側壁パッシベーションとは
側壁パッシベーションとは、エッチング中にパターンの側壁へ薄い膜を作り、横方向の反応を抑えることです。 その膜を側壁保護膜と呼びます。膜が付かなければ横方向にも削れ、厚すぎれば別の欠陥が出ます。深い穴では膜が入口付近で止まりやすく、奥まで均一に付けるのが難しくなります。線幅が数十nmまで縮んだゲート加工では、膜の厚さそのものを薄く抑える必要が出てきました。
掘りながらできる副生成物が壁に積もり、底の膜はイオンが落とす
Section titled “掘りながらできる副生成物が壁に積もり、底の膜はイオンが落とす”膜のもとは、エッチング中にできる副生成物です。プラズマエッチングでは、パターンの側面にエッチング生成物(例:SiClx)やレジストの分解物が積もって中性のエッチング種との反応が抑えられ、イオンが当たる底面ではその薄膜が落ちるので、異方性の加工になります1。別の工程で付ける膜と違い、エッチングガスを流している間にできたものが、そのまま壁に付着します。どこに付くかで役割が変わる点は、再付着(リデポジション)と同じ現象の表と裏です。
3つ目の出どころがフルオロカーボン堆積膜です。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、絶縁膜の微細ホール加工でホール側壁に堆積したデポ厚さを断面SEMで測り、側壁堆積膜が途切れる位置のアスペクト比が3とほぼ一定であることを示しました2。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。ガスの組み合わせで膜の量を調整する例もあり、ハイドロフルオロカーボン(CHF₃、CH₂F₂など)はCFxラジカルを作って保護層を形成させ、N₂はこの層の成長を抑える役割3を持ちます。
効果が大きいのは、中性のエッチング種と反応しやすい材料を掘る場合で、リンを高濃度に添加したn+ poly-SiをCl原子で掘る組み合わせと、SiをF原子で掘る組み合わせが例です。逆に、ラジカルとの反応が遅い材料では、この効果も小さくなります。
膜で方向を作れないと、結晶方位に頼るか、寸法が設計値から後退する
Section titled “膜で方向を作れないと、結晶方位に頼るか、寸法が設計値から後退する”従来のシリコン異方性エッチングは、水酸化カリウム(KOH)水溶液やテトラメチル水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液などの強アルカリ性水溶液を使う手法が主流で、エッチングの向きは単結晶シリコンの結晶方位で決まっていました4。DRIE装置なら結晶方位に関係なく加工でき、設計の自由度が大幅に増しました。方向の作り方には、膜で作る方法と、ウェットエッチングで結晶方位に頼る方法の2つがあります。
MEMS加工のマスクとしてのCrは、Cl₂とO₂のプラズマで掘る際に有効な側壁保護膜が薄いままなので、加工寸法(CD)が設計値より大きく後退しやすくなります5。膜の応力が大きく、成膜厚が通常0.5 μm程度にとどまることも、厚いCrマスクを作りにくい課題です。メタルハードマスクを選ぶときは、膜が付くかどうかが寸法に直接影響します。
線幅が32nm、20nmへ進むと、膜を薄く抑える必要が出た
Section titled “線幅が32nm、20nmへ進むと、膜を薄く抑える必要が出た”膜は横方向の反応を止める一方で、それ自体が側壁に厚みを持ちます。2010年代半ばに線幅32nm、20nmへ進むには、側壁パッシベーションの膜を薄くする必要がありました3。揮発しにくいエッチング生成物を積もらせるレシピは、それ以上の微細化に合わなくなったとされています。HBr/O₂でエッチングしたポリシリコンゲートでは側壁のSiOxBry膜が4〜8nmあり、SF₆/CHF₃/N₂/Heで加工したゲートのフルオロカーボン膜は2nmにとどまります。
膜厚が面内でばらつけば、寸法もばらつきます。パターンの加工寸法(CD)の変換差を抑えるところには面内の均一性が強く関わり、エッチング生成物・ラジカル・イオンの分布が面内でばらつくと、側壁保護膜の厚さもウェハ面内でばらつきます1。測るのはCD-SEMや断面観察で拾った寸法と、その均一性です。
ボッシュプロセスは、守る段と掘る段を時分割にする
Section titled “ボッシュプロセスは、守る段と掘る段を時分割にする”同時に起こすのをやめて段に分けたやり方がDRIEです。ボッシュプロセスは、①Siの等方性エッチング、②保護膜の堆積、③底面の保護膜を除去するSiの異方性エッチングという3ステップの繰り返しで6、エッチングにSF₆、保護膜にC₄F₈を主に使い、高い選択比を保ちながら高異方性のエッチングを実現します。1992年にドイツのRobert Bosch GmbHが開発し、サムコは2003年に日本の半導体製造装置メーカーで初めてライセンスを取得したとしています。用途として同社は、加速度センサやジャイロセンサなどのMEMS、3次元パッケージ向けのTSV、インクジェットプリンターヘッド、Siパワーデバイス、μTASなどの医療機器を挙げています。
大阪産業技術研究所が導入したボッシュプロセスDRIE装置(SPPテクノロジーズ社製MUC-21 ASE-SRE)では、保護工程でC₄F₈により側壁保護膜を作って横方向のエッチングを抑え、エッチング工程でシリコン基板にバイアスをかけてSF₆で底面の保護膜を除去します4。仕様は、エッチング側壁角度90°±1°以内、最速レート5 μm/分、アスペクト比30以内、Siとフォトレジストの選択比100以上、SiとSiO₂の選択比200以上です。シリコンの深掘りは5〜500 μmの深さで5 μm/minを超えるレートが求められ、横方向のエッチングを抑えたうえで側壁の傾きを1°より細かく制御することも求められます。
時分割には代価があります。サムコは、ボッシュプロセスでのSi深掘りでは原理上、側壁のスカロップが問題になることがあるとし7、非ボッシュプロセスなら側壁を平滑に保ったまま100 μm以上掘れるとしています。同社の加工例では、□50 μmのホールパターンを深さ126 μmまで掘り、開口部を73°の順テーパー形状に調整してボーイングを抑え、エッチングレートは7.9 μm/minです。膜を作るガス自体にも課題があり、東京エレクトロンはC₄F₈やCF₃などのガスの温暖化係数が高い点を挙げています。
深い穴では膜が入口で止まるので、Ar流量・電極温度・極低温で奥へ届ける
Section titled “深い穴では膜が入口で止まるので、Ar流量・電極温度・極低温で奥へ届ける”深く掘るほど、膜は入口付近で止まります。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らが絶縁膜の微細ホールで調べると、Ar流量が800 ml/minの場合はホール中間部の側壁で堆積が途切れ、500 ml/min、200 ml/minと減らすと側壁堆積量が増えました2。Ar流量の低流量化でCF₂に代表される付着係数の低いラジカルが増えたと考えられており、付着係数が高いラジカルは入口で捕まります。電極温度が低く付着係数が高い場合はアスペクト比3〜4で側壁保護膜の形成が途切れ、高温にすると側壁の付着係数が下がってホール内部にラジカルが運ばれます。両方を最適化して、ボーイング量は56.3 nmから15.2 nmに下がりました。この調整は、溝底の角が余分に掘れるマイクロトレンチの対策にも使われます。
東京エレクトロンは、3D NANDの高アスペクト比加工向けのクライオジェニックエッチングで、マイナス数十度の極低温のブラインを流すことでプロセス中のウェーハ温度をこれまでよりずっと低く保ち、深さ10 μm以上の穴を従来比2.5倍の速度でまっすぐエッチングできるようになったとしています8。CF系ガスの代わりにHFガスを使えるようになり、同社は現在CF系ガスの91パーセントをHFガスに置き換え、第一世代機と比べて80パーセント以上のカーボンフットプリント削減を達成したとしています。現在はアスペクト比1対100の工程を複数組み合わせており、1回の工程で1対200を目指しています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”側壁パッシベーションとは何ですか?
エッチング中にパターンの側壁へ薄い膜を作り、横方向の反応を抑えることです。その膜を側壁保護膜と呼びます。エッチング生成物やレジストの分解物が側面に積もって中性のエッチング種との反応を抑え、これが異方性の加工を支えます。
膜はどこから来るのですか?
掘っている最中の副産物です。エッチング生成物(例としてSiClx)とレジストの分解物が側面に積もり、絶縁膜の微細ホール加工ではフルオロカーボン堆積膜が側壁に積もります。ハイドロフルオロカーボンを足してCFxラジカルから膜を作り、N₂でその成長を抑えるレシピもあります。
なぜ底の膜だけ落ちるのですか?
イオンが底に当たるためです。イオンが当たるパターンの底面では、積もった薄膜が落ちます。側壁にはイオンが直接当たらないので膜が残り、膜の落ちた底だけが掘り進みます。
膜を欠くとどうなりますか?
横方向も同じ速さで進みます。従来のシリコン異方性エッチングは水酸化カリウム(KOH)水溶液やテトラメチル水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液などの強アルカリ性水溶液を使い、エッチングの向きは単結晶シリコンの結晶方位で決まっていました。DRIE装置なら結晶方位に関係なく加工でき、設計の自由度が大幅に増しました。
膜が付きにくい材料もありますか?
あります。CrをCl₂とO₂のプラズマで掘るときは有効な側壁保護膜が薄いままなので、加工寸法(CD)が設計値より大きく後退しやすくなります。膜の応力が大きく、成膜厚が通常0.5マイクロメートル程度にとどまることも、厚いCrマスクを作りにくい課題です。
深いところまで膜を届かせるには何を調整しますか?
Ar流量と電極温度です。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らのUHF-ECRプラズマ(Ar/C₅F₈/O₂)での検討では、Ar流量が800 ml/minでホール中間部の側壁の堆積が途切れ、500 ml/min、200 ml/minと減らすと側壁堆積量が増えました。電極温度を上げると側壁付着係数が下がってラジカルがホール内部へ運ばれ、両方の最適化でボーイング量が56.3 nmから15.2 nmへ下がりました。
ボッシュプロセスにすると何が悪化しますか?
側壁の節です。サムコは、ボッシュプロセスのSi深掘りでは原理上スカロップが問題になることがあり、非ボッシュプロセスなら側壁を平滑に保ったまま100マイクロメートル以上掘れるとしています。同社の非ボッシュの加工例は、□50マイクロメートルのホールパターンを深さ126マイクロメートルまで掘り、開口部を73度の順テーパー形状に調整して7.9マイクロメートル毎分のレートを得ています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- マイクロトレンチとは── 側壁の守り方が底の角の形に影響する現象
- DRIE(深堀り反応性イオンエッチング)とは── 守る段と掘る段を時分割にした装置と手順
- ウェットエッチングとは── 薬液で溶かすやり方です。結晶方位や薬液で形が決まります
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- 3Académie des sciences:Comptes Rendus Chimie 掲載論文(DOI 10.1016/j.crci.2018.01.009)comptes-rendus.academie-sciences.fr ab
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- 6サムコ:高速シリコンディープエッチング装置samco.co.jp ↩
- 7サムコ:非ボッシュプロセスによる順テーパー加工samco.co.jp ↩
- 8東京エレクトロン:クライオジェニックエッチングtel.co.jp ↩