MEMSとは
MEMSとは、微小なチップの内部に機械的な可動部を持つデバイスの総称です。 Micro Electro Mechanical Systemsの略で、半導体と同じ工程で作りながら、可動部を介して物理現象と電気信号を行き来します。半導体工場の設備をそのまま使える一方で、深く掘る加工、可動部の封止、回路との組み合わせ方にMEMSならではの技術が要ります。
半導体チップとの違いは、動く部品の有無
Section titled “半導体チップとの違いは、動く部品の有無”MEMSは半導体チップと同じものとして受け取られやすい言葉ですが、両者には本質的な違いがあります。半導体が電子の流れを制御する静的な構造にとどまるのに対して、MEMSは機械的な可動部を持ち、物理現象と電気信号を相互に変換します1。
加速度センサーであれば、くし状の構造が力の加わり方によって変形し、その重なり面積の変化が電気容量の変化として検出されます。ロームの解説では、センサ素子はSiで作った固定電極と可動電極、スプリングでできています2。加速度が加わっていないとき、固定電極と可動電極の間の距離は同じです。加速度がかかると可動電極が移動して電極間の静電容量が変わり、その変化を内部の信号処理回路(ASICなど)が電圧に変換して、加速度を算出します。MEMS加速度センサは一般に、加速度を検出する素子と信号調整回路の組で構成され、主な方式は静電容量方式、ピエゾ抵抗方式、熱検知方式の3つです。
動きや音を検知する加速度センサー・ジャイロセンサー・マイクロホン、電気信号を機械の動きへ変えるインクジェットヘッドやスピーカー、電波を選り分けるBAWフィルターなどが、こうした物理的構造を土台にしています。
工程は半導体と同じで、寸法と掘る深さの桁が違う
Section titled “工程は半導体と同じで、寸法と掘る深さの桁が違う”MEMSの製造方法は半導体と基本的に同じで、レジスト塗布、露光、現像、エッチングといった工程を繰り返して、ウェハ上に立体的で複雑な構造を作ります。異なるのは寸法で、3ナノ、10ナノといったレベルの半導体より大きく、数マイクロメートル以上のスケールです1。
もう一つの違いが、掘る方向です。半導体がほぼ表面の領域に機能を集積する一方で、MEMSはシリコンを垂直方向に深く掘ります。Boschは、エッチングと成膜で深さ最大数百マイクロメートルの高精度な構造をシリコンに作り込めるとし3、構造は人の髪の毛より細いとしています。シリコンを垂直に貫くTSV(シリコン貫通電極)などには、MEMS製造発祥の技術があります。金沢村田製作所は、薄膜を細かく加工する手法を深く掘る向きへ広げ4、立体的に形を作る加工としてMEMSの研究と製品化に使ってきました。ごく小さなほこりでも繊細な可動部の働きを妨げるおそれがあるため、Boschは製造に超清浄なクリーンルームが要るとしています。
工場の規模も半導体と地続きです。産総研はつくば東事業所内に200/300mm(8/12インチ)ウェハによるMEMSプロセスラインと5、集積化や特性を測るための設備を整備し、企業や大学へ開放しています。製造方法が共通するので、多くの半導体メーカーがMEMSも生産しています。
電気回路と一体にすると、利点と難しさが同時に増える
Section titled “電気回路と一体にすると、利点と難しさが同時に増える”集積化デバイスの大きな利点は、小型化、高性能化(高感度化)、多機能化の3つです6。初期の事例として、直径50mmのシリコン基板の上に1.5mのガス流路とガスの注入バルブ、ガス成分の検出部までをまとめたガスクロマトグラフィーが1975年に発表されました。流路と発熱体と温度センサを微細加工で小型化した流量センサでは、応答速度を従来の100倍以上へ高められました。
電気回路をセンサと集積化する利点は、小型化、寄生容量の抑制、消費電力の削減、多量に生産されたときのコスト削減です。課題は、センサと電気回路の両方を同時に最適化する難しさと、集積回路を載せたセンサは応用が限られる点です。小さく敏感にする方向と、汎用に作る方向が引き合う関係です。産総研は、MEMSと集積回路を集積化する技術にもまだ改善の余地があるとし、半導体分野のチップレット技術の導入などに注目しています。
村田製作所は、自社の容量式センサの材料に単結晶シリコンとガラスを選び7、半導体業界で育った製造技術を持ち込むことで量産のしやすさと価格の折り合いをつけました。そのうえで、ウェハボンディングやシリコンの深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)といったMEMS特有の技術も併せて使っています。同社の3D MEMSはウェハレベルで密封されています7。同社は、密封したセンサ内に粒子や薬品が入り込む余地がないことで信頼性を確保し、ふたにあたるCAPウェハにいち早くスルーシリコンビアを使ってデバイス面積の縮小とパッケージング工程の簡略化を実現したとしています。検知素子はSiP(System in Package)技術で信号処理回路と組み合わせ、加速度センサ、ジャイロスコープ、圧力センサ素子の感度、計測範囲、応答周波数を用途に合わせて調整できるとしています。
自動車で始まり、2010年代にスマートフォンで広がった
Section titled “自動車で始まり、2010年代にスマートフォンで広がった”MEMS技術の最初の牽引役は自動車で、1990年代から圧力センサー、加速度センサー、ジャイロセンサーが自動車へ搭載されるようになりました1。Boschでは、1995年にロイトリンゲン工場から出荷された最初のMEMSが自動車向けの圧力センサで3、1996年にエアバッグ作動用、1998年に横滑り防止装置(ESP)用のセンサが続きました。同社のBosch Sensortecは2005年から民生品向けのMEMSを開発・販売しています。
2000年頃にはインクジェットヘッドが作られるようになり、2010年代からスマートフォン、家庭用ゲーム機、ドローン向けに爆発的に普及しました。スマートフォン1台の中には、何十個ものMEMSが載っています。今後は自動運転の発展により、レーザー光を使うLiDAR向けの光MEMSの需要が伸びると見込まれています。
BAWフィルター、インクジェットヘッド、光MEMSに欠かせない材料が、力を電気に、電気を力に変える圧電材料です1。MEMSの内部に薄膜として集積され、窒化アルミニウム(AlN)にスカンジウム(Sc)を加えたScAlNの圧電性能を高める技術開発などが注目されています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”MEMSとは何ですか?
Micro Electro Mechanical Systemsの略で、微小なチップの内部に機械的な可動部を持つデバイスの総称です。加速度センサーなら、くし状の構造が力で変形し、その変化を電気容量の変化として読みます。
半導体チップとMEMSはどこが異なりますか?
動く部分の有無です。半導体が電子の流れを制御する静的な構造にとどまるのに対し、MEMSは機械的な可動部を持ち、物理現象と電気信号を相互に変換します。
MEMSはどうやって作りますか?
半導体と同じ工程で作ります。レジスト塗布、露光、現像、エッチングを繰り返してウェハ上に立体的な構造を作り、寸法は数マイクロメートル以上、掘る深さは最大で数百マイクロメートルに及びます。ウェハボンディングやDRIEといったMEMS特有の技術も使います。
なぜ半導体メーカーがMEMSも作るのですか?
製造方法が近いためです。製造方法が似ていて、TSVなどMEMS由来の技術が半導体製造にも応用されていることから、多くの半導体メーカーがMEMSも製造しています。
MEMSにはどんな種類がありますか?
加速度センサー、ジャイロセンサー、圧力センサー、マイクロホン、インクジェットヘッド、スピーカー、BAWフィルターなどがあります。今後は、自動運転で使うLiDAR向けの光MEMSの需要が伸びると見込まれています。
MEMSと電気回路を一体にすると何が良いのですか?
小型化、寄生容量の抑制、消費電力の削減、量産時のコスト削減が利点です。課題は、センサと電気回路の両方を同時に最適化する難しさと、集積回路を載せたセンサは応用が限られる点です。
MEMSの試作ラインはどこにありますか?
産総研のつくば東事業所に、200/300mm(8/12インチ)ウェハによるMEMSプロセスラインと、集積化や特性を測るための設備があり、企業や大学へ開放されています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 加速度センサとは── MEMSの代表例として、可動部の変位を静電容量で読み取る側
- DRIE(深堀り反応性イオンエッチング)とは── MEMSの立体構造を垂直に掘る加工
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- 1産業技術総合研究所:MEMSとは?aist.go.jp abcd
- 2ローム TechWeb:加速度センサの分類とMEMS静電容量方式加速度センサtechweb.rohm.co.jp ↩
- 3Bosch:MEMS 25 yearsbosch.com ab
- 4金沢村田製作所:金沢ムラタの技術corporate.murata.com ↩
- 5産業技術総合研究所:MEMS研究開発拠点(共用施設)aist.go.jp ↩
- 6電子情報通信学会:知識ベース 1章 MEMS技術の基礎ieice-hbkb.org ↩
- 7村田製作所:MEMS技術の基礎知識murata.com ab