に、水素終端が邪魔になる場面もあります。非常に高品質なSiO2膜とSi3N4膜を得るには、酸化と窒化を始める前に、シリコン基板表面のダングリングボンドを終端している水素原子を、クリプトンイオンやキセノンイオンの照射で完全に取り除く必要があります6。同じ水素が、界面を安定させる働きと、成膜を妨げる働きの両方を持ちます。

膜に残った水素は、エッチングの速さも変える

Section titled “膜に残った水素は、エッチングの速さも変える”

久保井らは、CHF系ガスによるSiN:H膜の加工について、膜中の水素が外へ出る流れが入射するフッ素や酸素を除去する反応を、表面反応の仕組みに組み込みました。シミュレーションと実測から、FinFETのSiNサイドウォール加工ではSi Fin部のダメージがプロセスと膜中水素含有量に依存する結果を示し、これらの制御を課題に挙げています。

装置の状態も水素の分布を変えます。同じ報告は、バルクプラズマ中にできる水素とチャンバ壁との相互作用を考えたプラズマシミュレーションを開発し、メンテナンス直後で天板表面がシリコンの状態、クリーニング直後で天板が酸化された状態、加工中でチャンバがポリマー膜で覆われた状態の3つで、水素分布の変動を可視化しました。この変動と実際のSiN:Hのエッチングレートに相関が見られたことから、チャンバ壁の状態を測りながら水素量の分布を実時間で制御する必要があるとしています。チャンバ内壁の状態がSiN膜の削れ方を変える経路の1つが水素で、スペーサの寸法が装置の使用履歴で変わる理由の1つもここにあります。

4つの調整項目は、どれも別の代償を払う

Section titled “4つの調整項目は、どれも別の代償を払う”

膜中水素を動かす項目は、成膜温度、原料、ガス比、プラズマの当て方の4つです。温度を上げれば水素が抜けて膜が締まりますが、下地を焼きます。下げれば膜が緩みます。原料を替えれば供給と設備の話になり、ガス比で界面を守れば毎分の枚数が落ちます。短パルス化で結合状態を整えれば、電源と整合の作り込みが増えます。

測定にも課題があります。FT-IRは結合の量を測れますが、抜けた水素の行き先は別の測定で調べる必要があります。膜中水素は成膜時に決まり、アウトガスとして後の工程で出ていき、最後はゲート酸化膜の寿命に影響します。3つの工程で同じ水素が別の名前で扱われる点が、この用語の扱いにくさです。

膜中水素とは何ですか?

成膜のときに原料ガスから持ち込まれた水素が、できた膜の中にSi-HやN-Hといった結合として残ったものです。プラズマCVDによるSiN膜は一般にモノシラン、アンモニア、窒素を原料とし、350℃前後に保った基板上に成膜されます。

水素はどこから入るのですか?

原料ガスそのものです。モノシランは1分子あたり4個、アンモニアは3個の水素を持ち、分解した断片が膜へ取り込まれます。ソニーセミコンダクタソリューションズの久保井らは、現実の成膜プロセスではSiN膜へ水素が含まれるとして、SiN:H膜と表記しています。

何を測ると膜中水素が分かりますか?

赤外吸収分光法(FT-IR)で、SiN膜中のSi-H結合、Si-N結合、Si-O結合の量を測ります。XPSとFT-IRを併用して、N-Si結合とN-H結合のピーク強度を比べることもあります。膜厚と屈折率は分光エリプソメータ、電気特性はC-V測定とI-V測定で測ります。

膜中水素があると何が良いのですか?

結合の切れ端を埋めます。シリコン基板とゲート絶縁膜の界面に生じたダングリングボンドを水素が終端しており、その水素が脱離して界面準位が生成されることが、NBTIの劣化メカニズムと考えられています。

膜中水素があると何が困るのですか?

抜けたあとに特性が変わります。NBTIで界面から出た水素関連種の拡散は中性の水素分子の拡散が主体と考えられており、これによる特性劣化ではしきい値電圧の変化量が時間の6分の1乗に比例します。膜の側でも、水素の結合状態が膜質を左右します。

成膜温度を上げれば済む話ですか?

下地の耐熱と両立しにくくなります。TSVプロセスでシリコン基板の裏面と支持基板を貼り合わせる接着層は耐熱温度が200℃付近なので、SiN成膜を200℃以下にする要求があります。一方で、モノシラン系で200℃以下に下げると膜質が急に悪化します。

膜中水素は後のエッチングへ影響しますか?

影響します。久保井らは、SiN:H膜の加工でエッチングレートに影響する水素量の制御を課題に挙げ、チャンバ壁の表面状態が異なる場合の水素分布の変動と、実際のSiN:Hエッチングレートとの間に相関を見出したとしています。FinFETのSiNサイドウォール加工では、Si Fin部のダメージが膜中水素含有量に依存する結果を示しています。

6件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6